地震予知連絡会の活動報告

第179回地震予知連絡会(2008年11月17日) 議事概要

 平成20年11月17日、国土地理院関東地方測量部において第179回地震予知連絡会が開催された。地震予知連絡会における今後の議論の進め方について、「地震予知連絡会 今後の活動展開の検討ワーキンググループ(その2)」(主査:島崎副会長)から検討結果の報告があり、了承された。その後、全国の地震活動、地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論された。トピックスとして、「観測技術の最前線」について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

1.地震予知連絡会における今後の議論の進め方について

 本会議の運営や議論するテーマのあり方について、ワーキンググループによる検討結果が報告された。主に地殻活動のモニタリングに関する内容を「重点検討課題」として選定し、集中的に検討すること、「重点検討課題」の選定および運営を行う部会の設置、今後の本会議での議事として、地殻活動モニタリング結果に関する検討、重点検討課題の検討を中心に行うこと、これを含めた地震予知連絡会の議論の進め方、また会長選出手続きについて提案された。この報告について質疑が行われ、了承された。また、重点検討課題運営部会が設置され、平田委員が部会長に指名された(資料その1)。

2.全国の地震活動について

 国内で8月から10月の3ヶ月間に発生したM6以上の地震は、9月11日に北海道十勝の沖合で発生したM7.1の地震のみであった(気象庁資料)。

3.日本列島の歪み変化について

 GPS連続観測データから推定した最近1年間の日本列島の歪み変化図からは、北海道において2008年9月11日の十勝沖の地震の変動、2003年9月26日の十勝沖地震の余効変動の影響が見られ、伊豆諸島北部では北東—南西の伸びが依然として顕著である。また、2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震による歪みが見られる。2008年5月8日に発生した茨城県沖の地震、2008年6月14日に発生した平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震、2008年7月19日に発生した福島県沖の地震の影響が見られる(国土地理院資料)。

4.十勝沖の地震活動について

 9月11日にM7.1の地震が十勝沖で発生した。発震機構解は太平洋プレートと陸のプレートの境界付近で発生した地震であることを示す。余震活動は順調に減衰している(気象庁資料)。今回の地震の本震は2003年十勝沖地震の本震よりやや浅く求まり、余震活動は本震の南東のクラスターで活発となっている(気象庁資料)。地殻変動から推定された今回の地震のプレート境界面上の滑り分布は、2003年の地震に比べてやや南側に推定された(国土地理院資料)。今回の地震の本震と余震は、2003年の地震による滑りがあまり大きくない領域に位置している(気象庁資料)。

5.2008年岩手・宮城内陸地震前の周辺の地震活動

 岩手・宮城内陸地震の発生以前に東北地方の地震活動が活発化したように見えることが報告された。深さ20km以浅でまとまった活動が見られる領域のうち、岩手山付近、秋田県内陸部、宮城県中部、及び山形県村山において、岩手・宮城内陸地震の発生する1〜2月前に活動が活発化したことが示された(気象庁資料)。

6.福島県沖の地震前後の地震・地殻活動

 福島県沖で、2008年5月の茨城県沖の地震後に静穏化がおき、その後M6.9の地震が発生したという報告がなされた。前回の地震予知連絡会において国土地理院から福島県沖の地震の前にMw6.4に相当するプレート間滑りが発生していたという報告があり、当該地域の地震活動について調査した結果、5月中旬から7月19日の地震の前2ヶ月間に地理院が指摘した滑り領域の周囲でM3.0以上の地震が全く発生しない状態が続いていた(気象庁資料)。

7.茨城県沖の地震

 海底地震計を用いた震源分布と海上保安庁の推定した地下構造との比較が示され、茨城県沖の地震の発生領域はプレート境界より約5km程度深く、沈み込む海洋性地殻内で発生していたと報告された(東京大学地震研究所資料)。この地震の前震活動および本震発生後の余震が観測され、その特徴が報告された。前震活動は小さな領域に集中していて、時間とともに移動し、範囲が拡大して本震発生に至っている。その後の余震活動は、本震発生直前に地震活動があった領域で活発であった(東京大学地震研究所資料)。

8.東海地域の地殻変動について

 東海地域の水準測量結果によると、掛川市の水準点140−1に対して御前崎市の水準点2595はわずかに沈降傾向を示した。掛川市の水準点140−1に対する水準点2595の年周補正後の結果は、今回の観測結果が2005年夏以降の最近の沈降トレンド上にあることが示された(国土地理院資料)。  GPS連続観測データから得られた東海地方の地殻変動は、スロースリップ開始以前の状況に戻っているように見える(国土地理院資料)。  

9.東海地方〜西南日本の深部低周波地震・微動と短期的スロースリップについて

 2008年8月25日頃から9月4日にかけて長野県南部〜愛知県で深部低周波地震活動が観測された。この活動と同期して、周辺の歪計で地殻変動が観測された。その後、9月7日から8日にかけて長野県南部で活動が観測されたが、周辺の歪計では明瞭な地殻変動は観測されていない(気象庁資料)。また、9月下旬〜10月上旬に四国西部、10月中旬には四国東部で低周波微動が発生し、いずれも地域固有の周期性に調和的な活動であった(防災科学技術研究所資料)。

10.宮古島近海の繰り返し地震について

 2008年9月10日に発生した地震の震源付近では、1966年7月以降、宮古島近傍の深さ約50kmでM5.1程度の地震が平均発生間隔5.9年で8回発生しており、これらの波形は互いによく似ていることから、プレート境界上に存在する同じアスペリティが繰り返し地震を引き起こしていると考えられる(気象庁(沖縄気象台)資料)。

11.トピックス「観測技術の最前線」(世話人:小川委員)

 合成開口レーダー、海底地殻変動観測、地下電気伝導度構造研究に関して報告及び議論が行われた。合成開口レーダーに関しては、「だいち」PALSARデータを用いた地殻変動観測手法とそれによる解析結果について説明があった。PALSARはL-bandのマイクロ波を用いることからSAR干渉解析での干渉性が高く、地震に伴う地殻変動の詳細把握に優れていること、SAR干渉解析では干渉が得られないような変動量の勾配が大きい地域でも変動を把握できる解析手法についての紹介があった(国土地理院矢来主任研究官資料)。

 海底地殻変動観測に関して、その原理の説明が行われた。現在は、海底地殻変動を水平方向で数cmの精度で捉えられること、地殻変動速度については1cm/year程度の精度を達成しているとの報告が行われた。そして、現在までに得られた海底地殻変動のデータから、プレートの沈み込みに伴う地殻変動、断層モデルの詳細化に貢献していることが説明された。最近の課題としては、観測の効率化、精度向上、海中の音速構造の空間的不均質による誤差の低減、次世代型観測システムの研究が挙げられた(海上保安庁佐藤衛星測地調査官資料)。

 地下電気伝導度構造に関する研究の報告においては、電気伝導度探査手法、日本における研究の現状、および今後の課題が説明された。日本における構造研究の結果が数例報告され、地震断層の深部延長に流体の存在を示す高電気伝導度の領域が存在すること、微小地震発生帯の直下には高電気伝導度の領域が存在し、応力の集中、あるいは間隙流体が上部に侵入して地震を発生させている可能性があること、非火山性長周期微動帯や富士山深部に高電気伝導度領域が存在するといった結果が得られていることが説明された。今後の課題としては、三次元解析や、時間的変化の推定等が挙げられた(東京大学地震研究所上嶋准教授資料)。

(事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

【1】気象庁
 1.日本とその周辺
  A1 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構

 2.北海道地方とその周辺
  C 北海道東方沖の地震(8月14日M5.4)
  A1 雌阿寒岳付近で観測された深部低周波地震(8月〜)について
  A1 十勝沖の地震(9月11日M7.1)
  C 釧路沖の地震(9月12日M5.2)
  C 留萌支庁中北部の地震(10月4日M3.5)

 3.東北地方とその周辺
  A1 「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」前の周辺の地震活動
  A1 福島県沖の地震前後の地震・地殻活動(7月19日M6.9)
  C 青森県東方沖の地震(8月9日M5.4)
  C 津軽海峡の地震(9月22日M5.6)
  A1 三陸沖の地震活動(10月20日M4.6)
  C 宮城県沖の地震(10月30日M5.1)

 4.関東・中部地方とその周辺
  C 神奈川県東部〔東京都多摩東部〕の地震(8月8日M4.6)
  C 茨城県南部の地震(8月20日M4.6)
  C 茨城県北部の地震(8月22日M5.2)
  C 東京湾〔千葉県北西部〕の地震(9月21日M4.8)
  C 千葉県北西部の地震(10月8日M4.7)
  C 千葉県北東部〔千葉県東方沖〕の地震(10月14日M4.3)
  C 松代における地殻変動観測
  A1 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ
  A1 レーザー式変位計によってとらえた短期的スロースリップ(2008年8〜9月)による
    地殻変動
  C 東海地域の地震活動
  C 東海・南関東地方の地殻変動

 5.近畿・中国・四国地方とその周辺
  C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測

 6.九州地方とその周辺
  C 奄美大島北東沖の地震(9月14日M5.1)

 7.沖縄地方とその周辺
  A1 宮古島近海の繰り返し地震

 8.期間外・海外
  C パキスタンの地震(10月29日Mw6.4)

【2】国土地理院
 1.日本全国の地殻変動
  A2 GEONETによる全国の地殻水平変動
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差
  A2 GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化

 2.北海道地方の地殻変動
  C 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列
  C 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ
  C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布
  A2 2008年9月11日の十勝沖の地震に伴う地殻変動

 3.東北地方の地殻変動
  C 仙台市〜石巻市間の上下変動
  C 仙台市〜岩沼市間の上下変動
  C 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列
  A2 2008年岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動
  C 宮城・福島・茨城県太平洋沿岸 GPS連続観測時系列

 4.関東甲信地方の地殻変動
  C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差
  C 館山地殻活動観測場
  C 鹿野山精密辺長連続観測

 5.伊豆地方の地殻変動北海道地方の地殻変動
  C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差
  C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図
  C 伊豆東部地区 GPS連続観測時系列
  C 伊豆半島東部測距連続観測
  C 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列

 6.東海地方の地殻変動東北地方の地殻変動
  C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差
  A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
  A2 菊川市付近の水準測量結果
  C 東海地方の上下変動
  C 御前崎周辺 GPS連続観測時系列
  C 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列
  C 御前崎長距離水管傾斜計月平均
  C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化
  C 精密辺長測量 切山地区
  C 御前崎地中地殻活動観測装置観測
  A2 東海地方の非定常地殻変動

 7.北陸・中部地方の地殻変動
  C 2007年新潟県中越沖地震後の地殻変動
  C 長岡地区の絶対重力測定
  C 跡津川地区 変動地形調査(精密辺長測量)

 8.その他
  C 硫黄島の地殻変動

【3】北海道大学
  C 2008年9月11日十勝沖地震による津波解析

【4】東京大学地震研究所
  A3 海底地震計による2008年茨城県沖の地震の前震・本震・余震分布
  C 東京大学地震研究所鋸山観測坑における地殻変動観測結果(1997年7月〜2008年9月)
  C 日光・足尾付近の地震活動(2008年8月〜2008年10月)

【5】京都大学防災研究所
  C 近畿地方北部の地殻活動
  C 地殻活動総合観測線観測結果

【6】防災科学技術研究所
  C 関東・東海地域における最近の地震活動(2008年8月〜2008年10月)
  C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2008年8月〜2008年10月)
  C 伊豆地方・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動観測
                              (2007年2月〜2008年11月)
  B 1982年及び2008年の茨城県沖地震に共通する先行地震活動のパタン変化
  B 2008年8月8日 東京・神奈川都県境付近の地震
  B 2008年10月12,14, および16日 房総半島東岸の地震
  B 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
                    (2008年8月〜2008年10月)
  B アレイ解析によって検出された日本周辺の超低周波地震活動
                    (2008年8月〜2008年 10月)

【7】産業技術総合研究所
 1.関東・甲信越地域
  C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2008年8月〜2008年10月)
  C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2008年8月〜2008年10月)
                    -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 --
 2.北陸・中部地域
  C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2008年8月〜2008年10月)

 3.近畿地域
  C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2008年8月〜2008年10月)

 4.中国・四国地域
  C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2008年8月〜2008年10月)
            --鳥取大学工学部・京大防災研・産総研

【8】海上保安庁
  C GPSによる地殻変動監視観測
  A3 海底地殻変動観測結果 (相模湾及び東海沖)
  C 2008年9月11日十勝沖地震(M7.1)震央域近傍の海底地形
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。
(A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑
(A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑
(A3)平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震の詳細検討
(A4)平成20年7月24日岩手県中部〔岩手県沿岸北部〕の地震の詳細検討
(A5)各地域についての詳細検討
(B) 話題提供
(C) 資料提出