地震予知連絡会の活動報告

第193回地震予知連絡会(2011年11月18日) 議事概要

 平成23年11月18日(金)、国土地理院関東地方測量部において第193回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関するモニタリングについての報告が行われ、続いて重点検討課題として「東北地方太平洋沖地震に関する検討(その3)」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その2)千島海溝」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

 国内で2011年8月から10月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は57個であった。そのうち9個はM6以上であった(気象庁資料)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 2011年8月から10月までに解析対象領域内で目立った超低周波地震活動は検出されなかった。単発的に発生する超低周波地震が福島〜茨城県沖で検出された。十勝沖でも掲載基準に達しない超低周波地震が検出された(防災科学技術研究所資料)。

(3)日本列島の歪み変化

 GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図に、東北地方太平洋沖地震の震源域に向かって伸びる歪みが見られる(国土地理院資料)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)日本海溝周辺

・東北地方太平洋沖地震の前震活動
 東北地方太平洋沖地震の余効変動は減衰しながらも継続している。GPSデータを用いた推定によると、東北地方太平洋沖地震後のプレート境界面上の滑りは、本震時の滑り領域の周囲で起きていることが報告された(国土地理院資料)。海底地殻変動観測によると、銚子沖および福島沖では東南東向きの変動が見られる一方、本震震央付近では大きな変動は見られない(海上保安庁資料)。

(2)相模トラフ周辺

・房総半島沖のスロースリップ
 千葉県東方沖で10月25日頃からフィリピン海プレートと陸のプレート境界で北北西−南南東方向に圧力軸を持つ逆断層型の地震が多発した(気象庁資料)。同時期に傾斜計でゆっくりとした変動が観測され、スロースリップの滑り領域は地震活動とともに南へ移動したと推定された(防災科学技術研究所資料)。GPS観測でも同時期に南南東方向への非定常地殻変動が検出され、滑り領域の中心が南へ移動したと推定された(国土地理院所資料)。1996年、2002年、2007年にも今回と同様に地震活動が発生している(気象庁資料)。スロースリップ発生の繰り返し間隔が示され、前回と今回のスロースリップの発生間隔は約50ヶ月であったことが報告された(防災科学技術研究所資料)。GPSデータにより推定されたプレート境界面上の滑り分布モデルが示され、過去3回発生したスロースリップとほぼ同じ場所で起きていることが報告された(国土地理院所資料)。

(3)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 2011年8月〜10月に、短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動があった(防災科学技術研究所資料)。

2.重点検討課題「東北地方太平洋沖地震に関する検討(その3)」の検討

 本課題の目的は、今後の地殻活動の推移予測や将来の巨大地震発生の予測の枠組みの検討を行うことにある。これらに関して、3部に分けて検討が行われた。

◆第1部 東北地方太平洋岸の隆起と沈降の履歴についてのレクチャー

 三陸海岸の第四紀後期隆起プロセスに関するレクチャーが行われた。三陸海岸北部での隆起の不足を補うためには、海岸隆起を伴うイベントが発生する可能性が示された。三陸沖の変動地形に基づいて、西傾斜の逆断層型の断層モデルが提示された(千葉大学・宮内崇裕教授資料)。

◆第2部 陸上モニタリング結果

 余震活動は次第に低下しつつあるものの、本震発生前と比べると活発な状況が続いていることが報告された。福島県会津から山形県置賜地方では、逆断層型〜横ずれ断層型の地震が継続して発生していることが報告された。11月15日から30日間における余震域でのM7以上の地震の発生確率は約15%であることが報告された(気象庁資料)岩手県北部を除き、太平洋沿岸では減衰しながらも隆起が継続していることが報告された。余効変動データの対数関数近似曲線を用いて地震時沈降の回復時間を推定すると、銚子周辺を除いて、数十年以内に全沈降量が余効変動によって回復するのは困難であることが示唆された。プレート境界面の深い場所で約3mの滑りが生ずれば、地震時沈降の回復が可能と試算された(国土地理院所資料)。繰り返し地震による余効滑りの推定結果が示された。宮城県北部から岩手県沿岸では、地震時滑りの深部延長で大きな滑りが見られる一方、福島県南部から茨城県沖では、海岸直下のプレート境界深部よりもやや沖合側で大きな余効滑りが見られることが報告された(東北大学資料)。余震活動の時空間分布の解析から,海溝沿いの活動が最近3ヶ月間静穏化しているように見えることが報告された.また,9月17日岩手県沖地震(M6.6)の余震活動の特徴として大きめの地震が多いが,この領域ではもともとb値が低くp値が高い傾向があり,余震の減衰が早いことが示唆された(統計数理研究所資料)。

◆第3部 海底観測結果

 GPS/A観測による地震時の海底水平変動の結果から、変位は宮城県沖に集中しており,海溝軸に近づくほど変位が増大していることがわかった。海陸全測地データから推定された地震時滑り分布によると、震源より海溝側に大きな滑りが集中し、南北にも限られた広がりであることが報告された。また,地震後の地殻変動観測から,余効変動パターンが複雑であることが示唆された(東北大学・日野亮太准教授資料)。岩手県沖から茨城県沖にかけて設置した海底地震計観測による余震分布が紹介され、震源付近のプレート境界では余震がほとんど発生していない等の結果が示された(東京大学地震研究所資料)。地震発生前後の海底地形データによると、数十m規模の変動は分岐断層等に沿っては起こっていないことが示唆された。また,海溝軸では大規模地滑りを伴いながら滑りが進行し,一部分岐断層として海底に抜けていることがわかった(海洋研究開発機構資料

3.次回(第194回)重点検討課題「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その2)千島海溝」の趣旨説明

    

千島海溝沿いのプレート境界で発生する巨大地震発生を予測するための枠組みを検討するため、滑り欠損、相似地震、地震活動等の解析結果を持ち寄り、現在のプレート境界の状態把握について議論する。議論は、1)千島海溝沿いプレート境界のモニタリング状況、2)千島海溝沿いの巨大地震、の2部に分けて行われる予定である。(趣旨説明資料)。

(事務局:国土地理院)

各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリングに関する検討》


【1】気 象 庁
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
  O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構
  S 東海地域の地震活動
2.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  S 浦河沖の地震(8月1日 M5.5)
  S 浦河沖の地震(9月18日 M5.0)
  S 福島県沖の地震(8月12日 M6.1)
  S 岩手県沖の地震(9月17日 M6.6)
  S 青森県東方沖の地震(10月7日 M5.0)
  S 福島県沖の地震(10月10日 M5.6)
  O 東北地方太平洋沖地震の余震域周辺における相似地震活動
  S 茨城県沖の地震(9月10日 M4.8、13日 M4.3)
  S 茨城県沖の地震(9月15日 M6.3)
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
  S 遠州灘の地震(8月12日 M5.2)
  S 茨城県南部の地震活動(8月)
  S 埼玉県南部の地震(8月17日 M4.3)
  S 東京湾の地震(8月31日 M4.6)	
  S 埼玉県南部の地震(9月4日 M4.7)
  O 千葉県東方沖の地震活動(10月25〜 最大M3.7)
  S 東海・南関東地方の地殻変動(2cを含む)
  S 天竜船明レーザー式変位計による地殻変動観測(2cを含む)
  S 茨城県南部の地震(11月3日 M4.9)
  c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 8月20日から22日頃の愛知県における深部低周波地震活動に伴うひずみ変化
  S 四国付近の長期的スロースリップの特徴
 d.その他
  S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化
  S バヌアツ諸島の地震(8月21日 Mw7.1)
  S インド、シッキム州の地震(9月18日 Mw6.9)
  S トルコ東部の地震(10月23日 Mw7.2)
3.その他の地殻活動等
  S 十勝地方南部の地震(8月22日 M4.7)
  S 日高地方中部の地震(9月7日 M5.1)
  S 日高地方西部の地震(9月13日 M4.5)
  S 上川地方中部の地震(10月21日 M6.3)
  S 福島県沖の地震(8月19日 M6.5)
  S 岩手県沖の地震(10月5日 M5.0)
  S 駿河湾の地震(8月1日 M6.2)
  S 千葉県東方沖の地震(8月6日 M5.2)
  S 伊豆東部の地震活動(9月18〜23日 最大M2.1)
  O 富山県東部の地震活動(10月5日〜 最大M5.4)
  S 松代における地殻変動連続観測
  S 和歌山県北部の地震(8月10日 M4.7)
  S 大阪府南部の地震(10月9日 M3.9)
  S 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測
  S 熊本県熊本地方の地震(10月5日 M4.5)
  S 群馬県北部の地震(11月7日 M4.5)
  S 沖縄本島北西沖の地震(11月8日 M7.0)
  S 秋田県内陸南部の地震(11月10日 M4.1)
  S アリューシャン列島フォックス諸島の地震(9月2日 Mw6.8)
  S バヌアツ諸島の地震(9月4日 Mw7.0)
  S フィジー諸島の地震(9月16日 Mw7.3)
  S ケルマディック諸島の地震(10月22日 Mw7.4)
  O 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震発生後の震源決定作業の検測基準及び検知能力について

【2】国土地理院
1.地殻活動の概況
 b.地殻変動
  O GEONETによる全国の地殻水平変動
  O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差
  O GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化
2.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  S 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列
  S 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ(十勝沖、釧路沖地震)
  S 北海道地方の最近の地殻変動(水平・上下・1ヶ月・3ヶ月時系列)猿払固定
  O 東北地方の上下変動
  O 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列
  O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動 対数関数近似(Q3)
  O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル
  O 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ
  O 東北地方太平洋沖地震のプレート境界面上の滑り分布モデル
  O 9/17岩手県沖の地震に伴うベクトル図及び3成分時系列グラフ
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
  O 関東地方の上下変動
  S 鹿野山精密辺長連続観測
  O 房総半島での非定常な地殻変動
  O 房総半島沖ゆっくり滑りによるプレート境界の滑り分布
  S 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差
  S 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 東海地方各験潮場間の月平均潮位差
  O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
  O 菊川市付近の水準測量結果
  O 東海地方の上下変動
  S 御前崎周辺 GPS連続観測時系列
  S 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列
  S 御前崎長距離水管傾斜計月平均
  S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化
  S 切山基線精密辺長測量結果
  S 御前崎地中地殻活動観測装置観測
  S 東海地方の最近の地殻変動
  S 御前崎における絶対重力
  O 豊後水道周辺の非定常的な地殻変動
  O 豊後水道周辺の推定プレート間滑り分布
  O 豊後水道スロースリップの積算モーメント
  O 座標時系列の観測値と計算値の比較
3.その他の地殻活動等
  O 9/29福島県浜通りの地震に伴うベクトル図及び3成分時系列グラフ
  S 伊豆半島東部地区 GPS連続観測時系列
  S 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列
  O 9/18-23伊豆東部の地震に伴うベクトル図及び3成分時系列グラフ
  O 10/5富山県東部の地震に伴うベクトル図及び3成分時系列グラフ

【3】北海道大学
提出議題無し

【4】東北大学
提出議題無し

【5】東京大学地震研究所
2.プレート境界の固着状態とその変化
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
  O 房総半島東岸付近の地震活動(2011年10月)
3.その他の地殻活動等
  O 2011年東北地方太平洋沖地震前後の活断層周辺における地震活動度変化

【6】東京工業大学
提出議題無し

【7】名古屋大学
2.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  S 東北地方太平洋沖地震による誘発地震の発生メカニズム
  S 3次元不均質構造を考慮した2011年東北沖地震のすべり分布

【8】京都大学防災研究所
3.その他の地殻活動等
  S 近畿地方北部の地殻活動
  S 地殻活動総合観測線の観測結果

【9】九州大学
提出議題無し

【10】鹿児島大学
提出議題無し

【11】統計数理研究所
提出議題無し

【12】防災科学技術研究所
2.プレート境界の固着状態とその変化
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
  S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測
  O 房総半島沖スロースリップイベント(2011年10月)
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 関東・東海地域における最近の傾斜変動
  S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動の観測
  O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2011年8月〜10月)(2aを含む)
  O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
3.その他の地殻活動等
  S 2011年10月5日飛騨山脈の地震

【13】産業技術総合研究所
2.プレート境界の固着状態とその変化
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2011年8月〜2011年10月)
  S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2011年8月〜2011年10月)
3.その他の地殻活動等
  S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2011年8月〜2011年10月)
                           -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研
  S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2011年8月〜2011年10月)
  S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2011年8月〜2011年10月)
  S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2011年8月〜2011年10月)
                           --鳥取大学工学部・産総研
【14】海上保安庁
1.地殻活動の概況
 b.地殻変動
  S GPSによる地殻変動監視観測
2.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  O 東北地方太平洋沖地震後の海底地殻変動観測結果




記載分類は以下のとおりとなっています。
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
 b.地殻変動
2.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
 d.その他
3.その他の地殻活動等

・口頭報告(O)
・資料提出のみ(S)