地震予知連絡会の活動報告

第162回地震予知連絡会(2005年2月21日) 議事概要

 平成17年2月21日、国土地理院関東地方測量部において第162回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとしては、東南海・南海地震の前兆的変化について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

1.全国の地震活動について

 最近3ヶ月間では、釧路沖で、2004年11月29日にM7.1が発生し、その後M5以上の地震がこの地域で6回起きている。12月14日には北海道留萌支庁南部でM6.1の地震が発生した。また新潟県中越地震のM5以上の余震が9回起きている。2005年1月19日には、房総半島南東沖で、M6.7の地震が発生している。台湾付近で、11月9日にM6.4の地震が発生している(気象庁資料)。

2.東海地域の地殻活動について

 東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では前回の観測結果と比較して御前崎側で沈降が見られる。掛川市の水準点140-1に対する御前崎市の水準点2595の動きは、最近の2〜3年間は年周変化が小さくなっているが、変動の基本的な傾向は今までと変わらない(国土地理院資料)。

 2001年初頭頃から始まった東海地域の非定常地殻変動(スロースリップ)は依然として継続している。2004年以降、平均的な変動からのずれの水平成分の内、東西成分が若干停滞しているようにも見えるが、南北成分は今までとおりの変化速度で推移している。(国土地理院資料)。この最近の変化の原因として紀伊半島南東沖地震の震源域で余効すべりが起きている可能性が指摘された(国土地理院資料

3.釧路沖の地震活動と地殻変動について

 2004年11月29日に釧路沖でM7.1、その南南東の領域において12月6日に釧路沖でM6.9の最大余震が発生した(気象庁資料)。1月18日には、余震域の西端でM6.4の余震が発生している。これら主な地震は太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した地震である。11月29日と12月6日の震源過程からは、余震の発生している領域と地震時の滑りの大きい場所とが棲み分けている事が示された(気象庁資料)。

 また、GPS観測により11月29日と12月6日の地震に伴う地殻変動が検出されており、それに基づき、地震観測とも調和的な断層モデルが推定されている(国土地理院資料)。またGPS観測に基づいて、釧路沖地震前に、震源の周囲において、プレート間滑りが発生していた可能性が指摘されている(国土地理院資料)。また地震後の地殻変動から、根室半島付近とえりも岬の付近でプレート間滑りが起きている可能性が指摘されている(国土地理院資料)。

 東北大学の相似地震の解析結果からは、2003年十勝沖地震前に十勝沖及び釧路沖でプレート間の準静的な滑りが小さく、十勝沖発生後に震源域の周囲特に東側で余効滑り発生し、2004年11月29日の釧路沖地震後には釧路周辺の深部においてプレート間滑りが起きていることが推定されている(東北大学資料)。

 また、東北大学による、GPS観測のデータに基づいた2003年十勝沖地震後のプレート間滑りについては、震源域周辺での滑りが推定されており、相似地震と調和的な結果が得られている(東北大学資料)。

 これらの結果と国土地理院のGPSの結果は整合しており、根室沖のゆっくり滑りの進行を示している。

4.新潟県中越地震の地質構造及び余震分布

 震源域の魚沼丘陵は、地質構造から走向方向にほぼ3つに分けられる。六日町断層は、ほぼ連続した地表トレースを有するが、南北で異なる震源断層に連続している可能性が高いことが推定された。余震分布から判断して中越地震の断層は中央部の断層の破壊によって発生し、北側の断層の一部にも及んだと推定されている(東大地震研資料)。

5.東南海・南海地震の前兆的変化について

 今回のトピックスでは、東南海、南海地震の前兆的変化について報告があり、議論が行われた。(世話人:山田委員)。

 1946年の南海地震前に紀伊半島の浦神において、潮位の上昇が見られ、南海地震前のプレスリップが原因である可能性が指摘された(気象庁資料)。また、南海地震前に四国・紀伊半島の一部の井戸で水位が減少しているが、隆起によってそのような現象が発生した可能性が指摘されている(京大防災研究所)。

 1944年の東南海地震に関しては、地震発生前の水準測量で捉えられた異常変動は、あったとしても、地震前10分程度で発生したのではないか、それ以前の水準測量の変化は、誤差の範囲以内ではないかという報告がなされた(名古屋大学資料)。それに対して、指摘された区間に隣接する区間の変化も大切であり、さらに地形の効果等も考慮した誤差の検討が行われる必要があるという意見があった。

(事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

【1】気象庁
 1.日本とその周辺
  C 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構

 2.北海道地方とその周辺
  C オホーツク海南部(11月7日M6.0)の地震活動
  C 国後島付近(11月4日M5.8)の地震活動
  A1 釧路沖(11月29日M7.1)の地震活動
  C 2003年十勝沖地震の余震活動
  C 十勝支庁南部(11月27日M5.6)の地震活動
  A1 留萌支庁南部(12月14日M6.1)の地震活動

 3.東北地方とその周辺
  C 青森県東方沖(1月6日M5.3)の地震活動
  C 宮城県沖の地震(2003年5月26日M7.1)の余震活動
  C 宮城県沖(11月2日M5.4、12月29日M5.5)の地震活動

 4.関東・中部地方とその周辺
  C 茨城県沖(1月1日M5.0)の地震活動
  A1 房総半島南東沖(1月19日M6.8)の地震活動
  C 2004年新潟県中越地震の余震活動
  C 東海道沖(11月9日M5.7)の地震活動
  C 愛知県西部(1月9日M4.7)の地震活動
  C 東海地域の地震活動
  C 東海・南関東地方の地殻変動

 5.近畿・中国・四国地方とその周辺
  C 京都府南部(12月1日M4.0)の地震活動
  C 兵庫県北部(12月2日、M3.4最大)の地震活動

 6.九州地方とその周辺
  C 熊本県熊本地方(1月15日M4.1)の地震活動
  C 鹿児島県西方沖(12月12日〜、M5.3最大)の地震活動

 7.沖縄地方とその周辺
  C 台湾付近(11月9日M6.4)の地震活動

 8.海外・期間外
  C スマトラ島西方沖(12月26日Mw9.0)の地震活動

【2】国土地理院
 1.日本全国の地殻変動
  A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動
  A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間)
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月)
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月)
  C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化

 2.東海地方の地殻変動
  A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
  A2 水準点(140−1、2595)の経年変化
  A2 水準点2595(御前崎市)の経年変化
  C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化
  C 御前崎地方の上下変動
  A2 水準点2602−1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の
    経年変化
  A2 水準点2602−1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化
  A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値)
  C 水準点の比高変化に対する近似曲線の係数変化
  C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差
  A2 東海地方の非定常地殻変動
  C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(1)
  C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2)
  A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺
  C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化
  C GPS連続観測および水準測量による比高変化に対する近似曲線の係数変化
  C GPS連続観測結果 静岡県西部
  C 御前崎地区高精度比高連続観測
  C 御前崎長距離水管傾斜計月平均
  C 御前崎・切山長距離水管傾斜計日平均
  C 御前崎・切山長距離水管傾斜計時間平均
  C 地中地殻活動観測装置観測結果

 3.伊豆地方の地殻変動
  C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差
  C 清水市〜熱海市〜藤沢市間の上下変動
  C 伊豆大島の上下変動
  C 三宅島の上下変動
  C 伊豆半島東部測距連続観測
  C GPS連続観測結果 伊豆半島東部地区
  C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区
  C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区(ベクトル図)

 4.関東地方の地殻変動  C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差
  C 山形村〜松本市間の上下変動
  C 三浦半島西側の上下変動
  C 三浦半島東側の上下変動
  C 館山〜勝浦間の上下変動
  C 君津〜館山間の上下変動
  C 富津〜鴨川間の上下変動
  C 館山〜和田間の上下変動
  C 房総半島南部の上下変動
  C 鹿野山精密辺長連続観測結果
  C GPS連続観測結果 富士山周辺地区
  C GPS連続観測結果 富士山周辺(ベクトル図)

 5.北海道地方の地殻変動
  C 加藤&津村(1979)の解析方法による各験潮場の上下変動
  C 岩見沢市〜旭川市間の上下変動
  C 札幌市中央区〜岩見沢市間の上下変動
  C 小樽市〜札幌市中央区間の上下変動
  A2 十勝沖地震後の水平変動ベクトル図
  A2 GPS連続観測結果 十勝沖周辺
  A2 十勝沖地震に伴う地殻変動
  A2 釧路沖地震の震源断層モデル
  A2 根室半島南東沖地震震源断層モデル
  A2 震源断層モデルの概念図
  A2 GPS連続観測結果 留萌支庁南部周辺
  A2 留萌支庁南部地震の断層モデル
  A2 断層モデルの概念図
  A2 十勝沖地震後の余効変動

 6.北陸地方の地殻変動
  A2 長岡市〜小千谷市・十日町市〜南魚沼市間の上下変動
  A2 水準測量による観測値と断層モデルから推定される上下変動量の比較
  A2 GPS連続観測結果 中越地方(1)周辺
  A2 GPS連続観測結果 中越地方(2)周辺
  A2 新潟県中越地震1秒サンプリングGPS解析結果

 7.近畿地方の地殻変動
  C 舞阪から浦神までの験潮場間の月平均潮位差
  C 加藤&津村(1979)の解析方法による各験潮場の上下変動
  C 中京の上下変動
  A2 紀伊半島東側の上下変動
  A2 志摩半島周辺の上下変動
  A2 紀伊半島における経年変化
  A2 GPS連続観測結果 紀伊半島南東沖周辺
  C 串本地区機動観測結果
  A2 安芸市〜室戸市間の上下変動
  A2 室戸地方の経年変化

 8.四国・九州地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺
  C 大津町〜阿蘇町〜白水村間の上下変動

 9.その他
  C GPS連続観測結果 硫黄島
  C GPS測量による硫黄島の火山性地殻変動
  C 測地VL BI観測結果
  C スマトラ島沖地震に伴う海岸線変化・津波遡上域に関する調査
  C スマトラ島沖地震に伴う断層モデル

【3】北海道大学
  C 北海道とその周辺の地震活動
  A4 留萌支庁南部(M6.1)の地震活動
  C 2003年十勝沖地震(M8.0)後の地殻変動
  C 根室半島沖の地震活動の静穏化と活発化 その3
  C 2004年11月29日釧路沖の地震(M7.1)の余震分布
  A4 海底地震計による2004年11月29日釧路沖地震の余震観測
  C 2004年中越地震のGPS観測

【4】東北大学・地震噴火予知研究観測センター
  A4 稠密余震観測による2004年新潟県中越地震の余震分布・地震波速度不均質構造
  A4 相似地震・GPS解析から推定された十勝沖及び根室半島沖アスペリティ周辺の
    準静的すべり

【5】東京大学大学院理学系研究科
  C 東海地域における地球化学的観測について
  C 伊豆半島における地球化学的観測について
  C 福島県東部における地球化学的観測について

【6】東京大学地震研究所
  C 北海道東部の重力変化
  C 精密弾性波(P波およびS波)連続観測
  A4 新潟県中越地震の余震活動と震源域不均質構造
  C 日光・足尾付近の地震活動(2004年11月〜2005年1月)
  C 富士川・駿河湾地方における地殻変動観測(その29)
  A4 2004年紀伊半島南東沖の地震の余震観測
  A4 紀伊半島南東沖地震前などの規模別頻度分布の異常
  C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動 (2004年11月〜2005年1月)
  C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2004年11月〜2005年1月)

【7】静岡大学理学部・静岡県防災局
  C 静岡県相良町および静岡市上坂における地殻傾斜連続観測

【8】名古屋大学
  A4 1月9日愛知県中部の地震(M=4.7)の背景
  A4 2004年紀伊半島沖地震に伴う海底地殻変動

【9】京都大学
  C 近畿北部における最近の地殻活動
  A5 南海地震の前の井戸水の減少について
  C 2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震にともなう地殻変動

【10】九州大学地震火山観測研究センター
  C 九州の地震活動(2004年11月-2005年1月)

【11】鹿児島大学南西島弧地震火山観測所
  C 九州南部の地震活動(2004年11月-2005年1月)

【12】統計数理研究所
  A4 2003年十勝沖地震(M8.0)と2004年釧路沖の地震(M7.1)の余震活動および
    北海道東部の内陸地震活動について

【13】防災科学技術研究所
  C 関東・東海地域における最近の地震活動(2004年11月〜2005年2月)
  C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2004年11月〜2005年2月)
  C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による
    地殻変動観測                  (2003年4月〜2005年1月)
  A4 2004年11月29日の釧路沖地震とその余震活動
  A4 2004年12月12日の鹿児島県西方沖の地震活動
  A4 2004年12月14日の留萌支庁南部の地震活動
  A4 2005年1月19日房総半島南東沖の地震
  B 丹波山地の地震活動と兵庫県南部地震
  B 西南日本における最近の深部低周波微動と短期的スロースリップイベント

【14】産業技術総合研究所
  A3 2004年スマトラ島西方沖の地震(M9.0)の地震波に伴う地下水位・水圧変化について
    (産業技術総合研究所・鳥取大学工学部・京都大学防災研究所・
     神奈川県温泉地学研究所)
  A5 1944年東南海地震と1946年南海地震に伴う和歌山県湯峯温泉の変化について
    (産業技術総合研究所・和歌山県総合防災課)
  C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2004年11月〜2005年1月)
  C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2004年11月〜2005年1月)
  C 有馬〜高槻〜六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2004年11月〜2005年1月)
  C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2004年11月〜2005年1月)
  C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2004 年8 月〜2005 年1月)
    (鳥取大学工学部・京大防災研・産総研)

【15】海洋情報部
  A4 SLRにより検出された紀伊半島南東沖地震による地殻変動について
  A4 平成16年12月26日スマトラ沖地震による津波観測
  A4 平成17年1月19日関東東方沖地震による津波観測
  C GPSによる地殻変動監視観測
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。
 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑
 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑
 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑
 (A4)各地域についての詳細検討
 (A5)トピックス
 (B) 話題提供
 (C) 資料提出