地震予知連絡会の活動報告

第187回地震予知連絡会(2010年8月20日) 議事概要

 平成22年8月20日(金)、国土地理院関東地方測量部において第187回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関するモニタリングの報告が行われ、続いて重点検討課題として「地震活動について」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「プレート境界すべり現象に関する今後のモニタリング戦略」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。

1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

 国内で2010年5月から7月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は33個であった。地震の発生数や地域分布に特に目立った点は見られなかった(気象庁資料)。

(2)日本列島の歪み変化

 GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図には、2009年後半から発生した豊後水道スロースリップに伴う地殻変動の影響等が見られた(国土地理院資料)。

(3)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 2010年7月に十勝沖で活発な超低周波地震活動があった。前回予知連で報告された足摺岬沖の超低周波地震活動は、その後見られない(防災科学技術研究所)。

1.2プレート境界の固着状態とその変化

(1)相模トラフ周辺・首都圏直下

・千葉県北東部の地震

 2010年7月23日に千葉県北東部のフィリピン海プレート境界付近でM4.9の地震が発生した。本震および最大余震の発震機構解は、北西―南東方向に圧縮軸を持つ逆断層型であった。しかし、ほとんどの余震は北東―南西方向の張力軸をもつ正断層型であり、同じ断層面が破壊する余震発生パターンとは異なっていることが報告された。本震によるクーロン応力変化は正断層型の地震が起きやすい状態となっている事が示された(東京大学地震研究所資料)。

(2)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・東海地域の地殻変動

 東海地域の水準測量結果では、掛川市の水準点140-1に対し御前崎市の水準点2595の変動はわずかであり、長期的な沈降の傾向に特段の変化は見られなかった(国土地理院資料)。東海地方の水平地殻変動には特段の変化は見られないが、最近のすべり欠損分布は、スロースリップ発生前の状態に戻りつつある(国土地理院資料)。

・南海トラフにおける海底地殻変動

 西南日本の沖合の海底地殻変動観測点の2006年以降の変動の結果が示された。一部の観測点ではデータのばらつきが大きく、安定した結果が得られているとはいえず、さらに3年ぐらい観測を続けることが必要との報告がなされた(海上保安庁資料)。

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況

 2010年5月から7月に、紀伊半島南部、四国中部・西部・東部、および豊後水道で深部低周波微動が活発化した。豊後水道の活動は、6月以降はやや発生レートが減少している(防災科学技術研究所資料)。

・ 豊後水道の長期的なスロースリップ

2009年後半から発生した豊後水道の長期的なスロースリップに伴う地殻変動は、前回の報告に比べて大きくなっている結果が報告された。また、GPS観測局の座標時系列で見ると6月以降地殻変動が鈍化しているように見えることが報告された。傾斜計の観測結果もこれを支持している(国土地理院資料防災科学技術研究所資料)。推定された積算モーメントは、2003年のレベルに近づきつつあることが報告された(※国土地理院資料)。

※資料中に誤りがありましたので、8月30日に差し替えました。お詫びして訂正いたします。

2.重点検討課題「地震活動について」の検討

 本課題の目的は、主に以下の2つである。第1に、地震活動の標準的予測モデルを公募しそれらの性能を検証するCSEP研究プロジェクトの日本に於ける取り組みについての紹介と議論である。第2に、地震活動や余震活動における種々の異常現象の検出法、その有意性、大地震や大きな余震の予測の確率利得を向上させる方策についての議論である。これらに関して、2部に分けて検討が行われた。

 第1部:始めに、日本におけるCSEPの取り組みについて説明がなされた。第一回地震発生予測検証実験が2009年11月から開始され、各実験モデルによる予測性能評価の中間結果の報告がなされた(東京大学地震研究所・平田直教授資料)。内陸の深さ30km以浅におけるM5.0以上の地震が1年間に発生する確率の推定に、マグニチュードの上限値を設定するMGRモデルを適用したところ、従来のG-R則を用いる場合と比べて、地震発生率の過大評価を避けて適切に評価できることが報告された(報告者:気象庁気象研究所・弘瀬冬樹研究官)。課題「b値とETASモデルにもとづく日本列島の標準的地震発生予測について」は資料の配布のみ行われた(統計数理研究所・尾形良彦教授)。2009年5月イタリア・ラクイラで行われた国際地震予測委員会による実用的な地震予測についての検討内容およびイタリア・市民保護部(DPC)への勧告に関する報告がなされた(名古屋大学・山岡耕春教授資料)。CSEP日本版へ最適化した応力伝播・地震活動時間発展モデルを1890年以降の地震に適用した結果が紹介された。応力蓄積速度が遅い列島内陸域では、現在の地震活動は過去の大地震による影響を引きずっていることが報告された(京都大学防災研究所・遠田晋次准教授、防災科学技術研究所・Bogdan Enescu契約研究員資料)。

 第2部:前震の事前識別による短期予測の確率利得、および時空間ETASモデルを用いた中期予測の確率利得について説明がなされた。また、中国地震局などが試行している大地震の警告型予測の精度評価手法としてGambling score が紹介された(統計数理研究所・尾形良彦教授資料)。2003年十勝沖地震前の地震活動静穏化に関して報告がなされた。その結果、Z値を用いた地震活動静穏化の有意性を数値シミュレーションから評価すると、観測されたZ値の変化が出現する確率はランダムな発生過程では説明しにくいことが示された(北海道大学・勝俣啓准教授資料)。茨城県沖、十勝沖における地震活動の時空間変化を調べたところ、固有地震の発生前に地震活動が特有の変化を示すことが報告された。また、東海・東南海地域の最近の地震活動パターンが、1944年の東南海地震前の状態と類似していることが報告された(防災科学技術研究所・松村正三研究参事資料)。前震活動を利用した本震の予測について報告がなされた。北日本の太平洋海域の地震を対象に検証した結果、茨城県沖や宮城県沖などの限られた領域に絞ると、前震活動による本震の予測が有効である可能性が示された(報告者:気象庁気象研究所・前田憲二研究室長資料)。群発地震の性質等から地震活動の推移について評価する手法が、地震調査委員会の下の小委員会で検討されていることが報告された。伊豆東部の群発地震活動が検討対象の1つになっており、この活動においては活動初期の段階でマグマ貫入量が推定できれば地震活動の規模を予測可能であることが報告された(気象庁地震予知情報課資料)。スロースリップに伴う群発地震にETASモデルを適用した研究が紹介された。その結果、東京湾の群発地震はスロースリップを伴っている可能性があることが指摘された(東京大学・奥谷翼、井出哲准教授資料)。中国栄昌天然ガス田を例とした注水誘発地震の統計的な特徴が説明された。複数の解析手法と地震活動統計パラメータの統合により、地震活動や地殻応力の臨界性を把握するための指針を構築できる可能性などが報告された(産業技術総合研究所・雷興林主任研究員資料)。

3.次回(第188回)重点検討課題「プレート境界すべり現象に関する今後のモニタリング戦略」の趣旨説明

 プレート境界で発生する多様なすべり現象について、シミュレーションで予測された特徴を含めその発生状況を的確に把握し、今後の巨大地震発生予測に資するため、プレート間すべり現象のモニタリング手法高度化に向けた検討を行う。議論の目標を以下の点におく。1)モニタリング最新結果に基づき、プレート間すべり現象に関する最新の知見を理解するとともに、シミュレーションで予測されたことが把握可能かどうかを明確にする。2)モニタリング手法を高度化するための方策を議論する。3)プレート間すべり現象と現象発生の場としての地下構造との関わり合いを理解する。4)地下構造の時間変化に関するモニタリング手法について議論する。

(事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリング》


【1】気 象 庁

 1.地殻活動の概況

  a.地震活動

   O 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構

   S 東海地域の地震活動

 2.プレート境界の固着状態とその変化

  a.日本海溝・千島海溝周辺

   S 北海道東方沖の地震(6月5日M5.5)

   S 択捉島南東沖の地震(6月18日M6.5)

   S 福島県沖の地震(6月13日M6.2)

   O 岩手県沖の地震(7月5日M6.4)

   S 宮城県沖の地震(7月27日M5.3)

   S 鳥島近海の地震(5月3日M6.1)

   S 茨城県北部の地震(8月3日M4.6)

  b.相模トラフ周辺・首都圏直下

   S 千葉県北東部の地震(7月23日M4.9)

   S 東海・南関東地方の地殻変動

  c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

   S 東海・南関東地方の地殻変動

   S 伊勢湾-三重県中部の低周波地震活動と短期的スロースリップ

   S 奈良県の地震(7月21日M5.1)

   S 高知県西部の地震(7月23日M4.4)

  d.その他

   S インドネシア、スマトラ北部の地震(5月9日Mw7.2)

   S バヌアツ諸島の地震(5月28日Mw7.2)

   S パプアニューギニア、ニューブリテンの地震(7月18日Mw7.0、Mw7.3)

 3.その他の地殻活動等

   S 苫小牧沖の地震(6月28日M5.1)

   S 岩手県内陸南部の地震(7月4日M5.2)

   O 岩手・秋田県境付近の地震活動(7月31日〜 M3.6)

   S 新潟県中越地方の地震(5月1日M4.9)

   S 八丈島東方沖の地震活動(5月29日〜 M4.8)

   S 茨城県南部の地震(7月4日M4.5)

   S 国東半島付近の地震(5月13日M4.7)

   S 奄美大島北西沖の地震活動(5月16日〜 M5.0)

   S 奄美大島北西沖の地震(6月13日M5.2)

   S インド、ニコバル諸島の地震(6月13日Mw7.4)	

   S インドネシア、パプアの地震(6月16日Mw7.0)

   S フィリピン諸島、ミンダナオの地震(7月24日Mw7.3、Mw7.6、Mw7.4)

   S 客観的手法による地震活動静穏化・活発化の検出



【2】国土地理院

 1.地殻活動の概況

  b.地殻変動

   O GEONETによる全国の地殻水平変動

   O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差

   O GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化 

 2.プレート境界の固着状態とその変化

  a.日本海溝・千島海溝周辺 

     S 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列

   S 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ

   S 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布

     S 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列

   S 宮城・福島・茨城県太平洋岸 GPS連続観測時系列 

   S 岩手県沖の地震前後の地殻変動

   S 福島県沖の地震前後の地殻変動

  b.相模トラフ周辺・首都圏直下 

     S 館山地殻活動観測場観測結果

     S 鹿野山精密辺長連続観測

     S 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差

     S 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図

  c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

     S 東海地方各験潮場間の月平均潮位差

   O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動

   O 菊川市付近の水準測量結果

   O 東海地方の上下変動

   S 御前崎周辺 GPS連続観測時系列

   S 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列

     S 御前崎長距離水管傾斜計月平均値

     S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均、時間平均)

   S 御前崎地中地殻活動観測施設観測

   S 御前崎における絶対重力変化

   O 東海地方の最近の地殻変動及び非定常地殻変動

   O 豊後水道の地殻変動

   O 豊後水道の地殻変動モデル

   O 豊後水道周辺の深部低周波微動活動と非定常な地殻変動

 3.その他の地殻活動等

   S 富士山周辺の地殻変動

     S 伊豆東部地区 GPS連続観測時系列

   S 伊豆半島東部測距連続観測

   S 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列

   S 長岡市〜高崎市間の上下変動



【3】北海道大学

   議題提出無し



【4】東北大学

     議題提出無し



【5】東京大学地震研究所

 2.プレート境界の固着状態とその変化

   b.相模トラフ周辺・首都圏直下

    O MeSO-netによる千葉県北東部の地震



【6】東京工業大学

   議題提出無し



【7】名古屋大学

   議題提出無し



【8】京都大学防災研究所

 3.その他

   S 近畿地方北部の地殻活動



【9】九州大学

   議題提出無し



【10】鹿児島大学

   議題提出無し



【11】統計数理研究所

   議題提出無し



【12】防災科学技術研究所

 2.プレート境界の固着状態とその変化

  b.相模トラフ周辺・首都圏直下

   O 2010年7月23日 千葉県北部の地震

   S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測(2007年8月〜2010年8月)

  c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

   S 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2010年6月〜2010年8月)

   S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動の観測

                               (2008年11月〜2010年8月)

   O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2010年5月〜2010年7月)(2aを含む)

   O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2010年5月〜2010年7月)

   O 豊後水道長期的スロースリップイベント



【13】産業技術総合研究所

 2.プレート境界の固着状態とその変化

  c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

   S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2010年5月〜2010年7月)

   S  紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2010年5月〜2010年7月)

 3.その他の地殻活動等

   S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2010年5月〜2010年7月)

                       -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 --

   S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2010年5月〜2010年7月)

   S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2010年5月〜2010年7月)

   S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2010年5月〜2010年7月)

                     -- 鳥取大学工学部・産総研 --



【14】海上保安庁

 1.地殻活動の概況

  b.地殻変動

   S GPSによる地殻変動監視観測

 2.プレート境界の固着状態とその変化

  c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺

   O 南海トラフにおける海底地殻変動観測結果




記載分類は以下のとおりとなっています。

  1.地殻活動の概況

  a.地震活動

  b.地殻変動

  2.プレート境界の固着状態とその変化 

   a.日本海溝・千島海溝周辺

  b.相模トラフ周辺・首都圏直下

  c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 

  d.その他

  3.その他の地殻活動等



(O)口頭発表

(S)資料提出のみ

重点検討課題「地震活動について」プログラム

○冒頭説明(趣旨説明者 尾形委員)

 地震活動の標準的予測モデルの提案の督励おびそれらの性能を検証するCSEP研究プロジェクトの日本に於ける取組みについて紹介し議論する。さらに、地震活動や余震活動における種々の異常現象の検出法、その有意性や大地震や大余震の予測の確率利得を向上させる方策について議論をする。  

第1部 わが国のCSEPプロジェクト


○CSEP日本の取り組みについて

   東京大学地震研究所 平田 直

○G-R則および改良G-R則を用いた地震発生予測モデル−MGRモデル−

   気象研究所 弘瀬 冬樹氏

○b値とETASモデルにもとづく日本列島の標準的地震発生予測

   統計数理研究所

○Operational forecastingの勧告について

   名古屋大学 山岡 耕春

○CSEP日本版クーロンモデル

   京都大学防災研究所・防災科学技術研究所 遠田 晋次 Bogdan Enescu

   

第2部 地震活動異常の定量化と予測に向けて


○地震活動の短期・中期予測の確率利得と警報型地震予測の性能評価について

   統計数理研究所

○2003年十勝沖地震前の静穏化

   北海道大学 勝俣 啓

○地震活動特有パタンの再現と固有地震

   防災科学技術研究所 松村 正三 

○前震による確率予測

   気象研究所 前田 憲二

○地震活動の予測的な評価手法の検討について

   気象庁

○房総半島周辺の群発地震の統計分析と東京湾のゆっくりすべりの可能性検討

   東京大学理学部 井出 哲

○注水誘発地震の統計的な特徴

   産業技術総合研究所

    



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