地震予知連絡会の活動報告

第164回地震予知連絡会(2005年5月16日) 議事概要

 平成17年5月16日、国土地理院関東地方測量部において第164回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとしては、スマトラ地震・津波について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

1.全国の地震活動について

 最近3ヶ月間では、福岡県西方沖で、2005年3月20日にM7.0の地震が発生し、4月20日にはM5.8の最大余震が観測されている。4月10日にはM6.1の地震が銚子付近の太平洋プレートと陸側プレート間で発生している。(気象庁資料)

2.東海地域の地殻活動について

 東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では前回の観測結果と比較して御前崎側で隆起が見られる。(国土地理院資料)しかしながら、前回、前々回の水準測量で、御前崎側の沈降がやや大きいという観測結果が得られており、季節変動の可能性があると報告された。掛川市の水準点140-1に対する御前崎市の水準点2595の動きは、1999年頃から年周変化が小さくなっていたのが、最近年周変化がまた大きくなっており、変動の基本的な傾向は今までと変わらないと報告された。(国土地理院資料

 東海地域の非定常地殻変動(スロースリップ)は依然として継続している。2004年以降、平均的な変動からのずれの水平成分のうち、東西成分が若干停滞しているように見えたが、これは紀伊半島南東沖の地震の余効変動の可能性がある。その後またそれ以前の動きに戻っているように見える。(国土地理院資料

3.房総半島南東沖の地震活動

 房総半島南東沖の三重会合点付近の地震活動が2004年5−6月及び、2005年1−4月にかけて活発化した。(気象庁資料)それとほぼ同時期に、関東南部周辺で東南東向きの非定常的な地殻変動が観測されており、この変動が、三重会合点付近の断層運動でほぼ説明される事が示された。(国土地理院資料

4.福岡県西方沖の地震活動

 2005年3月20日のM7.0の地震後、4月20日に深さ14kmでM5.8の最大余震が発生した。4月20日の地震は3月20日の地震の余震域の南東端付近に位置している。この地震の後、二次的な余震が発生し、活動域は博多湾方向に延びその後活動は収まりつつあったが、5月2日にも志賀島付近でM5.0の地震が発生した。(気象庁資料)海底地震計のデータを用いて、精度の高い震源の再決定が行われた。(九州大学地震火山観測研究センター・東京大学地震研究所資料

 海底活構造の調査から、博多湾内の警固断層の延長上と見られる場所に沖積層を変化させる活断層が確認された。このことと、余震分布から志賀島付近を境に折れ曲がり、南の警固断層系につながる一連の断層帯があり、その北部で3月20日の福岡県西方沖の地震が発生し、南側の警固断層系の一部で4月20日の地震が発生したと考えられるという報告があった。(東京大学地震研究所資料

5.トピックス「スマトラ地震・津波」

 今回のトピックスでは、スマトラ地震・津波について報告があり、議論が行われた。(世話人:谷岡委員)2004年12月26日に、ユーラシアプレートの下にインド・オーストラリアプレートが沈み込んでいるスマトラ島沖合の沈み込み帯でM9.0の地震が発生した。そして2005年3月29日には2004年12月26日の余震域南端に隣接するところでM8.6の地震が発生している。(気象庁資料)汀線高度の指標となる海岸地形や珊瑚などの生物の分布などからスマトラ沖の地震に伴う隆起・沈降量が測定され、アンダマン諸島において顕著な地殻上下変動が検出された。(東京大学・産業技術総合研究所資料)地震後の余効変動も一部において報告されている。マイクロアトールから推定される過去の地殻変動履歴から、地震イベントの再来間隔を推定できる可能性があること、累積的な隆起量はあまり大きくない事が報告された。

 人工衛星レーダー画像を用いて、2004年スマトラ沖地震・インド洋津波に伴う隆起・沈降域が把握された。(国土地理院資料)また2005年3月28日のスマトラ沖の地震(M8.6)に伴う隆起・沈降域の把握も同じ手法を用いて行われた。(国土地理院資料)人工衛星の海面高度計により、2004年のインド洋津波が検出されており、その結果に基づいて推定された断層運動は、スマトラ北西沖で最大の滑り量30mと推定されている。(海洋研究開発機構資料)また、各種の手法によって推定された震源過程から全地球的な波形伝播のシミュレーションが行われ、観測結果を良く再現できることが示された。インド洋津波の浸水高、遡上高がいくつかの地域において推定され、浸水高、遡上高が被害の大きさと関連していることが報告された。

(事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

【1】気象庁 (2005年2月〜2005年4月)
 1.日本とその周辺
  C 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構

 2.北海道地方とその周辺
  C 北海道北西沖(3月18日M5.0)の地震活動
  C 釧路支庁中南部(3月12日M5.1)の地震活動

 3.東北地方とその周辺
  C 青森県東方沖の地震(2月26日M5.7)の地震活動
  C 福島県会津地方(4月3日M4.5)の地震活動
  C 福島県沖(4月4日M5.3)の地震活動

 4.関東・中部地方とその周辺
  C 茨城県南部(2月8日M4.8、2月16日M5.4、2月23日M4.4)の地震活動
  C 千葉県北東部(4月11日M6.1)の地震活動
  C 房総半島南東沖の地震活動
  C 鳥島近海(4月19日M6.0)の地震活動
  C 父島近海(2月10日M6.5)の地震活動
  C 長野県北部(4月23日M4.1)の地震活動及び歪みのステップ状変化
  C 松代における地殻変動連続観測
  C 東海地域の地震活動
  C 東海・南関東地方の地殻変動
  C 紀伊半島南東沖の地震活動

 5.近畿・中国・四国地方とその周辺
  C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測
  C 兵庫県南東部(2月14日、M4.1)の地震活動

 6.九州地方とその周辺
  A1 福岡県西方沖(3月20日M7.0)地震の余震活動
  C 宮崎県南部平野部地方(3月5日M4.4)の地震活動
  C 鹿児島県西方沖の地震活動

 7.沖縄地方とその周辺
  C 台湾付近(3月6日M6.2)の地震活動

 8.海外・期間外
  C 栃木・群馬県境付近[栃木県南部](5月8日M4.5)の地震活動
  C スマトラ島付近(3月29日Mw8.5)の地震活動
  C 体積歪計の記録から推定されるスマトラ沖の地震のMw

【2】国土地理院
 1.日本全国の地殻変動
  A2 GEONETによる最近1年間・3ヶ月の地殻水平変動
  A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差
  C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化
  A2 加藤&津村(1979)の解析方法による各験潮場の上下変動

 2.東海地方の地殻変動
  A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
  A2 水準点(140−1、2595、2595)の経年変化
  C 掛川?御前崎間の各水準点の経年変化
  A2 水準点2602−1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)
    の経年変化
  A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値)
  C 水準点の比高変化に対する近似曲線の係数変化
  C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差
  A2 東海地方の非定常地殻変動
  C GPS連続観測結果 駿河湾・周辺
  A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺 
  C GPS連続観測および水準測量による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化
  C GPS連続観測結果 静岡県西部
  C 御前崎地区高精度比高連続観測
  C 御前崎長距離水管傾斜計月平均
  C 御前崎・切山長距離水管傾斜計日・時間平均
  C 地中地殻活動観測装置観測結果
  C 上野巳新田〜富巻山間の基線変化
  C 三角測量による伊豆半島周辺の距離変化
  C 駿河湾・相模湾周辺の辺長経年変化・基線変化

 3.伊豆地方の地殻変動
  C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差
  C 伊豆半島東部測距連続観測
  C GPS連続観測結果 伊豆半島東部・伊豆諸島地区
  C 川奈地区 精密辺長測量

 4.関東地方の地殻変動
  C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差
  C 鹿野山精密辺長連続観測結果
  A2 GPS連続観測結果 房総半島
  C GPS連続観測結果 富士山周辺地区

 5.北海道地方の地殻変動
  C 釧路沖地震水平変動図
  A2 GPS連続観測結果 十勝沖周辺
  A2 十勝沖地震に伴う地殻変動
  A2 推定滑り分布
  A2 観測値と計算値の比較
  C GPS連続観測結果 留萌支庁南部周辺
  C 北海道地方の上下変動
  C 十勝沖地震後の水平歪

 6.北陸地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 中越地方周辺

 7.近畿地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 紀伊半島南東沖周辺

 8.四国・九州地方の地殻変動
  C GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺
  A2 GPS連続観測結果 福岡県西方沖周辺
  A2 福岡県西方沖地震後の水平・上下変動図
  A2 干渉SARによる福岡県西方沖地震の地殻変動
  A2 地殻変動統合解析による福岡県西方沖地震のすべり分布

【3】北海道大学
  C 北海道とその周辺の地震活動
  C 2003年十勝沖地震(M8.0)後の地殻変動

【4】東京大学大学院理学系研究科
  C 東海地域における地球化学的観測について
  C 伊豆半島における地球化学的観測について
  C 福島県東部における地球化学的観測について

【5】東京大学地震研究所
  A4 博多湾海底活断層の分布について
  C 微小応力変化評価を目的とした精密弾性波連続観測結果
  C 日光・足尾付近の地震活動(2005年2月〜2005年4月)
  C 紀伊半島およびその周辺の地震活動(2005年2月?2005年4月)
  C 御前崎における絶対重力変化
  C 豊橋における絶対重力変化
  C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2005年2月?2005年4月)

【6】名古屋大学
  C 東海地方における地殻変動連続観測
  B 深部ボアホール歪観測による地震研究の情報について
                     −東濃地震科学研究所、名古屋大学−

  B 地下1030m深度における地殻活動総合観測のための観測点の新設
      ‐東濃地震科学研究所 定林寺観測点‐
       東濃地震科学研究所、名古屋大学、東京大学地震研究所

【7】京都大学防災研究所
  A4 福岡県西方沖地震の余震の応力降下量の地域性
      福岡県西方沖地震・合同地震観測班(京大防災研)

【8】九州大学理学研究院
  A4 福岡県西方沖の地震 −九州大学理学研究院・東京大学地震研究所・合同地震観測−
  C 九州の地震活動(2005年2月〜4月)
  C 九州南部の地震活動(2005年2月〜4月) −鹿児島大理学部−

【9】統計数理研究所
  A4 2005年福岡県西方沖の地震の余震活動と最大余震について

【10】防災科学技術研究所
  C 関東・東海地域における最近の地震活動(2005年2月〜4月)
  C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2005年2月〜4月
  C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による
    地殻変動観測(2003年7月〜2005年4月)
  A4 東海地域推定固着域における地震
  A4 福岡県西方沖における地震活動

【11】産業技術総合研究所
  C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2005年2月〜2005年4月)
  C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2005年2月〜2005年)
  C 有馬〜高槻〜六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2005年2月〜2005年4月)
  C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2005年2月〜2005年4月)
  C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2005 年2 月〜2005年4月)
                     −鳥取大学工学部・京大防災研・産総研−
  A4 博多湾周辺で発生している微小地震のメカニズム解と応力場

【12】海洋情報部
  A4 福岡県西方沖地震の震源域における海底調査速報
  C GPSによる地殻変動監視観測
  C スマトラ島沖地震及びスマトラ島付近地震による津波観測
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。
(A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑
(A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑
(A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑
(A4)各地域についての詳細検討
(A5)トピックス
(B) 話題提供
(C) 資料提出