地震予知連絡会の活動報告

第215回地震予知連絡会(2017年5月19日)議事概要

 平成29年5月19日(金)、国土地理院関東地方測量部において第215回地震予知連絡会が開催された。始めに、第25期地震予知連絡会の体制が決定された。次に全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、続いて、重点検討課題として「海域モニタリングの進展」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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「地殻活動のモニタリングに関する検討」資料説明映像  (87MB,約17分)
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1.第25期の地震予知連絡会の体制について

 全会一致で平原和朗委員が会長に選出された。平原会長により、松澤暢委員と山岡耕春委員が副会長に指名された。松澤暢委員が東日本部会長に、平田直委員が中日本部会長に、澁谷拓郎委員が西日本部会長に、山岡耕春委員が重点検討課題運営部会長に指名された。千葉大学・宮内崇裕教授、東京工業大学・中島淳一教授、産業総合研究所・今西和俊地震テクトニクス研究グループ長、気象庁・青木元地震予知情報課長、国土地理院・矢来博司地殻変動研究室長が新たに委員に就任した(地震予知連絡会委員第25期名簿1頁)。

2.地震予知連絡会SAR解析ワーキンググループ成果報告及び期間延長

 地震SAR解析WG(平成26年2月設置)の3年間の活動成果が報告された。活動期間については、第214回に2年間の延長が承認済みである(事務局資料)。

3.地殻活動モニタリングに関する検討

3.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

 国内で2017年2月から2017年4月までの3か月間に発生したM5以上の地震は23回であった(気象庁資料5頁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 2月末から3月上旬及び4月下旬から5月初めにかけて十勝沖で、5月上旬から日向灘周辺で超低周波地震活動があった(防災科学技術研究所資料6頁)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震の余効変動、熊本地震、鳥取県中部の地震、福島県沖の地震、茨城県北部の地震の影響が見られる(国土地理院資料7頁)。

3.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)日本海溝・千島海溝周辺

・福島県沖の地震
 2017年2月28日に福島県沖の深さ52kmでM5.7の地震が発生した。この地震は発震機構が西北西−東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。この地震の震源付近では2017年4月30日までにM5.0以上の地震が3回発生した(気象庁資料8頁)。

(2)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動が紀伊半島北部から中部にかけて4月19日から30日に、四国東部から中部にかけて3月2日から11日に発生した。それ以外の主な微動活動は、東海地方(2月13日から18日)、東海地方から紀伊半島北部(3月27日から4月1日)、紀伊半島中部(3月2日から8日)、四国西部(2月7日から10日、2月26日から3月3日)で発生した(防災科学研究所資料9-10頁)。
 

3.3 その他

(1)茨城県北部の地震活動

 2016年12月28日の地震(M6.3)以降も、北北西−南南東方向に延びる長さ約15kmの領域でM4.0以上の地震が2月7日と4月20日に計3回発生する等、地震活動は減衰しつつも継続している(気象庁資料11頁)。

(2)熊本地震の地殻活動

 広域にわたる余効変動が継続していることがGNSS連続観測により検出された(国土地理院資料12頁)。熊本地震の発生から約一年間にわたる余震活動の活動推移を調べた結果、背景地震活動と余震発生強度が共に緩やかに減衰していることがわかった(統計数理研究所資料13頁)。

4.重点検討課題「海域モニタリングの進展」の検討

 海域における地震・津波・地殻変動モニタリングについての報告と今後の進展の方向性についての議論が行われた(コンビーナ:東京大学地震研究所・篠原雅尚委員資料17頁)。

◆防災科研が運用する地震津波海域観測網 -DONET & S-net-

 南海トラフ及び日本海溝沿いに展開される海域観測網DONET及びS-netの運用状況について報告された。DONETについては、DONET2の埋設作業が完了し、最終的な品質確認を経てデータが公開される予定であることが報告された。S-netについては、全ケーブルシステムの構築が終了したことが報告された。2016年8月20日発生の三陸沖地震等で、詳細な震源分布の把握や津波の観測ができたことが報告された(防災科学技術研究所・高橋成実地震防災研究部門・総括主任研究員資料19頁)。

◆南海トラフ長期孔内観測システムによる観測

 南海トラフの海底下で、地震・地殻変動・孔内間隙水圧等の観測を行う「長期孔内観測システム」の開発と設置状況について報告された。観測機器は、地球深部探査船「ちきゅう」によって南海トラフ海底に掘削した孔内に設置され、DONETに接続されていることが紹介された。現在、東南海地震震源域の2か所に設置されており、三重県南東沖地震では、余効変動や浅部ゆっくり滑りが検出されたことが報告された(海洋研究開発機構・荒木英一郎地震津波海域観測研究開発センター・海底観測技術開発グループ・グループリーダー代理資料20頁)。

◆GPS-A海底地殻変動観測のこれまでの進展と今後の展望

 海底の絶対位置を測定するGPS-音響測距結合方式(GPS-A)による海底地殻変動観測の現状について報告された。これまでの観測の結果、東北地方太平洋沖地震後の余効変動の検出や南海トラフのプレート間固着の推定といった成果が得られていることが紹介された。今後は、さらなる観測点の展開、測位精度の向上、無人機によるリアルタイム・連続観測に向けた技術開発が課題であることが指摘された(海上保安庁・石川直史海洋情報部技術・国際課火山調査官資料21頁)。

◆海底間音響測距観測の現状について

 音波の往復時間を計測することで測器間の距離変化を計測する海底間音響測距観測の現状や今後の展開について報告された。海底間音響測距は、GNSS音響計測と比べると観測精度が高く、1kmの基線で2-5mmの繰り返し観測精度が得られることが示された。今後、リアルタイムデータ取得に向けて、海底ケーブルに接続する必要性が指摘された。また、将来的には、測器を鎖状や面的に配列することで、広域のひずみ観測を展開できる可能性が示唆された(東北大学災害科学国際研究所・木戸元之教授資料22頁)。

◆海域稠密観測時代の津波即時予測研究とその展望

 津波の即時予測に関する現状と展望について報告された。数値シミュレーションによる予測結果を稠密な観測網の津波記録と同化して現在時刻の津波波動場を直接推定する「津波データ同化法」を適用することにより、津波の到達までに波動場を再現できることが示された。また、現在構築されつつある海域観測網により、予測時間の短縮が見込めることが示された。課題としては、波源域で海底と海水が同期している間は、水圧計で津波の観測ができないことが指摘された。将来的には、さらなる時間短縮のために津波生成の物理とそのデータ活用手法の研究が必要であることが指摘された(東京大学地震研究所・前田拓人助教資料23頁)。

◆海底データを用いたモデル計算:地震動即時予測 -“揺れの数値予報”の適用例-

 地震の揺れの即時予測に関する現状と海底データを利用する効果について報告された。地震の揺れの伝播に関する情報を逐次取り込みながら揺れを計算することで、正確な揺れの分布を予測できることが、熊本地震等の事例を通じて紹介された。海域で発生する巨大地震を想定して海底地震計の利用の有効性を検証した結果、陸上に揺れが到達する前に揺れを予測できることから、特に沿岸に近い地域で効果があることが示された(気象研究所・干場充之室長資料24頁)。

◆総合討論

 海域モニタリングのリアルタイム化に向けた展望や、観測の時間分解能と空間分解能のどちらを重視すべきか等について議論が行われた。

5.次回(第216回)重点検討課題「首都圏直下地震」の趣旨説明

    

 第216回地震予知連絡会の重点検討課題として、「首都圏直下地震」を取り上げる。長期的・定常的な地震活動と、東北地方太平洋沖地震の影響をうけた活動の変化を考慮して、首都圏の直下で発生する地震と地震動の特徴について検討する予定である(コンビーナ:東京大学地震研究所・平田直委員資料25頁)。


各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリングに関する検討》

《地殻活動モニタリングに関する検討》
【1】気 象 庁
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
  O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構
    ・2017年02月〜2017年04月の全国の地震活動概況を報告する.
  S 東海地域の地震活動 
2.東北地方太平洋沖地震関連
  S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動
3.プレート境界の固着状態とその変化  
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  S 日高地方東部の地震(2月27日 M4.7) 
  S 十勝地方南部の地震(4月30日 M5.4) 
  O 福島県沖の地震(2月28日 M5.7、3月12日 M5.4、4月9日 M5.0)
    ・2017年2月28日16時49分に福島県沖の深さ52kmでM5.7の地震が発生した。
    この地震は発震機構(CMT解)が西北西−東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、
        太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。
        この地震の震源付近では2017年4月30日までにM5.0以上の地震が3回発生した。
  S 青森県東方沖の地震(3月 8日 M5.2) 
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
  S 東海・南関東地方の地殻変動 	
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 東海地域から豊後水道にかけての深部低周波地震活動
  S 東海・南関東地方の地殻変動
  S 静岡県西部の長期的なひずみ変化(平成25年はじめ頃〜)
  S 愛知県から長野県における深部低周波地震活動(2月13日〜22日)
  S 愛知県から奈良県にかけての深部低周波地震活動とひずみ変化
    (3月29日〜4月1日、4月20日〜4月30日)
  S 豊後水道から四国地方にかけての深部低周波地震活動とひずみ変化
    (2月5日〜3月21日)
  S 紀伊半島における深部低周波地震活動とひずみ変化(2月中旬〜3月下旬)
 d.その他
  S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化
4.その他の地殻活動
  S  日高地方西部の地震(3月14日 M4.7)
  S 福島県沖の地震(2月11日 M5.4)	
  O 茨城県北部の地震活動(2016年12月28日〜)
    ・2016年12月28日以降の地震活動は、前回報告時以降も、北北西−南南東方向に延びる長さ約15kmの領域で
        M4.0以上の地震が2月7日と4月20日に計3回発生するなど、減衰しつつも継続している。
  S 千葉県北東部の地震(2月19日 M5.4、3月5日 M4.7)
  S 新潟県中越地方の地震活動(4月6日〜 最大M3.9)
  S 茨城県南部の地震(4月12日 M4.6)
  S 松代における地殻変動観測
  S 内陸の地震空白域における地殻変動連続観測
  S 平成28年(2016年) 熊本地震
  S 日向灘の地震(3月2日 M5.3) 
  S 種子島近海の地震(3月12日 M5.1) 
  S 大隅半島東方沖の地震(4月29日 M5.6) 
  S 沖縄本島近海の地震(3月25日 M5.1)
  S 宮古島近海の地震(5月9日 M6.4) ※期間外

	 	
【2】国土地理院
1.地殻活動の概況
 b.地殻変動
  O GEONETによる全国の地殻水平変動
  O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差
  O GNSS連続観測から推定した日本列島のひずみ変化
2.東北地方太平洋沖地震関連
  O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル
  O GNSS連続観測時系列
  S 成分変位と速度グラフ
  S いわき市〜相馬市間の上下変動
  S 相馬市〜北上市間の上下変動
  S 北上市〜五戸町間の上下変動
  S 仙台市〜石巻市間の上下変動
  S 石巻市〜釜石市間の上下変動
  S 釜石市〜五戸町間の上下変動
  S 東北地方の上下変動
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺	
  S 北海道太平洋岸 GNSS連続観測時系列
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下  
  S 伊豆半島・伊豆諸島の地殻水平・上下変動図
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
  S 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
  S 高精度比高観測点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
  S 高精度比高観測
  S 菊川市付近の水準測量結果
  S 御前崎周辺 GNSS連続観測時系列
  S 駿河湾周辺 GNSS連続観測時系列
  S 御前崎長距離水管傾斜計月平均
  S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化
  S 御前崎地中地殻活動観測施設
  S 御前崎における絶対重力変化
  S 東海地方の地殻変動
  S 東海地方の非定常的な地殻変動 
4.その他の地殻活動等
  S 伊豆東部地区 GNSS連続観測時系列
  S 伊豆諸島地区 GNSS連続観測時系列
  O 平成28年(2016年)熊本地震の余効変動
  S 測地VLBI

【3】北海道大学

【4】東北大学災害科学国際研究所
  
【5】東京大学地震研究所

【6】東京工業大学

【7】名古屋大学

【8】京都大学防災研究所
4.その他の地殻活動等
  S 近畿地方北部の地殻活動
  S 地殻活動総合観測線

【9】九州大学
  
【10】鹿児島大学

【11】統計数理研究所
4.その他の地殻活動等
  O 2016年熊本地震の余震活動について               -- 統数研・東大地震研
    約一年間にわたる余震活動をETASモデルや非定常ETASモデルなどで解析し活動の推移を調べた。
  O 最新の活断層カタログに基づくBPT予測(統数研)
    2017年5月1日時点の地震本部による最新の内陸古地震カタログに対して,精密な尤度評価を用いて
        BPT分布更新過程を当てはめパラメータの推論および長期地震発生確率の評価を行った.

【12】防災科学技術研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
  O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
  O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
  S 関東・東海地域における最近の傾斜変動

【13】産業技術総合研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
  S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2017年2月〜2017年4月)
  S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2017年2月〜2017年4月)
  S 東海・紀伊半島・四国における短期的スロースリップイベント(2017年2月〜2017年4月)
4.その他の地殻活動等
  S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2017年2月〜2017年4月)
                         -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研
  S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2017年2月〜2017年4月)
  S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2017年2月〜2017年4月)
  S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2016年11月〜2017年4月)
                             -- 鳥取大学工学部・産総研

【14】海上保安庁
1.地殻活動の概況
 b.地殻変動
  S GPSによる地殻変動監視観測
  S 下里水路観測所におけるSLR観測

【15】海洋研究開発機構

【16】その他の機関
記載分類は以下のとおりとなっています。
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
 b.地殻変動
2.東北地方太平洋沖地震関連
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
 d.その他
4.その他の地殻活動等

 ・口頭報告(O)
 ・資料提出のみ(S)