絶えず上下に変化をしている海面の高さを測ることで、その目的は多岐にわたっています。 潮位観測は実施機関のそれぞれの目的に沿い行われています。そのため、観測施設や験潮儀(検潮儀)、解析法等に違いがありますが、「潮位の変化を長期間にわたって連続的に観測・記録する」という観測の考え方は概ね共通しています。
【写真】ケルビン型験潮儀(英国製):明治20年代から昭和50年代にかけて使用された代表的な 自記験潮儀です。
東海沖から四国沖にかけての地域では、下図1→2→3 の過程を100~150年の間隔で繰り返しています。
潮位データなどを使って、一連の過程の中で、現在がどの段階にあるかを研究することは、海溝型巨大地震の発生を長期的に予測する上で重要です。
潮位データから計算された全国各地の地殻の上下変動の様子をご紹介します。
プレート運動のイメージ 「日本の地震活動」総理府地震調査研究推進本部地震調査委員会編より |
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油壺験潮場(国土地理院)は年間約4mmの割合で沈降しています。これはフィリピン海プレートの沈み込みによるものと考えられます。なお、1923年9月の関東大地震(M7.9)の際に約1.4mも隆起したことが潮位データなどから分かっています。
御前崎検潮所(気象庁)は年間約8mmの割合で沈降しています。これはフィリピン海プレートの沈み込みによるものと考えられます。この地域では、南海トラフ沿いの大地震の発生が懸念されています。
花咲検潮所(気象庁)は年間約10mmの割合で沈降しています。これは太平洋プレートの沈み込みによるものと考えられます。なお、1973年6月と1994年10月には、それぞれ根室半島沖地震(M7.4)、北海道東方沖地震(M8.1)の影響が見られます。
浦河験潮所(海上保安庁海洋情報部)付近は地震活動が活発な地域です。1982年3月の浦河沖地震(M7.1)などの被害地震が発生しています。この浦河沖地震の頃を境にして、やや隆起しているようすが読みとれます。なお、2003年9月には、十勝沖地震(M8.0)の影響が見られます。
室戸岬検潮所(気象庁)は年間約7mmの割合で沈降しています。これはフィリピン海プレートの沈み込みによるものと考えられます。この地域の沖では、1946年12月に南海地震(M8.0) が発生し、その直後の水準測量からここが約1m隆起したことが分かりました。
地殻活動が活発な地域では、地震観測、GNSS連続観測などとともに潮位観測によってもその活動の状況をとらえることができます。ここでは、伊豆半島とその周辺の例を紹介します。
伊豆半島東部では、1970年代以降、M6クラスの被害地震、群発地震が発生するとともに、1989年には伊東市沖で海底噴火が起こるなど、地殻活動の活発な地域です。このため、この地域では各種の観測が行われ、地殻活動が監視されています。潮位観測データからも、地殻活動が活発であった1990年代頃にかけて、伊豆半島東部で継続的な地盤の隆起が見られたことが判ります。
海底火山の噴火(手石海丘=伊東市沖) 1989年7月(海上保安庁海洋情報部) |
伊豆半島東部の群発地震活動 1997年3月(気象庁) |
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地球温暖化に伴い、海水が膨張したり、氷河が融けることで、海水面が西暦2100年には最大88cm上昇すると 予測されています(IPCC第三次報告書/2001年1月)。しかし、初期の段階では年間数㎜といわれる海面 上昇を、年間数㎜以上の地殻変動のある日本国内において検出することはこれまでは非常に困難でした。
そこでVLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉計)やGNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム)、SLR(Satellite Laser Ranging:人工衛星精密測距)といった最新の宇宙測地技術と潮位観測とを結びつけた精密な観測がはじまっています。
100年を超えるものも含め、長期間にわたり蓄積されてきた潮位観測記録は、これら宇宙測地技術との結合によって、その重要性が再認識されています。
神津島験潮所(海上保安庁) | 稚内検潮所(気象庁) | 柏崎験潮場(国土地理院) |
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海水面変動のモニタとしては験潮場の潮位データを利用することが良い方法です。
しかし、このデータには験潮場が設置されている場所の地殻変動の影響も含まれているため、真の海水面変動を把握することはできません。
そこで、VLBIやGNSS等の宇宙測地技術を用いて、験潮場の位置を精密に決定し、純粋な地殻変動と海水面変動をモニタします。
SLR (海上保安庁第五管区海上保安本部下里水路観測所固定式レーザー測距装置) |
VLBI 国土地理院 石岡VLBI観測局アンテナ |
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