地震予知連絡会在り方検討ワーキンググループ

平成14年2月18日

地震予知連絡会
会長 大竹政和 殿

地震予知連絡会在り方検討ワーキンググループ
主査 島崎邦彦

地震予知連絡会在り方検討ワーキンググループの検討結果について(報告)

 標記について,「地震予知連絡会ワーキンググループ第二次報告」を取りまとめましたので,別添のとおり報告します。

---<別添>---------------------------------------------------------------

地震予知連絡会在り方検討ワーキンググループ第二次報告

 地震予知連絡会在り方検討ワーキンググループは,平成11年8月の第134回地震予知連絡会において,地震予知連絡会の活動の在り方について検討することを目的として設置された。以後,本ワーキンググループは地震予知連絡会の運営方法等について検討し,平成12年2月21日の第136回地震予知連絡会で会長に第一次報告を提出するとともに,各回の地震予知連絡会におけるトピックスのテーマの提案を行ってきたところである。

 このほど,地震予知連絡会の在り方についてさらに検討を続けた結果をとりまとめたので,ここに報告する。

1.地震予知連絡会をめぐる状況

 地震予知連絡会(以下「予知連」と言う。)は,測地学審議会の「地震予知の推進に関する計画の実施について(建議)」(いわゆる第2次地震予知計画,昭和43年)において,「各分担機関の情報交換を常時行うとともに,それらの情報の総合的判断を行うために,地震予知に関する連絡会を設ける。」とされたことを受けて発足した。それ以来,予知連は

① 測地学審議会(現在は科学技術・学術審議会測地学分科会)が建議してきた第7次までの地震予知推進のための計画及び平成10年の「地震予知のための新たな観測研究計画について(建議)」(以下「地震予知計画」と言う。)に位置づけられた観測研究機関が観測研究成果等の情報を提供し,地震予知研究推進の観点から意見交換を行うこと

② その情報に基づき,ある地域の観測を強化することなどについて学術的な判断を下すことを行う唯一の場として,学術的にも社会的にも大きな役割を果たしてきた。また,第三次以後の地震予知計画においても,予知連は全国的観点から地震予知の実用化を目指した観測研究の総合的な推進に必要な組織として位置づけられてきた。

 その後,平成7年に地震防災対策特別措置法が制定され,同法に基づいて地震調査研究推進本部(以下「推本」と言う。)が設置されて,「地震に関する総合的な調査観測計画を策定すること」と,「地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行うこと」を開始した。これに伴い,現在予知連ではこれらの業務と類似する総合的判断の責務から解放され,地震の予知に向けた学術的な議論を集中的に行うことができる状況になっている。

 推本発足以後においても,地震予知に対する国民の高い期待を踏まえ,最新の地震予知計画である「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について(建議)」で「関係各機関は,地震予知連絡会において地震予知研究に関わる情報の交換を一層緊密にし,かつ,そこでの討議を通じて,それぞれの観測研究の質の向上に努めることが重要である。」としており,また推本の「地震調査研究の推進について−地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年)では,「地震予知に関する努力は着実に継続することが適切である」とした上で,「地震予知に関する学術的情報及び意見交換の場としての地震予知連絡会の重要性は,現時点でも失われていない。」としている。このように,現在の予知連に対しては,関係機関の情報交換,意見交換の場として地震予知研究の推進に貢献することに高い期待が寄せられており,今後一層その役割を明確にして責任を果たすことが要請されている。

2.地震予知連絡会の役割

 上記の状況を踏まえると,第一次報告で示したように,予知連が果たすべき任務は次の2つに要約できる。

① 地震予知に関わる調査,観測結果等の情報の交換

② 地震予知に関する学術的な検討

 予知連には,地震予知計画に参加する関係機関のメンバーを中心とした委員が一堂に会し,各機関から観測研究の進捗状況,観測データ,新しい知見等が報告される。また,これらに基づき,観測データの解釈と整理,地震予知に向けた理論的な枠組み,これらを踏まえた観測研究戦略などについて,機関の代表としての立場には必ずしもとらわれない各委員の見識に基づく自由な議論が行われる。特に,一つの現象について各機関それぞれの手法による観測研究成果が報告され,多面的でかつ深く掘り下げた意見交換ができることが大きな特徴である。これを通じ,各機関は自らの観測研究を点検・評価して,観測研究項目の優先順位や観測機器の配置を決めることなどをはじめ,個別具体的な観測研究遂行の的確化を図ったり,新しい研究課題を発掘したりすることができる。また予知連は年4回という頻度で定期的に開催されるので,各機関はの観測研究の進行に合わせたきめ細かい議論を積み重ねることができる。このようなことから,予知連は地震予知計画を全体として円滑かつ効率的に推進する機能を発揮している。地震予知計画はわが国の地震予知研究の相当部分をカバーしているので,このことは実質的に地震予知研究の包括的な推進に役立っている。

 また,主要な観測研究機関から高頻度で情報が提供され,学会では困難な集中的な意見交換を行うことは,各種の観測データからどのような地殻現象が生じているのかを解釈するための基礎となる学術的共通認識が早期に得られる効果をもたらす。これは,学術的な意義に加え,地震調査委員会が行う地震に関する総合的な評価や地震防災対策強化地域判定会が行う地震前兆現象の評価において,判断に必要な拠り所を提供するという点でも,大きな意義を持っている。これらの評価は行政の一環として行われるものであり,短時間で結論を出す必要がある場合が少なくないため,学術的に深い議論を行うことのできる予知連の果たす役割は大きい。

 このように,予知連の意義は

① 地震予知計画を効果的に推進させる

② 地震の評価の拠り所となる各種知見を集積する

という2つがあり,今後ともこの意義を十分に果たしていくべきである。

 なお,第2次地震予知計画以来の地震予知計画の具体化の一環として,予知連は特定観測地域,観測強化地域を選定してきた。一方,平成7年以降全国的に基盤的調査観測が強化され,また現在,地震調査委員会により地震動予測地図の作成作業が進められている。今後は,これらによって得られる最新の知見も踏まえ,地震予知研究という学術的観点から各機関共通の重点的な観測研究対象を検討することが課題となる。

3.他組織との連携の在り方

 上述のように,予知連の意義の一つは地震予知計画の効果的な推進であり,今後の地震予知計画においてもその推進に貢献できるよう,今後とも科学技術・学術審議会測地学分科会との連携を図っていくことが重要である。

 また,地震に関する判断の根拠の確立の点では,予知連の活動は地震防災対策特別措置法に定める推本の事務(総合的基本的施策の立案,総合的な調査観測計画策定,調査研究予算等の事務の調整,調査結果等の収集,整理,分析とこれに基づく総合的な評価等)をはじめ,地震防災対策強化地域判定会,社団法人日本地震学会等の関連学会,日本学術会議地震学研究連絡委員会等の活動に間接的に貢献している。特に推本地震調査委員会の評価や地震防災対策強化地域判定会の活動に対しては,前述のようにその評価の拠り所となる各種知見の集積が重要であることから,この観点に基づいた情報交換,学術的検討を積極的に行うなどにより,連携を強化することが重要である。

4.運営要綱の在り方

 予知連の現在の運営要綱は,前文で予知連の設置目的を記述するとともに,本文で委員の委嘱に関すること,内部組織等を定めているが,国土地理院長が運営する組織として設置することと,設置された組織の構成員が具体的な活動のため申し合わせている運営方法の定めとが混在している。また,定められた時期が古く,現在の予知連の活動実態とは合わなくなっている部分がある。これらのことから,従来の運営要綱を国土地理院長が定める「地震予知連絡会設置要綱」(仮称)と予知連が自ら定める「地震予知連絡会運営要領」(仮称)とに整理し,実際の運営については委員の自由な意思を尊重してきた歴史を踏まえつつ,今後の予知連の役割にふさわしい規定を整備する必要がある。

5.会議の具体的な運営

5.1 参加者

 予知連は地震予知計画の推進のための組織として位置づけられてきたことから,委員・臨時委員は地震予知計画を実施する機関の専門家が中心であるが,それ以外の学識経験者も選ばれている。また,委員・臨時委員以外であっても必要に応じて招待講演者として出席を依頼し,検討に加わることができるようにしてきた。最近ではトピックス(5.2参照)を中心に招待講演者に議論に参加してもらうケースが少なくない。予知連の意義を効果的に果たしていくためには,広範な観点からの議論が重要であり,講演者の招待などを今後一層積極的に進めていくべきである。

5.2 プログラム

 現在,年4回開催されている定例会は,前半で直近3ヶ月間の全国の地震活動,地殻変動等の観測データの紹介とこれらに関する意見交換等,後半で特定のテーマ(トピックス)に関するシンポジウム方式の議論が実施されている。

 この前半部分については,多数の専門家集団が情報を共有して地殻活動の現状を監視するという役割を果たしてきたものであるが,地震調査委員会が毎月地殻活動の現状評価を行っていることから,近年の予知連での口頭報告は地震予知研究の観点から注目される現象を中心として行うようにしてきたところである。今後はこの考え方をさらに進め,トピックスとの時間配分にも配慮して,集中的に議論を行うようにすべきである。

 後半のトピックスについては平成10年に開始し,地震予知研究上重要な研究課題をや特定の地震現象を対象として招待講演者を含めて多面的検討を行っており,研究の到達点と問題点等に関する知見の集積に大きく貢献してきた。最近では特に,講演者の人選,時間配分等について委員の中から選ばれた世話人の権限を強め,議論が効果的に深まるようにしてきたところである。今後は相反する意見を持つ講演者の選定,資料の事前配布,十分な討論時間の確保等,議論が一層活性化するような運営を図る必要がある。

なお,トピックスの充実には早めにテーマと世話人を決めることが重要であり,これに恒常的に取り組む作業部会を設置するなど,組織的な取り組みが必要である。

5.3 会議内容の公開

これまで予知連の会議の内容は,会議終了後会長,主要な報告者等が出席し,各機関等から提出された会議資料より抜粋した資料を用いて記者発表会を開くことにより,公開してきた。すなわち,会議内容を整理して伝えていることになる。

記者発表会については,予知連の任務が関係機関間の情報交換と学術的な検討であり,現在は総合的判断は行っていないにもかかわらず,総合的判断の結果(予知連の統一見解)の発表のように受け取られかねないので,必要ないとする意見がある。一方,社会全般に情報公開が進んできたこと,予知連で交換される情報や検討結果に対する社会的関心が高いことなどを考えると,会議そのものを公開して地震に対する知識の普及を図るべきだとの意見もある。いずれにせよ,会議で参加者が自由に学術的な意見交換ができ,また会議等を通じて得られる共通認識が正しく国民に伝わることが重要であり,そのため会議そのものの公開も含め,最適と考えられる方法で公開を進めていくべきである。

5.4 作業部会

現在予知連には,特定観測地域と観測強化地域にそれぞれ対応して,特定部会と強化地域部会の2つの作業部会が設置されている。今後は,必ずしも地域別の部会にとらわれず,地震予知計画を効果的に推進させるとともに地震の評価の拠り所となる各種の知見を集積するという現在の予知連の活動の意義に沿うよう,作業部会の制度を活用していく必要がある。