地震予知連絡会の活動報告

第239回地震予知連絡会(2023年5月31日)議事概要

 令和5年5月31日(水)、国土地理院関東地方測量部において第239回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリング、地殻活動の予測についての報告が行われ、その後、重点検討課題として「群発地震」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.第28期の地震予知連絡会の体制について

全会一致で山岡耕春委員が会長に選出された。山岡会長により、小原一成委員と高橋浩晃委員が副会長に指名され、高橋浩晃委員が運営検討部会長に指名された。 東北大学・岡田知己准教授、名古屋大学・田所敬一准教授、同志社大学・堤浩之教授、国土地理院・山後公二地理地殻活動研究センター長が新たに委員に就任した(1頁・地震予知連絡会委員第28期委員名簿)。

2.地殻活動モニタリングに関する検討

2.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動

 日本とその周辺で2023年2月から2023年4月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は22回であった。このうち、日本国内で震度5弱以上を観測した地震は1回発生した(資料3頁・気象庁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 種子島東方沖で、4月中旬に超低周波地震活動が始まった。この活動の範囲は北東方向へ拡大し、5月には足摺岬の南方に達した(資料4-5頁・防災科学技術研究所)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震及び熊本地震の余効変動の影響が見られる。(資料6頁・国土地理院)。

2.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)日本海溝・千島海溝周辺

・青森県東方沖の地震(3月28日 M6.2)
 2023年3月28日18時18分に青森県東方沖の深さ28kmで M6.2の地震(最大震度4)が発生した。この地震は、発震機構(CMT解)が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。(資料7頁・気象庁)。

(2)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップイベントを伴う顕著な微動活動が、紀伊半島北部から東海地方において、3月25日から4月9日に発生した。これ以外の主な深部微動活動は、四国東部(3月15日から19日)、四国中部(2月17日から19日及び4月2日から5日)において観測された(資料8-9頁・防災科学技術研究所)。
 GNSS連続観測により、3月下旬から4月上旬頃にかけて紀伊半島北部から東海で短期的スロースリップが検出された。プレート間のすべりを推定した結果、紀伊半島北部から東海で最大13mmのすべりが推定された(資料10頁・国土地理院)。

・四国中部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測により、四国中部で2019年春頃から開始した非定常的な地殻変動が引き続き捉えられた。プレート間のすべりを推定した結果、四国中部で最大37cmのすべりが推定された(資料11頁・国土地理院)。

・九州地域の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測により、九州南部で2023年初頭から非定常的な地殻変動が捉えられた。プレート間のすべりを推定した結果、日向灘南部で最大9cmのすべりが推定された(資料12頁・国土地理院)。

・沖縄本島近海の地震活動(2023年5月1日 M6.4)
 2023年5月1日12時22分に沖縄本島近海の深さ13km(CMT解による)でM6.4の地震(最大震度2)が発生した。この地震は、発震機構(CMT解)が北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した。この地震の震央付近(領域a)では、4月27日から地震活動がやや活発になり、4月27日から5月7日までに震度1以上を観測する地震が8回(震度2:3回、震度1:5回)発生した(資料13頁・気象庁)。
 この地震に伴い、沖縄本島のGNSS連続観測点でわずかな地殻変動が観測された(資料14頁・国土地理院)。

2.3 その他

(1)釧路沖の地震(2月25日 M6.0)

 2023年2月25日22時27分に釧路沖の深さ63kmでM6.0の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震は太平洋プレート内部で発生した。発震機構(CMT解)は西北西-東南東方向に圧力軸を持つ型である(資料15頁・気象庁)。

(2)石川県能登地方の地震活動(最大規模の地震:2023年5月5日 M6.5)

 石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加傾向にあり、2020年12月から地震活動が活発になり、2021年7月頃からさらに活発になっている。現在でも活発な状態が継続している。このような中、2023年5月5日14時42分にM6.5の地震(最大震度6強)が発生した。この地震は活動の全期間を通じて最大規模であった。この地震により、石川県の珠洲市長橋及び輪島港(港湾局)で0.1m(速報値)の津波を観測した。その後、同日21時58分にM5.9の地震(最大震度5強)が発生した(資料16-18頁・気象庁)。
 この地震に伴い、震源域に近い能登半島北東部のGNSS連続観測点で10cmを超える隆起などの地殻変動が観測された。「だいち2号」(ALOS-2)PALSAR-2データの干渉解析により、震央のやや西側で20cm程度の隆起などの地殻変動が検出された。得られた地殻変動に基づき断層震源モデルを推定した結果、推定条件によって多少結果は異なるが、おおむね北東-南西走向で南東に傾斜する断層面での逆断層運動が推定された(資料19-29頁・国土地理院)。

(3)千葉県南部の地震(5月11日 M5.2)

 2023年5月11日04時16分に千葉県南部の深さ40kmでM5.2 の地震(最大震度5強)が発生した。この地震はフィリピン海プレート内部で発生した。この地震の発震機構(速報)は北西-南東方向に張力軸を持つ型である(資料30頁・気象庁)。

2.4 2023年トルコの地震(2月6日 Mw7.8、Mw7.6)

 2023年2月6日10時17分(日本時間、以下同じ)にトルコの深さ10kmでMw7.8の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。この地震の発震機構(気象庁によるCMT解)は、南北方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型である。同日19時24分には、トルコの深さ10kmでMw7.6の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。この地震の発震機構(気象庁によるCMT解)は北東-南西方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型である(資料31-33頁・気象庁)。

2.5 地殻活動の予測

(1)気象庁震度データベースを用いた地震予測(2022年の予測結果の評価と発生確率値の更新)

 気象庁震度データベースを用いた2022年の地震予測結果の評価について説明を行った(資料36頁・滋賀県立大学)。

(2)最近の能登半島群発地震活動の時空間的特徴と2023年5月5日M6.5地震について

 2023年5月5日のM6.5の地震発生に至るまでの地震活動の推移とそれ以降の活動についての解析と評価について報告した。(資料37-39頁・統計数理研究所)。


3.重点検討課題「群発地震」の検討

 能登半島北東部で長期間継続する地震活動、奥能登での群発地震活動発生域周辺の3次元比抵抗構造解析の現状、2020年長野・岐阜県境付近の群発地震活動、北海道北部の群発地震活動と稠密GNSS観測から推定された浅部ゆっくりすべり、室内実験における流体圧入で誘発される微小破壊の研究に関する報告が行われ、現在発生している能登半島北東部の群発地震活動のメカニズムと今後の見通しや群発地震の駆動メカニズムについての議論が行われた(資料41頁・コンビーナ:産業技術総合研究所・今西和俊 委員)。

◆能登半島北東部で長期間継続する地震活動

 能登半島北部珠洲市周辺で継続する地震活動は主に4つの領域で起こっている。北部、東部の活動域では、地震が複数の面で発生し、深部側から浅部側に震源が移動している。地震観測、測地観測、電磁気観測等で得られたデータの解析結果から、一連の地殻活動は流体が駆動している可能性が考えられる(資料43頁・金沢大学・平松良浩 教授)。

◆奥能登での群発的地震活動発生域周辺の3次元比抵抗構造解析の現状

 一連の地震活動が開始した南側クラスタから、現在最も活動的な北側クラスタに沿って電気を通しやすい領域(良導域)が存在する。地震の集中域は、良導域の縁辺部に位置し、深部より供給された流体が一連の地震活動の要因である可能性を示唆する。陸域・海域の補充観測データの解析を進め、構造推定の高解像度化、 深部の推定確度の向上を目指している。また連続観測により、流体の移動に伴う地下構造変化検出の可能性を追求する予定である(資料44頁・京都大学防災研究所・吉村令慧 教授)。

◆2020年長野・岐阜県境付近の群発地震活動

 深層学習モデルによる走時データを用いてイベントを検出し、高精度な震源決定を実施した。再決定震源の波形記録をテンプレートとして用いて、連続波形記録からイベントを再検出した。その結果、群発地震は主に東西走向もしくは北西-南東走向の高角傾斜の多数の断層面で発生していることがわかった。また群発活動域の北方向への拡大が活動初期に見られ、流体に駆動されたスロースリップが関与している可能性が考えられる(資料45頁・東京大学地震研究所・加藤愛太郎 教授)。

◆北海道北部の群発地震活動と稠密GNSS観測から推定された浅部ゆっくりすべり

 道北地域の内陸で、群発地震の発生時期に非定常な地殻変動を検出した。ゆっくりすべり(SSE)を仮定すると、観測値を概ね説明する。推定された震源断層はほぼ水平で、水平な地質構造境界がすべったと考えられる。沈み込み帯で多く発生するSSE とは地下の温度や圧力の状態が違うことから、SSE が発生する条件も異なると考えられる。2022 年にもほぼ同じ場所で群発地震が発生したため、GNSS データを解析したが、顕著な非定常変動は見られなかった(資料46頁・北海道大学・大園真子 准教授)。

◆室内実験における流体圧入で誘発される微小破壊の研究

 紫外線をあてると発光する樹脂を用いて水圧破砕を行い、それによって生じる微小破壊を測定する室内実験を行った。従来は難しかったAEの震源メカニズム、地震モーメントの推定を実現した。コーナー周波数推定とあわせて応力降下量に準じるパラメータを推定し、水圧破砕実験では低周波イベントが多発することを示した。震源域の高い間隙圧が原因である可能性がある(資料47頁・京都大学防災研究所・直井誠 助教)。


3.次回(第240回)重点検討課題「関東地震100周年」の趣旨説明

 2023年は、我が国史上最悪の地震災害であった1923年関東大震災の発生から100年である。この震災を契機に我が国の地震科学は発展を続けている。関東地方においては、首都圏地震観測網(MeSO-net)などの稠密な観測網が構築されるとともに、大規模な地下構造探査が繰り返し実施されている。また、1923年関東地震についても、地震・測地・津波などの地球物理学的データや地震動・火災による被害データが観測・記録されており、地震の実態が明らかにされている。さらに、歴史記録や地形との比較から、1923年以前の関東地方の地震発生履歴が明らかになってきている。しかしながら、関東地方の地下には、太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込み、非常に複雑な構造をしている。過去および将来の関東地震やその他のタイプの地震規模の推定や強震動の予測などをするためには、プレート間固着の状態、スロー地震の発生状況や地下構造について調べる必要がある。また、1923年の関東大震災では、その犠牲者の大部分は火災によるものであるが、津波や地滑りによる被害も出ている。関東地震は1923年大正型と1703年元禄型に分類されるが、この2種類以外のタイプの大地震の発生の検討も必要であり、将来の発生確率や規模を推定するには、過去の関東地震の履歴を明らかにすることが必要である。こうした状況を踏まえ、次回は、関東地方の地下構造・地震活動、測地観測とプレート間カップリング、1923年関東地震の被害と強震動、1923年関東地震の津波、歴史地震と変動地形について報告し、関東地震を含むプレート間・プレート内地震の発生場である関東地方の地下構造やカップリングはどの程度分かってきたか、関東地震の発生履歴はどの程度分かっているのか等について議論を行う予定である(資料48頁・コンビーナ:東京大学地震研究所・佐竹健治 委員)。


各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:121KB)