地震予知連絡会の活動報告
第245回地震予知連絡会(2024年11月18日)議事概要
令和6年11月18日(月)、国土地理院関東地方測量部において第245回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングの報告が行われ、その後、重点検討課題として「阪神・淡路大震災から30
年、能登半島地震から1年 ―内陸地震予測の進展と課題―」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
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1.地殻活動モニタリングに関する検討
1.1 地殻活動の概況
(1)全国の地震活動
日本とその周辺で2024年8月から10月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は18回であった。このうち、日本国内で震度5弱以上を観測した地震は3回発生した(気象庁・資料2頁)。
(2)日本列島のひずみ変化
GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島には、能登半島を中心に令和6年能登半島地震に伴う地殻変動によるひずみが見られる。そのほか、北海道南部から東北地方にかけて、東北地方太平洋沖地震後の余効変動の影響によるひずみ、房総半島では2024年2月26日頃から始まったプレート間のゆっくりすべり現象に伴うひずみ、九 州では2024年8月8日の日向灘の地震の影響によるひずみが見られる(国土地理院・資料3-4頁)。
1.2 プレート境界の固着状態とその変化
(1)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・日本周辺における浅部超低周波地震活動(2024年8月~10月)
防災科研F-net記録の波形相関を用いた解析により、8月8日の日向灘の地震後、日向灘及びその周辺域で超低周波地震活動の活発化を検知したが、8月末以降の活動度は低く、一連の活動はほぼ終息した(防災科学技術研究所・資料5頁)。
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2024年8月~10月)
期間中、短期的スロースリップイベントを伴う顕著な深部微動活動は、8月5日~17日に紀伊半島南部から東海地方において発生した。これ以外の主な微動活動として、8月13日~19日に長野県南部から東海地方、8月16日~19日に四国中部、8月21日~24日に豊後水道から四国西部、9月7日~10日に紀伊半島西部、9月20日~24日に紀伊半島南部から西部、10月10日~18日に四国東部から中部、10月31日~11月4日に四国西部での活動が検出された(防災科学技術研究所・資料6-7頁)。
・東海の非定常的な地殻変動(長期SSE)
GNSS連続観測により、東海地方で2022年初頭から南東向きの非定常的な地殻変動が見られており、渥美半島付近にすべりが推定された。2022年1月1日~2024年11月1日の期間では、すべりの最大値は10cm、モーメントマグニチュードは6.5と求まった(国土地理院・資料8頁)。
・四国中部の非定常的な地殻変動
GNSS連続観測により、四国中部で2019年春頃から観測されている非定常的な地殻変動は、2023年秋頃から一時的に鈍化していたが、最近は継続しているように見える2019年1月1日~2024年10月19日の期間では、すべりの最大値は57cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった(国土地理院・資料9頁)。
・日向灘の地震(8月8日 M7.1)
2024年8月8日16時42分に、日向灘の深さ31kmで
M7.1の地震が発生した。この地震は、発震機構(CMT解)が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した。この地震により、宮崎県日南市で震度6弱を観測したほか、東海地方から奄美群島にかけて震度5強~1を観測した。また、宮崎県南部山沿いで長周期地震動階級3を観測したほか、九州地方及び鳥取県で長周期地震動階級2~1を観測した。さらに、宮崎県の宮崎港(国土交通省港湾局)で51cm、日南市油津で40cmの津波を観測するなど、千葉県から鹿児島県にかけて津波を観測した。気象庁はこの地震に対して、最初の地震波の検知から5.7秒後の16時43分9.4秒
に緊急地震速報(警報)を発表した。また、8日16時44分に高知県及び宮崎県に津波注意報を発表した。その後、8日16時52分に愛媛県宇和海沿岸、大分県豊後水道沿岸、鹿児島県東部及び種子島・屋久島地方にも津波注意報を発表した(8日19時00分に宮崎県以外の津波注意報を解除、8日22時00分に宮崎県の津波注意報を解除)。気象庁では、8日17時00分にこの地震が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連するかどうか調査を開始したことをお知らせする南海トラフ地震臨時情報(調査中)を発表し、8日17時30分から南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会を臨時に開催し、この地震と南海トラフ地震との関連性について検討を行った。その結果、この地震の発生に伴って、南海トラフ地震の想定震源域では、大規模地震の発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっていると考えられたことから、8日19時15分に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表した(気象庁・資料10-15頁)。
この地震に伴い、宮崎観測点で東南東に約14cm等、宮崎県南部を中心に広い範囲で水平地殻変動が観測された。また、宮崎観測点で約8cmの沈降等、宮崎県南部の沿岸部周辺で上下地殻変動が観測された。地震後、宮崎県沿岸部を中心に広い範囲で余効変動が見られている。震央を中心にすべりが推定されたほか、日向灘北部、種子島沖でもすべりが推定された。震央を中心とした太い実線で囲まれた領域内で推定されたすべりの最大値は25cm、モーメントマグニチュードは6.9であった防災科研F-net記録の波形相関を用いた解析により、8月8日の日向灘の地震以降、日向灘及びその周辺域で超低周波地震活動を検知した(国土地理院・資料16-21頁)。
1.3 その他
(1)オホーツク海南部の地震(8月10日 M6.7)
2024年8月10日12時28分にオホーツク海南部の深さ447kmでM6.7の地震(最大震度3)が発生した。この地震は太平洋プレート内部で発生した。発震機構(CMT解)は太平洋プレートの傾斜方向に圧力軸を持つ型である(気象庁・資料22頁)。
(2)「令和6年能登半島地震」の地震活動(期間中の最大規模の地震:10月9日 M4.3)
能登半島では2020年12月から地震活動が活発になっており、2023年5月5日にはM6.5 の地震(最大震度6強)が発生していた。2024年1月1日16時10分に石川県能登地方の深さ16km でM7.6(最大震度7)の地震が発生した後、地震活動はさらに活発になり、活動域は、能登半島及びその北東側の海域を中心とする北東-南西に延びる150km 程度の範囲に広がっている。2024年6月3日に石川県能登地方の深さ14kmでM6.0の地震(最大震度5強)が発生した。地震の発生数は増減を繰り返しながら大局的には緩やかに減少してきているが、震度1以上を観測した地震が8月は18回、9月は18回、10月は14回発生するなど活発な状態が続いている(気象庁・資料23-24頁)。
(3)神奈川県西部の地震(8月9日 M5.3)
2024年8月9日19時57分に神奈川県西部の深さ13kmでM5.3の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震の発震機構は南北方向に圧力軸を持つ逆断層型である(気象庁・資料25頁)。
(4)茨城県北部の地震(8月19日 M5.1)
2024年8月19日00時50分に茨城県北部の深さ8kmでM5.1の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震の発震機構は東北東-西南西方向に張力軸を持つ正断層型である。また、この地震の震央付近では、この地震の約2分前の00時48分にM4.8の地震(最大震度4)が発生した。これらの地震は地殻内で発生した(気象庁・資料26頁)。
(5)鳥島近海の地震(9月24日 M5.8)
2024年9月24日08時14分に鳥島近海(鳥島から北に約100kmの須美寿島付近)の深さ10km(CMT解による)でM5.8の地震(震度1以上を観測した地点はなし)が発生した。この地震はフィリピン海プレート内で発生した。この地震により、東京都の八丈島八重根で0.7mなど、伊豆諸島及び千葉県から鹿児島県にかけての太平洋沿岸で津波を観測した。1980年以降の活動をみると、今回の地震の震央付近では、M6程度の規模にも関わらず津波を観測した地震、1984年の地震(M5.9)、1996年の地震(M6.2)、2006年の地震(M5.9)、2015年の地震(M5.9)、2018年の地震(M5.7))が発生しており、今回の地震はこれらの地震と発震機構(CMT解)が比較的よく似ている(気象庁・資料27-32頁)。
(6)台湾付近の地震(8月16日 M6.1)
2024年8月16日08時35分に台湾付近のごく浅い場所でM6.1の地震(日本国内で観測された最大の揺れは震度1)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。この地震の震央付近では、2024年4月から5月にかけてM6.0以上の地震が11回発生した(気象庁・資料33頁)。
2.重点検討課題「阪神・淡路大震災から30年、能登半島地震から1年 ―内陸地震予測の進展と課題―」についての検討
1995年に発生した阪神・淡路大震災以降の内陸地震予測の進展と課題について、「阪神・淡路大震災以降の活断層研究の進展と課題」「内陸地震に関する測地・地殻変動研究の進展と課題」「内陸地震予測の統計地震学の進歩と課題:阪神・淡路大震災から30年」「内陸地震予測に関する議論に向けて」の4件の報告があり、活断層の割れ方の多様性や内陸地震の発生のモデル化の重要性等について議論が行われた(コンビーナ:予測実験WG(堀 高峰、西村卓也、尾形良彦、高橋浩晃、遠田晋次・資料35-36頁)。
◆阪神・淡路大震災以降の活断層研究の進展と課題
情報技術や測量技術の進展に伴いデジタル活断層の整備が進んできたが、陸域と同等の精度での沿岸域の活断層のマッピングが今後の課題であることが指摘された。また、近年発生した内陸直下型地震から、固有規模より小さな地震、海溝型巨大地震に誘発される地震、明瞭な活断層が認定されていない地域で発生する地震や大地震に誘発されて変位する活断層の存在など、活断層の活動の多様性や新たな知見が得られたことが報告された。そして、内陸地震のより高精度な長期評価に資するためには、活断層のマッピングや活動履歴調査のさらなる進展・改善が必要であることが指摘された(同志社大学・堤浩之 委員・資料38頁)。
◆内陸地震に関する測地・地殻変動研究の進展と課題
阪神・淡路大震災以降、GEONETの整備や合成開口レーダ(SAR)衛星の運用開始などの測地観測技術の進展により、地震に伴う地殻変動が詳細に捉えられるようになり、震源断層や断層すべりの複雑性が明らかになってきたことが報告された。また、震源断層の活動に伴って断層周辺で受動的な断層変位が生じるケースが見出されたことや、地殻変動の把握が迅速化され地震活動の現状把握に活用されていることも報告された国土地理院・矢来博司 委員・資料39頁)。
◆内陸地震予測の統計地震学の進歩と課題:阪神・淡路大震災から30年
最近の内陸地震予測の統計学の進展について、統計数理研究所の地震予知連報告を基に、1.活断層に基づく長期予測、2.背景地震活動度による内陸大地震の長期予測、3.余震のリアルタイム予測、4.HIST-ETASモデルの時空間予測と評価、5.兵庫県南部周辺域の地震活動の回顧的異常について、の5つの観点から振り返った。また、前震の確率的識別、余震活動の時空間的非均質性、一過性群発地震活動とスロースリップ、GNSS測地データの残差解析などの確率利得をモデル化して、時空間の他項目予測に組み込むことの必要性や、不意打ちの大地震をできるだけ避けるために、的中率が低く空振り率が高くても、多くの残差異常を系統的に収集し確率利得を求める必要性が指摘された(統計数理研究所・尾形良彦 委員・資料40頁)。
◆内陸地震予測に関する議論に向けて
阪神淡路大震災から30年を踏まえた知見と令和6年能登半島地震の知見にもとづいて、内陸地震の予測に向けて何を知りたいのか、何を知る必要があるのか、について議論するための話題として、1.その場所で起こる破壊の最大クラスはどこまでか、2.破壊の準備が整っているかどうかは何を調べればわかるのか、3.始まった破壊がどこまで大きくなるのか、どの破壊が最大クラスまで達するのか、について報告され、今後の内陸地震予測に取り組む上で、前記の課題にどのように取り組んで行くのか、挙げられていない課題があるとすれば何か、について問題提起された(海洋研究開発機構・堀高峰 委員・資料41頁)。
3.次回(第246回)重点検討課題「スラブ内地震」についての趣旨説明
スラブ内地震は沈み込むプレートの境界付近で発生することから、プレート境界での滑り現象に密接に関わると考えられている。また、プレートの沈み込み口である海溝付近、いわゆる「アウターライズ」と呼ばれる領域でもスラブ内地震は発生する。この領域は、プレートの沈み込みに伴うプレートの折れ曲がりにより断層が生じるとともに、プレートを構成する岩石の含水化が進むと考えられるため、沈み込むプレートの変成過程を考える上でも重要な領域である。一方、沈み込むプレート内では沈み込みに伴う温度と圧力の上昇により、プレートを構成する岩石の脱水等の変成作用が生じ、スラブ内地震の発生過程に深く関わると考えられている。加えて、スラブ内地震は、高地震波速度・低地震波減衰領域で発生するために、スラブの形状により、特異な地震波の伝搬が生じること、いわゆる「異常震域」と呼ばれる現象、があり、スラブの形状や内部構造が地震波の伝搬に及ぼす影響について検討する必要がある。このような状況を踏まえて、次回は、「陸域周辺でのスラブの構造とスラブ内地震・プレート境界付近の地震現象との関係」「海溝付近でのプレートの構造の発達と地震活動」「実験によるスラブ内地震の発生機構の理解」「スラブ内地震による異常震域・強震動の波形モデリングと課題」について報告し、日本列島周辺における沈み込むプレート(スラブ)はどのような構造をしているのか、構造と地震活動にはどのような関係があるのか、プレート境界での地震現象との関連はどのようにあるのか、プレートの沈み込み口である海溝付近でスラブ内地震はどのように発生するのか、岩石の高温・高圧実験からスラブ内地震はどのように理解できるか、スラブの形状や内部構造は地震波の伝搬にどのように影響を与えるか、スラブ内地震によって生じる地震波形の予測や緊急地震速報においてどのような課題があるか、等についての議論を行う予定である(コンビーナ:東北大学・岡田知己 委員・資料42-43頁)。
各機関からの提出議題
地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:352KB)