地震予知連絡会の活動報告

第159回地震予知連絡会(2004年9月17日) 議事概要

 平成16年9月17日、国土地理院関東地方測量部において第159回地震予知連絡会が開催され、9月5日に紀伊半島南東沖で発生した地震に関する観測・研究成果の報告および議論がなされた。以下に、その概要について述べる。

1.紀伊半島南東沖の地震活動について

 2004年9月5日23時57分に紀伊半島の南東沖でM7.4の地震が発生した。この地震の約5時間前の19時07分にはM6.9の前震が発生しており、地震活動は前震−本震−余震型で推移している。地震の発震機構は南北方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレート内部で発生した地震と考えられる。前震から本震直前まではトラフ沿いに活動が見られ、本震後、北西方向に活動が延びたが、この北西方向の活動は9月9日には減衰した。
 9月5日紀伊半島南東沖の地震(気象庁資料)
 9月5日紀伊半島南東沖の地震 時間推移(気象庁資料)
 

 この地震に伴い、広域にわたる地殻変動が観測され、三重県の志摩半島では約5cm南へ変位した。この地震の余効変動は現在のところ確認されていない。
 9月5日紀伊半島南東沖の地震(国土地理院資料

 トラフ沿いに発生している地震は多くが正断層型であるが、今回の震源域付近では以前から南北方向に圧力軸を持つ逆断層型の地震が発生していた。
 広帯域地震計を用いたモーメントテンソル解析結果(防災科学技術研究所資料)

 震源域で発生している余震の発震機構は発生場所によって異なり、トラフ付近では逆断層型であり、本震の北西で発生している余震の発震機構は本震とは異なる横ずれ型のメカニズム解を示す。
 9月5日紀伊半島南東沖の地震のCMT解の空間分布(防災科学技術研究所資料)
 北側に起きている地震活動のメカニズムについて(気象庁資料)

 今回の地震の波形解析から、断層面上でのすべり分布が推定されている。波形解析から推定された本震の断層面は北西−南東方向の走向である。断層面の傾斜方向については北傾斜と南傾斜のどちらでも説明が可能であり、いずれかを選ぶことは難しい。
 9月紀伊半島南東沖の地震の震源過程(地震研究所資料)

 それに対し、地殻変動からはトラフ軸に平行な走向の断層面が推定されている。
 紀伊半島南東沖の地震断層モデル(国土地理院資料)

 震源域付近の海底地形には北西−南東方向のリニアメントが見られ、本震から北西方向に延びる震源分布と調和的である。
(海洋情報部資料)

 熊野灘周辺では海洋研究開発機構により構造探査が行われており、フィリピン海プレートのリッジの沈み込みに伴う速度異常やトラフ付近のプレートを切るような北傾斜の逆断層構造、トラフ軸と交差する方向の横ずれ断層を示唆するような構造などが見いだされている。このような構造と今回の地震との関係は深いと考えられる。この地震の震源域で発生している地震は、明瞭な後続波を伴っている。
 紀伊半島南東沖で発生する地震の記録波形に見られる後続波(防災科学技術研究所資料)

 この後続波を利用して震源の深さを求めることが可能である。
 (東北大学資料)

 しかし、この方法は用いる地震波速度構造モデルの影響を強く受けるため、複数の機関で異なる結果が得られている。また、この地震後から紀伊半島南東沖の広い範囲で超低周波地震が観測されている。この超低周波地震の震源の深さは非常に浅く、付加帯内部でのすべりによって発生している可能性がある。
 9月5日紀伊半島南東沖の地震後に発生した超低周波地震群(防災科学技術研究所資料)

 今回の地震では、震源域が陸域から離れた海域であることから、震源の深さ方向の精度が得られない。DD法や後続波を用いた深さ決定などの方法によって、震源の水平方向、深さ方向の分布の再決定が試みられているが、速度構造の影響を強く受けるために機関によって異なる結果が得られている。

 現在のところ、震源分布から断層の形状を推定することが困難である。本震の発震機構についても機関によって異なる結果が得られており、決定的な解は得られていない。また、求められた発震機構は必ずしも余震分布と調和的ではない。地震波形から推定された断層の形状と地殻変動を説明できる断層の形状も一致しないことから、現時点では断層モデルについての結論を得ることはできなかった。

 現在、この海域では気象庁等によって海底地震計による観測が行われている。また、海洋情報部によって海底地殻変動観測点が設置されており、今後実施される観測により海底の地殻変動が捉えられることが期待されている。これらの観測により得られる情報は今回の地震像を捉える上で重要である。

(事務局:国土地理院)