地震予知連絡会の活動報告
第184回地震予知連絡会(2009年11月20日) 議事概要
平成21年11月20日(金)、国土地理院関東地方測量部において第184回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関するモニタリング結果の報告が行われ、続いて重点検討課題として「地震波干渉法」に関する報告・議論が行われ、最後に次回の重点検討課題「内陸地震準備過程のモニタリング」に関する趣旨説明が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.地殻活動モニタリング結果に関する検討
(1)全国の地震活動について
国内で2009年8月から10月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は31個であった(気象庁資料)。
(2)日本列島の歪み変化
GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図からは、北海道では2003年9月26日の十勝沖地震及び2008年9月11日の十勝沖の地震の余効変動、2009年6月5日の十勝沖の地震に伴う地殻変動の影響が見られ、東北地方では、2008年6月14日に発生した平成20年岩手・宮城内陸地震の影響が見られる。伊豆諸島北部では、北東−南西方向の伸びが依然として見られる。また、2008年頃から富士・箱根周辺で、北北東−南南西方向の伸びが見られる。駿河湾周辺では、2009年8月11日に発生した駿河湾の地震に伴う地殻変動の影響が見られる(国土地理院資料)。
(3)北海道周辺の太平洋プレート内部の地震活動度
北海道周辺の太平洋プレート内部の地震活動度に関して、根室沖では2005年10月頃から静穏化が始まり、現在も継続中であるとの報告があった(北海道大学資料)。
(4)2009年8月11日の駿河湾の地震
余震は次第に減少しており、これまでの余震で最大のものは8月13日18時11分のM4.5(最大震度3)であることが報告された(気象庁資料)。
牧ノ原市から富士市に至る海岸沿いの路線の水準測量結果には、牧ノ原市北部から静岡市にかけて、駿河湾の地震による最大1cm超の隆起が見られた。一方、牧ノ原市の一部で見られる沈下は、軟弱地盤による局所的なものであることが報告された(国土地理院資料)。
海底地殻変動観測に関する報告があった。駿河湾の地震の震央から北北東に約20kmの場所に位置する観測点(SNW)で、過去の結果から推定した地震直前の座標値と地震後の座標値から南に6.6±5.6cm、西に4.2cm±2.4cmの変動が認められた。この変動は国土地理院の震源断層モデルによる計算値とは一致しないが、地震後2回の観測値がほぼ同じであるため、変動があったことは事実だと考えられるとの報告があった(名古屋大学資料)。
(5)東海地域の地殻変動
東海地域の水準測量結果(年周補正後)において、掛川市の水準点140-1に対し御前崎市の水準点2595は、前回と比較してわずかに沈降しており、2005年夏以降の沈降のトレンド上にある(国土地理院資料)。
(6)西南日本の深部低周波微動と短期的スロースリップ活動の状況
2009年10月12日から22日にかけて紀伊半島中部で発生した微動活動は、北東及び南西方向に移動したが、北東方向の活動が活発であった。2009年10月29日から11月10日にかけて四国西部で発生した微動は、北東へ移動したのち南西へ移動した。2009年8月21日から9月2日、9月30日から10月3日にかけては愛知県中部で微動活動があった(防災科学技術研究所資料)。
(7)9月30日 スマトラ南部(インドネシア)の地震
2009年9月30日19時16分(日本時間)、インドネシアのスマトラ南部で発生した地震はMw7.5で、スマトラ島の下に沈み込むインド・オーストラリアプレートの内部で発生した地震であり、発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ型であることが報告された(気象庁資料)。
2.重点検討課題「地震波干渉法」の検討
本課題の目的は、「地震波干渉法」の概要について再認識するとともに、地下構造調査への応用、モニタリング手法としての可能性を秘めた構造の時間変化への応用について、それらの可能性を検討することである。はじめに「地震波干渉法」の理論と応用に関するレビューが報告され、その後実際のデータを用いた解析・応用事例が報告された。
「地震波干渉法」とは、波動場を異なる2地点で同時に観測した場合、それらの地震波形の相互相関処理を行うことにより、一方を震源、他方を受振点とした場合に観測される波形を合成する手法であり、相互相関解析、仮想震源法とも呼ばれている(名古屋大学渡辺俊樹准教授資料)。
地下の地盤や地殻構造の推定への応用事例として、関東地方の地震基盤深度、日本列島各地域のS波速度構造の推定結果が報告された。
関東地方の地震基盤深度は、北東で浅く南西に向かって深くなる傾向が見られ、特に利根川・荒川沿いや横浜・房総半島南西域で基盤深度が深いことが報告された(横浜市立大学吉本和生准教授資料)。
日本列島各地域のS波速度構造は、北海道では道北から石狩にかけて低速度領域が帯状に拡がり、道東(根室−釧路)でも低速度領域が見られ、その他では高速度領域が拡がっていることが報告された(北海道大学資料)。また北海道では日高衝突帯下、東北地方では火山帯下、中部・関東地方では関東平野と新潟−神戸構造帯下、西南日本では四万十付加帯と火山帯下で低速度域が存在していることが報告された。また、中部・関東地方の下部地殻ではモホ面に沿って低速度域が拡がっていることが示された(東京大学地震研究所資料)。
地震に伴う地震波速度の変化を検出した事例として、2005年福岡県西方沖の地震、2007年能登半島地震、2007年大分県中部の群発地震の3件が報告された。
2005年福岡県西方沖の地震発生前には、地震波速度の変化は見られなかったが、地震発生直後から約0.1秒ほどの遅れが検出され、その遅れが4年経っても続いていることが報告された(東北大学資料)。
2007年能登半島地震の例では、地震発生約2週間前に地震波速度に変化が見られ地震発生とともに元のレベルに回復したことや、地震発生後に変化が検出され2年半経っても元のレベルに回復していないことが報告された(京都大学防災研究所資料)。
2007年6月と10月の大分県中部の群発地震活動の例でも地震波速度の変化が検出され、6月の活動時には約4ヶ月、10月の活動時には3ヶ月かけて元のレベルに回復したことが報告された(防災科学技術研究所資料)。
人工的に弾性波を連続的に放射させる能動震源を用いた地震波速度の時間変化を捉える試みの結果には、気温と降水量に相関が見られた。より深い場所での地震波速度の時間変化を捉えるためには、気象の影響を適切に補正する必要があることが報告された(気象研究所資料)。
3.次回(第185回)重点検討課題「内陸地震準備過程のモニタリング」の趣旨説明
本課題の目的は、内陸地震の発生に至る準備過程の定量的モデル作成に有効な各種観測・モニタリング結果、および理論的研究をレビューし、特定の断層域への応力集中過程のモニタリングの方向性を検討すること、議論の範囲として、定性的・定量的なモデル構築に向けての1.測地学的観測によるひずみ集中の特徴と地殻と最上部マントルの不均質性と物性に関わる観測、2.内陸地震発生域への応力集中過程の解明ための観測とモデル化の現状レビューを行うこと、との説明があった(趣旨説明者:産業技術総合研究所桑原保人委員資料)。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリング結果》
【1】気象庁 1.日本とその周辺 A1 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 日高支庁東部の地震(9月8日M4.8) C 根室支庁北部の地震(9月29日M4.5) C 浦河沖の地震(10月10日M5.1) C 根室半島南東沖の地震(10月11日M5.4) 3.東北地方とその周辺 C 青森県西方沖の地震(8月24日M5.4) C 福島県会津の地震(10月12日M4.9) 4.関東・中部地方とその周辺 C 新潟県下越沖の地震(8月2日M4.9) C 箱根付近の地震活動(8月4日〜13日) C 東海道南方沖の地震(8月9日M6.8) A1 駿河湾の地震(8月11日M6.5) C 八丈島東方沖の地震(8月13日M6.6) C 千葉県北部の地震(9月4日M4.5) C 長野県南部の地震活動(10月6日M3.9等) C 茨城県沖の地震(10月23日M5.0) C 新潟県中越地方の地震(10月23日M3.3) C 松代における地殻変動連続観測 C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 C 天竜船明(ふなぎら)観測点におけるレーザー式変位計による地殻変動観測 5.近畿・中国・四国地方とその周辺 C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 6.九州地方とその周辺 C 熊本県天草・芦北地方の地震(8月3日M4.7) C 日向灘の地震(8月5日M5.0) C 薩摩半島西方沖の地震(9月3日M6.0) C 大分県西部の地震活動(8月31日M3.9など) A1 奄美大島北東沖の地震(10月30日M6.8) 7.沖縄地方とその周辺 A1 宮古島近海の地震(8月5日M6.5) C 石垣島近海の地震(8月17日M6.7) C 沖縄本島北西沖の地震(9月29日M6.1) C 台湾付近の地震(10月4日M6.3) 8.期間外・海外 C 小笠原諸島西方沖〔父島近海〕の地震(11月4日M5.6) C ジャワ(インドネシア)の地震(9月2日Mw7.0) A1 サモア諸島の地震(9月30日Mw7.9) A1 スマトラ南部(インドネシア)の地震(9月30日Mw7.5) A1 バヌアツ付近の地震活動(10月8日Mw7.8等) C ニューギニア付近の地震(10月24日Mw6.9) 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる全国の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 A2 GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 2.北海道地方の地殻変動 C 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列 C 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 3.東北地方の地殻変動 C 利府町〜石巻市間の上下変動 C 牡鹿地区GPS繰り返し観測 C 北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列 A2 2008年岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動 A2 宮城・福島・茨城県太平洋岸 GPS連続観測時系列 4.関東甲信地方の地殻変動 C 松本市〜小千谷市間の上下変動 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測 A2 富士山周辺の地殻変動 5.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 C 伊豆東部地区 GPS連続観測時系列 C 伊豆半島東部測距連続観測 C 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列 6.東海地方の地殻変動 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 菊川市付近の水準測量結果 A2 東海地方の上下変動 C 御前崎周辺 GPS連続観測時系列 A2 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均,時間平均) C 切山基線精密辺長測量 C 御前崎地中地殻活動観測装置観測 A2 東海地方の非定常地殻変動 8.北陸・中部地方の地殻変動 C 福井市〜関市〜高山市間の上下変動 C 塩尻市〜富山市間の上下変動 C 小松市〜津幡町間の上下変動 9.九州・沖縄地方の地殻変動 C 奄美大島北東沖の地震前後の地殻変動 10.その他 C 硫黄島GPS連続観測結果 C GPS繰り返し観測 C 「だいち」PALSARによる硫黄島の解析結果について 【3】北海道大学 A3 北海道周辺の太平洋プレート内部の地震活動度のモニタリング 【4】東北大学 議題提出無し 【5】東京大学理学系研究科・地震研究所 C 日光・足尾付近の地震活動(2009年8月〜2009年10月) C 横坑における地殻変動連続観測結果 (1997年7月〜2009年10月) C 御前崎における絶対重力変化 【6】東京工業大学 議題提出無し 【7】名古屋大学 A3 駿河湾の地震にかかる海底地殻変動臨時観測結果 【8】京都大学防災研究所 C 近畿地方北部の地殻活動 C 地殻活動総合観測線の観測結果 【9】九州大学 議題提出無し 【10】鹿児島大学 議題提出無し 【11】統計数理研究所 議題提出無し 【12】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2009年8月〜2009年10月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2009年8月〜2009年10月) C 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動の観測 (2008年2月〜2009年11月) C 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測(2006年11月〜2009年11月) C 東海地域推定固着域における長期地震活動変化 A3 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 (2009年8月〜2009年10月) A3 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2009年8月〜2009年10月) 【13】産業技術総合研究所 1.関東・甲信越地方 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2009年8月〜2009年10月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2009年8月〜2009年10月) −神奈川県温泉地学研究所・産総研− 2.北陸・中部地方 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2009年8月〜2009年10月) 3.近畿地方 C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2009年8月〜2009年10月) 4.中国・四国地方 C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2009年8月〜2009年10月) −鳥取大学工学部・産総研− 【14】海上保安庁 C GPSによる地殻変動監視観測 【15】その他関係機関 議題提出無し
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)地殻活動モニタリング結果に関する検討報告(気象庁) (A2)地殻活動モニタリング結果に関する検討報告(国土地理院) (A3)地殻活動モニタリング結果に関する検討報告(その他の機関) (C) 資料提出のみ
重点検討課題「地震波干渉法」プログラム
○冒頭説明(趣旨説明者 山岡部会長)
最近、世界的に注目されている「地震波干渉法」について取り上げ、将来のモニタリング手法としての可能性を検討する。
○地震波干渉法の原理と概要 名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山・防災研究センター 准教授 渡辺 俊樹 ○微動アレイ探査法と地震波干渉法 独立行政法人 建築研究所 国際地震工学センター 上席研究員 横井 俊明 ○地盤・地震基盤構造調査への応用 横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科 准教授 吉本 和生 ○Hi-Netデータの地震ノイズ干渉法解析から見える北海道の地殻構造 北海道大学 ○静岡県森町に設置した弾性波アクロス送信装置を用いた解析 気象研究所 ○東北大学大学院理学研究科における地震波干渉法に関する研究 東北大学 ○単独微小地震観測点の雑微動の自己相関関数を利用した地下構造の時間変化検出の可能性 京都大学防災研究所 ○地震波干渉法によって検出された2007年大分県中部の群発地震に伴う地震波速度変化 防災科学技術研究所 ○地震波干渉法を用いた日本列島S波速度構造の時間変化の検出に向けて 東京大学地震研究所