地震予知連絡会の活動報告

第241回地震予知連絡会(2023年11月30日)議事概要

 令和5年11月30日(木)、国土地理院関東地方測量部において第241回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリング、地殻活動の予測についての報告が行われ、その後、重点検討課題として「予測実験の試行(09)-地震活動の中期予測の検証」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動

 日本とその周辺で2023年8月から10月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は57回であった。このうち、日本国内で震度5弱以上を観測した地震は無かった。なお、今期間中(8月~10月)にM5.0未満で震度5弱以上を観測した地震はなかった(気象庁・資料2頁)。

(2)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震及び熊本地震の余効変動の影響が見られる。また、石川県能登地方で2023年5月5日に発生した地震に伴う地殻変動の影響によるひずみが見られる(国土地理院・資料3頁)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)日本海溝・千島海溝周辺

・青森県東方沖の地震(8月11日 M6.2)
 2023年8月11日09時14分に青森県東方沖の深さ28kmでM6.2の地震(最大震度4)が発生した。この地震は発震機構が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した(気象庁・資料4頁)。

・三陸沖の地震(8月25日 M6.0)
 2023年8月25日07時48分に三陸沖の深さ15kmでM6.0の地震(最大震度3)が発生した。この地震は発震機構が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した(気象庁・資料5頁)。

・日本周辺における浅部超低周波地震活動(2023年8月~2023年10月)
 期間内に顕著な活動は認められなかったが、8月中旬~下旬に十勝沖で超低周波地震活動を検出した(防災科学技術研究所・資料6頁)。

(2)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 期間中、主な深部微動活動は、紀伊半島北部(8月2日~10日)、豊後水道(8月16日~20日)、東海地方(9月13日~18日)及び四国東部から中部(9月13日~17日)において発生した(防災科学技術研究所・資料7頁)。

・南海トラフ浅部の微動活動(2023年8月~2023年10月)
 8月29日〜9月28日にかけて、潮岬沖において活発な微動活動を観測した(防災科学技術研究所・資料8頁)。

・四国中部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測により、四国中部で2019年春頃から南東向きの非定常的な地殻変動が見られている。2019年1月1日~2023年10月10日の期間では、すべり量の最大値は47cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった(国土地理院・資料9頁)。

・九州地域の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測により、九州南部で2023年初頭から観測されている非定常的な地殻変動は、最近は停滞している(国土地理院・資料10頁)。

1.3 その他

(1)択捉島南東沖の地震(9月29日 M6.2)

 2023年9月29日02時40分に択捉島南東沖の深さ46㎞(CMT解による)でM6.2の地震(最大震度2)が発生した。この地震の発震機構は西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である(気象庁・資料11頁)。

(2)石川県能登地方の地震活動(最大規模の地震:2023年5月5日 M6.5)

 石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加傾向にあり、2020年12月から地震活動が活発になり、2021年7月頃からさらに活発になっている。2023年8月~10月も活発な状態が継続している。なお、活動の全期間を通じて最大規模の地震は、2023年5月5日14時42分に発生したM6.5の地震(最大震度6強)である。M6.5の地震発生後、地震活動はさらに活発になっていたが、時間の経過とともに地震の発生数は減少している(気象庁・資料12頁)。2023年5月5日の地震後、M珠洲狼煙観測点で約1cmの東方向の水平変動及び約1cmの沈降、M珠洲笹波観測点で約1㎝の南西方向の水平変動及び約2㎝の沈降等、震源域近傍で地殻変動が見られているが、地震後に見られていた変動はその後鈍化し、最近は2023年5月5日の地震前の傾向にほぼ戻っているように見える(国土地理院・資料13-17頁)。

(3)トカラ列島近海の地震活動(小宝島付近)(最大規模の地震:9月11日 M5.3)

 2023年9月8日02時頃からトカラ列島近海(小宝島付近)で地震活動が活発となり、9月30日までに震度1以上を観測した地震が346回(震度4:2回、震度3:25回、震度2:82回、震度1:237回)発生した。このうち最大規模の地震は、11日00時01分に発生したM5.3の地震(最大震度4)で、発震機構(CMT解)は、北西-南東方向に張力軸を持つ横ずれ断層型である。これらの地震は陸のプレート内で発生した。9月13日頃からは、地震の規模が小さくなり、地震の発生数も減少している(気象庁・資料18-20頁)。この地震活動に伴い、震源域近傍のGNSS連続観測点でわずかな地殻変動が観測された(国土地理院・資料21頁)。また、トカラ列島の地震活動について、地震データの欠測率を考慮した活動解析結果の報告があった(統計数理研究所・資料22頁)。

(4)宮古島北西沖の地震(9月18日 M6.5)

 2023年9月18日22時21分に宮古島北西沖の深さ182kmでM6.5の地震(最大震度3)が発生した。この地震はフィリピン海プレート内部で発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、フィリピン海プレートが沈み込む方向に圧力軸を持つ型である(気象庁・資料23頁)。

(5)宮古島近海の地震(10月16日 M6.0)

 2023年10月16日19時42分に宮古島近海の深さ17km(CMT解による)でM6.0の地震(最大震度4)が発生した。この地震は、発震機構(CMT解)が北東-南西方向に張力軸を持つ正断層型で、陸のプレート内で発生した。この地震の震央付近では、31日までに震度1を観測する地震が6回(震度4:1回、震度2:2回、震度1:3回)発生している。今回の地震の震央付近(領域a)では、2023年10月16日の地震の発生以降、地震活動が一時的に活発となった(気象庁・資料24頁)。

(6)鳥島近海の地震(9月19日 M6.1)

 2023年9月19日15時22分に鳥島近海の深さ10km(CMT解による)でM6.1の地震(震度1以上を観測した地点はなし)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、東西方向に圧力軸を持つ逆断層型である。この地震の震央付近では、19日(19日15時22分のM6.1の地震発生前)から地震活動がみられている。9月22日にはM5.9の地震(震度1以上を観測した地点はなし)が発生した(気象庁・資料25頁)。

(7)鳥島近海の地震活動(最大規模の地震:10月5日M6.5)

 鳥島近海(鳥島から南西に約100km)では、2023年10月2日から9日にかけて、M6.0以上の地震が4回発生するなど、地震活動が活発になった。このうち、最大規模の地震は、5日10時59分に深さ10km(CMT解による)で発生したM6.5の地震(震度1以上を観測した地点はなし)で、発震機構(CMT解)は東北東-西南西方向に張力軸を持つ正断層型である。この地震はフィリピン海プレート内で発生した。気象庁はこの地震に伴い、5日11時06分に伊豆諸島に津波注意報を発表した(5日13時15分に解除)。この地震により、東京都の八丈島八重根で0.2mの津波を観測した。 また、6日10時31分にはM6.0の地震(震度1以上を観測した地点はなし)が発生し、気象庁はこの地震に伴い、伊豆諸島及び小笠原諸島に津波予報(若干の海面変動)を発表した。この地震により、八丈島八重根で0.2mなどの津波を観測した。 さらに、これらの地震の震源付近では、9日04時頃から06時台にかけて、規模が小さいうえに地震波のP相及びS相が不明瞭なため震源が決まらないものも含めて地震が多発した。このため、気象庁では地震及び津波の監視を強化していたところ、八丈島八重根で津波を観測したことから、9日06時40分に伊豆諸島及び小笠原諸島に津波注意報を発表し、その後、津波注意報の範囲を拡大する続報を順次発表した(9日12時00分に解除)。この地震活動により、八丈島八重根で0.7mなど、伊豆諸島、小笠原諸島及び千葉県から沖縄県にかけての太平洋沿岸で津波を観測した。また、9日04時10分から06時28分にかけて宮崎県及び鹿児島県で観測したデータを精査したところ、この地震活動に伴うT相によるものと考えられる震度(震度2~1)を観測していたことを確認した(気象庁・資料26-27頁)。また、鳥島近海の地震活動について、地震データの欠測率を考慮した活動解析結果の報告があった(統計数理研究所・資料22頁)。

(8)モロッコの地震(9月9日 Mw6.8)

 2023年9月9日07時11分(日本時間、以下同じ)にモロッコの深さ19kmでMw6.8の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。この地震の発震機構(気象庁によるCMT解)は、南北方向に圧力軸を持つ逆断層型である。今回の地震により、死者2,946人、負傷者5,674人などの被害が生じた(2023年9月27日時点)(気象庁・資料28頁)。日本の地球観測衛星「だいち2号」のデータを使用したSAR干渉解析の結果、震央周辺で最大20cm程度の衛星に近づく地殻変動が検出され、変動の特徴は地震波から推定されている東北東-西南西走向の北傾斜の逆断層運動と整合的である(国土地理院・資料29-30頁)。

(9)アフガニスタン北西部の地震(最大規模の地震:10月7日に2回、11日、15日 Mw6.3)

 2023年10月7日15時41分(日本時間、以下同じ)にアフガニスタン北西部の深さ14kmでMw6.3の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。この地震の発震機構(気象庁によるCMT解)は南北方向に圧力軸を持つ逆断層型である。この地震の震源付近(領域b)では、10月7日15時41分にMw6.3の地震が発生した後、約30分後の同日16時12分、11日09時41分及び15日12時36分にそれぞれMw6.3の地震(Mwはいずれも気象庁による)が発生した。これらの地震はユーラシアプレート内で発生した。これらの地震により、死者1,482人、負傷者2,100人などの被害が生じた(2023年11月3日現在)(気象庁・資料31頁

1.4 地殻活動の予測

(1)群発的地震活動を前震活動と仮定して行う本震の発生予測手法(7):最近の活動事例による検証

 前震活動に基づく予測モデルを用い、前回までの報告以降の約2年間(2021年10月1日~2023年9月30日)における予測結果を報告した。前回から予知率、的中率は若干低下したが、期間が延びた割にはターゲット地震の発生数が少なかったため、確率利得、ΔAICは若干上昇した(気象研究所・資料33頁)。


2.重点検討課題「予測実験の試行(09)-地震活動の中期予測の検証」の検討

 地震活動の中期予測の手法として、大地震に先行する地震活動の静穏化、地震サイズ分布(b値)の時空間変化、また中規模繰り返し地震、長期継続する群発地震活動などに関する最新の研究成果が報告され、中期予測の予測能力の検証や今後の方向性などについて議論が行われた(コンビーナ:東北大学災害科学国際研究所・遠田晋次 委員:共同コンビーナ 海洋研究開発機構・堀高峰 委員・資料35-37頁)。

◆北海道東方沖の相対的地震活動度の静穏化のその後:有意検出から10 年後の現状

 4-500 年の再来間隔で超巨大地震が繰り返し発生してきたとされる北海道東部で前回2009 年から出現していた静穏化が2016年前に回復していると報告したが、今回は5年後の検討を実施した。現在まだ完全に地震活動度が復活した状態ではなく、M6程度の地震が散発的には発生している。千島海溝東部よりは活動は低調であるが、「静穏」ではないという報告があった。また、2011 年東北地方太平洋沖地震の余効変動は地震発生を促進する影響を与えるので、「静穏化の終了」と検出されたものは、余効変動によるものが静穏化過程を僅かに上回ったことによる可能性もあること、地震発生数が少ないため地震波等に基づく能動的な場の状態の検出や験潮、GNSS等の地殻変動の時系列データの詳細な解析が必要であるとの指摘があった(地震予知総合研究振興会地震調査研究センター・松浦律子 上席研究員・資料39頁)。

◆地震活動静穏化仮説に基づく予測実験

 大地震に先行して数年~10数年程度、震源域付近の定常的な地震活動が低下するという静穏化仮説を統計的に検証するため、過去に発生した地震の予測が行われた。「11年以上の静穏化が検出されたら,半径60km以内を7年間警報オンにする」というルールで警報を出すと、適中率が最大(75%)になり、ランダムに警報オンにした場合と比較すると2倍程度予測性能が向上することがわかった。ただし、警報オンでも大地震が発生しない場合(空振り)が多いことも判明した。最新の予測マップでは根室・十勝沖から千島南部で警報オン状態にある(北海道大学・勝俣啓 准教授・資料40頁)。

◆北海道・東北沖の地震のサイズ分布(b 値)の時空間変化

 北海道・東北沖におけるグーテンベルグ・リヒター則のb値の時空間変化が報告された。東北地方太平洋沖地震前に減少したb値は現在高い値を維持しており、b値は差応力と負の相関があるので、東北地方太平洋沖地震によって解放された応力はまだ地震前の状態に戻っていないと思われる。十勝沖地震の震源域の東側でb値は減少中で、東北地方太平洋沖地震前に観測された値に近づきつつあり、この領域は応力が高まりつつあると示唆される。同領域は静穏化が継続中の地域に含まれ、十勝沖地震の前よりもプレート間の固着が強くなったと考えられる地域にも含まれる。十勝沖地震の震源域周辺の丁寧な監視を今後も継続することが課題である(静岡県立大学・楠城一嘉 特任教授・資料41頁)。

◆日本海溝沿いの繰り返し地震活動とその繰り返しの特徴

 小中規模の繰り返し地震は、数年程度の短い期間で断層上の同じ場所で起こり、大地震のミニチュア版あるいは断層上のクリープメータとして用いることができ、以下のような点で中期的な地震発生予測の高度化に貢献できると考えられる。1.将来の震源域周辺での地震活動の時空間変化に関する普遍的な特徴の解明。2.載荷レート等、地震の規模を決める要因の解明。3.固着域周辺での断層クリープのモニタリングによる地震発生確率の変化の推定。4.地殻変動/地震サイクルモデリングの改良による地震発生予測の高度化(東京大学地震研究所・内田直希 准教授・資料42頁)。

◆能登半島群発地震の経過と大地震前後の異常活動の解釈

 能登半島で2020年末から継続する地震活動を非定常ETASモデルで分析した。2023年1月頃以後の北西部領域の静穏化、南部領域震源の東方への拡散、GNSS観測点間の斜距離増大はM6.5地震の深部でのスロースリップ発生モデルによる応力変化や地殻変動と矛盾しない。M6.5発生前の1日間に本震付近の発生強度が低い部分で纏まった数の地震が発生し、本震M6.5とその最大余震M5.9も同様に低い所で起きている。2022年6月20日のM5.0から23年5月5日のM6.5までの期間にストレス場に沿って地震が発生しており、M5.0からM6.5に沿った、深部から浅部への流体の移動を示唆する。大森宇津モデルをM6.5本震から最大余震M5.9前までで当て嵌めると、最大余震付近での相対的な空白が明瞭になるが、これは最大余震周辺でのゆっくりすべりによるストレスシャドーで説明できる。地震活動開始から23年11月12日までのカタログに非定常ETASモデルを適用すると,背景強度は本震以降に各地域で一様に減衰し、再び上昇しており、本震によって一旦捌けた流体の分布が時間を置いて回復したものと考えられる(統計数理研究所・熊澤貴雄 特任准教授:尾形良彦 委員・資料43-44頁)。


3.次回(第242回)重点検討課題「火山と地震」の趣旨説明

 火山噴火に伴い地震が発生する。2000年の三宅島-神津島の地震活動では、マグマが大規模に貫入し、最大M6.5の地震を発生させた。1914年の大正桜島噴火では、火山としては最大規模の地震であるM7.1の地震が発生した。一方、大地震が噴火の引き金を引いた可能性についてもしばしば議論されている。フィリピンでは、1990年にM7.8の地震が発生した11か月後に100 km離れたピナツボ山が噴火した。日本国内においても、1707年宝永地震(M8.6)の2か月後に富士山で噴火が起きた(宝永噴火)。さらに、火山では通常の地震とは異なる様々な地震や微動が発生し、そのような地震・微動と火山活動との関連も議論となることが多い。このように、火山と地震との関連は、1)火山活動が比較的規模の大きな地震を引き起こすケース、2)大規模な地震が火山噴火の引き金を引くケース、3)火山直下で火山活動を反映した地震や微動が発生するケースがある。多様な火山噴火があ る中で、 それぞれを整理して理解しておく必要がある。このような状況を踏まえ、次回は、①地震が引き金を引く火山噴火について、②火山の地殻変動と地震活動、③マグマ活動による応力・ひずみ変化と地震発生のシミュレーション、④火山特有の地震・微動とそのメカニズム、について報告し、大地震が火山噴火の引き金を引く条件は何か、火山周辺で発生する地震活動はどのような火山活動と関連しているのか、火山直下で発生する地震・微動の特徴やその原因にはどのようなものがあるのか、等についての議論を行う予定である(コンビーナ:名古屋大学・山岡耕春 会長・資料45頁)。


各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:364KB)