地震予知連絡会の活動報告

第168回地震予知連絡会(2006年5月22日) 議事概要

 平成18年5月22日、国土地理院関東地方測量部において第168回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとしては、「十勝沖・根室沖のプレート間カップリングの時空間的変化」について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

1.全国の地震活動について

 最近3ヶ月間、4月17日から5月中旬にかけての伊豆半島東方沖の活動がもっとも目立つ活動として挙げられる。M6以上ではあまり目立った活動はなく、2月17日の父島近海のM6.0の地震、3月28日の東海道沖のM6.0の深発地震が起こっている程度である。(気象庁資料)

2.日本列島の歪変化について

 GPS連続観測データから推定した日本列島の歪変化は北海道地方で2003年十勝沖地震、2004年釧路沖地震に関連する余効的な地殻変動の影響による歪変化がみられる。宮城県地域では、2005年8月16日の宮城県沖の地震(M7.2)による歪みが見られる。また2004年に発生した新潟県中越地震の震源域では地震発生以前の東西圧縮の歪変化よりもやや大きめの歪変化が見られる。また伊豆諸島周辺の地殻活動に伴う、北東—南西方向の伸びが依然として顕著である。(国土地理院資料

3.東海地域の地殻活動について

 東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では前回の観測結果と比較して森町に対して御前崎半島先端の地域で若干の沈降が見られるが、掛川から見ると御前崎側は沈下が見られない(国土地理院資料)。掛川市の水準点140-1に対する御前崎市の水準点2595の動きは、長期的な沈下の傾向が続いている。(国土地理院資料

 東海地域の非定常地殻変動(スロースリップ)は2006年4月までで、最大で水平、上下共6cm程の変動が観測されている。(国土地理院資料)。トレンドを除いた時系列データを見ると、2005年くらいから変動が非常に小さくなっているように見える(国土地理院資料)。

4.伊豆半島東方沖の地震活動、地殻変動について

 2006年に入ってから1,2,3,4月に伊豆東方沖で活発な地震活動があった。活動域が徐々に沖合に移動し各活動のMが活動毎に大きくなっているのが特徴としてあげられる。4月21日には川奈崎沖でM5.8の地震が発生し、その後南方へ拡大した(気象庁資料)。これらの地震前後に体積歪計に変化が見られ、地震に伴う変化以外にも前兆的な変化が観測された(気象庁資料)。初期の歪変化と歪の総変化量、地震活動の継続時間等から得られる関係式を今回の活動に適用したところ、鎌田の地震回数を除きほぼ予測どおりという結果が得られた(気象庁資料)。M5.8の地震の後、4月30日に網代付近でM4.5、伊豆大島北方でM5.1の地震が発生するなど、活動域の周辺でやや大きめの地震が発生したが、現在は低調となってきている。今回の活動は1998年の活動以降では顕著な活動であった。なお、今回の活動域の深さ30〜40kmで深部低周波地震が観測された。地震活動に伴い、地殻変動が観測された。観測された地殻変動から、西北西−東南東のダイクの貫入と4月21日の地震による横ずれ断層運動が推定されている。推定されたモデルから、今回の活動と1998年の活動との類似性が示された(国土地理院資料)。地殻変動からは、伊豆東部の地震活動域近傍の地下10kmに水平の板状のマグマだまりが推定される。推定されるシルの直上にある伊東八幡野−小室山の基線変化を見ると、地震活動の活発化の前に緩やかな伸びが観測されているように見える。基線長の変化から地震活動活発化時期の予測を試みたところ、正解率は約5割であった(国土地理院資料)。

5.北海道地域の地殻変動

 1994年〜2006年までに観測された相似地震のデータから北海道太平洋岸のプレート間すべりが推定された。その結果、北海道東方沖では1994年北海道東方沖地震の発生後プレート間でのすべりが発生していること、根室半島沖では2003年十勝沖地震、2004年根室沖地震後にすべりが多くの地点で始まっている事、十勝沖〜日高山脈直下でも同様な結果が推定されていること、浦河沖では2003年十勝沖地震前からプレート間のすべりが発生していること、青森県東方沖地域では、2003年十勝沖地震前からプレート間のすべりが発生していることが報告された(防災科学技術研究所資料)。

6.宮城県沖の地震活動

 宮城県沖の地震活動は、8月16日のM7.2の本震直後はやや活発であったが、最近では落ち着く傾向が見られる。本震直後の余震域と、その南東側に北東−南西走向の活動域で地震活動が継続している(気象庁資料)。

 宮城県沖の地震活動変化が報告され、2003年10月31日のM6.8、2005年8月16日のM7.2の地震とその余震の破壊領域で、いずれも地震発生前に微小地震活動の活性化が起きていたこと、将来の破壊に向けての準備過程として応力集中が進行していったという報告がなされた。現段階での微小地震活動は2005年の宮城県沖の地震の震源の北西域において活性化が起きており、現在この領域での応力集中が進行している可能性が指摘された(防災科学技術研究所資料)。

 2005年8月16日の宮城県沖の地震(M7.2)後の余効変動は、牡鹿半島で最大2cm程に達する。余効変動は本震直後には速い速度で進行し、12月2日の最大余震の前に一旦収まったように見えたが、最大余震の後に再び進行した。本震の震源域付近では最近でもわずかながら余効変動が継続している。本震の南側では、地震活動と同様に地殻変動も一旦活発化している(国土地理院資料)。

7.トピックス「十勝沖・根室沖のプレート間カップリングの時空間的変化」

 地震活動や地殻変動、シミュレーション研究による、十勝沖・根室沖のプレート間カップリングの時空間変化についての検討結果が報告された。地震活動度の長期モニタリングを行う場合には、均質なカタログを作成することが重要である。マグニチュードに関して均質なカタログを作成し、地震活動度の変化を調査すると、十勝沖地震の前に地震活動度の変化が見られ、本震のアスペリティの付近で1998年頃から静穏化が起こっていること、250〜300kmのプレート深部延長上で活発化していたことがわかった。同様の変化が根室半島付近でも発生しており、注意深く見ていく必要があると考えられる(北海道大学資料)。

 GPS連続観測の結果から、2003年十勝沖地震の後、本震の東側で余効変動のモデルからのずれが捉えられた。この変化は、すべり領域が東側へ拡大したと考えると定性的に説明が可能である。すべり分布を計算すると、東側へすべりが広がっている様子が見えるが、深いところでもすべりが推定される。注目していた釧路周辺のスロースリップは2006年に入ってから目立たなくなった(国土地理院資料)。

 シミュレーション研究から、地震前には固着域が小さくなるという結果が得られた。2003年十勝沖地震では発生直前の前兆現象は捉えられなかったが、GPS観測結果を用いてバックスリップを推定すると、アスペリティ領域の深部でバックスリップが推定されず、深部での固着がはがれ始めていたと考えることができる。GPSの観測データが比較的短い期間に限られているために、変化を捉えられなかった可能性があると考えられる(海洋研究開発機構資料)。

 これらの報告に基づき、十勝沖・根室沖のプレート間カップリングの時空間的変化について議論がなされた。

 (事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

【1】気象庁 (2006年2月〜2006年4月)
 1.日本とその周辺
  C 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構

 2.北海道地方とその周辺
  C 根室支庁北部(4月10日M5.1)の地震活動
  C 日高支庁東部(3月25日M4.8)の地震活動
  C 浦河沖(4月13日M5.3)の地震活動

 3.東北地方とその周辺
  C 岩手県沖(3月12日M5.0)の地震活動
  C 宮城県沖の地震活動
  C 山形県庄内地方(2月13日M4.8)の地震活動

 4.関東・中部地方とその周辺
  C 茨城県(2月3日M5.9、3月13日M5.1)の地震活動
  C 千葉県北西部(2月1日M5.1)の地震活動
  C 房総半島南東沖(4月11日M5.0)の地震活動
  C 父島近海(2月17日M6.0)の地震活動
  C 岐阜県美濃中西部(2月16日M4.4、2月18日M4.1)の地震活動
  A1 伊豆半島東方沖の地震活動
  C 東海道沖(3月28日M6.0)の地震活動
  C 松代における地殻変動連続観測
  C 東海地域の地震活動
  C 東海・南関東地方の地殻変動

 5.近畿・中国・四国地方とその周辺
  C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測
  C 和歌山県北部(3月2日M4.1)の地震活動
  C 伊予灘(2月1日M4.3)および豊後水道(4月22日M4.0)の地震活動

 6.九州地方とその周辺
  C 日向灘(3月27日M5.5)の地震活動
  C 天草灘(2月4日M5.1)の地震活動
  C 奄美大島近海(3月2日M4.9、4月10日M4.9など)の地震活動

 7.沖縄地方とその周辺
    (沖縄地方とその周辺では今期特に目立った活動はなかった。)

 8.期間外・海外
  C 根室半島南東沖(5月12日M5.0)の地震活動
  C 和歌山県北部(5月15日M4.5)の地震活動
  C モザンビーク(2月23日M7.5)の地震
  C 台湾付近(4月1日M6.4、4月16日M6.0)の地震
  C カムチャッカ付近(4月21日M7.6)の地震
  C トンガ付近(5月4日M7.9)の地震

【2】国土地理院
 1.日本全国の地殻変動
  A2 GEONETによる最近1年間および3ヶ月の地殻水平変動
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間、3ヶ月)
  C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化
  C 加藤&津村(1979)解析方法による各験潮場の上下変動

 2.東海地方の地殻変動
  A2 東海地方(森〜御前崎間)の水準測量
  A2 東海地方(菊川市付近)の水準測量
  C 水準点の比高変化に対する近似曲線の係数変化
  C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差
  A2 東海地方の非定常地殻変動
  C GPS連続観測結果 駿河湾周辺
  A2 GPS連続観測結果 御前崎周辺
  C GPS連続観測および水準測量による比高変化に対する近似曲線の係数変化
  C GPS連続観測結果 愛知・静岡周辺
  C 御前崎地区高精度比高連続観測
  C 御前崎・切山長距離水管傾斜計観測結果
  C 地中地殻活動観測装置観測結果
  C 御前崎における絶対重力変化

 3.伊豆地方の地殻変動
  A2 GPS連続観測結果 伊豆半島東部地区
  A2 伊豆半島東部 水平・上下変動図
  A2 地殻変動に伴うモデル(2006年、1998年)
  C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差
  C 伊豆半島東部測距連続観測
  C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区
  C 伊豆諸島の地殻水平・上下変動図(最近3ヶ月)
  A4 伊豆東部火山群のマグマシステムの今後の観測の課題

 4.関東地方の地殻変動
  C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差
  C 館山地殻活動観測場
  C 鹿野山精密辺長連続観測結果
  C 高度地域基準点測量による房総地方の水平歪み

 5.北海道地方の地殻変動
  A2 北海道の地殻水平変動図(最近3ヶ月、1ヶ月)
  A2 GPS連続観測結果 北海道太平洋岸
  A2 2004年釧路沖の地震以降の地殻変動

 6.東北地方の地殻変動
  A2 2005年宮城県沖の地震に伴う地殻水平・上下変動図(地震後)
  A2 GPS連続観測結果 東北太平洋岸周辺
  A2 2005年宮城県沖の地震以降の地殻変動

 7.北陸の地殻変動
  C GPS連続観測データから推定した中越地方の歪み変化

 8.近畿・四国地方の地殻変動
  C 阪神地区の水準測量
  A2 室戸地方の水準測量
  A2 GPS連続観測結果 室戸地方
  A2 GPS及び水準測量による四国地方の地殻変動について
  A2 四国地方の各験潮場間の月平均潮位
  C 阿波池田地方 精密辺長測量結果

 9.九州地方の地殻変動
  C 九州地方の水準測量

【3】北海道大学
  C 北海道とその周辺の地震活動
  C 2003年十勝沖地震(M8.0)後の地殻変動

【4】東京大学大学院理学系研究科
  C 東海地域における地球化学的観測について
  C 伊豆半島における地球化学的観測について
  C 福島県東部における地球化学的観測について

【5】東京大学地震研究所
  A4 伊豆半島東方沖の地震と地殻変動
  C 日光・足尾付近の地震活動(2006年2月〜2006年4月)
  C 油壺観測坑における精密弾性波計測
  C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2006年2月〜2006年4月)
  C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2006年2月〜2006年4月)
  C 2006年4-5月伊豆半島東方沖群発活動に伴うGPS臨時観測

【6】名古屋大学
  C 2006年2月の岐阜県美濃中西部に発生した地震について

【7】京都大学防災研究所
  A4 近畿北部の地殻活動
  C 地殻活動総合観測線最近1年の観測結果

【8】九州大学理学研究院
  C 九州の地震活動(2006年2月-2006年4月)
  C 九州南部の地震活動(2006年2月-2006年4月)
    鹿児島大理学部

【9】防災科学技術研究所
  C 関東・東海地域における最近の地震活動(2006年2月〜2006年4月)
  C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2006年2月〜2006年4月)
  C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による
    地殻変動観測                (2004年8月〜2006年5月)
  A4 十勝沖〜根室沖における1994年〜2006年3月の相似地震活動
  A4 宮城県沖の地震活動パタン変化
  B 関東地域における地震活動度評価
  A4 伊豆半島東方沖における群発地震活動
  A4 2006年1月から5月にかけて続発した伊東市周辺における群発地震活動とそれに伴う
    地殻変動
  A4 四国西部における深部低周波微動活動状況(2006年4月)
  A4 四国西部における微動を伴うスロースリップ活動(2006年4月)
  A4 2006年3月日向灘沖の地震の周辺における2000年10月−2006年3月の相似地震活動

【10】産業技術総合研究所
 1.東海・伊豆地域
  C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2006年2月〜2006年4月)
  C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2006年2月〜2006年4月)
    −神奈川県温泉地学研究所・産総研−
  B 2006年伊豆半島東方沖群発地震活動に伊東市周辺の地下水変化

 2.中部・東海地域
  C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2006年2月〜2006年4月)

 3.近畿地域
  C 有馬〜高槻〜六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2006年2月〜2006年4月)
  C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2006年2月〜2006年4月)
  C 紀伊半島南部〜四国の地下水観測結果(2006年2月〜4月)

 4.中国・四国地域
  C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2006年2月〜2006年4月)
      鳥取大学工学部・京大防災研・産総研

【11】海洋情報部
  C GPSによる地殻変動監視観測

【12】統計数理研究所
  B 余震活動の時空間的変化の以上について
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。
(A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑
(A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑
(A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑
(A4)各地域についての詳細検討
(A5)トピックス
(B) 話題提供
(C) 資料提出