地震予知連絡会の活動報告

第115回地震予知連絡会(1995年5月22日) 議事概要

 平成7年5月22日、国土地理院関東地方測量部において、第115回地震予知連絡会が開催され、兵庫県南部地震の余震活動、東海地方の地殻活動、新潟県北部の地震活動等について国立大学、関係観測機関等から報告がありました。

 以下に主な議事の概要を紹介します。

1.兵庫県南部地震の余震及び周辺の地震活動及び地殻変動について

 平成7年1月17日に発生した兵庫県南部地震(M7.2)の余震活動は、次第に減衰しているが、4月6日、M4.1、5月4日、M4.3などのM4クラスの余震が発生するなど、依然活動は続いている(気象庁資料)。

 余震は、淡路島から神戸にかけて狭い帯状の領域で発生しているが、その延長上の丹波地方、及び直交する山崎断層でも活発な地震活動が見られる(京都大学資料)。特に、丹波地方の活動を時系列で見ると、兵庫県南部地震の発生直後から明らかに活発化している(京都大学資料)。なお、淡路島から神戸にかけて、余震を再検測し、精密な分布を調査したところ、2頁に見られるよりも狭い帯状に発生しており、一つの平面で発生したと見られる。

 今回の震源域や周辺地域の長期的な地震活動について、領域に分けてその推移を見てみると、震源を含む淡路島〜神戸の領域では、約30年前からM4以上の地震が発生しておらず、静穏化していたものと見られる(茂木会長資料)。一方、山崎断層、和歌山周辺及び丹波地方の地震活動には、活動に消長が見られるが、このような長期にわたる静穏化は見られない(茂木会長資料)。

 淡路島の東岸の水準測量を実施し、約20年間の地殻上下変動を明らかにした(国土地理院資料)。その結果、淡路島北東岸東浦町を中心に最大約15cmの隆起が明らかになった。この地域にも活断層があり、野島断層以外の断層が活動した可能性も考えられる。

2.東海地方の地殻活動

 東海地方の浅い地震活動は、4月18日の駿河湾の地震、3月17日の長野県西部の地震等中規模の地震活動が見られるが、深い地震はほぼ一様に発生しているように見える(名古屋大学資料)。東海地方を地域分けして地震活動を見ると、想定震源域を含む領域では、北部に4月18日、M5.1の地震が発生したが、依然南部の活動は低調である(気象庁資料)。その東側の領域では、伊豆半島東方沖の活動が静かになっている。

 4月18日の駿河湾北部の地震は、北東−南西圧縮の応力場で発生した地震であり、震源は約20kmとやや深い。余震はごく狭い領域に固まって発生していることが特徴である。余震活動は、時間的にも短い間に固まって起きている(防災科学技術研究所資料)。この地震を過去の地震の震源分布に重ねると、フィリピン海プレートの内部の地震活動に一致し、今回の活動もプレート内のものであると考えられる(防災科学技術研究所資料)。

 本年4月の森〜掛川〜御前崎間の水準測量の結果、1月の測量と比較して、森に対して掛川で約2.3cm、浜岡で約4.7cmの隆起が見られた(国土地理院資料)。掛川に対する浜岡の変動を見ても、約2.5cmの隆起で、年周変化を補正しても約1.6cmの隆起となる(国土地理院資料)。しかし、経年的な変動を見ると、1月の測量データのみが経年的な変動からはずれている。また、同時期のGPSの連続観測結果を見ても、顕著な変動は見られないことから、1月の測量に何らかの系統誤差が混入した可能性があると考えられる。

3.新潟県北部の地震活動について

 本年4月1日に発生した新潟県北部の地震(M6.0)以後、震源域ではM4クラスを含む余震が続いている(気象庁資料)。余震活動の減衰は順調ではなく、群発的な様相を呈している。今回の震源域と、周辺で過去地震活動の活発な新潟県南西部と会津地域についてその推移を見ると、活動が連動するケースとそうでないケースがあり、複雑な様相を呈している(東北大学資料)。今回の地震について、震源域において精密な地震観測を実施した結果、余震は深さ3〜8kmに固まって、北西下がりに傾斜した分布をもって発生していることが明らかになった(東京大学地震研究所資料)。この地域について地震活動の時系列を見ると、昨年10月頃から活発化していた(東京大学地震研究所資料)。

 今回の地震の前後に、地下水の水位や水温等に変化があったことが報告された。特に、本震の震源の南東にある井戸では、水位が本震の発生前から上昇し、本震発生後その上昇が止まったことが報告された(東京大学地震研究所資料)。

 本震発生後、緊急に実施された水準測量の結果では、水準路線が震央の近傍を通過しているにかかわらず、顕著な変動は見られなかった((国土地理院資料1(資料2)。

4.北海道・東北地方の地震活動及び地殻変動

 昨年10月4日に発生した北海道東方沖地震の余震活動は減衰しつつあるが、4月29日にM6.4の余震が発生するなど、M6前後の余震を含め依然活動が続いている(気象庁資料)。

 昨年12月28日に発生した三陸はるか沖地震の震源域において、海底地震観測を行い、余震の震源を精密に決定した(東北大学資料)。その結果、東経143゜より東では余震はほぼ水平な面上に分布するのに対し、西側では緩やかに西に傾き下がる面上に分布していることが明らかになった。また、143゜付近と日本海溝近傍では、ほとんど余震が発生していないことも確かめられた。この地震の余震活動は順調に減衰している(気象庁資料)。

 東北地方日本海側の飛島において1月頃から異常な地殻歪・傾斜変化が見られていたが、4月頃からは顕著な変化が見られていない(東北大学資料)。秋田沖で地震活動が見られるが、特にこの異常地殻変動とは関連は認められない。

 本年3月に八戸周辺の水準測量を実施し、三陸はるか沖地震に伴う地殻上下変動を明らかにした。内陸の五戸から海岸の八戸に向かって沈降が大きくなる(国土地理院資料)。また、海岸に沿っては、三沢より南に向かって沈降が大きくなる傾向が見られる(国土地理院資料)。なお、八戸の局所的に大きな沈降は、地盤の影響と考えられる。

第115回地震予知連絡会記者発表の概要

日時   平成7年5月22日(月) 18:15〜19:30
場所   大手町第1合同庁舎共用第1会議室
出席者  茂木会長、宇津副会長、塚原委員、平澤委員、石井委員、藤井委員、
     安藤委員、内池委員、岡田委員、多田委員

115回地震予知連絡会の討議内容説明

 兵庫県南部地震について
  余震活動について(内池委員)
  余震活動と周辺地域における地震活動について(安藤委員)
  兵庫県南部地震前の地震活動静穏化について(茂木会長)
  淡路島の水準測量結果について(多田委員)

 東海地方について
  最近の地震活動について(藤井委員、内池委員)
  駿河湾北部の地震について(岡田委員)
  掛川、御前崎の上下変動について(多田委員)

 新潟県北部の地震について
  新潟県とその周辺の地震活動について(平澤委員)
  新潟県北部の地震活動について(石井委員)
  震源域周辺における地下水観測について(石井委員)
  新潟県北部の水準測量結果について(多田委員)

 北海道東方沖地震について
  余震活動について(内池委員)

 三陸はるか沖地震について
  余震分布について(平澤委員)
  余震活動について(内池委員)
  八戸市周辺の水準測量結果について(多田委員)

 その他の地域について
  秋田沖の地殻活動について(平澤委員)

質疑の概要

記者:淡路島では野島断層以外の断層が見つかったのか?
多田委員:地質調査所が北東岸で発見したと聞いたが未確認である。

記者:御前崎の水準測量で前回の結果に問題があったとはどういうことか?
多田委員:標尺の温度による伸び縮みとか測定者の癖とか色んな原因が重なり合っているのだろう。GPSの結果には変化がないので、前回の御前崎が大きく下がったのは測量の誤差と考えられる。

記者:静岡県による測量や訓練で観測した結果と比べるとどうか?
多田委員:両者とも今回の結果と一致しており今回の測量は問題ない。

記者:前々回の測量は大丈夫か?
多田委員:問題ないと思う。もちろん測量に誤差はつきものであるが。

記者:今後の測量の予定は?
多田委員:例年どおり次回は7月に実施する。周辺の路線も閉合するように観測するので信頼できるデータが得られるだろう。GPSもあるので変化があれば見つかるはず。

記者:御前崎の沈降は鈍っていると考えてよいか?
多田委員:その傾向は確かに続いている。
茂木会長:前回と比較すると、森から掛川の間で隆起が大きくなっている。誤差の原因については検討課題である。

記者:今回の測量結果については、予知連として異常ではないという見解か?
茂木会長:そうだ。沈降が鈍るのことはこれまでも時々あった。

記者:駿河湾北部の地震はプレート境界で起きた可能性はないということか?
茂木会長:各機関の報告は大体一致している。確定という訳ではないが、プレート内部の地震という考えが大勢である。
岡田委員:P軸の位置はどの機関でもほぼ同じである。菊池さん(横浜市大)のメカニズムが念頭にあるのだろうが、あれだけがだいぶ違ってしまっている。今回の地震は明らかに深いのでプレート内部だろう。

記者:東海地震の前兆ではないのか?
茂木会長:歪計のデータ等にも変化がないので、短期的な前兆ではないと思う。

記者:新潟県北部の地震は、図(配付資料17頁)に記入されている断層で起きたのか?断層に名前はついているのか?
石井委員:地震は厚い堆積層の下で起きており何とも言えない。新潟大が調査して記入した断層なので、そちらに問い合わせてほしい。

記者:前回言っていたボーリングのデータは調査したのか?
茂木会長:今回はその報告はなかった。

記者:余震が続いているようだが?
茂木会長:前震−本震−余震型と群発型の中間的な起こり方になっている。

記者:新潟県周辺の地震空白域についての新たなコメントはないか?
茂木会長:PとQの間(配付資料14頁)が空白域では、という考えがあるが、特には議論はなかった。

記者:地震予知体制について様々な動きがあるが、予知連としてはどう対応するのか?
茂木会長:法案については、我々はよく聞いてないし、皆さんの方が詳しいだろう。従ってコメントできない。

記者:事態を静観するということか?
茂木会長:4/19、25に開かれた地震予知推進本部の会議で科技庁から報告をうけた。非常に急に物事を進めているが、もっとじっくりやるべきだと思う。
塚原委員:事務局から現在の状況について説明した。法案の骨子は固まりつつあると聞いているが、これからの状況を見て対処する。
茂木会長:午前中1時間半ほど意見交換を行った。

記者:科技庁の推進本部強化の話は正式なものになっているが、4/6に予知連が表明した方針と同じものを作るように思える。我々も予知連が今後どうなるのか戸惑っているが。
茂木会長:地震予知の体制が今のままでいいという事はないが、予知は大変難しいので、これからじっくり検討すべきだろう。
塚原委員:これからいろんな方面の話を聞きながら検討していく。

(事務局:国土地理院)