地震予知連絡会の活動報告

第145回地震予知連絡会(2001年11月19日) 議事概要

 平成13年11月19日、国土地理院関東地方測量部において、第145回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動、沈み込みプレート境界におけるアスペリティなどについて観測・研究成果の報告が行われ議論がなされた。以下に、その概要について述べる。

1.全国の地震活動について

 最近3ヶ月間、青森県東方沖,京都府南部,南西諸島などの地域でM5を越える地震が発生した。
 M5以上の全国の地震 (2001.08.01−2001.10.31)(気象庁資料)

2.東海地域の地殻活動について

 東海地域の推定固着域周辺では地殻内で地震数が平均より多い状態が続いている。フィリピン海スラブ内では,2001年4月および6月に発生した静岡県中部地震の余震が収まり,平常レベルに戻っている。
 固着域周辺の地震活動 (地殻内1997年以降)(気象庁資料)
 固着域周辺の地震活動 (フィリピン海スラブ内1997年以降)(気象庁資料)

 東海地域における過去15年間の地震活動データについてクラスター毎および非クラスター地震への分類を行った。非クラスターの地震はほぼ定常的に発生している。また,クラスターにおける大きめの地震のマグニチュードは増大傾向にあるように見える。クラスターによっては解析期間全体にわたって活動的なものと最近になって活発化したものがある(防災科学技術研究所資料1資料2資料3)。

 水準測量結果によると,7月に若干隆起が見られた御前崎周辺は元々の沈降傾向に戻り,掛川市の水準点140-1に対する浜岡町の水準点2595の動きにも特に変化は見られない。
 水準点2596(浜岡町)の経年変化(国土地理院資料)

 GPS観測で見つかった東海地域の異常地殻変動は依然として続いているが,最近変動が鈍化しつつある。
 平均的な地殻変動からのずれ(精密歴)(国土地理院資料)
 東海地方の地殻変動(2)(国土地理院資料)

 この地殻変動をプレート境界面の断層すべりによるものと仮定して解析を行った結果,浜名湖付近を中心とするすべり分布が推定され,異常地殻変動の開始以降に解放された地震モーメントの積算量は1×1019Nm程度(Mw6.6〜6.7相当)に達したと考えられる(国土地理院資料1資料2)。東海地域における過去の辺長測量や水準測量結果によると,現在の異常地殻変動と同様な変化が過去にも数年単位で繰り返されていた可能性がある。
 東海地方における辺長変化と上下変動(1978-1996)(名古屋大学資料)

3.2000年7-10月の地殻変動変化について

 全国GPS観測網による座標時系列データから定常的な変動成分を差し引いて非定常地殻変動について調べたところ,2000年7月から10月にかけて能登半島,中国地方,九州南部,南西諸島などで東向きに最大1cm程度の異常地殻変動が起きていた可能性がある。
 2000年7月-10月の非定常地殻変動の分布(1)(国土地理院資料)
 回帰直線との差のグラフ(国土地理院資料)

 2000年10月の鳥取県西部地震はこの広域地殻変動に引き続いて発生しており,両者に何らかの因果関係があるとも考えられる。

4.西南日本で発見された地殻底部低周波微動について

 Hi-netの観測により西南日本の地殻底部を発生源とする低周波微動が発見された。低周波微動の震央は沈み込んだフィリピン海プレートの上面の深さが35-40km程度となる場所に対応しており,プレートからの脱水反応に関連するものと考えられる。この低周波微動は群発的に発生しており,10km/日程度の速度で震央が移動する場合がある。周辺で発生した大きめの地震によって低周波微動の活動が活発化したり逆に静穏化したりする場合があることも見出された。
 西南日本で発見された地殻底部低周波微動 (防災科学技術研究所資料)
 (防災科学技術研究所資料)

5.気象庁震源カタログの延伸について

 気象庁では1926年以降の震源カタログを利用してきたが,1923年8月から1925年12月までの震源決定作業を新たに行い,検測値に基づく震源カタログを1923年8月から現在までに延伸した。その結果1923年関東地震の余震分布が得られたり,深発地震の震源がより妥当な位置に再決定されるなどの変化があった(気象庁資料,17−18頁)。
 気象庁震源カタログの延伸 (気象庁資料)
 東海地方の余震活動 (気象庁資料)

6.沈み込みプレート境界におけるアスペリティについて

 トピックスでは,沈み込みプレート境界におけるアスペリティについて最新の観測・解析結果による知見や,今後の研究の方向性などについて議論を行った(世話人:島崎邦彦副会長)。アスペリティは地震時に大きくすべる領域として定義される。三陸沖における過去の大地震の震源過程の詳細な解析から,個々のアスペリティは位置を変えないこと,大地震の際に連動するアスペリティの組み合わせは変化すること,初期破壊開始点はアスペリティと別の場所にある場合が多いことなどが分かってきた。
 アスペリティの特徴 (東京大学地震研究所資料)
 (東京大学地震研究所資料)

 また,アスペリティの大きさや分布の仕方には地域性があり,それが各地域で発生する大地震を特徴付けていると考えられる(東京大学地震研究所資料)。

 釜石沖では,M4.8前後の地震が5-6年周期で繰り返し発生する固有地震的活動が見つかっており,最近2つのイベントについては,その地震時のすべり領域がほぼ完全に重なることが分かった。
 岩手県釜石沖の固有地震的地震活動 (東北大学資料)
 (東北大学資料)

 こうした固有地震的活動は主としてプレート境界の非固着域で発生していると考えられ,同種の地震活動をプレート境界の応力センサーとして利用できる可能性がある。
 (東北大学資料)

 アスペリティではプレートの固着によって周囲より応力が高まると考えられるが,福島沖ではアスペリティで周囲よりもb値が小さく求まっており,こうした解釈を裏付けるデータである。また,1987年に発生したM6.7の地震に伴うb値の増加はアスペリティの応力変化を捉えたものである可能性がある(東北大学資料)。

 東海地域の推定固着域では,最近地震活動が活発化した部分と静穏化した部分が上盤側と下盤側で整合的に分布しており,微小な断層すべりによってアスペリティで応力が蓄積している過程を見ていると考えられる(防災科学技術研究所資料)。

 こうしたアスペリティに関する最新の知見に関して議論を行い,将来の地震予知実現へ向けて新たな展望を開くものであるという認識で一致した。さらにアスペリティ分布を明らかにするための新たな地震波構造探査手法や観測網のアイデアも提案された。

(事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

【1】気象庁(A1)
 1.2001年8月〜10月の全国のM5以上の地震と主な地震の発震機構解

 2.2001年8月〜10月の北海道地方とその周辺の地震活動
   北海道東方沖の地震活動
   釧路沖の地震活動
   北海道西方沖の地震活動
   サハリン付近の地震活動

 3.2001年8月〜10月の東北地方とその周辺の地震活動
   青森県東方沖
   福島県沖
   秋田県沖
   秋田県内陸南部(森吉町付近)
   宮城県南部(愛子付近の地震活動)

 4.2001年8月〜10月の関東・中部地方の地震活動
   房総半島南東沖(3重会合点周辺)の地震活動
   茨城県沖の地震
   茨城県南西部および南部の地震
   千葉県北東部の地震活動
   東京湾の地震活動
   三宅島から新島・神津島にかけての地震活動
   箱根山の地震
   箱根周辺の歪と地下水に見られる変化(気象研究所)
   東海地方の地震活動・地殻変動
   愛知県周辺の地震
   長野県北部の地震活動と松代における地殻変動観測

 5.2001年8月〜10月の近畿・中国・四国地方の地震活動
   京都府南部の地震活動(2001年8月25日−10月31日)
   和歌山県北部の地震活動(龍神村付近)
   紀伊半島付近の地震活動
   兵庫県北部の地震
   鳥取県西部地震の余震活動(「平成12年(2000年)鳥取県西部地震」)
   安芸灘の地震活動(「平成13年(2001年)芸予地震」)

 6.2001年8月〜10月の九州地方とその周辺の地震活動
   日向灘の地震活動
   種子島近海の地震活動
   奄美大島近海の地震活動

 7.2001年8月〜10月の沖縄地方とその周辺の地震活動
   沖縄本島近海の地震活動(久米島南東約80km)
   西表付近の地震活動

 8.気象庁震源カタログの延伸(1923年8月から1925年12月まで)

【2】国土地理院(A2)
 1.日本全国の地殻変動
  A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動
  A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月)
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月)
  A2 GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化

 2.東海地方の地殻変動
  A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
  A2 水準点(140-1、2595)の経年変化
  A2 水準点2595(浜岡町)の経年変化
  C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化
  A2 水準点2602-1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の経年変化
  A2 水準点2602-1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化
  A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値)
  C 比高変化に対する近似曲線の計数変化
  C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差
  C 水準測量・験潮による駿河湾周辺の上下変動
  A2 東海地方の地殻変動
  A2 東海地方のプレート間滑りの時間変化解析
  A2 東海地域の異常地殻変動に対する一解釈
  C GPS連続観測結果 駿河湾周辺
  C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2)
  A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺
  C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の計数変化
  C GPS連続観測結果 静岡県西部
  C 御前崎地区高精度比高連続観測
  C 御前崎長距離水管傾斜計月平均(E−W)
  C 地中地殻活動観測装置観測結果
  C 御前崎における絶対重力変化

 3.伊豆地方の地殻変動
  C 清水〜熱海〜藤沢間の上下変動
  C 清水〜御殿場〜小田原間の上下変動
  C 御殿場〜富士宮間の上下変動
  C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差
  C 伊東東部連続観測(辺長)日平均結果
  C GPS連続観測結果 伊豆東部周辺
  C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺
  C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺(ベクトル図)

 4.関東地方の地殻変動
  C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差
  C 鹿野山精密辺長連続観測結果
  C GPS連続観測結果 富士山周辺

 5.北海道地方の地殻変動
  C 白老〜苫小牧間の上下変動
  C GPS連続観測結果 樽前山周辺

 6.東北地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 岩手山周辺
  C GPS連続観測結果 磐梯山周辺

 7.北陸・中部地方の地殻変動
  C 輪島〜高岡間の上下変動
  C 輪島〜津幡間の上下変動
  C 金津〜金沢〜富山間の上下変動
  C 富山〜糸魚川〜柏崎間の上下変動
  C 柏崎〜出雲崎間の上下変動
  C 柏崎〜小千谷〜沼田〜高崎間の上下変動
  C 松本〜小千谷間の上下変動
  C 糸魚川〜塩尻間の上下変動
  C 富山〜高山間の上下変動
  C 下諏訪〜飯田〜佐久間〜天竜間の上下変動
  C 下諏訪〜軽井沢〜高崎〜新町間の上下変動
  C 跡津川(有峰湖地区)変動地形調査

 8.近畿・中国・四国地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 兵庫県北部
  C GPS連続観測結果 鳥取県西部
  C GPS連続観測結果 安芸灘周辺
  C GPS連続観測結果 瀬戸内中部

 9.その他
  C GPS連続観測結果 硫黄島
  A2 2000年広域イベントが発生した可能性について
  A5 (トピックス)地殻変動データで見るプレート沈み込み境界のアスペリティ

【3】北海道大学
  C 北海道とその周辺の最近の地震活動(2001年8〜10月)
  C 南サハリンの群発地震活動(2001年7月〜9月)
  C 十勝支庁北部の地震活動(1999年9月〜2001年10月)

【4】東北大学
  C 東北地方およびその周辺の微小地震活動(2001年8月〜10月)
  A5 (トピックス)沈み込みプレート境界におけるアスペリティ

【5】東京大学大学院理学系研究科
  C 東海地域における地球科学的観測について
  C 伊豆半島における地球科学的観測について
  C 福島県東部における地球科学的観測について

【6】東京大学地震研究所
  C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2001年8月〜10月)
  C 四国地方の地殻活動について(2001年11月)
  C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2001年8月〜10月)
  C 相良観測点における歪・傾斜観測(1995年10月〜2001年10月)
  C 伊豆半島および伊豆諸島周辺の地震活動(2001年8月〜2001年10月)
  C 日光・足尾付近の地震活動(2001年8月〜2001年10月)
  A5 (トピックス)アスペリティの特徴と地域性について
  A5 (トピックス)海底構造探査によるアスペリテイ分布の解明:P波とS波反射面の
    マッピング法

【7】名古屋大学
  A4 東海地震におけるプレートカップリングの再検討
  A4 東海地域GPS記録のべき関数への回帰
  A4 浜名湖ー東濃地域の深部地震活動(その後)
  C 東海地方の地震活動
  C 豊橋、稲武、旭、瑞浪における伸縮変化
  A5 (トピックス)南海トラフのアスペリティー予測計画

【8】京都大学
  C 西南日本内陸の地震活動
  C 西日本の地殻変動連続観測結果

【9】九州大学
  C 九州の地震活動(2001年8月〜2001年10月)
  C 九州南部の地震活動(2001年8月〜2001年10月)(鹿児島大)

【10】防災科学技術研究所
  C 関東・東海地域における最近の地震活動(2001年8月〜10月)
  C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2001年8月〜10月)
  A4 東海地域の推定固着域における地震活動変化について(8) 
  A4 東海地域の地震クラスターの変化過程について
  B 西南日本で発見された地殻底部低周波微動
  B 坂田式三成分ひずみ計の長期連続観測結果から推定される地殻岩石の粘性係数
  A5 (トピックス)東海地方の地震活動とアスペリティ

【11】産業技術総合研究所
  C 東海・伊豆地域の地下水観測結果(2001年8月〜10月)
  C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2001年8月〜10月)
  C 有馬−高槻−六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2001年8月〜10月)
  C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2001年8月〜10月)
  C 2001年8月25日の京都府南部の地震(M5.1)前後の周辺の地下水・
    地殻歪変化について

【12】水路部
  C GPSによる地殻変動監視観測

【13】通信総合研究所
  A4 VLBIによる首都圏広域地殻変動観測
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。
(A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑
(A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑
(A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑
(A4)各地域についての詳細検討
(A5)トピックス
(B) 話題提供
(C) 資料提出