地震予知連絡会の活動報告
第178回地震予知連絡会(2008年8月18日) 議事概要
平成20年8月18日、国土地理院関東地方測量部において第178回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論された。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
国内で5月から7月の3ヶ月間に発生したM6以上の地震は、5月8日の茨城県沖の地震(M7.0)、6月14日の平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(M7.2)、7月8日の沖永良部島付近の地震(M6.1)、7月19日の福島県沖の地震(M6.9)、7月21日の小笠原諸島西方沖の地震(M6.4)、7月24日の岩手県沿岸北部の地震(M6.8)であった。なお、日本列島周辺では、7月6日にウルップ島付近でM6.1の地震が発生した(気象庁資料)。
2.日本列島の歪み変化について
GPS連続観測データから推定した最近1年間の日本列島の歪み変化図からは、北海道において2003年9月26日の十勝沖地震の余効変動の影響が見られ、伊豆諸島北部では北東—南西の伸びが依然として顕著である。また、2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震による歪みも顕著である。房総半島では、2007年8月13日〜22日頃に発生した房総半島沖スロースリップの影響が見られる。また、2008年5月8日に発生した茨城県沖の地震、2008年6月14日に発生した平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震、2008年7月19日に発生した福島県沖の地震の影響が見られる(国土地理院資料)。
3.東海地域の地殻変動について
東海地域の水準測量結果によると、掛川市の水準点140−1に対して御前崎市の水準点2595は、年周補正後のデータで前回および去年の夏と比較すると、ともにわずかな沈降傾向を示す(国土地理院資料)。
最近1年間の東海地域の地殻変動は、スロースリップ開始以前の状態に戻っているように見える(国土地理院資料)。
4.平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震について
第1回東日本部会の概要についての報告の後、各機関からの報告と議論が行われた。
Double-Difference法による詳細な震源再決定結果が示された。全体的に東に向かって余震分布が浅くなっていく傾向にあるが、本震付近では複雑な余震分布となっている。また、余震は、基本的に地震波の高速度域で発生しているが、北部の出店断層付近では低速度域で発生している(緊急観測グループ・東北大学資料、防災科学技術研究所資料)。
余震域では低周波地震が発生しており、特に余震域北部に集中して分布している(気象庁資料)。
GPS観測によると、この地震後、余効変動が観測されている(国土地理院資料、緊急観測グループ・東北大学資料)。余効変動が活発な時期と低周波地震の活動とがよく対応しているように見え、鳥取県西部地震では、余効変動が顕著な領域で低周波地震が多く発生していたとの指摘があった。
「だいち」のSARデータの解析によると、余震域と地殻変動の集中帯がよく一致していた(国土地理院資料)。なお、余震域の東側で実施された水準測量では、これと調和的な結果が得られている。
地形・地質踏査により、余震域の東縁付近に沿って南北20km程度にわたり断続的に地表地震断層および地表変状が出現していることが確認された(産業技術総合研究所資料)。
今回の地震で出現した地表地震断層周辺でのトレンチ調査によると、過去3回以上のイベントが認定された(群馬大学熊原講師報告)。
5.岩手県沿岸北部の地震について
7月24日に岩手県沿岸北部の深さ108kmでM6.8の地震が発生した。発震機構は、太平洋プレートが沈み込む方向に張力軸を持つ型で、太平洋プレート内部で発生した地震であった(気象庁資料)。
スラブ内の二重深発地震面の上面・下面及び面間には、地震活動が活発な領域が存在し、それぞれの水平位置がほぼ一致している。今回の地震は、下面の活発な領域で発生した(東北大学資料)。
6.福島県沖の地震について
7月19日に福島県沖の深さ32kmでM6.9の地震が発生した。発震機構は、西北西−東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した地震である(気象庁資料)。
この周辺では、今回の地震の他に1987年、2003年にもまとまった地震活動があったが、それぞれの震源域は重ならない(気象庁資料)。また、今回の地震のすべり分布と、過去に宮城県沖および福島県沖で発生した地震のすべり分布は互いに重ならず、棲み分けて発生しているように見える(気象庁資料)。なお、今回の地震の海溝軸側の領域では、小繰り返し地震に伴いプレート間すべりが起きていると考えられるとのコメントがあった。
この地震が発生する半年ほど前から近傍の電子基準点の東西成分に変化が見られていた(国土地理院資料)。2007年11月26日の地震と2008年7月19日の地震の震源の間の領域でプレート間すべりが発生していたと考えられる(国土地理院資料)。
7.茨城県沖の地震について
長期確率予測の手法に最近の地震活動のデータを取り込み、短期的な発生確率を評価するモデルを構築し、試験的に運用した結果について報告があった。5月8日の茨城県沖の地震の前震活動に伴い短期確率が上昇し、発生直前には10%超となっていた(防災科学技術研究所資料)。
8.西南日本における深部低周波微動について
5月中旬に愛知県において深部低周波微動が発生し、活動域が北東に移動していった。6月中旬には、三重県においても発生し、北東および南西の両方向に移動していった。これらの活動に伴い短期的スロースリップイベントが発生した(防災科学技術研究所資料)。
9.中国四川省の地震について
5月12日に発生した中国四川省の地震(M7.9)について、「だいち」のデータを用いたSAR干渉解析から地殻変動が明らかになった。この結果から、震源域南西部では比較的低角の逆断層で、北東部では比較的高角の右横ずれ成分を大きく含む逆断層であると推定された(国土地理院資料)。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁(2008年5月〜2008年7月) 1.日本とその周辺 A1 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 根室半島付近〔国後島付近〕の地震(5月11日M5.1) C 浦河沖の地震(6月26日M5.4) C ウルップ島付近〔千島列島〕の地震(7月6日M6.1) 3.東北地方とその周辺 C 福島県沖の地震(5月2日M5.1) C 青森県東方沖の地震(5月10日M4.8) C 秋田県内陸南部(5月29日M4.8) C 岩手県沖の地震(5月31日M5.0) A3 平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(6月14日M7.2) A5 福島県沖の地震(7月19日M6.9、7月21日M6.1) A4 岩手県沿岸北部の地震(7月24日M6.8) A5 東北地方太平洋側の地震活動 4.関東・中部地方とその周辺 C 千葉県東方沖の地震(5月1日M4.6) C 茨城県沖の地震(5月8日M7.0) C 千葉県北西部の地震(5月9日M4.6) C 長野県南部の地震(6月13日M4.7) C 茨城県沖の地震(7月5日M5.2) C 小笠原諸島西方沖の地震(7月21日M6.4) C 愛知県西部の地震(6月4日M3.6)と低周波地震活動 C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 5.九州地方とその周辺 C 宮崎南部山沿いの地震(5月11日M4.1) C 沖永良部島付近〔沖縄本島近海〕の地震(7月8日M6.1) 6.期間外・海外 C 東京都・神奈川県境付近〔東京都多摩東部〕の地震(8月8日M4.6) C 青森県東方沖の地震(8月9日M5.4) C 東海地域の低周波地震活動(8月13日) C 北海道東方沖の地震(8月14日M5.3) C 中国四川省の地震(5月12日Ms8.1) C オホーツク海の地震(7月5日Mw7.7) C フィリピン北部〔フィリピン付近〕の地震(7月13日Ms6.3) 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間および3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間,3ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 2.北海道地方の地殻変動 A2 北海道の地殻水平変動図(最近3ヶ月,1ヶ月) A2 GPS連続観測 北海道太平洋岸 A2 基線ベクトル成分の変位量と変化率 C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 3.東北地方の地殻変動 C GPS連続観測 東北地方太平洋岸 C GPS繰り返し観測 牡鹿地区 A2 福島県沖の地震に伴う地殻変動 A4 岩手県沿岸北部の地震に伴う地殻変動 【平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震】 A3 金ヶ崎町〜一関市間の上下変動 A3 GPSによる岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動 C 「だいち」合成開口レーダーによる地殻変動分布図 A3 岩手・宮城内陸地震集約図 C SARによる東西・上下方向の変位量分布 A3 震源断層モデル C GPSによる岩手・宮城内陸地震以前の地殻変動 C 電子基準点「栗駒2」の地震前の変動 C 写真測量で計測した荒砥沢ダム北方の水平変動 C 荒砥沢ダム北方−はの木立リニアメントとの変位地形 4.関東甲信地方の地殻変動 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測 5.伊豆地方の地殻変動北海道地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 C GPS連続観測 伊豆半島東部地区 C 伊豆半島東部測距連続観測 C GPS連続観測 伊豆諸島地区 6.東海地方の地殻変動東北地方の地殻変動 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 菊川市付近の水準測量結果 A2 東海地方の上下変動 C GPS連続観測 御前崎周辺 C GPS連続観測 駿河湾周辺 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均,時間平均) C 御前崎地中地殻活動観測装置観測 C 御前崎における絶対重力 A2 東海地方の非定常地殻変動 7.北陸・中部地方の地殻変動 C 平成19年新潟県中越沖地震後の地殻変動 8.その他 A2 中国・四川省の地震に関する地殻変動 【3】東北大学 A3 平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震について A4 平成20年(2008年)7月24日の岩手県沿岸北部の地震について 【4】東京大学地震研究所 C 日光・足尾付近の地震活動(2008年5月〜2008年7月) C 精密弾性波計測による微小応力変化測定 【5】名古屋大学 A3 岩手・宮城内陸地震の震源過程 C 7月19日福島県沖の地震(M6.9)の遠地波形解析(暫定解) C 7月24日岩手県中部の地震(M6.8)の遠地波形解析(暫定解) 【6】京都大学防災研究所 A3 岩手・宮城内陸地震の余震分布(仮題) A3 ALOS/PALSARによる岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動と断層モデル A3 岩手・宮城内陸地震による歪・地下水変化 B ALOS/PALSARで捉えた中国・四川地震に伴う地殻変動 C 近畿北部の地殻活動 【7】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2008年5月〜2008年7月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2008年5月〜2008年7月) C 伊豆地方・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動観測 (2006年11月〜2008年8月) B 東海地域推定固着域の西部における2007年からの地震活動活性化 B 宮城県沖地震活動のパタン変化 B 2008年5月茨城県沖地震の短期確率 B 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2008年5月〜2008年7月) A3 平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震 A4 2008年7月24日岩手県沿岸北部の地震 【9】産業技術総合研究所 1.関東・甲信越地域 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2008年5月〜2008年7月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2008年5月〜2008年7月) - 神奈川県温泉地学研究所・産総研 - 2.北陸・中部地域 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2008年5月〜2008年7月) 3.近畿地域 C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2008年5月〜2008年7月) 4.中国・四国地域 C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2008年5月〜2008年7月) - 鳥取大学工学部・京大防災研・産総研 - 5.その他 A3 2008年岩手・宮城内陸地震に伴う地震断層および地表変状 B 2008年6月の紀伊半島南部〜三重県中部における深部低周波微動に伴う歪変化 【10】海上保安庁 C GPSによる地殻変動監視観測 C 平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動について C 福島沖の地震(7月19日,M6.9)に伴う地殻変動 A5 海底地殻変動観測結果 (福島及び宮城沖)
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震の詳細検討 (A4)平成20年7月24日岩手県中部〔岩手県沿岸北部〕の地震の詳細検討 (A5)各地域についての詳細検討 (B) 話題提供 (C) 資料提出