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重点検討課題を中心とした議論の紹介

3.地震発生の予測実験の試行に関する「重点検討課題」

3.1 地震活動と予測モデル

 はじめに,経験則から期待される大地震発生の確率についてレビューします.一般の生活者にとって,地震の予測といった場合に必要とされるものとして範囲R,対象期間T及び予測確率QONが挙げられます.つまり,どの範囲(R)でいつまで(T)にどのくらいの確率(QON)で地震が発生するのかということです.表3.1.1はこれまでの研究手法(#1〜11’)に基づいて計算されたそれぞれの手法の結果を表しています.例えば,#1の手法ではM8+の地震が今後6年に1000kmの範囲内で発生する確率は33%[27,57%:95%信頼区間]ということを表しています.地震の予測についての確率等の情報を用いて防災・減災対策等を検討するためには,これらの値の相場を具体的に把握して議論することが重要です.

表3.1.1 様々な予測手法のパラメータとその実力 東京大学地震研究所資料(第217回重点検討課題)
パラメータとその実力

 地震活動は,地殻やプレート境界の状態をモニタリングするために重要な要素だと考えられています.プレート境界の相似地震については2章で既述したとおりですが,一方で,標準的な地震活動を統計学的なモデルで表現し,地震発生を予測する試みも行われています.CSEP(Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)という枠組みで,ある地域の地震活動をさまざまな研究グループがモデルを開発して,それぞれの統計モデルが実際の地震活動と比べてどの程度適合したか,ということを比較検証するという実験です.
 図3.1.1が,日本列島を対象に実験を行った結果です.ある期間のデータに基づいて作られた統計モデルが,それ以降の期間の地震活動について予測をどの程度的中させたか,またその予測は有意であったのか,といった評価を行っています.過大な発生予測をすれば見逃し(予測してない地震が発生)がなくなりますが空振り(予測したが地震が発生しない)が多くなり,過小な発生予測をすれば空振りは減りますが見逃しが増えます.この実験は,将来の地震予測システムの評価手法のベースにもなると考えられます.

地震活動予測テスト
図3.1.1 日本列島の地震活動を予測するテスト 東大地震研資料(第187回重点検討課題)

 これまで,CSEPにおけるほとんどの提案モデルの地震マグニチュードの予測は,実験全域及び全期間にわたって同一のb値のGutenberg-Richter(G-R)則に基づく独立分布系列が仮定されてきました.しかし,b値には地域性があることや,b値や一般のマグニチュード分布は地震活動の履歴に依存する可能性があることから,過去の震源データから逐次,次の地震のマグニチュードの確率予測をする方法が検討されています.図3.1.2は,過去の履歴を用いた手法と従来のb値を一定にした手法を比較したものです.図中の下図を見ると,大規模な群の地震(同じ色が続く地震)より,小規模の地震群の方が相対的に高い情報利得(その正負の値が予測性能の相対的な良し悪しの程度を示す)が得られており,全体としては過去の履歴を用いて予測をする手法が優位であることを示しています.

緯度対地震、情報利得対地震
図3.1.2 (上図)同じ色で示された各サブクラスの地震の地図と緯度対地震の順序,(下図)色付き+記号は,各地震の情報利得対地震の順序. 統計数理研究所資料(第217回重点検討課題)

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3.2 地震の短期予測の現状と評価

 地震予知の特効薬はありません.地震は複雑で多様な現象であるため,これを予測するには,確率予測を用いるのが適しています.確率予測(地震発生確率)は,普段の地震の発生確率(基礎確率)を求めておき,これに異常現象が発生したときにどの程度地震発生の確率が増えるかという確率利得を組み合わせることにより計算できます.図3.2.1は,1978年伊豆大島近海の地震がおこる地震発生確率を算出した例で,POで示した基礎確率に,1976年からの隆起に起因した確率利得PA,体積ひずみ計で観測された異常に関する確率利得PB,大島西方の地震活動に関する確率利得PCに関わる確率を組み合わせて,高い地震発生確率が計算され,当時の地震予知連絡会で報告されました.

前兆確率試算
図3.2.1 前兆確率の試算のグラフ 統計数理研究所資料(第200回重点検討課題:事務局が和訳)

 上記の考え方で用いる基礎確率は,当該地域の地震活動を調べることで求めます.現在世界の5箇所で行われているCSEP(Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)の試みは,このような精度の良い基礎確率を求めることも重要な目的になります.また地震の前に起きる現象としては,断層の固着域アスペリティ)の一部が地震発生前にすこしずつずれ始める現象として震源核の形成について研究が進められています.また,地震発生直前の状態となっている地域では,ある地震が別の地震を誘発するなど地震を誘発する現象もいろいろと知られています.このような現象は上記の確率利得として扱うことが可能と考えられ,今後研究が進められることが期待されます.
 図3.2.2は,地震による誘発作用の時間と距離の関係を示したものです.最初に発生した地震からの距離が近い場所では主に静的な応力変化によって地震が誘発され,地震活動が活発化することがあります.一方,距離が遠い場所では,動的な応力変化,つまり地震波によって地震が誘発されることがあり,2004年のスマトラ島沖地震や2011年東北地方太平洋沖地震では,地震の誘発があったと報告されています.


地震による地震の誘発作用
図3.2.2 地震による地震の誘発作用 京都大学防災研究所資料(第200回重点検討課題:事務局が和訳)

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3.3  物理モデルに基づいた地震発生予測研究

 プレート運動に駆動されるテクトニック応力の蓄積・解放の過程である地震発生サイクルを計算機の中でシミュレーションし,地震発生シナリオを構築する研究が紹介されました(図3.3.1).想定された強度構造の中で,ゆっくりと準静的に応力が蓄積されて行き,臨界に達して動的破壊(すなわち地震発生)に至る状況を再現することによって地震発生のシナリオを作成することができます.より現実的な地震発生シナリオを作成するためには,観測データとシミュレーションによる再現結果を比較することで検証を重ねることが課題です.例えば,地震発生シナリオを元に,津波の伝播シミュレーションを行うことで災害の予測に結びつけられることが報告されました.


地震発生シナリオの構築
図3.3.1 地震発生シナリオの構築 名古屋大学資料(第201回重点検討課題)

 リアルタイムで地表変位のモニタリングが行われるようになってきている南海トラフをターゲットに,何か変化が起きたときに,その後どうなるかという推移の予測にシミュレーションを活かす方法が紹介されました(図3.3.2).変化が起きてから考えたのでは遅いので,何か変化があったらいつでも両者(観測とシミュレーション結果)を比較できるように,あらかじめ多数(数百程度)のシナリオを準備しておくのがポイントの一つです.実際のデータと各シナリオのずれを計算し,ずれが小さいシナリオに大きな重みを付けることを繰り返し,より現実に近い推移予測を実現しようという試みが進められています.


プレート境界滑り時空間変化の推移予測のイメージ
図3.3.2 プレート境界滑り時空間変化の推移予測のイメージ 海洋研究開発機構資料(第201回重点検討課題)

 南海トラフ沿いで繰り返し発生するゆっくり滑りは巨大地震に影響を与える可能性があり,巨大地震の予測のためにはゆっくり滑りも再現できるシミュレーションモデルを作ることが必要と考えられます.過去の大地震の繰り返し間隔やプレート境界面の滑りやすさ等を考慮して南海トラフ沿いでシミュレーションを行った結果,豊後水道と東海地域で長期的ゆっくり滑り(LSSE: Long-term Slow Slip Event)が再現されました.図3.3.3のグラフの縦軸は断層面の滑り速度を表しており,速度が大きく振り切れているところが巨大地震,数年おきに増加しているとことがゆっくり滑りの発生を表します.右下のグラフは,巨大地震の2回に1回は東海地域も含めた全域破壊で,東海地域が割れ残った東南海・東海地震の後にはゆっくり滑りが発生することを示します.全域が破壊する巨大地震の前にはゆっくり滑りの発生周期が短くなり規模が大きくなるという結果が得られています.


長期的ゆっくりすべりを再現するシミュレーション結果
図3.3.3 長期的ゆっくりすべり(LSSE)を再現するシミュレーション結果 気象研究所資料(第205回重点検討課題)

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3.4  地震・津波即時予測とリアルタイムモニタリング

 地震発生時にこれからやってくる地震動や津波を即座に予測して社会に伝えることは,命を守るための行動や被害の軽減に役立てることができます.そのためには,地震や地殻変動等の観測から解析,情報提供までを即時的に行うリアルタイムモニタリングシステムが必要です.
 地震動や津波の即時的な予測のアイディアは100年以上前からありました(図3.4.1).しかし,これを行うためにはデータや情報伝送のための通信基盤やデータ解析のための高性能のコンピュータなどの技術が不可欠であり,実現には長い時間を要しました.例えば,わが国では津波警報は1940年代から業務化が始まり,徐々に発表の迅速化が進められてきましたし,2000年代の全国を対象にした完全自動処理システムの開発を経て,緊急地震速報の実用化に至りました.現在,わが国では世界でも類を見ない地震動や津波の情報提供とその利活用が日常的に行われています.


リアルタイムモニタリング小史
図3.4.1 リアルタイムモニタリング小史 気象庁資料(第202回重点検討課題)

 2016年には南海トラフ沿いに海溝型地震震源域におけるリアルタイムモニタリングシステム(DONET)の設置が完了し,本格的な運用が開始されています(図3.4.2).DONETは高精度の地震計・水圧計(津波計)等で構成されていて,2016年4月に発生した三重県南東沖の地震では本震,余震,地殻変動,津波,VLFといった様々な周波数の信号を捉えています.さらに,DONETには長期孔内観測システムが接続されていて,海底の掘削孔内に設置された体積ひずみ計,傾斜計,広帯域地震計,強震計等のセンサーによって高精度な連続的海底地殻変動の観測が行われています.釧路沖から房総半島南方沖にかけては2017年4月に日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の敷設が終了し,リアルタイムで地震,津波等の観測が行われています(図3.4.3).これらのリアルタイムモニタリングシステムは海底に設置された観測点でいち早く地震・津波を捉えることで,緊急地震速報の高度化にも貢献するものと考えられています.
 海底の観測では,海底に設置された機器間の距離を高精度に測ることができる海底間音響測距観測があり(図3.4.4),面的配置による広域のひずみの把握や,リアルタイムデータの取得等に向け研究開発が行われています.

長期孔内観測システム
図3.4.2 東南海・南海地震震源域に展開された防災科研のDONET(防災科研)と海洋研究開発機構の長期孔内観測システム(黄丸) 海洋研究開発機構資料(第215回重点検討課題)

地震津波観測網
図3.4.3 日本海溝海底地震津波観測網(S-net) 防災科学技術研究所資料(第215回重点検討課題)

音響測距の概要
図3.4.4 海底間音響測距の概要 東北大学資料(第215回重点検討課題)

 リアルタイムモニタリングシステムによって観測されたデータは,津波や震度の予測の高度化にも有効です.海底での観測によって,いち早く津波の発生を検出できることから,今後の津波波動場の予測の高精度・高速化が期待されます(図3.4.5).同様に海底の地震計の記録に基づいて地震波の伝わり方をシミュレーションして各地の震度を直接予測することで,沿岸に近い地域でも正確な揺れの強さと到達時間の予測ができるようになると言われています(図3.4.6).
 一方,陸域に設置されたGNSS観測網による地殻変動観測データをリアルタイムで処理し,地震規模を含む震源断層モデルを即時に推定するシステムの開発も進められています(図3.4.7).これらのリアルタイムモニタリングシステム技術にはより正確な予測を行うために解決すべき課題もあるため,研究開発が現在も続けられています.


波動場再現実験
図3.4.5 2011年東北地方太平洋沖地震津波を模した津波データ同化法による波動場再現実験.左から仮定した仮想津波記録,圧力計で観測される相対水深(圧力計では地殻変動の影響が観測される),S-net仮想観測点(黒点)の相対水深記録のみから逐次的に再構築した同時刻津波波動場の空間分布 東京大学地震研究所資料(第215回重点検討課題)

揺れの分布の把握の例
図3.4.6 東北地方太平洋沖地震での揺れの分布の把握の例.(左)陸上の観測点のみの場合,(右)ケーブル式海底地震計(OBS)も用いた場合(擬似データを使用).OBSにより沿岸域で強い揺れが早い段階から把握できるようになる. 気象研究所資料(第215回重点検討課題)

即時推定システムの概要
図3.4.7 GNSS変位データを用いた即時地震規模推定システムの概要 国土地理院資料(第202回重点検討課題)

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3.5  地震発生予測の評価について

(1)余効変動の推移の予測
 地震予知連絡会が今後予測実験の試行を実施していくのに先立ち,地震現象をとりまく諸現象に関して現状でどの程度の予測能力があるか現状と課題を整理しました.
余効変動の予測結果例
図3.5.1 東北地方太平洋沖地震後の余効変動の予測結果例 国土地理院資料(第204回重点検討課題)

近似期間の違いによる長期予測結果の差
図3.5.2 近似期間の違いによる長期予測結果の差 国土地理院資料(第214回重点検討課題)

沈降の回復率と予測回復年
図3.5.3 東北地方太平洋沖地震に伴う沈降の回復率と予測回復年 国土地理院資料(第204回重点検討課題)

 その一例として,東北地方太平洋沖地震後の余効変動は,これまで図3.5.1のような関数曲線をあてはめて予測されてきました.地震後234日までのGNSSデータを用いて赤い対数関数曲線をあてはめた当時の予測よりも実際の余効変動は大きめに推移しており,過小予測になっています.
 図3.5.2は地震後2年のデータと地震後5.8年のデータによる長期予測の差を示しています.20年にわたる長期予測の結果が明らかに異なることがわかります.ただし,この予測の差は用いたデータの期間が長ければ良いと言うことではなく,局所的な変動によるノイズの影響で予測結果にぶれが生じる可能性にも留意する必要があります.
 図3.5.3は,東北沖地震に伴って沈降した場所がどの程度回復しているかという回復率と元の地盤高に回復するかを示した図です.たとえば,岩手県南部では既に67%回復し2020年頃までに回復するという予測になっており,当初の予測より回復時期が早まっています.こうした予測のずれが生じた原因として,大地震で崩れた力のバランスを回復するようにゆっくりと地下の物質が移動・変形する粘弾性の影響が次第に大きくなっていることが考えられます.
 海成段丘の分布から長期的に隆起していると考えられる奥尻島では,1993年の地震時に沈降し,余効変動でも沈降していたものが,一部隆起に転じ,単純なメカニズムだけでは説明できないことがわかってきました.
 深部低周波微動の発生予測の評価については,空間分布の特徴や時間間隔の周期性が調べられ,数値シミュレーションにより,これらの特徴が定性的に再現できるとの報告がありました.
 また,ほぼ同じ場所で同程度の小さな規模の地震が繰り返し発生する「相似地震(小繰り返し地震)」の予測をWebで公表してきた予測の成績は良好であり,天気予報に例えると、東京の5日先の降水確率予報と同程度であることが報告されました.
 その他,過去の静穏化現象と地震発生の関係の定量的な評価や,地震の確率予測の評価方法に関する報告がありました.

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(2)確率予測の採点方式「拡張ブライアスコア」
 地震発生の予測手法を評価するためには,「予測」を結果と比較して採点する方法が必要ですが,手法の良し悪しを測定する時に不適切な指標を用いた採点をすると、利用価値が低い手法を優れていると判定しかねません.また,指標値を最良化する「最適化」を行っても,指標が適切でなければ,予測手法を改良できるとはかぎりません.
 ここで紹介するのは,「空振り」が多くても「見逃し」が多くても得点が低くなる採点方式である「ブライアスコア」を拡張し,統計期間内の平均発生頻度などから容易にできる予測を「基準予測」として,これと同程度の適中結果が得られたら「0点」,これよりも結果がよければ得点が「+」(満点は「+1点」),悪ければ「−」となるようにした採点方式「拡張ブライアスコア」です.
 この「拡張ブライアスコア」を用いて,相似地震(波形が極めて類似する繰り返し小地震)の予測実験データと、実際に発生した地震カタログ(正解とみなす)を比較して採点した例を示します.
 評価対象は3ヶ月予測,6ヶ月予測,1年予測の3通りで,「ブライアスコア」では3 か月予測が好い成績に見えます(図3.5.4左)が,破線で示された「基準予測」(統計期間内の平均地震発生頻度から得る単純な予測)と得点があまり変わらず,むしろ1年予測の方が「基準予測」からの改善が大きいことが分かります.「基準予測」との得点差を比較をした図(図3.5.4中)からも確認できます.
 「拡張ブライアスコア」では,得点が「0点」よりどれだけ上になっているかを見ることで,「基準予測」と比較した予測手法の性能が把握できます.(図3.5.4右)
予測の採点結果の比較例
図3.5.4 ブライアスコア・対数尤度・拡張ブライアスコアを用いた予測の採点結果の比較例 気象研究所資料(第210回重点検討課題)
Okada et al.(2012) による予測実験のデータ(2006〜2010年の4回、毎回90相似地震系列の「今後3か月・6か月・1年以内に当該相似地震が発生する確率」を予測する計1080試行分)を採点対象とした.

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3.6  モニタリングと予測手法

(1)地震活動と潮汐相関
 地震活動と潮汐との相関はよく議論になりますが,特に巨大地震の震源域で本震発生に先行して潮汐相関が高まるという研究結果があります.2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.1)の発生に先行する10年間,震源周辺の地震活動と地球潮汐の間に明瞭な相関関係が存在していたことが確認されました.(図3-6-1)
 地球潮汐による応力変化が断層のすべりを促進する位相付近に地震の発生時刻が集中していましたが,本震発生後には,無相関の状態に戻っています.同様の傾向は,2004年のスマトラ沖地震(Mw 9.1)をはじめ,トンガやアリューシャンで発生したプレート境界地震についても確認されていて,この現象のモニタリングによって,大地震の発生準備過程を捉えることができる可能性が期待されます.

地球潮汐と地震発生時刻の相関関係の強弱を表す指標pの時間推移
図3.6.1 東北地方太平洋沖地震の震源域における地球潮汐と地震発生時刻の相関関係の強弱を表す指標pの時間推移 防災科学研究所資料(第207回重点検討課題)

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(2)前震活動と発生予測
 大地震の前には前震を伴う場合がありますが,本震発生前に前震を識別して,本震発生を高い精度で予測することは一般に困難です.それでも本震前に活発な前震活動がみられるような特定の地域もあり,その統計的性質から本震発生を経験的に比較的効率よく予測できる場合があります.群発的な地震活動があった場合,特定の大きさ(緯度D°×経度D°)の小領域の中で,特定の規模(Mf)以上の地震が特定の期間(Tf日)の間に特定の数(Nf)だけ発生した時,前震(群)の候補とみなし,特定の期間(Ta日)予報を出した場合の適中率を確認した例が図3.6.2です.長野県北中部を対象としてM5.0以上の地震を予測したこの例では,適中率11%,予知率45%,確率利得は約300倍でした.
 この検討を行った2015年8月から1年半経過した2017年2月時点で,同じ手法による予測結果を検証したところ,前震と判定された活動はこの間1回ありましたが,本震に相当する地震は発生せず,適中率は若干低下する結果となりました.

前震候補と真の前震の分布図
図3.6.2 枠内に記載された条件で前震候補を選択した場合の前震候補(○)と,その後に本震を伴った真の前震(●)の分布図 気象研究所資料(第208回重点検討課題)

 前震群を識別するために,地震群の地震数,最大マグニチュード等を考慮して前震確率(抽出した地震群が本震に先駆けて起こる前震群である確率)を評価する研究も行われています.前震確率を評価する情報として,地震数N,群内の最大マグニチュードM1,群内の最大及び2番目のマグニチュードの差M,地震群が継続している期間T(各地震間は30日以内),群内の平均震央間距離D,及び地震群の中心経緯度X,Yを考慮し,1926〜1999年の気象庁の地震データを用いて推定された確率利得(高いほど前震確率が上昇)は図3.6.3のようになります.この図はN=4の場合ですが,M1,M,及びTが小さいほど,またDが長いほど確率利得が高くなり(図赤色),前震確率が上がる傾向にあります.この評価を2000〜2017年の気象庁の地震データに適用してみると,推定された適中率(前震群数/全地震群数)と実際の適中率は概ね整合的である結果が得られています.

前震群と他の地震群の分布の違い
図3.6.3 地震数N=4の前震群(赤点)と他の地震群(青点)の分布の違い.両者の分布の違いから推定された確率利得をカラースケールで示している. 統計数理研究所資料(第217回重点検討課題)

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(3)相似地震に関する予測
 決まった場所でほぼ同じ規模の地震が繰り返し発生し,地震波形も非常に似通っているという「相似地震」というものがあります.特に周期的に繰り返し発生する相似地震について,発生の予測を試みる検討が行われています.
 宮古島周辺の繰り返し地震は4つのグループがあると考えられていますが,1年前の時点で行われた予測に対応して,2つのグループにおいて、発生確率70%と予測されていた期間内に新たな地震が1回ずつ発生しました。それぞれの地震の規模は小さいものですが,このような相似地震の予測では,ある程度の適中率が期待できます.
震央分布図
図3.6.4 震央分布図(1966年〜2017年2月17日10時18分、深さ0〜100km、M≧3.0) 気象庁資料(第214回重点検討課題)
※〜1997年 10月 1日は ISC震源を、1997年10月1日〜は一元化震源を使用
※繰り返し地震として抽出された地震のうち、気象庁Mが決まっているものは、それに置き換え済み
※各グループでの最新活動の地震に(グループ Aは1回前の地震にも)吹き出しを付けた

図3.6.5 図3.6.4に示された領域a内のMT図 気象庁資料(第214回重点検討課題)


図3.6.6 各相似地震グループの平均マグニチュード,観測された震度,平均発生間隔(μ),発生間隔のばらつき(α),最新発生時期,次の活動が起きると予測される期間(70%確率),予測の適中率 気象庁資料(第214回重点検討課題)

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(4)Gutenberg-Richter(G-R)則に基づく予測
 地震の規模別頻度分布は大局的にはG-R則に従うものの,詳細にみるとG-R則に従わないこともあり,その逸脱の程度をパラメータηとして表すことができます.1990年以降に東日本の太平洋沖で発生した,M7.0以上の本震前にはη値が通常(η=2)より小さい傾向であることがわかり,η値に基づいた予測モデルの検討が行われています.図3.6.7は予測モデルによって推定されたη値の分布です.関東東方沖〜南東沖でη値が低い領域が現れており,今後の地震活動の推移が注目されます.

予測マップ
図3.6.7 M7前半(左),M7後半〜M8前半(右)の地震が将来,暖色系(低η値)の領域を余震域に含んで発生するという予測マップ 気象庁気象研究所資料(第217回重点検討課題)

 G-R則は,地震の規模別発生頻度について,横軸にマグニチュード,縦軸に累積頻度の対数をとってプロットすると直線に近似できるというもので,その直線の傾き(b値)と地震発生域の差応力の大きさとの間に相関があることが知られています.これまでの研究では,M9クラスの2004年スマトラ島沖地震や2011年東北地方太平洋沖地震の震源付近で,それぞれの地震の前の10年程度にわたり,b値の減少があったとされています.このことから,b値がある一定の割合で減少していることが観測された場合に警報を出すという予測モデルについての研究が行われています(図3.6.8).

M8以上を対象とした予測値図
図3.6.8 2011年のM8以上を対象とした予測値図.2010年末までの地震をb値で解析した結果に基づく.東北地方太平洋沖地震の震源付近で警報が出ていることがわかる. 静岡県立大学資料(第217回重点検討課題)

関連の重点検討課題
第217回重点検討課題「予測実験の試行04」の検討
【217回の概要】 |

(5)地震活動の長期静穏化
 大地震の前になると,今まで定常的に続いていた地震活動が異常に低下するという事例が多数報告されています.これは地震活動の「静穏化」と呼ばれていて,大地震の長期的な前兆現象だとする仮説が提唱されています.この静穏化についての研究として,1990〜2017年に発生した深さ68km以浅でMw8.0以上の20の地震について地震前の静穏化の有無を調査したところ,すべての地震について地震前に10年程度より長い長期静穏化が見つかりました.この結果から,「Mw8.0以上の地震は今後10年間程度は発生しない」といった情報が得られる可能性もありますが,一方で南海トラフのように定常的な地震活動が低く,静穏化の有無を判断できないような場所もあります.

1990年から2017年までに発生した浅いMw8.0以上の地震
図3.6.9 1990年から2017年までに発生した浅いMw8.0以上の地震(Global CMTカタログより).赤:今回静穏化を調査した20個の地震,黒:定常的な地震活動が低いので静穏化の有無が判断できなかった地震. 北海道大学資料(第217回重点検討課題)

関連の重点検討課題
第217回重点検討課題「予測実験の試行04」の検討
【217回の概要】 |
2017.12.08 更新
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