地震予知連絡会の活動報告
第183回地震予知連絡会(2009年8月21日) 議事概要
平成21年8月21日、国土地理院関東地方測量部において第183回地震予知連絡会が開催された。はじめに2009年8月11日の駿河湾の地震についての報告・議論がなされ、続いて全国の地殻活動モニタリング結果に関して、重点検討課題として「プレート境界浅部の固着とすべりのモニタリング」について、報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.2009年8月11日の駿河湾の地震
2009年8月11日5時7分に駿河湾の深さ23kmでM6.5の地震(最大震度6弱)が、発生した。発震機構は北北東−南南西方向に圧力軸を持ち、震源の深さ及び余震分布から、沈み込むフィリピン海プレートの内部で発生した地震と考えられる(気象庁資料)。
3次元地震波速度構造とtomoDD法による詳細な余震の再決定により、本震の震源付近では、南側に高角(約50度)に傾斜した余震面があり、本震の北西部では、東北東に低角(約35度)に傾斜した余震面のあることが示された(東京大学地震研究所資料)。
今回の駿河湾の地震は、伊豆半島南部の石廊崎断層を通る北西−南東走向の構造線にそって起きたとの見解が示された(茂木清夫名誉委員資料)。
本震は、フィリピン海プレート境界上面よりも約10km深いところで発生しており、震源位置は低速度領域と高速度領域の境界付近の高速度領域内に位置することが報告された(防災科学技術研究所資料)。
GEONETによるGPS連続観測では、震源西側の焼津付近で約1cmの西向きの変動などが観測された(国土地理院資料)。また、GEONETの座標時系列グラフによれば、地震時にステップ状の変化が見られる一方、明瞭なプレスリップや地震後の顕著な地殻変動は観測されなかった(国土地理院資料)。
DD法による詳細な余震分布を参考に2つのセグメント(セグメントⅠ、セグメントⅡ)からなる断層面を仮定して震源過程の推定を行った結果が報告された(防災科学技術研究所資料)。また、GEONETで観測された地殻変動は、北西−南東走向の北東に傾き下がる断層がやや右横ずれ成分を伴って逆断層的に動くことにより説明されることが示された(国土地理院資料)。
駿河湾の地震の各種断層モデルから東海地震の想定震源域におけるΔCFFが計算され、震源の西の領域及び北側で応力の増加が示された(防災科学技術研究所資料、国土地理院資料)。このΔCFFの分布は静岡県藤枝付近で本震後に発生した地震活動と調和的である(気象庁資料)。
2.地殻活動モニタリング結果に関する検討
(1)全国の地震活動について
国内で2009年5月から7月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は14個であった(気象庁資料)。
(2)日本列島の歪み変化
GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み変化図からは、北海道では2008年9月26日及び2009年6月5日の十勝沖の地震の変動の影響が見られ、伊豆諸島北部では、北東−南西の伸びが依然として見られる。2008年6月14日に発生した平成20年岩手・宮城内陸地震、2008年7月19日に発生した福島県沖の地震の影響が見られる。また、2008年頃から富士・箱根周辺で、北北東−南南西方向の伸びが見られる(国土地理院資料)。
(3)東海地域の地殻変動
東海地域の水準測量結果(年周補正後)において、掛川市の水準点140-1に対し御前崎市の水準点2595は、前回と比較してわずかに沈降しており、2005年夏以降の沈降のトレンド上にある(国土地理院資料)。
(4)7月22日 室戸岬沖(四国沖)の地震
2009年7月22日23時51分に昭和南海地震(1946年,M8.0)の震源域内である室戸沖(四国沖)の深さ29kmでM4.6(最大震度4)の地震が発生した。また、この地震の約1時間後の23日00時47分にも、ほぼ同じ場所でM4.1の地震(最大震度3)が発生した。1997年10月以降の活動を見ると、今回の震源付近でM4.0を超える地震は発生していなかった(気象庁資料)。
3.重点検討課題(プレート境界浅部の固着とすべりのモニタリング)の検討
この課題の検討目的は、太平洋プレートやフィリピン海プレートの沈み込み境界浅部における固着とすべりの状況についての最新のモニタリング結果を検討し、固着やすべりの地域性とアスペリティの破壊の複雑性について理解を深めようというものである。
各地域のすべり欠損分布の共通性と多様性・地域性が報告され、北海道根室沖、宮城県沖、室戸岬沖ですべり欠損値が大きいことが示された(国土地理院資料)。東海地方を例として、陸域の観測点のみでは、海域でのすべり欠損の推定の解像度が低いこと、またすべり欠損を推定する際に、固定局の影響により見え方が変わることがあり、注意が必要であることが示された。(国土地理院資料)。
宮城県沖・福島県沖で観測された海底地殻変動の結果はバックスリップモデルから推定されるこの地域の地殻変動速度ベクトルと若干異なるが調和的であることが報告された。また、海底地殻変動観測の結果から、海底基準点「宮城沖1」、「宮城沖2」の付近では、プレート境界の固着が強く、海底基準点「福島沖」の付近では固着が弱いと推定され、これらの結果は小繰り返し地震の分布などと調和的であることが報告された(海上保安庁資料)。
2006年1月〜2009年7月までの1ヶ月ごとの小繰り返し地震の震央分布から、2008年2月頃から東北地方南部の海溝側での活動が活発であることが示された。この地域では、2008年5月と7月に茨城県沖と福島県沖でそれぞれM7.0、M6.9のプレート境界地震が発生した。2009年中頃でも小繰り返し地震の活発な状態が続いており、2003年十勝沖地震後の活発化に匹敵する広がり・継続時間にも見えるとの報告があった(東北大学資料)。また、すべり量の推定の問題に関して、2008年7月の福島県沖の地震の例では、小繰り返し地震から推定される余効すべりで期待される歪変化と観測された歪計による歪変化が一致しないことが報告された(東北大学資料)。
関東地方の相似地震クラスター毎のすべり履歴について報告があり、相似地震から推定した関東地方のフィリピン海プレート・太平洋プレート上のすべりは、すべり速度がほぼ一定であり、房総スロースリップイベントに伴う加速及び太平洋プレートの銚子付近のM6クラスの地震に先行するすべりの減速が見られることが報告された(防災科学技術研究所資料)。
日向灘・南西諸島北部域の小繰り返し地震について報告があり、空間分布、発生頻度に関する知見が得られた(鹿児島大学資料)。
中〜大規模の繰り返し地震について、その位置、大きさ、発生頻度が報告された(気象庁資料)。
小繰り返し地震の周期性とゆらぎに基づく発生予測とそのモデル検証について報告があり、北海道南部から関東にかけての太平洋側の地域で2008年1年間の繰り返し地震の発生確率が計算され、観測結果と比較したところ整合的であることが示された。ただし、同地域での2009年1月〜6月の比較では、あまり観測結果と整合しなかった(気象研究所岡田正実客員研究員資料)。このような小繰り返し地震の長期予測では、むしろ予測から外れる場合が重要であり、プレート運動の変化の有無を定量的に検証できる可能性がある。大変重要な研究であるとのコメントがあった。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリング結果》
【1】気象庁 1.日本とその周辺 A1 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 十勝沖の地震(6月5日M6.4) C 松前沖[北海道南西沖]の地震(7月28日M4.0) 3.東北地方とその周辺 C 三陸沖の地震(6月20日M5.4等) C 宮城県沖の地震(6月23日M5.6) 4.関東・中部地方とその周辺 C 新潟県上越地方の地震(5月12日M4.8) C 静岡県西部の地震(5月25日M4.7) C 千葉県東方沖の地震(6月6日M5.9) C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 5.近畿・中国・四国地方とその周辺 A1 室戸岬沖[四国沖]の地震(7月22日M4.6) 6.九州地方とその周辺 C 大分県西部の地震(6月25日M4.7) C 長崎県北部の地震(6月28日M4.0) 7.沖縄地方とその周辺 C 台湾付近の地震(7月14日M6.5) 8.期間外・海外 A1 新潟県下越沖の地震(8月2日M4.9) C 熊本県天草・芦北地方の地震(8月3日M4.7) A1 箱根付近の地震活動(8月4日〜9日) C 宮古島近海の地震(8月5日M6.5) C 日向灘の地震(8月5日M5.0) C 東海道南方沖の地震(8月9日M6.8) A1 駿河湾の地震(8月11日M6.5) C 八丈島東方沖の地震(8月13日M6.6) A1 石垣島近海の地震(8月17日M6.8) C ホンジュラス北方の地震(5月28日Mw7.3) C ニュージーランド付近の地震(7月15日Mw7.6) C インドネシア、アンダマン諸島の地震(8月11日Mw7.5) 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる全国の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 A2 GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 2.北海道地方の地殻変動 C 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列 C 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 3.東北地方の地殻変動 C 横手市〜新庄市〜大崎市間の上下変動 C 奥州市〜一関市間の上下変動 C 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列 A2 2008年岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動 A2 宮城・福島・茨城県太平洋岸 GPS連続観測時系列 4.関東甲信地方の地殻変動 C 上越市〜糸魚川市〜下諏訪町間の上下変動 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測 A2 富士・箱根周辺の地殻変動 5.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 C 伊豆東部地区 GPS連続観測時系列 C 伊豆半島東部測距連続観測 C 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列 6.東海地方の地殻変動 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 菊川市付近の水準測量結果 A2 東海地方の上下変動 C 御前崎周辺 GPS連続観測時系列 C 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化 C 御前崎地中地殻活動観測装置観測 C 御前崎のおける絶対重力変化 A2 東海地方の非定常地殻変動 8.近畿地方の地殻変動 C 若狭町〜大津市〜岐阜市間の上下変動 9.中国・四国地方の地殻変動 C 室戸における絶対重力変化 【3】東京大学地震研究所 C 室戸岬沖の地震(M4.6)発生前後の地殻変動 C 地震研究所油壺観測坑における地殻変動連続観測結果(1997年7月〜2009年6月) C 日光・足尾付近の地震活動(2009年5月〜2009年7月) 【4】京都大学防災研究所 C 近畿地方北部の地殻活動 【5】九州大学 C 最近九州で発生した地震について(大分県西部,長崎県大村湾,熊本県中部) 【6】統計数理研究所 A3 b値とETASモデルにもとづく日本列島の標準的地震発生予測 【7】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2009年5月〜2009年7月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2009年5月〜2009年7月) C 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動の観測 (2007年11月〜2009年8月) C 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測(2006年8月〜2008年5月) C 宮城県沖地震活動パタンの変化 A3 2009年6月6日 銚子沖の地震 A3 2009年8月2日新潟県下越沖の地震 A3 2009年7月四国沖の地震 A3 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 (2009年5月〜2009年7月) A3 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2009年5月〜2009年7月) 【8】産業技術総合研究所 1.関東・甲信越地域 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2009年5月〜2009年7月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2009年5月〜2009年7月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 2.北陸・中部地域 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2009年5月〜2009年7月) 3.近畿地域 C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2009年5月〜2009年7月) 4.中国・四国地域 C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2009年5月〜2009年7月) --鳥取大学工学部・京大防災研・産総研 A3 2009年7月22日に発生した室戸沖の地震(M4.6)前後の地下水・地殻歪変化 A3 1946南海地震前の四国太平洋沿岸の上下変動 【9】海上保安庁 A3 南海トラフにおける海底地殻変動観測結果 C GPSによる地殻変動監視観測 A3 山口沖菊川断層帯の精密海底地形 【10】神奈川県温泉地学研究所 A3 2009年8月箱根火山の地震活動 -DD法による震源再決定結果とその地学的意味- A3 近年の箱根の群発活動発生域の相互関係
《2009年8月11日の駿河湾の地震》
【1】気 象 庁 ・ 駿河湾の地震活動の概略 ・ 近地強震波形を用いた震源過程解析 【2】国土地理院 ・ 駿河湾周辺の地殻水平変動図 ・ 駿河湾周辺GPS連続観測時系列 ・ 駿河湾周辺の地震後の地殻変動及び想定東海地震の想定前兆すべりから 推定される地殻変動 ・ 震源断層モデルと地殻変動 ・ 震源断層モデルから計算されたΔCFF ・ 御前崎地区高精度比高連続観測 ・ 駿河湾の地震に伴う潮位変化 ・ 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化 ・ 御前崎地中地殻活動観測装置観測結果 ・ 駿河湾周辺の水平歪 【3】東京大学地震研究所 ・ 駿河湾の地震(M6.5)の余震分布と地殻変動 【4】名古屋大学 ・ 駿河湾における海底地殻変動観測 ・ 8月11日駿河湾の地震の震源過程 ・ 2009年8月11日駿河湾の地震前後のひずみ記録 【5】統計数理研究所 ・ 2009年8月駿河湾の地震の余震活動と静岡県中部地域の地震活動 【6】防災科学技術研究所 ・ 地震活動の概要1 ・ 地震活動の概要2:メカニズム解の分布 ・ CMT解 ・ 本震直後に発生した余震の発震機構解 ・ 過去の地震活動状況 ・ 地震波速度構造 ・ DD法による詳細な震源分布 ・ 近地強震記録による震源過程 ・ 駿河湾で発生する地震の発震機構を説明するモデル —伊豆半島衝突の効果— ・ 過去の発震機構解変化 ・ 地震の前の応力集中 ・ ΔCFFによる東海地震に与える影響評価 ・ 傾斜データ変動 ・ GEONETにより観測された地震時変動 【7】産業技術総合研究所 ・ 駿河湾海底地質図 ・ 震源域近傍の産総研観測点の地下水等連続観測データ 【8】海上保安庁 ・ 駿河トラフの海底地形 ・ 駿河湾で発生した地震に伴う地殻変動について 【9】茂木清夫名誉委員 ・ 2009年8月11日の駿河湾地震の起こり方の特徴
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)地殻活動モニタリング結果に関する検討(気象庁) (A2)地殻活動モニタリング結果に関する検討(国土地理院) (A3)地殻活動モニタリング結果に関する検討(その他の機関) (C) 資料提出 なお、「2009年8月11日の駿河湾の地震」に関する議題については、報告を基本とする。
重点検討課題「プレート境界浅部の固着とすべりのモニタリング」プログラム
○冒頭説明(趣旨説明者 松澤副会長)
太平洋プレートやフィリピン海プレートの沈み込み境界浅部における固着とすべりの状況についての最新のモニタリング結果を検討し、固着やすべりの地域性とアスペリティの破壊の複雑性について理解を深める。
○各地域のすべり欠損分布の共通性と多様性・地域性 ○小領域での解析の詳細 ○中領域での解析の詳細 ○すべり欠損分布のモニタリングにおける問題点 国土地理院 ○海底地殻変動から見たプレート境界の固着とすべりの状況 海上保安庁 ○小繰り返し地震から見た千島弧から東北日本弧にかけてのプレート境界のすべりの時空間分布 ○プレート境界すべりの推定の感度・分解能・信頼度・仮定 東北大学 ○相似地震クラスター毎のすべり履歴 防災科学技術研究所 ○日向灘・南西諸島北部域の小繰り返し地震 鹿児島大学 ○中〜大規模(M4〜M6)の繰り返し地震についての規則性と不規則性 気象庁 ○繰り返し地震の発生の規則性と不規則性に関する研究の現状 繰り返し地震の周期性と揺らぎに基づく発生予測 気象研究所 客員研究員 岡田 正実