地震予知連絡会の活動報告

第192回地震予知連絡会(2011年8月22日) 議事概要

 平成23年8月22日(月)、国土地理院関東地方測量部において第192回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関するモニタリングについての報告が行われ、続いて重点検討課題として「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その1)南海トラフ・南西諸島海溝」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「東北地方太平洋沖地震に関する検討(その3)」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。

1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

 国内で2011年6月から7月までの2ヶ月間に発生したM5以上の地震は56個であった(気象庁資料)。東北地方太平洋沖地震の震源域で多数の地震が発生し、7月10日には三陸沖でM7.3のスラブ内地震が発生している。また、そのほかにM6以上の地震が7つ発生している。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 2011年6月23日〜26日頃に、十勝沖でごく小規模な超低周波地震活動があった(防災科学技術研究所資料)。

(3)日本列島の歪み変化

 GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図に、東北地方太平洋沖地震の震源域に向かって伸びる歪みが見られる(国土地理院資料)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)日本海溝周辺

・東北地方太平洋沖地震の前震活動
 M7.3の前震の震源域からM9.0の本震の震源域に向かう震源の移動が、2月中旬〜下旬(伝播速度:2〜5km/day)および3月9日〜11日(約10km/day)に、小繰り返し地震を伴っておきていたことが報告された(東京大学地震研究所資料)。小繰り返し地震を用いた準静的なプレート間滑りの推定によると、2月中旬からの震源移動の際にM7.3の震源域南部で滑りが始まった。続いて、M7.3の地震発生後、その震源域の中部から北部にかけては、余効滑りに類似した滑り量の増加を示し時間の経過とともに滑り速度が減速する一方で、南部では、準静的な滑りが本震の震央(南南西)方向に伝播するとともに滑りは直線的な増加を示した(東京大学地震研究所資料)。

・東北地方太平洋沖地震の余効変動
 東北地方太平洋沖地震後の余効変動を対数および指数関数で近似した結果から、地震時の沈降が地震後の隆起によって短期間で回復する可能性は低いと考えられる(国土地理院資料)。観測された余効変動から、プレート境界面の余効滑りが推定され、モーメントの放出速度は時間とともに減衰していく様子が見られた。このモデルは観測値をよく再現する(国土地理院資料)。

(2)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 2011年6月〜8月に、短期的なスロースリップを伴う顕著な微動活動があった(防災科学技術研究所資料)。

1.3 その他の地殻活動等

・2011年6月30日長野県中部の地震
 2011年6月30日に長野県中部を震源とするM5.4の横ずれの地震が地殻内で発生した。この地震により、最大震度5強が観測された(気象庁資料)。またこの地震の発生の前日から地震活動が起きていたことが報告された。震央は牛伏寺断層の地表トレースより2km西に位置する。余震活動は北北西―南南東と西北西―東南東方向に線上に広がり、後者の余震分布の東端は牛伏寺断層の近くに達する。7月中旬にはその東端で活動が活発になった(東京大学資料)。

・8月1日駿河湾の地震
 8月1日に駿河湾の深さ23kmでM6.2の逆断層の地震が、フィリピン海プレート内で発生した。発生した場所は東海地震想定震源域外である(気象庁資料)。

・8月12日の遠州灘の地震
 8月12日に遠州灘でM5.2の地震が発生した。この地震の発震機構は北西―南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、プレート境界周辺で発生した地震である(気象庁資料)。傾斜角が40度以上とやや高角であるため、プレート境界型ではないと考えられる。過去にも同地域近傍でプレート境界型ではない同規模の地震が発生していた(防災科学技術研究所資料)。

2.重点検討課題「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その1)南海トラフ・南西諸島海溝」の検討

 本課題の目的は、今後の巨大地震発生確率が高いとされる南海トラフ及びそれに連続する南西諸島海溝について、プレート境界に関するイメージやそこで発生する巨大地震の地震像が正しいかどうか、再検討を行うことにある。これらに関して、4部に分けて検討が行われた。

◆第1部 スーパーサイクルを含む南海トラフ・南西諸島海溝巨大地震の発生様式

 津波堆積物の調査から解明されてきた、過去3500年間の南海トラフ沿いの巨大地震による津波履歴について報告がされた。比較的規模の大きい南海地震は300年程度の周期でおきており、さらに、より発生サイクルの長い規模の大きな津波も存在する可能性が指摘された(高知大学・松岡裕美准教授資料)。1771年八重山地震津波についての研究成果が報告され、波源域として南西諸島海溝で発生したプレート間地震の可能性が高いことが示された。また、これまでの研究から分かってきた南西諸島海溝での固着領域の分布が紹介された(琉球大学・中村衛准教授資料)。

◆第2部 シミュレーション研究から見た南海トラフ・南西諸島海溝超巨大地震の可能性

 階層アスペリティモデルを適用したシミュレーション計算から、地震発生帯浅部や深部でも地震性の高速滑りが発生し得ることが示唆された。また、南西諸島海溝の地震ポテンシャルについて議論がなされ、観測研究による固着域の更なる検証の必要性が指摘された(海洋研究開発機構・堀高峰研究員資料)。南海トラフ沿いの地震発生シミュレーションの研究成果が報告され、東海地域が割れ残ったり、東海と豊後水道で長期的スロースリップが繰り返し発生する等の特徴が再現できることが示された。一方、東海地震が単独で発生するケースを再現するモデルの構築には至っていないことも報告された(気象庁気象研究所・弘瀬冬樹研究官)。

◆第3部 日本海溝緊急調査の成果と南海トラフ地震発生帯との比較

 東北地方太平洋沖地震の発生域における構造探査から、プレート境界での摩擦が小さいことを反映すると考えられる正断層システムが海溝域まで発達していることが報告された。南海トラフ先端の掘削結果から、トラフ軸付近においても地震性滑りが起きていた可能性が示唆された(海洋研究開発機構・小平秀一上席研究員資料)。

◆第4部 東北地方太平洋沖地震を踏まえた南海トラフ地震系列の再検討

 歴史地震・歴史津波を、地震動と広い浸水域を伴う貞観型と破壊的で高い遡上高を伴う津波地震型に分けて考えることが提案された。南海トラフの地震では、津波地震やその可能性のあるものは検討されているが、貞観型の存在の有無を把握するため浸水域の調査が重要であることが指摘された。また、海溝軸に近い分岐断層を津波地震の結果と捉えて再考することが提案された(地震予知連絡会・島崎邦彦会長資料)。

3.次回(第193回)重点検討課題「東北地方太平洋沖地震に関する検討(その3)」の趣旨説明

    

今後の地殻活動の推移予測や将来の巨大地震発生の予測の枠組みの検討を行うために、モニタリングや新たな観測データの解析および従来のデータの再解析等の結果を持ち寄り、これまで提案されていたモデルから期待される現象との比較を行う。(趣旨説明資料)。

(事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリングに関する検討》


【1】気 象 庁

1.地殻活動の概況

 a.地震活動

  O 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構

    2011年6月〜7月の全国の地震活動概況を報告する。

  S 東海地域の地震活動

2.プレート境界の固着状態とその変化

 a.日本海溝・千島海溝周辺

  S 浦河沖の地震(6月25日 M5.4)

  S 岩手県沖の地震(6月23日 M6.9)

  S 宮城県沖の地震(7月23日 M6.4)

  S 福島県沖の地震(7月25日 M6.3)

  S 浦河沖の地震(8月1日 M5.5)

 b.相模トラフ周辺・首都圏直下

  S 茨城県南部の地震(6月3日 M4.5)

  S 茨城県南部の地震(7月15日 M5.4)

  S 茨城県南部の地震(7月16日 M4.1)

  S 千葉県北東部の地震(6月30日 M4.6)

  S 東海・南関東地方の地殻変動(2cを含む)

 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

  S 7〜8月に長野県南部〜愛知県で観測された深部低周波地震活動と短期的スロースリップ

 d.その他

  O 海溝と直交する方向の全国の基線長変化

3.その他の地殻活動等

  S 釧路沖の地震(6月14日 M5.1)

  O 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の余震活動状況

  S 福島県浜通りから茨城県北部の地震活動

  S 福島県沖から茨城県沖の地震活動

  S 三陸沖の地震(7月10日 M7.3)

  S 福島県沖の地震(7月31日 M6.5)

  S 福島県会津の地震(7月3日 M3.9)

  S 新潟県中越地方の地震(6月2日 M4.7)

  O 長野県中部の地震(6月30日 M5.4)

  S 茨城県沖の地震(7月7日 M5.9)

  S 伊豆東部の地震活動(7月18〜19日 最大M2.8)

  S 三重県南部の地震(7月24日 M4.8)

  S 千葉県東方沖の地震

  S 島根県東部の地震(6月4日 M5.2)

  S 和歌山県北部の地震(7月5日 M5.5)

  S 熊本県熊本地方の地震(6月28日 M4.2)

  S 沖永良部島付近の地震(7月21日 M5.2)

  O 駿河湾の地震(8月1日 M6.2)

  O 遠州灘の地震(8月12日)

  S ニュージーランド南島の地震(6月13日 M6.0)

  S アリューシャン列島フォックス諸島の地震(6月24日 Mw7.2)

  S ケルマディック諸島の地震(7月7日 Mw7.6)



【2】国土地理院

1.地殻活動の概況

 b.地殻変動

  O GEONETによる全国の地殻水平変動

  O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差

  O GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化 

2.プレート境界の固着状態とその変化

 a.日本海溝・千島海溝周辺

  S 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列

  S 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ(十勝沖、釧路沖)

  S 北海道地方の最近の地殻変動(水平・上下・1ヶ月・時系列)猿払固定

  S 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列

  O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動 指数・対数 関数近似(Q3)

  O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル

  O 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ

  O プレート境界面上の滑り分布モデル

  S 水平地殻変動の観測値とモデル計算値の比較

  S 水平地殻変動の観測値とモデル計算値の差

  S 上下地殻変動の観測値とモデル計算値の比較

  S 上下地殻変動の観測値とモデル計算値の差

  O 地震後のすべりの時間変化

  O プレート境界面上の滑り分布の比較

  O 観測値と計算値の比較

  S 観測値(黒丸)と計算値(赤丸)

  O プレート境界面上の地震時の滑り分布モデル

  O GPS連続観測データから推定した福島県付近の歪み変化

  O 東北地方太平洋沖地震による主要活断層帯での静的クーロン応力変化

 b.相模トラフ周辺・首都圏直下

  S 鹿野山精密辺長連続観測

  S 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差

  S 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図

 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

  S 東海地方各験潮場間の月平均潮位差

  O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動

  O 菊川市付近の水準測量結果

  S 御前崎周辺 GPS連続観測時系列

  O 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列

  S 御前崎長距離水管傾斜計月平均

  S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化

  S 御前崎地中地殻活動観測装置観測

  O 東海地方の最近の地殻変動

3.その他の地殻活動等

  O 6/23岩手県沖の地震に伴うベクトル及び3成分時系列グラフ

  O 7/10三陸沖の地震に伴うベクトル及び3成分時系列グラフ

  S GPS繰り返し観測による糸魚川−静岡構造線断層帯周辺の速度ベクトル

  O 6/30長野県北部の地震に伴うベクトル及び3成分時系列グラフ

  S 伊豆半島東部地区 GPS連続観測時系列

  S 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列

  S 7/17,18伊豆東部の地震活動 3成分時系列グラフ

  S 高度地域基準点測量による近畿地区の水平歪

  S 高度地域基準点測量による四国地区の水平歪



【3】北海道大学

   提出議題なし

   

【4】東北大学

   提出議題なし

   

【5】−1東京大学大学院理学系研究科

3.その他の地殻活動等

  O 牛伏寺断層およびその周辺の地質構造と地震活動との関連

【5】−2東京大学地震研究所

2.プレート境界の固着状態とその変化

 a.日本海溝・千島海溝周辺

  S 海底地震観測による平成23年東北地方太平洋沖地震の余震分布(その1)

3.その他の地殻活動等

  O 2011年東北地方太平洋沖地震の前震活動

  O 茨城県北部・福島県南東部の誘発地震活動

  S 東北地方太平洋沖地震前後の足尾周辺のb値の変化

  O 長野県中部の地震



【6】東京工業大学

   提出議題なし

   

【7】名古屋大学

   提出議題なし

   

【8】京都大学防災研究所

3.その他の地殻活動等

  S 近畿地方北部の地殻活動

  S 島根県東部の地震活動



【9】九州大学

   提出議題なし

   

【10】鹿児島大学

   提出議題なし

   

【11】統計数理研究所

2.プレート境界の固着状態とその変化

 a.日本海溝・千島海溝周辺

  O 東北沖M9地震の余震活動のモニタリングについて

3.その他の地殻活動等

  O 松本付近の余震について



【12】防災科学技術研究所

2.	プレート境界の固着状態とその変化

 b.相模トラフ周辺・首都圏直下

  S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測

 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

  S 関東・東海地域における最近の傾斜変動

  S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動の観測

  O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2aを含む)

  O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況

3.その他の地殻活動等

  O 2011年6月30日長野県中部の地震

  S 2011年7月伊豆半島東方沖の地震活動

  S 2011年7月5日和歌山県中部の地震

  S 2011年8月1日駿河湾南部の地震

  O 2011年8月12日に発生した遠州灘の地震(Mw5.0)



【13】産業技術総合研究所

2.プレート境界の固着状態とその変化

 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2011年6月?2011年7月)

  S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2011年2月?2011年7月)

3.その他の地殻活動等

  S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2011年6月?2011年7月)

        -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研

  S 2011年7月の伊豆半島東方沖群発地震活動に伴う地下水位変化と地殻変動

  S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2011年6月?2011年7月)

  S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2011年6月?2011年7月)

  S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2011年6月?2011年7月)

        --鳥取大学工学部・産総研



【14】海上保安庁

1.地殻活動の概況

 b.地殻変動

  S GPSによる地殻変動監視観測

2.プレート境界の固着状態とその変化

 b.相模トラフ周辺・首都圏直下

  O 南海トラフ及び相模湾における海底地殻変動観測結果(cを含む)








記載分類は以下のとおりとなっています。

1.地殻活動の概況

 a.地震活動

 b.地殻変動

2.プレート境界の固着状態とその変化

 a.日本海溝・千島海溝周辺

 b.相模トラフ周辺・首都圏直下

 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

 d.その他

3.その他の地殻活動等



・口頭報告(O)

・資料提出のみ(S)



重点検討課題「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その1)南海トラフ・南西諸島海溝」

1.スーパーサイクルを含む南海トラフ・南西諸島海溝巨大地震の発生様式


 1−1.津波堆積物から見た南海トラフ沿いの巨大地震履歴

     高知大学 松岡裕美准教授



 1−2.1771年八重山地震津波

     琉球大学 中村衛准教授

 		

2.シミュレーション研究から見た南海トラフ・南西諸島海溝超巨大地震の可能性


 2−1.海溝付近や固着域深部(微動発生域)まで高速破壊するか?

     海洋研究開発機構 堀高峰氏



 2−2.東海地震のシミュレーション

     気象研究所 弘瀬冬樹氏

  	

3.日本海溝緊急調査の成果と南海トラフ地震発生帯との比較


     海洋研究開発機構 小平秀一氏

   

4.初めて見たプレートの沈み込みと南海トラフの地震系列


     地震予知連絡会 島崎邦彦会長

   
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