地震予知連絡会の活動報告
第176回地震予知連絡会(2008年2月18日) 議事概要
平成20年2月18日、国土地理院関東地方測量部において第176回地震予知連絡会が開催された。はじめに、「地震予知連絡会 今後の活動展開の検討ワーキンググループ」の報告が行われた。その後に、全国の地震活動、地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論された。トピックスとして、「地震破壊の始まりの検知とその後の予測可能性」について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.「地震予知連絡会 今後の活動展開の検討ワーキンググループ」の報告
「地震予知連絡会 今後の活動展開の検討ワーキンググループ」(主査:島崎副会長)の検討結果が報告された。地震予知連絡会での今後の検討のあり方について、固定した地域にとらわれず全国を対象とした検討をすること、及び従来の地域指定を解消することにより、今後は全国横断的かつ機動的に注目すべきであること、地震に関する現象、問題(テーマ)についての検討や情報交換を実施していくべきであることが提案され、これらが了承された。また、今後、この決定に則した具体的な運営のあり方を検討するために、新年度からワーキンググループを設置することが了承された(事務局資料)。
2.全国の地震活動について
国内で最近3ヶ月間に発生したM6以上の地震は、11月26日に発生した福島県沖のM6.0の地震と、12月7日に発生した鳥島近海のM6.0の地震のみで、全般的に地震活動は低調であった(気象庁資料)。
3.日本列島の歪み変化について
GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化図からは、北海道では、2003年9月26日の十勝沖地震の余効変動の影響が見られ、伊豆諸島周辺では、地殻変動に伴う北東—南西の伸びが依然として顕著である。また2007年3月25日の能登半島地震の地殻変動の影響が見られる。また2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震による歪みも顕著である。房総半島では、2007年8月13日〜22日頃に発生した房総半島沖スロースリップの影響が見られる(国土地理院資料)。
4.東海地域の地殻変動について
東海地域の水準測量結果によると、掛川市の水準点140−1に対して御前崎市の水準点2595は大きく沈降していた(国土地理院資料)。これは、前々回(2007年7月)と前回(2007年9-10月)が2回連続隆起となっていたことの反動で、沈降が大きめであると考えられる。掛川市の水準点140−1に対する水準点2595の経年変化の解析においては、今回の観測結果は、従来の沈降トレンド上にあることが示された(国土地理院資料)。
東海地域では、浜名湖周辺のスロースリップは2005年以降停止しているが、「志摩」「渥美」等では、わずかな隆起と南向きの変動が継続している(国土地理院資料)。また、東海地域のスロースリップの推定モーメントの時間変化によると2005年半ば以降、停滞傾向にあるが、依然としてわずかにモーメントの増加が見られる。この原因のひとつとして、紀伊半島南東沖の地震の粘弾性緩和による影響が考えられるため、それを取り除いたところ、モーメントの停滞傾向がより明瞭となった(国土地理院資料)。
静岡県西部で2007年11月12日頃から地殻内の地震活動が発生した。これらの地震活動は、2008年1月に入りいったん落ち着いてきたが、1月中旬から地震発生数がやや増加し、これまでで最大の地震(M4.2)が発生した( 気象庁資料)。この一連の地震活動は、北西—南東走向の断層面上で発生しており、地震の活動域は、北西及び南東方向に拡大していった。地震のメカニズムは、東西方向に圧縮軸を持つ横ずれ断層型であった(防災科学技術研究所資料)。
会長から、この地震活動がプレート固着状態の変化を反映した現象である可能性も考慮に含め、多角的な検討を行ってゆくべきであるとの発言があった。
東海地域の短期的スロースリップについて、新たな基準を設けて歪み変化の過去事例を見直すと、これまでの事例以外に17事例が抽出された(気象庁資料)。短期的スロースリップにグーテンベルグ-リヒター則と相似な関係が成り立つとすると、Mw5.4以下の短期的スロースリップの事例はもっと多い可能性がある。新たに抽出された事例と従来の事例をみると、継続日数が長いほど規模が大きくなっている(気象庁資料)。また、愛知県と長野県南部の短期的スロースリップの積算モーメントをみると、従来の事例から推定された積算モーメントより若干大きくなった。さらに、愛知県では、2005年に入って積算モーメントの傾きが鈍化しているのに対し、長野県南部側では2003年以降のそれは大きくなっている(気象庁資料)。
2007年12月30日から2008年1月8日にかけて、深部低周波微動が発生した。この微動は、長野県南部で発生し、愛知県北東部に移動しており、前回(2007年6月)より活動範囲が広かった(防災科学技術研究所資料)。この活動に同期して短期的スロースリップが発生した(防災科学技術研究所資料)。
5.1973年根室半島沖地震の震源域の再評価について
1973年6月17日根室半島沖地震(M7.4)の余震活動について、震源再決定を行ったところ、1973年根室半島沖地震の余震域の広がりは、平成15年(2003年)十勝沖地震のそれとほぼ同程度であったことから、本震の規模は、両者で同等であったといえる。この結果から地震調査委員会の「千島海溝沿いの地震活動の長期評価」により推定されている根室沖地震の想定震源域が過小評価されている可能性がある。また、根室半島沖地震と十勝沖地震の間に新たな海溝型地震を想定するほどの隙間はない(気象庁資料)。
6.岩手県釜石沖の固有地震について
岩手県釜石沖では、これまでM5.0程度の地震が5年程度の間隔で発生している。今回も、2008年1月11日にM5.0の地震が、予想された場所・時期・規模で発生した(東北大学資料)。広帯域波形のインバージョンによって1995年、2001年、2008年の地震のすべり量分布が推定された。その結果、これらの地震の発生領域及びすべり量分布は非常に似かよっていた(東北大学資料)。
7.紀伊半島南部〜三重県中部における深部低周波微動について
2007年11月中旬から紀伊半島南部〜三重県中部において深部低周波微動が発生した。この領域でスロースリップが発生したとして、歪変化および水位変化を説明するフォワードモデルを推定したところ、比較的よく観測結果を再現することができた(産業技術総合研究所資料)。
8.トピックス「地震破壊の始まりの検知とその後の予測可能性」(世話人:桑原委員)
地震破壊の始まりの検知とその後の予測可能性に関して、3題の発表があり、その後、総合討論が行われた(事務局資料)。
一つ目の話題として、「地震の大きさの予測可能性と緊急地震速報」と題して、気象庁の緊急地震速報について説明があった。緊急地震速報では、地震の最終規模を「予測」するのではなく、地震の規模の成長を実時間で「追跡」する手法が採用されている。より精度を上げるために、計算に使用する強震計の高密度化や観測点補正値の導入等が考えられる(気象庁上垣内地震情報企画官資料)。
二つ目の話題として、「地震の初期破壊フェーズに関する観測研究のレビュー」と題して、初期破壊から地震の最終的な規模を予測できるかどうかについてこれまでの研究成果の説明があった。観測されている初期破壊フェーズのほとんどは、震源核形成過程を反映しておらず、主破壊の前の前駆的な破壊過程を反映していること、前駆的な破壊過程は、主破壊よりも強度の小さな部分で始まり、低応力降下量で特徴づけられること等が紹介された(京都大学防災研究所飯尾教授資料)。
三つ目の話題として、「地震・非地震性すべりの加速過程」と題して、地震波を発生する前の段階に関する研究の説明があった。摩擦パラメータによって決まる特徴的な震源核の大きさによって、通常の地震とスロースリップに差別化される。しかしながら、前駆すべりの特徴は、両者の場合で似ており、その区別をつけるのは、困難である。また、前駆すべりの規模は、地震の規模と関係ない。ただし、震源核の形成にかかる期間が長いならその違いが見られる可能性がある。震源核の大きさは地震の規模と関係ないため、大きな地震だからといって前駆すべりが大きいとはいえないようである(東京大学地震研究所加藤准教授資料)。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気 象 庁(2007年11月〜2008年1月) 1.日本とその周辺 C 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 渡島支庁北部(1月13日M4.1)の地震 A1 1973年6月17日根室半島沖地震の震源域再評価 3.東北地方とその周辺 C 福島県沖(11月26日M6.0)の地震 C 宮城県沖(12月25日M5.6)の地震 C 岩手県沖(1月11日M4.7)の地震 C 東北地方の地震活動の静穏化 4.関東・中部地方とその周辺 C 茨城県沖(11月30日M4.7)の地震 C 鳥島近海(12月7日M6.0)の地震 C 福井県嶺北(12月21日M4.5)の地震 C 栃木県北部の地震(12月24日M3.6)の地震 C 石川県能登地方(1月26日M4.8)の地震 A1 静岡県西部(1月27日M4.1、M4.2)の地震活動および潮汐との相関について C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ(2008年1月) A1 歪計で捉えた可能性のある微小な短期的スロースリップ C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 5.期間外・海外 C 千葉県南東沖(2月10日M5.0)の地震 C 千葉県南部(2月10日M4.2)の地震 C チリ北部(11月15日Mw7.7)の地震 C 中米、ウィンドワード諸島(11月30日Mw7.4)の地震 C フィジー諸島南方(12月9日Mw7.8)の地震 C アリューシャン列島(12月19日Mw7.1)の地震 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間および3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間、3ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化観測地域図 2.東海地方の地殻変動 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点2595(御前崎市)の経年変化 A2 水準点(140−1、2595)の経年変化 A2 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 御前崎地方の上下変動 A2 菊川市付近の水準測量結果 C 水準測量による取付観測と電子基準点の比高変化 C 水準測量による取付観測と比高連続観測点の比高変化 C GPSおよび水準による掛川−浜岡2、御前崎間の比高変化 C GPS連続観測による御前崎の上下変動 C 御前崎地区高精度比高連続観測結果 C GPS連続観測結果 御前崎周辺 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 A2 東海地方の非定常地殻変動 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均、時間平均) C 切山地区精密辺長測量結果 C 御前崎地中地殻活動観測装置観測結果 C 御前崎における絶対重力変化 C 静岡県西部の地震活動前後の地殻変動 3.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 中伊豆〜伊東間の上下変動 C 修善寺〜河津間の上下変動 C 熱海〜伊東〜河津間の上下変動 C 内浦〜中伊豆〜伊東間の上下変動 C 内浦〜沼津間の上下変動 C 内浦〜土肥〜西伊豆間の上下変動 C 西伊豆〜南伊豆間の上下変動 C 南伊豆〜河津間の上下変動 C 土肥〜天城湯ヶ島間の上下変動 A2 伊東市付近の地盤上下変動の推移 A2 水準点9335〜9338の経年変化 A2 伊豆半島の上下変動 C 静岡市〜熱海市〜藤沢市間の上下変動 A2 藤沢市〜静岡市間の水準点の経年変化 C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 C GPS連続観測結果 伊豆半島東部地区 C 川奈地区精密辺長測量結果 C 伊豆半島東部測距連続観測結果 C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区 4.関東・甲信地方の地殻変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 水準原点〜さいたま〜野田〜船橋〜千葉間の上下変動 C 藤沢〜水準原点(甲)間の上下変動 C 三浦半島東側の上下変動 C 三浦半島西側の上下変動 A2 水準原点を基準とした三浦半島の上下変動 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 5.北海道地方の地殻変動 C 北海道の地殻水平変動図(最近3ヶ月、1ヶ月) C GPS連続観測結果 北海道太平洋岸 C 基線ベクトル成分の変位量と変化率 C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 6.東北地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 東北地方太平洋岸 7.北陸・中部地方の地殻変動 新潟県中越沖地震(2007.7.16)に伴う地殻変動 C 地震後の地殻変動ベクトル図 C GPS連続観測結果 柏崎地区(短期・長期) A2 余効変動モデル A2 震源断層モデル A2 西山丘陵西側斜面での隆起について 石川県能登地方の地震(2008.1.26)に伴う地殻変動 C GPS連続観測結果 能登半島地区 その他の地殻変動 C 中京地方の上下変動 8.近畿・中国・四国地方の地殻変動 C 阪神地区の上下変動 C 姫路市〜神戸市〜西宮市間の上下変動 C 有田市〜大阪市、淡路島の上下変動 C 竹原市〜姫路市間の上下変動 A2 四国地方の上下変動(水準とGPSの比較) 9.九州・沖縄地方の地殻変動 C 九州地方の歪図 10.その他 C 測地VLBI(国際・国内超長基線測量) A2 スマトラ南部沖地震の地殻変動 【3】北海道大学 C 津波波形からみた2007年新潟県中越沖地震の海底地殻変動(科振費) 【4】東北大学 A3 2008年1月11日に岩手県釜石沖で発生した地震(M4.7)について 【5】東京大学地震研究所(地震地殻変動観測センター) C 日光・足尾付近の地震活動(2007年11月〜2008年1月) C 富士川・駿河湾地方における地殻変動観測(その32) 【6】名古屋大学 A3 新宮ボアホール観測点で検出された短期的スロースリップに伴うひずみ変化 C 中部・近畿地方における地殻変動の運動学的モデリング C 内陸大地震発生の時空間的相関について 【7】京都大学防災研究所 C 近畿地方北部の地殻活動 【8】鹿児島大学 C 九州南部の地震活動(2007年11月-2008年1月) 【9】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2007年11月〜2008年1月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2007年11月〜2008年1月) C 伊豆地方・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動観測 (2006年5月〜2008年2月) C 宮城県沖の地震活動パタン変化 C 北部糸魚川−静岡構造線活断層系周辺の地震活動 B 2007〜2008年静岡県西部の地震‐DD法による震源決定結果‐ B 2008年1月26日能登半島の地震(Mj4.8) B 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 (2007年11月〜2008年2月) 【10】産業技術総合研究所 1.東海・伊豆地域 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2007年11月〜2008年1月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2007年11月〜2008年1月) - 神奈川県温泉地学研究所・産総研 - 2.中部・東海地域 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2007年11月〜2008年1月) 3.近畿地域 C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2007年11月〜2008年1月) B 2007年11月の紀伊半島南部〜三重県中部における深部低周波微動に伴う 歪・地下水変化 4.中国・四国地域 C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2007年11月〜2008年1月) - 鳥取大学工学部・京大防災研・産総研 - 【11】海上保安庁 C GPSによる地殻変動観測 B 平成19年(2007年)能登半島地震震源域の浅部構造調査結果 【12】大竹政和会長 A3 静岡県西部の最近の地震活動
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)各地域についての詳細検討 (B) 話題提供 (C) 資料提出