地震予知連絡会の活動報告
第197回地震予知連絡会(2012年11月21日) 議事概要
平成24年11月21日(水)、国土地理院関東地方測量部において第197回地震予知連絡会が開催された。始めに第22期地震予知連絡会の体制が決定された。次に、全国の地震活動、地殻変動などのモニタリングについての報告が行われ、続いて、重点検討課題として「世界の巨大地震・津波」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「東北地方太平洋沖地震に関する検討(まとめ)」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。
「地殻活動のモニタリングに関する検討」資料説明映像(35MB,約15分)
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1.第22期の地震予知連絡会の体制などについて
全会一致で平原委員(京都大学)が会長に選出された。平原会長により、新たに、山岡委員が副会長に、西上委員が西日本部会長に指名された。島崎前会長が名誉委員に推挙され承認された(第22期委員名簿)。
また、地震予知連絡会の「将来検討WG(仮称)」の設置が全委員によって認められた(事務局資料)。
写真 左から平原会長、山岡副会長、西上西日本部会長、島崎名誉委員
2.地殻活動モニタリングに関する検討
2.1 地殻活動の概況
(1)全国の地震活動について
国内で2012年8月から10月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は35個であった。そのうち、M6以上の地震は2個であり、8月25日に北海道十勝地方の陸のプレート内でM6.1の地震が、10月2日に三陸沖でM6.3の地震が発生した(気象庁資料)。
(2)日本列島の歪み変化
GNSS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図では、東北地方太平洋沖地震の余効変動の影響が顕著に見られる(国土地理院資料)。
(3)日本周辺における浅部超低周波地震活動
2012年10月16日から21日頃に日向灘で超低周波地震活動があった。十勝沖でも、8月上旬および10月下旬に超低周波地震が検出された(防災科学技術研究所資料)。
2.2 東北地方太平洋沖地震関連
過去3ヶ月間の水平変動には、東北地方太平洋沖地震後の東向きの余効変動が見られる。上下変動については、太平洋沿岸の一部観測点で隆起が見られるが、隆起速度は小さくなってきている(国土地理院資料)。
GNSS観測点の水平変動は対数関数近似でよく説明できることが示されたが、上下変動に関しては、対数関数ではよく近似できない観測点が幾つか存在することが報告された(国土地理院資料)。
過去3ヶ月間の水平歪みの図には、東北地方太平洋沖地震後の余効変動の影響が見られる(国土地理院資料)。
余効変動から推定した太平洋プレート上面の滑りには、顕著な滑り域の移動は見られず、モーメントの解放速度が時間と共に小さくなっていることが示された(国土地理院資料)。
2.3 プレート境界の固着状態とその変化
(1)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・紀伊半島の地殻変動
1931年を基準とした紀伊半島東側各水準点の高さの経年変化が報告され、1944年東南海地震及び1946年南海地震をはさんで紀伊半島先端域が隆起し、その後1980年代以降から半島先端の沈降が続いていることが示された(国土地理院資料)。
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動が四国東部(8月2日から9日)、東海地方(8月16日から25日、10月31日から11月6日)、紀伊半島北部(8月11日から14日、9月29日から10月4日)、紀伊半島南部(10月16日から30日)に発生した(防災科学研究所資料)。
3.重点検討課題「世界の巨大地震・津波」の検討
世界各地の沈み込み帯における巨大地震と津波に関する研究成果をレビューするとともに、M9クラスの巨大地震の断層パラメータや繰り返し間隔に関する共通性を見出すことを目的として、2部に分けて検討が行われた。
冒頭、世界で発生したプレート間巨大地震の多様性などを示した資料をもとに、本検討課題の趣旨説明がなされた(東京大学・佐竹健治教授資料)。
◆第1部 世界の沈み込み帯における巨大地震・津波の履歴
1960年チリ地震についての研究成果が紹介された。津波堆積物の調査から、1960年チリ地震型の巨大地震は平均300年間隔で発生し、前回は1575年に発生した可能性が高いことが報告された。潮位変化の調査から、地震時の沈降域より陸側で、地震後、最大約2mの隆起が起きた可能性が指摘された(産業技術総合研究所・宍倉正展研究チーム長資料)。
カスケード沈み込み帯における巨大地震の研究史が紹介された。古地震データから地震規模ごとの発生履歴などが明らかになりつつあることが報告された(東京大学・佐竹健治教授資料)。
アラスカ・アリューシャン・カムチャッカの巨大地震に関する津波研究について報告がなされた。津波波形データの解析などにより推定された断層運動や海底地滑りの発生モデルなどが紹介された。また、津波堆積物調査の結果、約100年から300年の間隔で5m以上の津波に襲われていることがわかった(北海道大学・谷岡勇市郎教授)。
タイのPhraThong島における津波堆積物の調査結果から、約2500年前以降4回の津波が発生した痕跡が見つかり、少なくともM8.5以上の地震の発生が示唆されることがわかった。離水サンゴの記録から、インドネシアのSimeulue島で1394年から1450年の間に隆起が3度起きたことがわかった。これら調査結果には、1000年頃および1400年代に巨大地震が発生したことを示唆する記録が共通に認められることがわかった(筑波大学・藤野滋弘助教)。
2004年スマトラ地震に先行した地震発生率の変化について報告がなされ、地震活動の活発化が2000年7月の半ばから始まったことが示された。また、時空間ETASモデルを適用した結果、常時地震活動がスマトラ・アンダマン諸島地域全体を通して活性化していたことがわかった(統計数理研究所・尾形良彦名誉教授資料)。
地中海地域における巨大地震・津波に関する研究成果が紹介された。海域における歪みエネルギー蓄積・解放過程が十分に解明されていないことが指摘された。今後、海底地殻変動、高解像度探査、ボーリング等の調査で日本が貢献できることが期待される(海洋研究開発機構・金田義行プロジェクトリーダー・堀高峰研究員資料)。
◆第2部 共通性
地震の最大規模についての考察が紹介された。プレート境界の連続性を考えると、理論上の最大マグニチュードはM11に達しないことが示された。M10クラスの地震が過去に発生した証拠はなく、将来も必ず発生するとは言えない。それでも、仮にM10の地震が発生した場合に何が起こるのかを事前に理解しておくことの重要性が指摘された。M9の発生頻度について、断層サイズ等の仮定をすることで先験確率を推定する試みが紹介された(東北大学・松澤暢教授資料)。
地震の規模と滑り量分布やアスペリティの大きさ等との関係式(スケーリング則)の巨大地震への適応可能性について報告がなされた。20世紀以降世界で発生したM9クラスの巨大地震について調べたところ、M9クラスより小さい地震で求められたスケーリング則がM9クラスの巨大地震にも成り立つことが示された(東京大学・室谷智子特任研究員、佐竹健治教授、建築研究所・藤井雄士郎主任研究員)。
測地観測から推定された環太平洋とスマトラ周辺のプレート間の固着域が紹介され、沈み込み帯ごとに、平均的な固着度の強弱があることが示された。一方、アリューシャン列島などのように、同じ沈み込み帯でも、沈み込み帯の走向方向に、固着度に大きな変化がある場合も多いことが示された(国土地理院・西村卓也主任研究官資料)。
津波波形データを用いた津波地震の津波波源域を推定した研究成果が紹介された。津波地震は断層幅が狭く海溝軸寄りに大きな滑りが推定されるという特徴が示された(建築研究所・藤井雄士郎主任研究員資料)。
4.次回(第198回)重点検討課題「東北地方太平洋沖地震に関する検討(まとめ)」の趣旨説明
過去3回にわたって検討されてきた東北地方太平洋沖地震の議論や検討結果を踏まえ、このような地震がなぜ・どのように発生したのか、また今後、このような巨大地震の発生に備えるために何をどのようにモニタリングすべきかについて、本震発生から2年を経過した時点でのまとめを行うことを目的とする。議論は、1)何が起こったのか?今後何をなすべきか?、2)地震の前に異常はなかったか?、3)何故起こったのか?の3部に分けて行われる予定である。(趣旨説明資料)。
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリングに関する検討》
《地殻活動モニタリングに関する検討》 【1】気 象 庁 1. 地殻活動の概況 a.地震活動 O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構 ・2012年08月〜10月の全国の地震活動概況を報告する。 S 東海地域の地震活動 2.東北地方太平洋沖地震関連 S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動 S 東北地方太平洋岸の潮位から見た地殻上下変動 S 福島県浜通りから茨城県北部の地震活動 S 福島県会津から山形県置賜地方の地震活動 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 O 十勝地方南部の地震(8月25日 M6.1) S 岩手県沖の地震(9月18日 M5.0) S 三陸沖の地震(10月2日 M6.3) S 宮城県沖の地震(10月25日 M5.6) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 茨城県南部の地震(8月3日 M4.6、8月30日 M4.1) S 千葉県北東部の地震(9月14日 M5.1、10月12日 M5.1) S 茨城県南部の地震(8月20日 M5.2) S 東海・南関東地方の地殻変動(3cを含む) c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 天竜船明レーザー式変位計による地殻変動観測 S 長野県南部から愛知県における深部低周波地震活動と それに伴うひずみ変化(8月16日〜25日) S 愛知県における深部低周波地震活動と それに伴うひずみ変化(10月31日〜11月6日) d.その他 S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化 S 中央アメリカ沖の地震(8月27日 Mw7.4) S コスタリカの地震(9月5日 Mw7.6) S グアテマラの地震(11月8日 Mw7.4)※ 期間外 4.その他の地殻活動等 S 福島県沖の地震(8月21日 M5.1) S 福島県沖の地震(8月26日 M5.2) S 宮城県沖の地震(8月30日 M5.6) S 福島県沖の地震(10月2日 M5.6) S 宮城県沖の地震(10月3日 M5.0) S 秋田県内陸北部の地震(10月6日 M4.9) S 福島県沖の地震(11月3日 M5.0)※ 期間外 S 新潟県中越地方の地震(10月18日 M4.2) S 茨城県沖の地震(10月24日 M4.5) S 松代における地殻変動観測(2012年5月〜10月) S 伊予灘の地震(9月8日 M4.5) S 高知県中部の地震(10月27日 M4.5) S 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 S トカラ列島近海の地震活動(8月16日頃〜 最大M3.9) S 天草灘の地震(8月17日 M4.9) S 奄美大島北西沖の地震活動(10月25日頃〜 最大M4.6) S オホーツク海南部の地震(8月14日 M7.3) S イラン/アルメニア/アゼルバイジャン国境の地震 (8月11日 Mw6.4) S フィリピン諸島の地震(8月31日 Mw7.6) S 中国、雲南省の地震(9月7日 Mw5.5) S コロンビアの地震(10月1日 Mw7.2) S カナダ、クイーンシャーロット諸島の地震(10月28日 Mw7.8) 【2】国土地理院 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 O GEONETによる全国の地殻水平変動 O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 O GNSS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 2.東北地方太平洋沖地震関連 O 環閉合図 O 八戸市〜むつ市間の上下変動 O 野辺地町〜むつ市間の上下変動 O 青森市〜今別町間の上下変動 O 五所川原市〜今別町間,今別町〜外ヶ浜町間の上下変動 O 岩沼市〜石巻市間の上下変動 O 東北地方太平洋岸 GNSS連続観測時系列 O 対数関数近似 O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル O 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ O 東北地方太平洋沖地震のプレート境界面上の滑り分布モデル一覧 O 矢吹&松浦 Q3【モデル1】 O 時間依存 F3【モデル2】 O 矢吹&松浦 F3+海底地殻変動観測点【モデル3】 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 北海道太平洋岸 GNSS連続観測時系列 S 北海道の地殻変動(猿払固定) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 O 水準点2595(御前崎市)の経年変化 O 水準点(140-1,2595)の経年変化 O 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 O 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS観測の比較 O 御前崎地区高精度比高連続観測 O 菊川市付近の水準測量結果 O 1979年を基準とした東海地方各水準点の経年変化(J60固定) S 御前崎周辺 GNSS連続観測時系列 S 駿河湾周辺 GNSS連続観測時系列 S 御前崎長距離水管傾斜計月平均 S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化 S 御前崎地中地殻活動観測装置観測 S 御前崎における絶対重力変化 S 東海地方の最近の地殻変動 O 新宮市〜紀北町間の上下変動 O 串本町〜新宮市間の上下変動 O 1931年を基準とした紀伊半島東側各水準点の経年変化(4772固定) 4.その他の地殻活動等 S 伊豆半島東部地区 GNSS連続観測時系列 S 伊豆諸島地区 GNSS連続観測時系列 S 柏崎市〜長岡市間の上下変動 S 鯖江市〜あわら市間,福井市〜板井市間の上下変動 【3】北海道大学 【4】東北大学 【5】東京大学地震研究所 【6】東京工業大学 【7】名古屋大学 【8】京都大学防災研究所 4.その他の地殻活動等 S 近畿地方北部の地殻活動 S 地殻活動総合観測線の観測結果 【9】九州大学 【10】鹿児島大学 【11】統計数理研究所 【12】防災科学技術研究所 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2012年8月〜10月)(3cを含む) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 S 関東・東海地域における最近の傾斜変動 S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGNSS観測網による地殻変動の観測 【13】産業技術総合研究所 3.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2012年8月-2012年10月) S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2012年8月-2012年10月) 4.その他の地殻活動等 S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2012年8月-2012年10月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2012年8月-2012年10月) S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2012年8月?2012年10月) S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2012年8月-2012年10月) -- 鳥取大学工学部・産総研 【14】海上保安庁 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 S GPSによる地殻変動監視観測 2.東北地方太平洋沖地震関連 O 東北地方太平洋沖地震後の海底地殻変動観測結果 O 宮城沖における海底地形調査結果
記載分類は以下の通りとなっています。 1.地殻活動の概況 a.地震活動 b.地殻変動 2.東北地方太平洋沖地震関連 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 d.その他 4.その他の地殻活動等 ・口頭報告(O) ・資料提出のみ(S)