地震予知連絡会の活動報告

第147回地震予知連絡会(2002年5月20日) 議事概要

 平成14年5月20日、国土地理院関東地方測量部において第147回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ議論がなされた。トピックスとしては、東海地域のスロースリップとその意味について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

 

1.全国の地震活動について

 最近3ヶ月間では、青森県東方沖、茨城県沖,台湾付近などでM5を越える地震が発生した.
 M5以上の全国の地震 (2002.2.01−2002.4.30)(気象庁資料)

 

2.東海地域の地殻活動について

 東海地域の推定固着域周辺では、フィリピン海スラブ内で地震の少ない状態が昨年から続いている。
 固着域周辺の地震活動 (フィリピン海スラブ内1997年以降)(気象庁資料)

 水準測量結果によると掛川市の水準点140-1に対する浜岡町の水準点2595は従来の傾向の範囲内で変動している。
 水準点2595(浜岡町)の経年変化(国土地理院資料)

 東海地域の異常地殻変動は依然として継続しており、最近ではその変動の中心が若干東へ移動したように見える。GPS観測によって関連する上下変動も検出されており、浜名湖付近で最大2cm程度の隆起が検出された。GPSデータの逆解析によってプレート境界面上のすべり分布を推定した結果によると、地表における変動の傾向の変化と同様、2002年に入ってからすべりの中心が東へ移動しているように見える。こうした解析結果から求めた今回のスローイベントの地震モーメントは現在も増加を続けており、2002年4月までにMw6.7に相当する断層すべりが生じたと考えられる。
 東海地殻変動(3)(大潟固定)(国土地理院資料)
 推定滑り分布の時間変化(暫定)(3)大潟固定データ(国土地理院資料)
 推定モーメントの時間変化(国土地理院資料)

 今回のトピックスでは、「東海地域のスロースリップとその意味」と題して、東海地域の異常地殻変動のデータおよび解析結果に関する詳細な検討や、非地震性の断層すべりのモデルに関する議論を行った(世話人:橋本学委員)。  GPSの座標時系列データを詳細に検討した結果によると、データに見られる季節変動は毎年同じではなく、系統的な変化が見られる。国土地理院による解析結果の一部には、こうした季節変動の違いに起因するものが含まれている可能性があり、今後、解析手法を工夫するなど留意する必要がある。

 また、GPSの時系列データに対してべき乗の曲線を当てはめるtime-to-failure解析を行った結果は、新しいデータを追加すると推定される破壊時刻が後ろに移動するような結果が得られ、今回のスローイベントに対する適用については疑問が残る。

 非地震性の断層すべりの物理モデルに関する検討も行われ、二つのモデルが紹介された。一つは底面に速度と状態に依存する摩擦法則に従う摩擦が働くブロックをばねで引っ張るモデルである。ブロックが一つの場合、摩擦法則のパラメータによってブロックのすべりの安定・不安定が分かれる。ブロックを二つにすると、片方のブロックが安定・不安定の境界付近にある時に間欠的なすべりが発生する。

 もう一つのモデルは断層の空間的な広がりを考慮したモデルである。この場合は不安定すべりの性質を持つ領域のサイズによって間欠的な非地震性すべりの発生が決まり、摩擦法則のパラメータで定義される臨界サイズよりも少し小さい不安定すべり領域がある場合に非地震性のすべりが発生する。このモデルを用いて、隣により大きい不安定すべり領域が存在する場合には非地震性のすべりが断層の動的破壊(地震)を引き起こす場合があることも示された。

 これらのモデルを東海地域における非地震性すべりと関連付ける議論も行われたが、単純なモデルを具体的な現象に対してどう対応付けるか、大地震の予測にどう適用するかといった現実的な問題については更なる検討が必要である。

 

3.伊豆半島東方沖の地震について

 2002年5月8日から伊豆半島東方沖で群発地震活動が発生した。震源は深さ8〜10kmに位置し、以前の群発地震活動における震源域とは相補的な分布をしている。
 伊豆半島東方沖の地震活動(気象庁資料)

 過去の群発地震活動を振り返ると、活動開始後すぐに震源域が浅くなる場合と、深い部分での活動が収まってから2,3ヶ月後に活発な活動が生じる場合とがある(東京大学地震研究所資料).

 また、今回の地震活動に伴って顕著な変化が体積歪(気象庁資料)、地下水(産業技術総合研究所資料)、傾斜計、GPSなどの観測によって検出されており、暫定的なダイクの貫入モデルも推定された(防災科学技術研究所・国土地理院資料)。

 

4.台湾付近の地震活動について

 台湾の東岸付近では最近活発な地震活動が生じている。2002年3月31日にはM7.2の地震が発生して日本国内でも小規模の津波が観測された。
 台湾付近の地震(気象庁資料)

(事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

【1】気象庁(A1)
 1.2002年2月から2002年4月の全国M5以上の地震と主な地震の発震機構解(C)

 2.2002年2月から2002年4月の北海道地方とその周辺の地震活動(C)

 3.2002年2月から2002年4月の東北地方とその周辺の地震活動
  A1 青森県東方沖〜浦河沖の地震活動
  A1 宮城県沖の地震活動
  C 2002年5月12日岩手県南部の地震について

 4.2002年2月から2002年4月の関東・中部地方の地震活動
  A1 新潟県中越地方の地震活動
  A1 千葉県北東部の地震活動
  A1 伊豆半島東方沖の地震活動について
  C 東海・南関東地方の地震活動・地殻変動
  C 長野県北部の地震活動と松代における地殻変動連続観測

 5.2002年2月から2002年4月の近畿・中国・四国地方の地震活動
  A1 和歌山・奈良県境付近の地震活動
  A1 安芸灘〜愛媛県南予地方の地震活動
  A1 鳥取県西部地震の余震活動

 6.2002年2月から2002年4月の九州地方とその周辺の地震活動(C)

 7.2002年2月から2002年4月の沖縄地方とその周辺の地震活動
  A1 石垣島南方〜台湾付近の地震の余震活動
  A5 (トピックス)GEONET座標データの年周パターンの変化

【2】国土地理院(A2)
 1.日本全国の地殻変動
  A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動
  A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月)
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月)
  C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化
  C 加藤&津村(1979)の解析方法による、各験潮場の上下変動

 2.東海地方の地殻変動
  A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
  A2 水準点(140-1、2595)の経年変化
  A2 水準点2595(浜岡町)の経年変化
  C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化
  A2 水準点2602-1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の経年変化
  A2 水準点2602-1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化
  A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値)
  C 比高変化に対する近似曲線の計数変化
  C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差
  A2 東海地方の異常地殻変動
  C GPS連続観測結果 駿河湾周辺
  C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2)
  A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺
  C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の計数変化
  C GPS連続観測結果 静岡県西部
  A2 御前崎地区高精度比高連続観測
  C 御前崎長距離水管傾斜計月平均(E−W)
  C 地中地殻活動観測装置観測結果

 3.伊豆地方の地殻変動
  C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差
  C 伊東東部連続観測(辺長)日平均結果
  C 伊豆大島地方の精密辺長測量結果
  C 三宅島の上下変動
  A2 GPS連続観測結果 伊豆東部周辺
  A2 GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺

 4.関東地方の地殻変動
  C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差
  C 三浦半島の上下変動
  C 御殿場〜三島間の上下変動
  C 関東・中部・北陸地方の上下変動
  C 鹿野山精密辺長連続観測結果
  C 関東西部地方の水平歪み
  C GPS連続観測結果 富士山周辺

 5.北海道地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 樽前山周辺
  C 北海道中央部地方の水平歪み

 6.東北地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 岩手山周辺
  C GPS連続観測結果 磐梯・吾妻周辺

 7.中部・近畿地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 和歌山・奈良県境

 8.中国・四国地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 安芸灘周辺
  C GPS連続観測結果 瀬戸内中部
  C 阿波池田地方の精密辺長測量結果

 9.九州・沖縄地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 与那国島

 10.その他
  C GPS連続観測結果 硫黄島
  A5 (トピックス)東海地方の異常地殻変動の最近の状況

【3】北海道大学
  C 北海道とその周辺の最近の地震活動(2002年2月〜5月)
  C 天塩・遠別町付近の地震活動
  C 富良野付近の地震活動

【4】東北大学
  C 東北地方およびその周辺の微小地震活動(2002年2月〜4月)

【5】東京大学大学院理学系研究科
  C 東海地域における地球科学的観測について
  C 伊豆半島における地球科学的観測について
  C 福島県東部における地球科学的観測について

【6】東京大学地震研究所
  C 伊豆半島および伊豆諸島周辺の地震活動(2002年2月〜2002年4月)
  C 日光・足尾付近の地震活動(2002年2月〜2002年4月)
  C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2002年2月〜2002年4月)
  C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2002年2月〜2002年4月)
  C 徳島県池田町におけるGPS地殻変動観測(2002年1月〜2002年4月)
  C 相良観測点における歪・傾斜観測(2002年2月〜2002年4月)
  C 油壺観測壕(旧)における精密弾性波計測(1998年11月〜2002年4月)
  C 伊豆半島東部の地殻変動
  A4 伊豆半島東方沖の地震活動について
  A5 (トピックス)ふたつのブロックモデルにおける間欠的すべり
  A5 (トピックス)非地震性エピソディックすべりの発生機構

【7】東京工業大学
  C 伊豆半島における地磁気地電位観測結果

【8】名古屋大学
  A4 精密水準測量による御嶽山群発地震域での地殻上下変動(1999〜2002年)
  A4 精密水準測量による神津島での地殻上下変動(2000年1月〜2002年3月)
  A5 (トピックス)東海の異常地殻変動へのTime-to-failure解析の応用

【9】京都大学
  B 2000年鳥取県西部地震震源域における反射構造
  C 逢坂山における2001年8月25日京都市北部の地震前後の地下水位変化
  C 地殻活動総合観測線(山陰−近畿−北陸)における地殻変動連続観測結果
                     (2001年5月〜2002年4月)
  C 飛騨山脈(槍ヶ岳東方 Apr.24 2002)の極微小群発地震活動
  C 富山県南西部(Apr.22 19:03 2002 M=3.8)の地震活動
  B 紀伊半島ヒンジラインGPS観測結果
  C 龍神温泉の泉温・水位観測

【10】九州大学
  C 九州の地震活動(2002年2月〜2002年4月)
  C 九州南部の地震活動(2002年2月〜2002年4月)(鹿児島大)

【11】防災科学技術研究所
  C 関東・東海地域における最近の地震活動(2002年2月〜2002年4月)
  C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2002年2月〜2002年4月)
  C 関東地域における坂田式三成分ひずみ計及びIBOSによる最近の観測結果
    (2001年5月〜2002年4月まで)
  A4 2002年5月に再発した伊東市周辺における地殻活動

【12】産業技術総合研究所
  C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2002年2月〜2002年4月)
  A4 2002年5月の伊豆半島東方沖地震活動に関連する地下水変動
  C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2002年2月〜2002年4月)
  C 有馬?高槻?六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2002年2月〜2002年4月)
  C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2002年2月〜2002年4月)

【13】海洋情報部
  C 秋田ー本荘沖(その2)海底地質構造図
  C GPSによる地殻変動観測
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。
(A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑
(A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑
(A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑
(A4)各地域についての詳細検討
(A5)トピックス
(B) 話題提供
(C) 資料提出