地震予知連絡会の活動報告
第191回地震予知連絡会(2011年6月13日) 議事概要
平成23年6月13日(月)、国土地理院関東地方測量部において第191回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関するモニタリングについての報告が行われ、続いて重点検討課題として「東北地方太平洋沖地震に関する検討(その2)」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.地殻活動モニタリングに関する検討
1.1 地殻活動の概況
(1)全国の地震活動について
国内で2011年2月から2011年5月までの4ヶ月間に発生したM5以上の地震は579個であった(気象庁資料)。
(2)日本列島の歪み変化
GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図には、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響が見られる(国土地理院資料)
(3)日本周辺における浅部超低周波地震活動
2011年3月10日22時頃から11日0時頃に十勝沖で小規模な超低周波地震活動が検出された。3月28日から4月3日には、四国沖で小規模な活動が検出された(防災科学技術研究所資料)。
1.2 プレート境界の固着状態とその変化
(1)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動が、四国西部で5月20〜23日にあった。紀伊半島南部では2月21〜23日に、四国西部・東部では3月12〜15日に活動があった(防災科学技術研究所資料)。自動モニタシステムによる西南日本の短期的スロースリップの初めての検出事例が報告された(防災科学技術研究所資料)。GPS連続観測データを用いた短期的スロースリップの検出事例が報告された(国土地理院資料)。
2.重点検討課題「東北地方太平洋沖地震に関する検討(その2)」
第190回に引き続き、東北地方太平洋沖地震についての検討が3部に分けて行われた。
◆第1部 第190回地震予知連絡会のまとめとそれ以降の新知見について
本震発生前のGPS連続観測データから推定された東北地方の歪み変化が紹介され、2006年頃から福島県内およびその周辺の東西短縮が小さくなっていたことが報告された。本震前の地震活動について報告がされ、北海道の一部を除き日本列島における地震活動が低調であったことが示された。三陸沖〜宮城県沖にかけての海溝型地震の前震および余震活動に関する特徴が紹介された。3月9日の前震(M7.3)に比較的大きめの余震が多かったのは、この領域における海溝近傍の地震発生場の特徴である可能性が指摘された。前震(M7.3)後の余効変動観測から、余効すべりが地震時のすべり領域より南側に進展した可能性が示唆された。GEONETデータを用いた解析から、本震の約40分前から震源域上空の電離圏で最大5TECUに達するゆっくりとした正の異常が観測されたことが報告された。津波堆積物調査から、砂質堆積物の到達限界と津波の浸水限界に1-2kmの差があることが報告された。津波波形データおよび陸上GPS・海底GPS音響観測による地殻変動データを用いた本震のすべり量分布が紹介され、海溝に近いところで約40mの大きなすべりが起きていることが示された。強震記録を用いた震源過程の解析から、宮城県沖で発生したすべりが、60-100秒後に大規模なすべりに発展し、その後福島県・茨城県沖へと破壊が伝搬したことが報告された。GPSリアルタイムキネマティック解析による地殻変動データから、震源断層モデルの即時推定できる可能性があることが報告された。固有地震のすべり残しとしてプレート間に蓄積された歪みが、より長い周期(スーパーサイクル)で発生する超巨大地震として解放されるというモデルが紹介された(名古屋大学・山岡耕春重点検討課題運営部会長)。
◆第2部 海溝沿いの問題
2−1 津波地震について
津波データを用いた地震時のすべり分布モデルが報告された。二機関の結果が紹介され、いずれも海溝側に大きなすべり領域があり、最大45mのすべりが推定された。続けて日本周辺および海外で過去に発生した津波地震のレビューが行われた。過去400年間に日本で発生した12例の津波地震のうち6例は海溝型地震により発生したことが紹介された。また、国内外の地震の解析事例から、津波地震の多くは海溝近傍のすべりにより発生したことが紹介された(北海道大学・谷岡勇市郎委員資料)。
2−2 海溝沿い浅部プレート境界について
海底地形調査から、海溝より陸側が約7mの隆起を伴って東南東方向へ最大約50m移動したこと、海溝軸付近で発生した海底地すべりに伴う堆積物(長さ1.5km、厚さ50m)が観測されたことが報告された。観測された地震発生前後の海底地形変化を基にした津波シミュレーションにより、海底水圧計で観測された波高記録がほぼ再現できることが紹介された(海洋研究開発機構・高橋成実代理委員資料)。
◆第3部 短期から長期的影響
3−1 今後の余震・誘発地震・余効変動について
余震の時間的推移の紹介がされ、大森・宇津公式に則って余震活動が減衰していることが報告された。余効すべりの解析結果が紹介され、すべりがプレート境界の深部延長でおきていること、岩手県沖・銚子沖で相対的に大きなすべりが推定されることが報告された。対数関数近似による今後の余効変動の推移予測が示された(京都大学・遠田晋次委員資料)。
3−2 島弧-海溝系における長期的歪み蓄積過程と超巨大歪解放イベントの可能性
東北日本における水平短縮歪みおよび垂直変位量に関する紹介がされた。地質構造やアイソスタシーモデルに基づいて推定される水平短縮速度は、GPS等の測地観測から得られる値より一桁小さいことが報告された。また、太平洋岸の潮位データによる最近約50年間の垂直変動は継続して沈降を示す一方、海成・河成段丘高度から推定される過去約12万年間の長期的変動は隆起を示すことが紹介された。これらの地学的観測と測地学的観測の歪み蓄積の食い違いを解消するような、深部でのすべりが今後発生する可能性があることが示唆された(東京大学・池田安隆委員資料)。
3.今後の重点検討課題の紹介
今後の地震予知連絡会で検討を行う重点検討課題名が紹介された(事務局資料:6月29日修正)。
第192回:プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その1)
第193回:東北地方太平洋沖地震に関する検討(その3)
第194回:プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その2)
第195回:プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その3)
※第192回と第193回の課題を変更しました。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
《東北地方太平洋沖地震に関する検討》
【1】気 象 庁 1. 地殻活動の概況 a.地震活動 O 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 S 東海地域の地震活動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 根室半島南東沖の地震(5月15日 M5.0) S 三陸沖の地震活動(2月) S 福島県沖の地震(2月10日 M5.4、2月27日 M5.2) S 宮城県沖の地震(2月16日 M5.5、M5.3) S 宮城県沖の地震(4月7日 M7.1) S 青森県三八上北地方の地震(5月4日 M4.6) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 千葉県南東沖の地震(2月5日 M5.2) S 房総半島南方沖の地震(2月26日 M5.0) S 静岡県東部の地震(3月15日 M6.4) S 茨城県南部の地震(4月16日 M5.9) S 千葉県東方沖の地震(4月12日 M6.4) S 千葉県北東部の地震(5月22日 M5.5) S 東海・南関東地方の地殻変動(2cを含む) c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 和歌山県北部の地震(2月21日 M4.8) S 諏訪瀬島近海の地震活動(2月 M3.7) S 奄美大島北東沖の地震(2月4日 M5.0) S トカラ列島近海の地震(3月7日 M5.1) S 種子島南東沖の地震(4月9日 M5.8) d.その他 S 秋田県沖の地震(3月12日 M6.4) S チリ中部沿岸の地震(2月12日 Mw6.9) S ニュージーランド南島の地震(2月22日 M6.3) 3.その他の地殻活動等 S 宮城県南部の地震(3月11日 M5.2) S 秋田県内陸北部の地震(4月1日 M5.0) S 秋田県内陸南部の地震(4月19日 M4.9) S 福島県会津の地震(5月7日 M4.6) S 岐阜県飛騨地方の地震(2月27日 M5.5) S 箱根付近の地震(3月11日 M4.6) S 長野県・新潟県県境付近の地震(3月12日 M6.7) S 群馬県・栃木県県境の地震(3月12日 M4.5) S 松代における地殻変動連続観測 S 和歌山県北部の地震(5月10日 M4.2) S 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 S 熊本県熊本地方の地震(4月25日 M4.1) S ローヤリティー諸島の地震(5月10日 Mw7.0) 【2】国土地理院 1. 地殻活動の概況 b.地殻変動 O GEONETによる全国の地殻水平変動 O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 O GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化 O 加藤&津村(1979)解析手法による各験潮場の上下変動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列 S 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ S 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 S 2004年釧路沖の地震以降の1年ごとの推定すべり分布および観測値と計算値の比較 S 2004年釧路沖の地震以降の観測値と計算値の比較時系列 S 北海道の地殻変動(猿払固定) S 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ S VLBI観測から得られた東北地方太平洋沖地震に伴う地殻変動 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 関東地方の上下変動 S 鹿野山精密辺長連続観測 S 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 S 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 O 菊川市付近の水準測量結果 S 御前崎周辺 GPS連続観測時系列 O 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列 S 御前崎長距離水管傾斜計月平均 S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化 S 御前崎地中地殻活動観測装置観測 O 東海地方の最近の地殻変動 O 水平地殻変動の観測値とモデル計算値の差 O GEONETによって検出された短期的スロースリップイベント(SSE)に伴う地殻変動 O 南海地震の地震時地殻変動と地震間の変動速度の比 3.その他の地殻活動等 S 3/19茨城県北部の地震 (M6.1)・3/23福島県浜通りの地震(M6.0)に関する合成開口レーダー解析結果 S 長野県北部の地震に伴う3成分時系列グラフ S 伊豆半島東部地区GPS連続観測時系列 S 伊豆諸島地区GPS連続観測時系列 O ニュージーランド南島の地震に関する合成開口レーダー解析結果 【3】北海道大学 【4】東北大学 【5】東京大学地震研究所 【6】東京工業大学 【7】名古屋大学 2.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 熊野海盆における海底地殻変動観測結果 【8】京都大学防災研究所 3.その他 S 近畿地方北部の地殻活動 S 地殻活動総合観測線の観測結果 S 東北地方太平洋沖地震後の飛騨山脈脊梁部の地震活動 S 東北地方太平洋沖地震後の福井県北部の地震活動 【9】九州大学 【10】鹿児島大学 【11】統計数理研究所 【12】防災科学技術研究所 1.地殻活動の概況 a.地震活動 S 東北地方太平洋沖地震以降の銚子付近の地震活動 S 関東地方の相似地震活動 S 2011年4月16日 茨城県南西部の地震 2. プレート境界の固着状態とその変化 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 関東・東海地域における最近の傾斜変動 S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動の観測 O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2011年2月〜5月)(2aを含む) O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 【13】産業技術総合研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2011年2月〜2011年5月) S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2011年2月〜2011年5月) 3.その他の地殻活動等 S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2011年2月〜2011年5月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2011年2月〜2011年5月) S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2011年2月〜2011年5月) S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2011年2月〜2011年5月) --鳥取大学工学部・産総研 【14】海上保安庁 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 S GPSによる地殻変動監視観測
記載分類は以下のとおりとなっています。 1.地殻活動の概況 a.地震活動 b.地殻変動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 d.その他 3.その他の地殻活動等 ・口頭報告(O) ・資料提出のみ(S)
重点検討課題「東北地方太平洋沖地震に関する検討(その2)」プログラム
第1部 第190回地震予知連絡会のまとめとそれ以降の新知見について
○第190回地震予知連絡会のまとめとそれ以降の新知見について 名古屋大学 山岡耕春重点検討課題運営部会長
第2部 海溝沿いの問題
○津波地震について 北海道大学 谷岡勇市郎委員 ○海溝沿い浅部プレート境界について 海洋研究開発機構 高橋成実代理委員
第3部 短期から長期的影響
○今後の余震・誘発地震・余効変動について 京都大学 遠田晋次委員 ○島弧−海溝系における長期的歪み蓄積過程と超巨大歪解放イベントの可能性 東京大学 池田安隆委員