地震予知連絡会の活動報告

第154回地震予知連絡会(2003年10月21日) 議事概要

 平成15年10月21日、国土地理院関東地方測量部において第154回地震予知連絡会が開催され、平成15年(2003年)十勝沖地震に関する観測・研究成果の報告が行われ、議論が行われた.以下に、その概要について述べる。

1.十勝沖地震について

 9月26日4時50分に十勝沖でM8.0の地震が発生した。その後、6時8分にはM7.1の最大余震が発生した。その後、6時8分にはM7.1の最大余震が発生した。
 平成15年度(2003年)十勝沖地震の地震活動(気象庁資料)

 余震分布は釧路海底谷を越えて東側には広がっていないように見える。
 平成15年度(2003年)十勝沖地震の地震活動(気象庁資料)
 本震発生後2日間の余震活動(北海道大学資料)

 この地震に伴う地殻変動が観測されている。
 平成15年度(2003年)十勝沖地震に伴う水平変動(国土地理院資料)
 平成15年度(2003年)十勝沖地震に伴う上下変動(国土地理院資料)

 地震後の余効変動が観測されている。
 平成15年度(2003年)十勝沖地震後の水平変動(国土地理院資料)

 また、震源域付近の海底に設置されていた津波計により、海底の上下変動が検出されている。
 (海洋科学技術センター資料)

 この地震に伴い、津波が観測されている。今回の地震の津波遡上高と1952年十勝沖地震の津波遡上高とを比較すると、釧路より東側では1952年十勝沖地震の津波の方が大きく、えりも東側では今回の地震の津波が大きいが、その他の地域ではほぼ同程度であった。
 2003年9月26日十勝沖地震と1952年十勝沖地震の津波遡上高の比較(北海道大学資料)

 震源域よりも海溝側で低周波地震が発生している。海溝に近いことから、水の関与が考えられる。
 SE OFF TOKACHI(気象庁資料)

 2003年十勝沖地震のメカニズム解は、1952年十勝沖地震のメカニズム解とよく一致し、プレート境界で発生した地震であると考えられる。
 十勝沖地震のメカニズム(気象庁資料)

 2003年十勝沖地震の震源域では、本震の3時間ほど前にM2.4の前震が発生している。前震の規模は異なるが、前震—本震—最大余震の位置関係は、1952年十勝沖地震とよく似ている。
 平成15年度(2003年)十勝沖地震の前震?(気象庁資料)
 平成15年度(2003年)十勝沖地震の前震(気象庁資料)

 この地震の後、北海道東部の内陸の浅い地震活動が活発化の傾向にある。
 十勝沖地震前後の内陸の浅い地震活動(気象庁資料)

 北海道とその周辺のM5以上の地震について、1952年十勝沖地震の前に地震活動の低下があったが、今回の地震の直前には地震活動の低下は認められない。しかし、1996年以降の長期的な地震発生率は1926年からの期間ではもっとも低くなっていた。
 2003年十勝沖地震発生以前の地震活動(北海道大学資料)

 今回の地震の震源域付近では静穏化が起こっていた。1952年十勝沖地震でも同様に静穏化が起こっていたと考えられる。
 2003年十勝沖地震前の静穏化とb値変化(気象庁資料)
 平成15年度(2003年)十勝沖地震前の静穏化(気象庁資料)
 1952年の十勝沖地震前の静穏化(気象庁資料)

 今回の地震の前に、深発地震の発生回数の増加が見られた。この深発地震活動は1952年十勝沖地震の際にも同様に増加傾向が見られる。
 十勝沖地震前の深発地震活動(気象庁資料)

 同様の傾向が1993年釧路沖地震の際にも見られるなど、この地域については普遍的な現象である可能性が示された。
 2003 Tokachi-oki(茂木資料)
 1952 Tokachi-oki 1993 Kushiro-oki(茂木資料)
 つづき(茂木資料)

 GPSの観測結果から、今回の地震の震源域ではプレート間カップリングの強度が高かったことが推定されている。
 GPSデータから推定した東北日本のプレート間カップリング(国土地理院資料)

 今回の地震について、地震波や地殻変動の観測結果から断層面上のすべり分布が求められている。広帯域地震計の観測波形から求められたすべり分布では、すべりの大きな領域が余震の震央付近を避けるように分布している。
 2003年十勝沖地震(本震+余震)のすべり分布と1952年十勝沖地震のすべり分布の比較(東京大学資料)

 強震計の波形から求められたすべり分布も同様の傾向を示している。
 強震波形震源インバージョン(暫定値)(防災科学技術研究所資料)

 津波波形から求められた断層面上のすべり分布は、広帯域地震計の波形から求められたすべり分布とよい一致を示す。
 2003年十勝沖地震津波波形インバージョンの結果(北海道大学資料)

 本震に伴う地殻変動とその後の余効変動から推定されたすべり分布から、余効変動のすべりが時間とともに東側と深い部分へ広がっていることが示された。
 2003年十勝沖地震時の推定滑り(国土地理院資料)
 2003年十勝沖地震時の推定滑り(3)(国土地理院資料)
 2003年十勝沖地震の推定余効滑りの時間変化(暫定)(国土地理院資料)

 今回の地震についてプレスリップの検知可能性の検討が行われた。
 平成15年十勝沖地震のプレスリップの検知可能性(気象庁資料)
 プレスリップの大きさをMw5.5と仮定した場合(気象庁資料)
 プレスリップの大きさをMw6.0と仮定した場合(気象庁資料)
 プレスリップの大きさをMw6.5と仮定した場合(気象庁資料)

 GPSの観測データを用いて30秒ごとの観測点相互の位置変化を求めたが、地震直前には特に大きな変化は見られなかった。
 えりも1(940019)−静内(940016)(国土地理院資料)

 北海道太平洋岸に配置されている伸縮計、歪計、傾斜計などの連続観測記録の解析から、地震の直前にはノイズレベルを超えるような変化は得られなかったが、地震による変動は非常に精密にとらえることができた。
 北海道太平洋岸の連続観測点分布(北海道大学資料)
 広尾(MYR)本震及び広尾(MYR)本震直前2分(北海道大学資料)
 広尾(MYR)本震直前2分及び広尾(MYR)余震(北海道大学資料)

 えりも観測点における歪・傾斜変化の解析から、9月10日頃から歪、傾斜共に変化しているように見え、雨の影響とは異なる変化のように見えるが、はっきりしたことは現在のところわからない。
 えりも観測所で観測された歪・傾斜変化の1分値から潮汐変化、気圧応答成分を取り除いた変化(北海道大学資料)

 GPSで求められたバックスリップは千島海溝沿いに連続して分布しているが、今回の地震ではその一部しか解放されていない。釧路沖の領域については余効変動で解放されつつあるが、蓄積された量と比較するとまだ十分には解放されていない。1952年十勝沖地震の釧路沖のアスペリティが今後どうなるか注意する必要がある。

 今回の地震について考える上で、1952年の地震との比較だけではなく、1894年に釧路沖で発生した地震との関連についても検討する必要があり、過去の資料について見直していく必要がある。

(事務局:国土地理院)