地震予知連絡会の活動報告

第219回地震予知連絡会(2018年5月25日)議事概要

 平成30年5月25日(金)、国土地理院関東地方測量部において第219回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、その後、重点検討課題として「地震と水」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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 ※一部音声に乱れがあります。

1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

国内で2018年2月から2018年4月までの3か月間に発生したM5以上の地震は40回であった(気象庁資料3頁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 紀伊半島西部から四国東部の南方沖において、2018年3月から4月に超低周波地震が検出された(防災科学技術研究所資料4頁)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震及び熊本地震の余効変動の影響が見られる(国土地理院資料5頁)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動が四国西部から中部(2月21日から3月11日)、四国東部(3月17日から3月25日)、紀伊半島北部から中部(4月13日から4月20日)で発生した。それ以外の主な微動活動は、紀伊半島南部(2月11日から2月15日)で発生した(防災科学技術研究所資料6−8頁)。2月21日から3月25日に発生したスロースリップでは、GNSS連続観測でも変動が捉えられており、プレート間の滑りを推定した結果、豊後水道から愛媛県西部にかけて最大約20㎜の滑りが推定された。滑りの中心が時間と共に西側から東側へ移動していることが分かった(国土地理院資料9−10頁)。
 

1.3 その他

(1)根室半島南東沖の地震

 2018年4月14日に根室半島南東沖の深さ53kmでM5.4の地震が発生した。発震機構は北西−南東方向に張力軸を持つ正断層型で、太平洋プレート内部で発生した(気象庁資料11頁)。

(2)長野県北部の地震

 2018年5月12日に長野県北部の深さ11kmでM5.2の地震が発生した。発震機構は西北西−東南東方向に圧力軸を持つ型であった。この震源付近では2014年11月22日にM6.7の地震が発生している(気象庁資料12頁)。

(3)島根県西部の地震

 2018年4月9日に島根県西部の深さ12kmでM6.1の地震が発生した。発震機構は西北西−東南東方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型であった。この地震の発生以降、震源付近で地震活動が活発となり、震度1以上を観測する地震が4月30日までに47回発生した(気象庁資料13頁)。この地震に伴い、GNSS連続観測点(大田)が東南東方向に1cm移動する等、地震のメカニズム解と整合する地殻変動が観測された(国土地理院資料14頁)。

(4)西表島付近の地震

 2018年3月1日に西表島付近の深さ15kmでM5.6の地震が発生した。この地震は陸のプレートの地殻内で発生した。発震機構は、北東−南西方向に張力軸を持つ型であった。この地震の発生後、地震活動が活発となり、5月13日までに震度1以上を観測する地震が47回発生した(気象庁資料15頁)。

2.重点検討課題「地震と水」の検討

 地震と水に関する最新の研究成果が報告され、水等の地下の流体が地震発生過程に果たす役割等について議論された(コンビーナ:産業技術総合研究所・今西和俊委員資料19頁)。

◆地震発生への水の役割

 時間スケールの違いから見た水の役割について報告があった。長期的な時間スケールでは、断層の深部延長に存在する流体が、近傍の変形を促進して既存断層への応力集中をもたらす役割を果たすことが示された。一方、短期的な時間スケールでは、間隙水圧の増加や地下水のくみ上げ等の表層荷重変化による地震活動への影響が見られることが示された(東京大学地震研究所・加藤愛太郎准教授資料21頁)。

◆地震の発生における応力と流体の役割

 地震のメカニズム解から,地殻内の間隙流体圧の時空間変化を推定する手法とその応用事例について報告があった。開発された手法を用いることにより、地震活動と間隙流体圧の時間発展の関係を調べることが可能になり、スイスのバーゼル地熱貯留槽の注水実験では、断層強度の低下による地震活動の活発化が認められたこと等が紹介された(名古屋大学大学院環境学研究科・寺川寿子講師資料22頁)。

◆箱根火山における群発地震と地殻流体との関係

 2009年の群発地震活動の解析結果について報告があった。群発地震はほぼ鉛直な面上に分布し、時間とともに拡散的に拡大していること等が示され、断層破砕帯中を高圧流体が拡散する過程で群発地震が誘発された可能性が指摘された(神奈川県温泉地学研究所・行竹洋主任研究員資料23頁)。

◆長期・短期注水による誘発地震に関する研究

 中国・四川盆地での注水活動から得られた結果について報告があった。注水による誘発地震の発生頻度は注水履歴に強く依存していることや、地震の多くは注水した層の上部及び下部の脆性的な堆積層中の既存断層に集中すること等が示された。また、誘発地震は余震をトリガーする能力が低いことが示された(産業技術総合研究所・雷興林主任研究員資料24頁)。

◆地震波速度・電気伝導度から推定される地殻内の流体分布

 含水岩石の弾性波速度・電気伝導度の実験結果をもとに考察された地殻内の流体について報告があった。観測から得られる電気伝導度及び地震波速度の変化は、地殻内のチューブ状に連結するクラックが増加することで説明可能であることが指摘された(富山大学・渡邊了教授資料25頁)。

◆関東下における海洋プレートの温度・脱水分布と微小地震の発生の関連性について

 3次元熱対流沈み込みモデルにより推定された温度構造や含水量分布と関東下の微小地震の発生メカニズムの関連性について報告があった。太平洋プレートの地殻内地震は、岩石の相転移に伴う脱水域とよく対応している一方、太平洋プレート深部の地震活動は、フィリピン海プレートの影響により深部に運ばれた水が脱水する領域とよく対応していることが示された(神戸大学・吉岡祥一教授他資料26頁)。

3.次回(第220回)重点検討課題「千島海溝・北海道東方沖と三陸北部における巨大地震」の趣旨説明

    

 第220回地震予知連絡会の重点検討課題として、「千島海溝・北海道東方沖と三陸北部における巨大地震」を取り上げる。三陸沖北部・千島海溝における巨大地震のプレート境界構造やその履歴・今後の発生可能性等について、最近の知見を中心に議論する予定である(コンビーナ:東京大学地震研究所・佐竹健治委員資料27頁)。

各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリングに関する検討》

【1】気 象 庁
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
  O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構
    ・2018年02月〜04月の全国の地震活動概況を報告する。
2.東北地方太平洋沖地震関連
  S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  S 宮城県沖の地震(3月23日 M5.1)
  S 茨城県沖の地震(3月30日 M5.1)
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
  S  東海・南関東地方の地殻変動
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 南海トラフ沿いの地震活動
  S 東海地域から豊後水道にかけての深部低周波地震活動
  S 南海トラフ長期的スロースリップの客観検知
  S 東海・南関東地方の地殻変動
  S 伊勢湾から紀伊半島の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり
                          (1月3日〜1月5日、2月11日〜2月14日)
  S 伊勢湾から紀伊半島の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(4月13日〜21日)
  S 徳島県から豊後水道の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(2月21日〜3月31日)
 d.その他
  S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化
4.その他の地殻活動等
  O 根室半島南東沖の地震(4月14日 M5.4、4月24日 M5.4)
    ・2018年4月14日04時00分に根室半島南東沖の深さ53kmでM5.4の地震が発生した。
     この地震は発震機構(CMT解)が北西−南東方向に張力軸を持つ正断層型で、太平洋プレート
     内部で発生した。
  S 福島県沖の地震(2月26日 M5.8)
  S 岩手県内陸北部の地震(5月7日 M5.1)※期間外
  S 長野県南部の地震(2月13日 M4.1)
  S 千葉県北東部の地震(3月13日 M4.9)
  S 八丈島東方沖の地震(3月25日 M5.8)
  S 愛知県西部の地震(4月14日 M4.5)
  S 千葉県東方沖の地震(4月21日 M5.1)
  S 鳥島近海の地震(5月6日 M5.7)※期間外
  O 長野県北部の地震(5月12日 M5.2)※期間外	 
    ・2018年5月12日10時29分に長野県北部の深さ11kmでM5.2の地震が発生した。この地震は
     地殻内で発生した。発震機構は西北西−東南東方向に圧力軸を持つ型であった。この地震の
     付近では2014年11月22日にM6.7の地震が発生している。
  S 松代における地殻変動観測
  S 豊後水道の地震(2月19日 M5.0)
  O 島根県西部の地震(4月9日 M6.1)
    ・2018年4月9日01時32分に島根県西部の深さ12kmでM6.1の地震が発生した。この地震は
     地殻内で発生した。発震機構は西北西−東南東方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型であった。
     この地震の発生以降、震源付近で地震活動が活発となり、9日02時10分にM4.9の地震が発生
     するなど、震度1以上を観測する地震が4月30日までに今回の地震も含め、47回発生した。
  S 内陸の地震空白域における地殻変動連続観測
  S 平成28年(2016年)熊本地震
  S 2018年4月15日からのトカラ列島近海の地震活動
  O 西表島付近の地震(3月1日 M5.6)
    ・2018年3月1日22時42分に西表島付近の深さ15kmでM5.6の地震が発生した。
     この地震は陸のプレートの地殻内で発生した。発震機構(CMT解)は、北東−南西方向
     に張力軸を持つ型であった。この地震の発生後、地震活動が活発となり、4月30日まで
     に震度1以上を観測する地震が、45回発生した。
  S 2018年2月4日からの台湾付近の地震活動
  S パプアニューギニア、ニューギニアの地震(2月26日 Mw7.4)
  S ハワイ諸島の地震(5月5日 Mw6.9)※期間外

【2】国土地理院 
1.地殻活動の概況
 b.地殻変動
  O GEONETによる全国の地殻水平変動
  O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差
  O GNSS連続観測から推定した日本列島のひずみ変化
2.東北地方太平洋沖地震関連
  O 地殻変動ベクトル
  O GNSS連続観測時系列
  S 成分変位と速度グラフ
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺	
  S 北海道太平洋岸 GNSS連続観測時系列
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下  
  S 伊豆半島・伊豆諸島の水平上下変動
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
  S 高精度比高観測点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
  S 高精度比高観測
  S 菊川市付近の水準測量結果
  S 御前崎周辺 GNSS連続観測時系列
  S 駿河湾周辺 GNSS連続観測時系列
  S 御前崎長距離水管傾斜計月平均
  S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化
  S 御前崎地中地殻活動観測施設によるひずみ
  S 御前崎における絶対重力変化
  S 東海地方の地殻変動 
  S 東海地方の非定常地殻変動
  S 紀伊半島 電子基準点の上下変動
  S 南海トラフ周辺 GNSS連続観測時系列
  S 南海トラフ沿いの地殻変動
  S 南海トラフ沿いの非定常地殻変動
  S 室戸岬周辺 電子基準点の上下変動
  O 四国地方の非定常的な地殻変動
4.その他の地殻活動等
  S 伊豆半島・伊豆諸島の水平上下変動
  S 伊豆東部地区 GNSS連続観測時系列
  S 伊豆諸島地区 GNSS連続観測時系列
  O 島根県西部の地震前後の観測データ
  O 平成28年(2016年)熊本地震の余効変動
  S 測地VLBI観測(超長基線測量)
  O 2018年2月パプアニューギニアの地震に関するSAR干渉解析結果
  O 2018年5月ハワイ島の地震と火山活動に関するSAR干渉解析結果

【3】北海道大学

【4】東北大学理学研究科・災害科学国際研究所

【5】東京大学理学系研究科・地震研究所

【6】東京工業大学

【7】名古屋大学

【8】京都大学理学研究科・防災研究所
4.その他の地殻活動等
  S 近畿地方北部の地殻活動
    S  地殻活動総合観測線
    S 島根県西部の地震(2018年4月9日)

【9】九州大学

【10】鹿児島大学

【11】統計数理研究所

【12】防災科学技術研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
  O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
  S  南海トラフ周辺における最近の傾斜変動
4.その他の地殻活動等
  S 2018年4月9日島根県西部の地震(DD法による震源分布)
  S 2018年4月9日島根県西部の地震による高周波エネルギー輻射量

【13】産業技術総合研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2018年2月〜2018年4月)
  S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2018年2月〜2018年4月)
  S 東海・紀伊半島・四国における短期的スロースリップイベント(2018年2月〜2018年4月)
4.その他の地殻活動等
  S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2018年2月〜2018年4月)
                          -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研
  S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2018年2月〜2018年4月)
  S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2018年2月〜2018年4月)
  S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2017年11月〜2018年4月)
                              -- 鳥取大学工学部・産総研

【14】海上保安庁
1.地殻活動の概況
 b.地殻変動
  S 下里水路観測所におけるSLR観測

【15】海洋研究開発機構

【16】その他の機関
記載分類は以下のとおりとなっています。
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
 b.地殻変動
2.東北地方太平洋沖地震関連
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
 d.その他
4.その他の地殻活動等

 ・口頭報告(O)
 ・資料提出のみ(S)