地震予知連絡会の活動報告

第229回地震予知連絡会(2020年11月26日)議事概要

 令和2年11月26日(木)、第229回地震予知連絡会がオンライン会議形式にて開催された。はじめに、委員の変更に関する報告及び運営検討部会の設置に関する審議が行われ、承認された。次に、全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、その後、重点検討課題として「予測実験の試行(07)-地震活動予測の検証-」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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 ※記者会見資料に関する注意事項「ゆっくりすべり(SSE)の地震モーメント推定の修正について」をご参照ください。

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1.運営検討部会の設置について

 運営検討部会の設置要領について審議が行われ、承認された。また、会長により運営検討部会長が指名され、その後運営検討部会長により部会委員が指名された(事務局資料2ー3頁)。

2.地殻活動モニタリングに関する検討

2.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

 日本とその周辺で2020年8月から2020年10月までの3か月間に発生したM5以上の地震は18回であった(気象庁資料5頁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 期間内に掲載基準を満たすような超低周波地震の目立った活動はなかった。8月から9月にかけて、日向灘以南において、掲載基準に達しない超低周波地震活動が検出された(F-net記録によると、主に種子島沖以南の活動)(防災科学技術研究所資料6頁)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震及び熊本地震の余効変動、並びに四国西部のスロースリップの影響が見られる(国土地理院資料7頁)。

2.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動が四国東部から西部(7月22日から8月11日頃)、紀伊半島北部(10月31日から11月6日頃)において発生した。これ以外の主な微動活動は、東海地方(9月2日から5日頃)、紀伊半島北部から中部(10月12から17日頃)、紀伊半島南部(8月23日から26日頃)、四国東部(10月24日から30日頃)で観測された(防災科学技術研究所資料8-10頁)。GNSS連続観測により、10月中旬頃に紀伊半島北部で短期的スロースリップが検出された。プレート間のすべりを推定した結果、紀伊半島北部で最大9mm のすべりが推定された(防災科学技術研究所資料8-10頁)GNSS連続観測により、10月中旬頃に紀伊半島北部で短期的スロースリップが検出された。プレート間のすべりを推定した結果、最大9mmのすべりが推定された。(国土地理院資料11頁)。

・志摩半島の非定常的な地殻変動
 2019 年中頃から志摩半島で観測されていた非定常的な地殻変動は、すでに停止していると考えられる(国土地理院資料12頁)。

・四国中部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測により、2019 年春頃から四国中部で非定常的な地殻変動が観測されている。プレート間のすべりを推定した結果、四国中部で最大12cm 程度のすべりが推定された(国土地理院資料13頁)。

2.3 その他

(1)福井県嶺北の地震(9月4日 M5.0)

 2020年9月4日09時10分に福井県嶺北の深さ7kmでМ5.0の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。今回の地震の震央周辺では、1948年に福井地震が発生している。同地震に伴って地殻変動が生じた福井平野東縁断層帯西部からは、今回の震央は西方に約5km離れている(気象庁資料14頁)。

3.重点検討課題「予測実験の試行(07)-地震活動予測の検証-」の検討

 地震活動予測について、各種モデルの長所・短所などの総括および今後の展開についての報告・議論が行われた(コンビーナ:東北大学災害科学国際研究所・遠田晋次委員資料16-17頁)。

◆気象庁震度データベースを用いた地震予測と2015-2020年の予測の評価

 気象庁震度データベースを用いて地震の平均発生間隔を求め、その平均発生間隔で定常ポアソン過程に従って地震が発生すると仮定した場合の各都道府県における震度4以上の地震予測を、2015年から2020年まで行った結果が紹介された。1年間予測では、適中率が80%程度、予知率が60%程度、3か月間予測では、適中率が60%程度、予知率は15-40%であったとの報告がされた(滋賀県立大学環境科学部・小泉尚嗣教授資料19-20頁)。

◆b値にもとづく大地震発生予測のモデルのレビュー

 予測の視点から大きい地震と小さい地震の割合の指標であるb値を使用した研究が紹介された。過去の地震において地震発生前に震源付近でb値が低かった/減少したとする報告事例、過去から現在までのb値から、将来の地震像を推定するモデル、大地震後のb値が平時のb値より高くなれば大地震は続発しない可能性が高いと評価するモデルなどが紹介された。また、b値の減少/低b値が地震の先行現象かどうかの検証が今後の課題であるとの報告がされた(静岡県立大学・楠城一嘉特任准教授資料21頁)。

◆階層的時空間ETASモデルに基づく短期・中期・長期予測および背景率予測 -自動予測の開発に向けて

 地震活動の時空間分布を表現する統計モデルである階層的時空間ETASモデルを用いた背景地震活動率の推定や大規模地震に伴う地震活動増加の検証結果などについて紹介された。また、大規模地震直後の余震検知率が低いことによるバイアスも考慮する必要があるとの報告があった。さらに、前震確率の評価結果や相対的静穏化を示す地震の危険度拡大率に関する報告がされた(統計数理研究所・尾形良彦委員資料22頁)。

◆階層的アスペリティを前提とした短期前兆のメカニズムについて

 大地震に対して統計的に有意な先行性をもつ事象が前震活動を含め多数みつかっている一方、階層的なアスペリティ構造のもとでは地震の最終的な大きさが壊れ始め現象の大きさに支配されるとは考えにくいことから、観測されている先行現象は、本震の準備過程の進行とは無関係におきる擾乱が地震をトリガすることによって、結果的に前兆となるとのモデルが紹介された。この場合、予測における空振りや見逃しが起こり得るが、それでもトリガイベントの後しばらくは地震発生の確率が高いと言えるとの報告がされた(東京大学地震研究所・中谷正生准教授資料23頁)。

4.次回(第230回)重点検討課題「東北地方太平洋沖地震から10年-この10年で何が起きたか、何がわかったか-」
  の趣旨説明

 東北地方太平洋沖地震の全貌を明らかにしていくために、現在の情報を基にモデルを構築して、今後の推移について予測し、それがどの程度、今後得られる観測値と一致するのかの検証を進めていく必要がある。
①本震の発生前から現在に至る地震活動の推移と今後の見通し、
②本震の発生前から現在に至る地殻変動の推移と今後の見通し、
③海溝付近の巨大な津波の生成原因、
④本震の発生前と後の地殻活動を整合的に説明するモデル
に関する報告を行い、大きな余震が今後どこでどのくらいの可能性で起こりうるのか、海岸の隆起や主破壊域のプレート境界型地震の静穏化は今後どのくらい続くのか、岩手県沖の海溝付近の津波はどのようにして生じたのか、М9地震の予測を行うには今後どのような観測研究が重要か、等について議論する予定である(コンビーナ:東北大学大学院理学研究科・松澤暢副会長資料24頁)。

各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリングに関する検討》

【1】気 象 庁
1.	地殻活動の概況
 a.	地震活動
   O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構
    ・2020年8月~2020年10月の全国の地震活動概況を報告する。
2.	東北地方太平洋沖地震関連
   S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
   S 茨城県沖の地震(8月6日 M5.6)
   S 茨城県沖の地震(9月7日 M5.2)
   S 宮城県沖の地震(9月12日 M6.2)
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
   S 東海・南関東地方の地殻変動
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
   S 南海トラフ沿いの地震活動
   S 東海地域から豊後水道にかけての深部低周波地震活動
   S 南海トラフ沿いの長期的スロースリップの客観検知
   S 東海・南関東地方の地殻活動
   S 東海の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(8月2日~8月8日)
   S 東海の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(9月2日~9月7日)
   S 紀伊半島の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり
       (10月2日~10月5日、10月12日~10月20日、11月1日~ ※期間外)
   S 四国東部から四国西部の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(7月22日~8月23日)
   S 紀伊半島中部から紀伊半島西部の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり
       (8月23日~8月27日)
 d.その他
   S 全国GNSS観測点のプレート沈み込み方向の位置変化
4.その他の地殻活動等
   S 岩手県沿岸南部の地震(10月6日 M4.7)
   S 石川県加賀地方の地震(9月2日 M4.6)
   S 父島近海の地震(9月3日 M4.8)
   O 福井県嶺北の地震(9月4日 M5.0)
    ・2020年9月4日09時10分に福井県嶺北の深さ7kmでM5.0の地震(最大震度5弱)が発生した。
      この地震は地殻内で発生した。この地震の発震機構(CMT解)は西北西-東南東方向に圧力軸
      を持つ逆断層型である。
   S 静岡県西部の地震(9月27日 M5.1)
   S 八丈島東方沖の地震(10月3日 M5.8)
   S 長野・岐阜県境付近(長野県中部、岐阜県飛騨地方)の地震活動
   S 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測
   S アラスカ州南方の地震(10月20日 Mw7.6)
   S エーゲ海の地震(10月30日 Mw7.0)

【2】国土地理院 
1.	地殻活動の概況
 b.	地殻変動
   O GEONETによる全国の地殻水平変動
    ・GEONETによるGNSS連続観測から求めた最近1年間及び3か月間の全国の水平地殻変動を報告する。
   O GEONETによる2期間の地殻変動ベクトルの差
    ・最近3か月間の水平方向の地殻変動について、1年前の同時期の水平変動ベクトルとの差を取って
      得られた非定常的な変動の概況を報告する。
   O GNSS連続観測から推定した日本列島のひずみ変化
    ・GNSSデータから推定した日本列島の最近1年間のひずみ変化の概況を報告する。
2.	東北地方太平洋沖地震関連
   O 地殻変動ベクトル
    ・東北地方太平洋沖地震後における水平・上下の地殻変動について、全期間の累積及び
      最近3か月間の変動の概況を報告する。
   O GNSS連続観測時系列
    ・東北地方太平洋沖地震後の東日本におけるGNSS連続観測の時系列の概況を報告する。
   S 成分変位と速度グラフ
   O 変位速度のプレート収束方向に関する水平勾配(北海道~関東地方)
    ・電子基準点の変位速度勾配により、東北地方太平洋沖地震後のプレート間の固着状況の変化を
      モニタリングする新たな手法について、その概況を報告する。
3.	プレート境界の固着状態とその変化
 b.	相模トラフ周辺・首都圏直下
   S 水準原点~油壺験潮場間の上下変動 水準測量
   S 三浦半島の各水準点の経年変化
   S 伊豆半島・伊豆諸島の水平上下変動
 c.	南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  【森~掛川~御前崎間の上下変動】
    S 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
    S 高精度比高観測点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
    S 高精度比高観測
   S 御前崎周辺 GNSS連続観測時系列
   S 駿河湾周辺 GNSS連続観測時系列
   S 東海地方の地殻変動
   S 東海地方の非定常地殻変動
   S 静岡県浜松市~御前崎市~静岡市間の上下変動 水準測量
   O 紀伊半島北部の非定常水平地殻変動(短期的スロースリップ)
    ・紀伊半島北部において、深部低周波微動と同期したスロースリップをGNSSデータから推定したで、
      その概況を報告する。
   O 志摩半島の非定常水平地殻変動(長期的スロースリップ)
    ・2019年中頃から志摩半島において、これまでの傾向とは異なる地殻変動をGNSSで観測したので、
      その概況を報告する。
   S 紀伊半島 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
   S 和歌山県新宮市~串本町間の上下変動 水準測量
   S 和歌山県田辺市~串本町間の上下変動 水準測量
   S 紀伊半島の各水準点の経年変化
   S 奈良県十津川村~和歌山県新宮市間の上下変動 水準測量
   S 南海トラフ周辺 GNSS連続観測時系列
   S 南海トラフ沿いの地殻変動
   S 南海トラフ沿いの非定常地殻変動
   O 四国中部の非定常水平地殻変動(長期的スロースリップ)
    ・2019年春頃から四国中部において、これまでの傾向とは異なる地殻変動をGNSSで観測したので、
      その概況を報告する。
   S 室戸岬周辺 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
   S 愛媛県宇和島市~高知県土佐清水市間の上下変動 水準測量
4.	その他の地殻活動等
   S 北海道太平洋岸 GNSS連続観測時系列
   S 北海道広尾町~釧路市間の上下変動 水準測量
   S 伊豆東部地区 GNSS連続観測時系列
   S 伊豆諸島地区 GNSS連続観測時系列
   Ο 2020年10月30日トルコ・ギリシャ沖の地震に伴う地殻変動

【3】北海道大学

【4】東北大学理学研究科・災害科学国際研究所

【5】東京大学地震研究所

【6】東京工業大学

【7】名古屋大学

【8】京都大学理学研究科・防災研究所

【9】九州大学

【10】鹿児島大学

【11】統計数理研究所

【12】防災科学技術研究所
3.	プレート境界の固着状態とその変化
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
   O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
    ・期間内に掲載基準を満たすような超低周波地震の目立った活動はなし。
    ・8月から9 月にかけての日向灘以南において、掲載基準に達しない
     超低周波地震活動を検出(F-net記録によると、主に種子島沖以南の活動)。
   S 南海トラフ周辺における最近の傾斜変動
   O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
    ・短期的スロースリップイベントを伴う顕著な微動活動:
     四国東部から西部、7月22日~8月11日頃。
     紀伊半島北部、10月31日~11月6日頃。
    ・上記以外の主な微動活動:東海地方、9月2~5日頃。紀伊半島北部~中部、
     10月12~17日頃。紀伊半島南部、8月23~26日頃。四国東部、10月24~30日頃。

【13】産業技術総合研究所
3.	プレート境界の固着状態とその変化
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
   S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2020年8月~2020年10月)
   S 紀伊半島~四国の地下水・歪観測結果(2020年8月~2020年10月)
   S 東海・紀伊半島・四国における短期的スロースリップイベント(2020年8月~2020年10月)
4.	その他の地殻活動等
   S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2020年8月~2020年10月)
   S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2020年8月~2020年10月)
   S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2020年8月~2020年10月)
   S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2020年5月~2020年10月)

【14】海上保安庁
3.	プレート境界の固着状態とその変化
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
   S 南海トラフ沿いの海底地殻変動観測結果

【15】海洋研究開発機構

【16】その他の機関
記載分類は以下のとおりとなっています。
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
 b.地殻変動
2.東北地方太平洋沖地震関連
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
 d.その他
4.その他の地殻活動等

 ・口頭報告(O)
 ・資料提出のみ(S)