地震予知連絡会の活動報告
第177回地震予知連絡会(2008年5月19日) 議事概要
平成20年5月19日、国土地理院関東地方測量部において第177回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論された。トピックスとして、「地震活動の時間変化と大地震の関係」について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
国内で2月から4月の3ヶ月間に発生したM6以上の地震は、2月27日および3月15日に父島近海で発生した2つのM6.6の地震であった(気象庁資料)。なお、この期間外であるが、5月8日に茨城県沖でM7.0の地震が発生した。
2.日本列島の歪み変化について
GPS連続観測データから推定した最近1年間の日本列島の歪み変化図からは、北海道では、2003年9月26日の十勝沖地震の余効変動の影響が見られ、伊豆諸島周辺では、地殻変動に伴う北東—南西の伸びが依然として顕著である。また2007年3月25日の能登半島地震の地殻変動の影響が見られる。また2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震による歪みも顕著である。房総半島では、2007年8月13日〜22日頃に発生した房総半島沖スロースリップの影響が見られる(国土地理院資料)。
3.茨城県沖の地震活動について
5月8日に茨城県沖でM7.0の地震が発生した。地震活動は減衰しつつあるが、継続している。震央付近では5月4日頃からまとまった活動があり、5月7日頃から活発化した。この領域ではM7程度の地震が15〜20年程度の間隔で発生している(気象庁資料)。三次元速度構造を用いて震源位置を再計算すると、震源の深さが全体的に一元化震源よりも浅く求まった(気象庁・気象研究所資料)。地震のモーメントテンソル解の空間分布からも、プレート境界で発生した地震と考えられる(防災科学技術研究所資料)。震源データの分析から、今回の震央付近では2007年以降に地震活動が静穏化していたことが示された。震央付近では、2006年前半からM5.0以上の地震が発生していない(気象庁資料)。前震を含めて見ると、今回の震央分布は1982年の余震域とほぼ重なっている。また、1961年および1965年の余震域ともほぼ重なる(気象庁資料)。前震活動については1982年、今回とも活発である。前震が活発化し、一旦静穏化した後に本震が発生するというパターンが両者で見られる(防災科学技術研究所資料)。小繰り返し地震から推定した準静的すべりから、震源域周辺では地震の前から準静的すべりが加速していたと考えられる(東北大学資料)。茨城県沖と内陸部では、顕著な地震が時間的に近接して発生する傾向が見られる(大竹会長資料)。
地震に伴う地殻変動がGPS連続観測により捉えられた。得られた地殻変動から、北北東−南南西走向の西に傾き下がる逆断層が動いたと推定される。推定された断層面は、震源分布と整合している(国土地理院資料)。
4.東海地域の地殻変動について
東海地域の水準測量結果によると、掛川市の水準点140−1に対して御前崎市の水準点2595はわずかに隆起傾向を示す(国土地理院資料)。掛川市の水準点140−1に対する水準点2595の経年変化の解析においては、今回の観測結果は、従来の沈降トレンド上にあることが示された(国土地理院資料)。
東海地域では、浜名湖周辺のスロースリップは2005年以降停止しているが、「志摩」「渥美」等では、わずかな隆起と南向きの変動が継続している(国土地理院資料)。2004年に発生した紀伊半島南東沖の地震に伴う余効すべりと粘性緩和による変動を取り除き、スロースリップの時空間変化を推定したところ、紀伊半島で南向きに推定されていたすべりが消えた。これは、余効変動等による変動をプレート境界面上でのすべりとして説明していたためと考えられる。また、長野県南部ですべりが推定されている。推定されるモーメント量は停滞傾向にあるが、2008年以降、わずかに増加が見られる。これは季節変動によるものである可能性もあり、今後のデータ集積が待たれる(国土地理院資料)。
5.中国四川省の地震について
2008年5月12日に中国の四川省でM7.9の地震が発生した。この地震は地殻内で発生した地震で、発震機構は西北西—東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。この付近は大きな被害を伴う地震がたびたび発生している(気象庁資料)。今回の地震はその余震分布から龍門山(ロンメンシャン)断層が動いた可能性が高い(東京大学資料)。地震波形のインバージョンから震源過程が推定されたが(名古屋大学、産業技術総合研究所資料、海洋研究開発機構資料)、どのモデルでも地震断層の南西部、震央の北西近くに大きなすべり領域が推定されている。また、南西部と北東部で断層運動の様式が異なっている可能性が指摘された。
6.トピックス「地震活動の時間変化と大地震との関係」(世話人:尾形委員)
大地震の長期的影響の可能性に関して報告がなされた。GPSデータから地震発生確率の空間分布を推定した結果、地殻変動の約7割ほどは、非地震性であるか、あるいは、バックスリップモデルでは水平変動成分の説明が不十分と考えられる。GPSから求めた地震発生の確率は1729−1914年の地震発生分布とよく一致する結果が得られた。またGPS以外の様々なデータを用いて、地震発生確率分布のモデルを作成した結果も同様な結果となり、1801−1925年の大地震分布とよく一致する。このことから、最近の地殻変動等は100年程度前の地震の影響を受けているのではないかとの報告があった(地震研究所島崎教授資料)。
東海地方のアスペリティ分布に関する分析結果について報告がなされた。A)想定震源域内には複数個のアスペリティがある、B)2000年からの東海地方の長期的スロースリップに同調してアスペリティ周辺の固着強度の弱い領域に準静的すべりが進行した、という2つの仮定の下で推定された。推定アスペリティの外側領域で長期的スロースリップの影響で準静的すべりがあったとすると、その周辺における発震機構が変化すると考えられるが、実際に長期的スロースリップ発生以前と以降で発震機構の変化が見られ、このモデルを支持する結果が得られている(防災科学技術研究所松村研究参事資料)。
千島海溝付近で2006年11月15日と翌年1月13日にプレート境界地震、太平洋プレート内地震がそれぞれ発生した。11月15日の地震の余震は2つの群に分かれており、北西部が本地震断層周辺の余震、南西部が本震によってトリガーされた海溝軸よりも沖合側で発生した正断層型の広義余震である。このような海溝軸より沖合の地震が誘発されることはクーロンの破壊応力変化からも裏付けられている。ETASモデルで余震の時空間変化を解析すると、海溝軸より沖合の地震は本震後20日頃から静穏化し、狭義の余震は相補的に活発化するという様子がみられた(統計数理研究所尾形教授、産業技術総合研究所活断層研究センター遠田博士資料)。この現象は、非地震性すべりを仮定したストレス変化で説明できるという報告がなされた。
釜石沖では、5年ほどの間隔でM4.8程度の地震が繰り返し発生してきたが、その発生間隔が、近傍の小繰り返し地震から推定される準静的なすべりの擾乱によって変化したという見解が報告された(東北大学松澤教授資料)。すなわち地震の発生は、長期的には地震の繰り返し間隔で評価でき、短期的には地震の満期度と周囲の擾乱の大きさで評価できるのではないかという報告がなされた。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気 象 庁(2008年2月〜2008年4月) 1.日本とその周辺 A1 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 根室半島南東沖(3月13日M5.3)の地震 3.東北地方とその周辺 C 福島県沖(3月24日M5.3)の地震 C 秋田・山形県境付近(4月17日M5.8)の地震 C 青森県東方沖(4月29日M5.7)の地震 C 東北地方太平洋側の地震活動 4.関東・中部地方とその周辺 C 千葉県南東沖(2月10日M5.0)の地震 C 父島近海(2月27日M6.6、3月15日M6.6)の地震 C 茨城県北部(3月8日M5.2)の地震 C 茨城県南部(4月4日M5.0)の地震 C 千葉県東方沖(4月25日M4.8)の地震 C 能登半島周辺の地震活動 C 松代における地殻変動連続観測 C 静岡県西部の地震活動 C 愛知県西部(4月20日M4.3)の地震と低周波地震活動 C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ(2008年2月〜4月) C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 5.近畿・中国・四国地方とその周辺 C 明石海峡(4月17日M4.1)の地震 C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 6.九州地方とその周辺 C 日向灘(3月10日M5.1)の地震 C 2005年福岡県西方沖の地震前後の震源域周辺の地震活動 7.沖縄地方とその周辺 C 台湾付近(4月24日M6.3)の地震 C 宮古島近海(4月28日M5.2)の地震 8.期間外・海外 C 千葉県東方沖(5月1日 M4.6)の地震 C 福島県沖(5月2日M5.1)の地震 A1 茨城県沖(5月8日M6.3、M7.0)の地震 C 千葉県北西部(5月9日M4.6)の地震 C 国後島付近(5月11日M5.0)の地震 C 宮崎県南部山沿い(5月11日M4.1)の地震 C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ(2008年5月) C インドネシア、スマトラ島付近(2月20日Mw7.4、2月25日Mw6.9)の地震 C 千島列島東方(3月3日M6.9)の地震 C 中国、シンチアンウイグル自治区南部(3月21日Mw7.1)の地震 C ローヤリティ諸島(4月9日Mw7.3)の地震 C マクオーリー島(4月12日Mw7.1)の地震 A1 中国、四川省の地震(5月12日Mw7.9)の地震 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間および3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間,3ヶ月) A2 GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 C 加藤&津村(1979)解析手法による各験潮場の上下変動 2.北海道地方の地殻変動 A2 北海道の地殻水平変動図(最近3ヶ月,1ヶ月) A2 GPS連続観測 北海道太平洋岸 A2 基線ベクトル成分の変位量と変化率 C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 C 高度地域基準点測量による札幌・旭川地区の水平歪 3.東北地方の地殻変動 C GPS連続観測 東北地方太平洋岸 C 高度地域基準点測量による鶴岡・郡山地区の水平歪 4.関東甲信地方の地殻変動 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測 C 高度地域基準点測量による南関東地区の水平歪 A2 2008年5月8日に発生した茨城県沖の地震に伴う地殻変動 5.伊豆地方の地殻変動北海道地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆大島の上下変動 C 三宅島の上下変動 C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 C GPS連続観測 伊豆半島東部地区 C 伊豆半島東部測距連続観測 C GPS連続観測 伊豆諸島地区 A2 2008年2〜3月に発生した父島近海の地震に伴う地殻変動 6.東海地方の地殻変動東北地方の地殻変動 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点2595(御前崎市)の経年変化 A2 水準点(140−1,2595)の経年変化 C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 C 菊川市付近の水準測量結果 C GPS観測および水準測量による掛川−浜岡2,御前崎間の比高変化 C 御前崎地区高精度比高連続観測 C GPS連続観測 御前崎周辺 C GPS連続観測 駿河湾周辺 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均,時間平均) C 御前崎地中地殻活動観測 A2 東海地方の非定常地殻変動 7.北陸・中部地方の地殻変動 A2 平成19年新潟県中越沖地震後の地殻変動 C 高度地域基準点測量による中越地区の水平歪 8.近畿方の地殻変動 C 2008年4月18日に発生した大阪湾の地震に伴う地殻変動 9.中国・四国地方の地殻変動 C 田野町〜東洋町間の上下変動 C 久万高原〜佐川町間の上下変動 C 豊後水道の地殻変動 10.九州・沖縄地方の地殻変動 C 宜野座村〜国頭村間の上下変動 11.その他 C GPS連続観測 硫黄島 C GPS繰り返し観測 硫黄島 C SAR解析結果 硫黄島 A2 四川省の地震:「だいち」PALSARの観測予定 A2 中国・四川省の地震に伴う地形変化 【3】北海道大学 B 中国・四川省の地震のSAR画像 【4】東北大学 A3 2008年5月8日茨城県沖の地震の震源域周辺における小繰り返し地震活動 【5】東京大学理学系研究科 B 2008年5月12日中国・四川省の地震について 【6】東京大学地震研究所 C 茨城県沖の地震の震源域における海底地震観測 C 日光・足尾付近の地震活動(2008年2月〜2008年4月) C 東京大学地震研究所鋸山観測坑における最近の地殻変動観測結果 (2007年10月〜2008年4月) 【7】名古屋大学 C 2008年5月8日01時45分頃の茨城県沖の地震(M7.0)の震源過程 B 2008年5月12日四川省の地震の震源過程 【8】京都大学防災研究所 B 2008年4月17〜18日の明石海峡の地震について C 近畿地方北部の地殻活動 C 地殻活動総合観測線観測結果 B 高サンプルリングGPSで捉えた2008年5月12日中国・四川省の地震の地震波形 B 2008年5月12日中国四川地震による動的トリガリング 【9】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2008年2月〜2008年4月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2008年2月〜2008年4月) C 伊豆地方・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動観測 (2006年8月〜2008年5月) A3 2008年5月茨城県沖の地震活動 B 2008年4月4日茨城県南西部の地震 B 2008年2月〜3月の房総半島南東部の地震 B 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 (2008年2月〜2008年4月) B 2008年2月〜3月の房総半島南東部の地震 B ユーラシア南東部プレート境界地震活動 【10】海洋研究開発機構 B 中国四川省で発生した地震の破壊過程について(速報) 【11】産業技術総合研究所 1.関東・甲信越地域 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2008年2月〜2008年4月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2008年2月〜2008年4月) - 神奈川県温泉地学研究所・産総研- 2.北陸・中部地域 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2008年2月〜2008年4月) 3.近畿地域 C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2008年2月〜2008年4月) 4.中国・四国地域 C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2008年2月〜2008年4月) - 鳥取大学工学部・京大防災研・産総研 - 5.その他 B 2008年5月四川の地震の断層モデル(序報) 【12】海上保安庁 C GPSによる地殻変動観測 A3 5月8日茨城県沖の地震(M7.0暫定)の震源域近傍の地震波速度構造 【13】大竹政和会長 A3 茨城県の沖と内陸部の地震に見られる呼応関係
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)各地域についての詳細検討 (B) 話題提供 (C) 資料提出