地震予知連絡会の活動報告

第216回地震予知連絡会(2017年8月21日)議事概要

 平成29年8月21日(月)、国土地理院関東地方測量部において第216回地震予知連絡会が開催された。はじめに、全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、続いて、重点検討課題として「首都圏直下地震」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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「地殻活動のモニタリングに関する検討」資料説明映像  (177MB,約8分)
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 ※一部音声に乱れがあります。

1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

国内で2017年5月から2017年7月までの3か月間に発生したM5以上の地震は29回であった。最大震度5弱以上を観測した地震は5回であった(気象庁資料3頁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 十勝沖で6月中旬から下旬に超低周波地震活動が約7か月ぶりに検出された(防災科学技術研究所資料4頁)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震の余効変動、熊本地震の余効変動、鳥取県中部の地震、福島県沖の地震、茨城県北部の地震の影響が見られる(国土地理院資料5頁)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・南海トラフ沿いの海底地殻変動観測結果
 西南日本の沖合の海底において、年間2−5cmの速度で北西方向の地殻変動が見られる(海上保安庁資料6頁)。
 

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動が四国西部から豊後水道にかけて7月20日から26日に発生した。それ以外の主な微動活動は、紀伊半島北部(5月4日から13日)、紀伊半島西部(7月25日から28日)、豊後水道(5月3日から6日)で発生した(防災科学研究所資料7-8頁)。
 

1.3 その他

(1)長野県南部の地震

 2017年6月25日に長野県南部の深さ7kmでM5.6の地震が発生した。この地震は地殻内で発生し、発震機構は西北西−東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型であった。この地震は、昭和59年(1984年)長野県西部地震(M6.8)とその後の活動域の北東端付近で発生した(気象庁資料9頁)。

(2)鹿児島湾の地震

 2017年7月11日に鹿児島湾の深さ10kmでM5.3の地震が発生した。この地震は地殻内で発生し、発震機構は西北西−東南東方向に張力軸を持つ横ずれ断層型であった。この地震の震央付近では、2016年12月頃からやや活発な地震活動がみられていたが、この地震発生以降、地震活動はより活発となった(気象庁資料10頁)。

2.重点検討課題「首都圏直下地震」の検討

 首都圏の直下で発生する地震と地震動の特徴について議論が行われた(コンビーナ:東京大学地震研究所・平田直委員資料13-14頁)。

◆相模トラフ沿いの地震長期評価(第二版)

 地震調査委員会による「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価(第二版)」について、相模トラフ沿いのM8クラスの地震と、南関東地域の直下で発生するM7クラスの地震に関する長期評価の基礎となる科学的知見や考え方について報告があった。相模トラフ沿いの地震については、従来の「元禄型」「大正型」のタイプ別による評価から、固有地震に固執せずに震源域の多様性を考慮した評価となったこと等が紹介された。また、南関東地域直下の地震については、元禄地震と大正地震の間に発生した地震も考慮した評価となったこと等が紹介された(気象庁気象大学校・吉田康宏教授資料15頁)。

◆関東地域の活構造への東北地方太平洋沖地震の影響について

 東北地方太平洋沖地震後の粘弾性緩和を考慮した応力変化が関東地域の活構造に与える影響について報告があった。関東平野下には伏在活断層が分布し、多くは推定平均変位速度が0.1mm/year 以下のC級の活動度であることが示された。東北地方太平洋沖地震後100年間の応力変化を計算した結果、伏在活断層の多くは地震活動が抑制される傾向にあるが、断層の形状により促進される断層もあることがわかった(東京大学地震研究所・佐藤比呂志委員資料16頁)。

◆関東下のプレート構造と地震活動

 関東地方のプレート構造と地震テクトニクスの関係について報告があった。1921年茨城県南部の地震や1987年千葉県東方沖地震の発生メカニズムが、プレート東側の沈み込み遅れで説明できることが紹介され、プレートの構造不均質を詳細に考慮することで地震活動の理解が深まることが示された。フィリピン海プレート境界面の絶対的な深さや陸のモホ面の深さ等の理解に不十分な点が残されている点や、温度構造等との統合的な理解によるプレートの摩擦特性や強度分布の定量化が今後の課題であることが指摘された(東京工業大学・中島淳一委員資料17頁)。

◆首都圏の速度構造・Q 構造と地震活動

 首都圏地震観測網等のデータから得られた地震波の速度構造と減衰構造について報告があった。データの解析により、フィリピン海プレートの上面の深さが従来のモデルより浅くなったことやプレート内の速度構造や減衰構造の不均質が明らかになったことが紹介された。また、東北地方太平洋沖地震前後の地震活動度とプレート構造との関係を調べたところ、フィリピン海プレート上面と太平洋プレート上面で地震活動の活発化が見られることが示された(東京大学地震研究所・酒井慎一准教授資料18頁)。

◆地震活動・房総半島沖のゆっくり滑りと群発活動

 関東地方の非地震性滑りの時空間発展と房総半島沖のゆっくり滑りについて報告があった。東北地方太平洋沖地震に伴い、非地震性滑りが一時的に加速した後、緩やかに低下したことが示され、プレートの沈み込む速度の変化により、プレート境界やその付近の地震活動が高まったと考えられることが指摘された。また、房総半島沖で発生するゆっくり滑りでは、滑り領域の広がりや伝播方向がイベント毎に異なり、その発生履歴が複雑であること等が示された(東京大学地震研究所・加藤愛太郎准教授資料19頁)。

◆1855年安政江戸地震と史料

 家屋倒壊率を再検討して史料を分析した場合の1855年安政江戸地震の被害について報告があった。歴史地震の規模を導き出す家屋倒壊率において、従来の研究では半潰の記述の解釈が不適切であり、従来示されていた幸手市付近の大きな被害域は存在しない可能性が示された。広域の被害報告書をもとに全壊家屋倒壊率を調べたところ、被害が江戸付近に限られる可能性が指摘された。前近代の地震研究では、史料とその詳細な検討が必要であることが指摘された(新潟大学・矢田俊文教授資料20頁)。

3.次回(第217回)重点検討課題「予測実験の試行 04」の趣旨説明

    

 第217回地震予知連絡会の重点検討課題として、「予測実験の試行 04」を取り上げる。地震活動や地殻変動のデータにもとづく地震の予測のうちで、新たに取り組まれつつある手法の紹介を中心に行う。また、これまでの予測がどの程度適合していたのかを検討するとともに、予測実験に移行するための課題についても議論する予定である(コンビーナ:海洋研究開発機構・堀高峰委員資料21頁)。

4.重点検討課題運営部会報告

    

 重点検討課題名が選定され、第219回は「地震と水(仮)」について、第220回は「千島海溝・北海道東方沖と三陸北部(仮)」について議論を行う予定であることが報告された(事務局資料22頁)。

各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリングに関する検討》

《地殻活動モニタリングに関する検討》
【1】気 象 庁
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
  O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構
  ・2017年05月〜2017年07月の全国の地震活動概況を報告する.
  S 東海地方の地震活動
2.東北地方太平洋沖地震関連
  S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動
3.プレート境界の固着状態とその変化  
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  S 福島県沖の地震(7月20日 M5.8)
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
  S 千葉県東方沖の地震活動(6月4日 M4.4)
  S 茨城県南部の地震(8月2日 M4.6) ※期間外
  S 茨城県南部の地震(8月3日 M4.6) ※期間外
  S 東海・南関東地方の地殻変動
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 東海地域から豊後水道にかけての深部低周波地震活動
  S 東海・南関東地方の地殻変動
  S 静岡県西部の長期的なひずみ変化(平成25年はじめ頃〜)
  S 長野県から和歌山県にかけての深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(4月20日〜5月23日)
  S 愛知県から長野県にかけての深部低周波地震活動(6月7日、6月23日、6月24日)
  S 長野県南部の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり6月24日、6月27日〜28日)
  S 愛媛県から豊後水道の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(5月3日〜6日、7月20日〜)
  S 和歌山県の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(7月25日〜28日)
 d.その他
  S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化
4.その他の地殻活動
  S 北海道東方沖の地震(5月22日 M5.7、6月28日 M5.7)
  O 胆振地方中東部の地震(7月1日 M5.1)
  ・2017年7月1日23時45分に胆振地方中東部の深さ27kmでM5.1の地震が発生した。
      この地震は地殻内で発生し、発震機構は西北西−東南東方向に圧力軸を持つ型 であった。
      その後の地震活動は、消長を繰り返しながら減衰している。
  S 福島県中通りの地震(6月19日 M4.5)
  S 福島県沖の地震(7月7日 M4.9)  
  O 長野県南部の地震(6月25日 M5.6)
  ・2017年6月25日07時02分に長野県南部の深さ7kmでM5.6の地震が発生した。
      この地震は地殻内で発生し、発震機構(CMT解)は西北西−東南東方向に圧力軸 を持つ逆断層型であった。
      この地震は、「昭和59年(1984年)長野県西部地震」と その後の活動域の北東端付近で発生した。
  S 茨城県北部の地震(8月2日 M5.5) ※期間外
  S 高知県中部の地震(6月14日 M4.5)
  S 平成28年(2016年)熊本地震
  S 橘湾の地震(6月9日 M4.3)
  S 豊後水道の地震(6月20日 M5.0)
  O 鹿児島湾の地震(7月11日 M5.3)
  ・2017年7月11日11時56分に鹿児島湾の深さ10kmでM5.3の地震が発生した。
      この地震は地殻内で発生し、発震機構は西北西−東南東方向に張力軸を持つ 横ずれ断層型であった。
      この地震の震央付近では、2016年12月頃から活発な 地震活動がみられていたが、この地震発生以降、
      地震活動はより活発となった。
  S 宮古島近海の地震(5月9日 M6.4)
  S 宮古島北西沖の地震(6月30日 M5.2) 
  S 西表島付近の地震(8月4日 M5.3) ※期間外
  S 日本海西部の地震(7月13日 M6.3)
  S ロシア、コマンドル諸島の地震(7月18日 M7.7)

【2】国土地理院
1.地殻活動の概況
 b.地殻変動
  O GEONETによる全国の地殻水平変動
  O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差
  O GNSS連続観測から推定した日本列島のひずみ変化
  O 加藤&津村(1979)の解析方法による,各験潮場の上下変動
2.東北地方太平洋沖地震関連
  O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル
  O GNSS連続観測時系列
  S 成分変位と速度グラフ
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺	
  S 北海道太平洋岸 GNSS連続観測時系列
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下  
  S 伊豆半島・伊豆諸島の地殻水平・上下変動図
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
  S 高精度比高観測点の上下変動 水準測量とGNSS連絡観測
  S 高精度比高観測
  O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
  O 水準点2595(御前崎市)の経年変化
  O 水準点(140-1・2595)の経年変化
  S 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化
  S 御前崎地方の上下変動
  S 菊川市付近の水準測量結果
  S 御前崎周辺 GNSS連続観測時系列
  S 駿河湾周辺 GNSS連続観測時系列
  O 浜松〜御前崎〜静岡間の上下変動
  O 浜松〜掛川〜静岡間の上下変動
  O 水準測量による東海地方の上下変動
  S 東海地方の各水準点の経年変化
  S 御前崎長距離水管傾斜計月平均
  S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化
  S 御前崎地中地殻活動観測施設
  S 東海地方の地殻変動
  S 東海地方の非定常的な地殻変動 
4.その他の地殻活動等
  O 長野県南部の地震(6月25日 M5.6)
  S 伊豆東部地区 GNSS連続観測時系列
  S 伊豆諸島地区 GNSS連続観測時系列
  O 平成28年(2016年)熊本地震の余効変動
  O 平成28年(2016年)熊本地震の余効変動モデル

【3】北海道大学

【4】東北大学理学研究科・災害科学国際研究所

【5】東京大学理学系研究科・地震研究所

【6】東京工業大学

【7】名古屋大学

【8】京都大学理学研究科・防災研究所
4.その他の地殻活動等
  S 近畿地方北部の地殻活動

【9】九州大学

【10】鹿児島大学
4.その他の地殻活動等
  S 2017年7月11日に鹿児島湾で発生した地震(M5.3)

【11】統計数理研究所

【12】防災科学技術研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
  O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
  S 関東・東海地域における最近の傾斜変動	
4.その他の地殻活動等
  O 2017年6月25日長野県南部の地震による高周波エネルギー輻射量(暫定)
  S DD法による2017年6月25日長野県南部の地震の震源分布
  S DD法による2017年7月1日胆振地方中東部の地震の震源分布
  S DD法による2017年7月11日鹿児島湾の地震の震源分布

【13】産業技術総合研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2017年5月?2017年7月)
  S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2017年5月?2017年7月)
  S 東海・紀伊半島・四国における短期的スロースリップイベント(2017年2月?2017年4月)
4.その他の地殻活動等
  S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2017年5月?2017年7月)
             -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研
  S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2017年5月?2017年7月)
  S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2017年5月?2017年7月)
  S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2017年2月?2017年7月)
             -- 鳥取大学工学部・産総研

【14】海上保安庁
1.地殻活動の概況
 b.地殻変動
  S GPSによる地殻変動監視観測
3.プレート境界の固着状態とその変化
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  O 南海トラフ沿いの海底地殻変動観測結果
    海上保安庁が南海トラフ沿いで実施している海底地殻変動観測についての観測結果を報告する。

【15】海洋研究開発機構

【16】その他の機関
記載分類は以下のとおりとなっています。
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
 b.地殻変動
2.東北地方太平洋沖地震関連
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
 d.その他
4.その他の地殻活動等

 ・口頭報告(O)
 ・資料提出のみ(S)