地震予知連絡会の活動報告
第180回地震予知連絡会(2009年2月16日) 議事概要
平成21年2月16日、国土地理院関東地方測量部において第180回地震予知連絡会が開催された。はじめに、第1回重点検討課題運営部会からの報告があった。その後、全国の地震活動、地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論された。また、第182回地震予知連絡会重点検討課題「プレート境界深部すべりに係る諸現象」について趣旨説明が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.第182回地震予知連絡会(5月15日開催予定)における重点検討課題の検討について
重点検討課題「プレート境界深部すべりに係る諸現象」について趣旨説明が行われた(趣旨説明者:小原委員)。本重点検討課題では、フィリピン海プレートの沈み込み境界深部で発生するすべり現象(短期的スロースリップイベント)とそれに伴う現象(深部低周波微動・地震、深部超低周波地震)の発生状況、モニタリングの現状、発生メカニズムに関する研究の現状について理解を深めるとともに、今後のモニタリングの高度化、発生メカニズム研究、プレート沈み込み過程、巨大地震発生との関連等に関する議論を行ない、プレート間すべりのモニタリングとしての可能性を探ることを目的としている(事務局資料)。
2.全国の地震活動について
国内で2008年11月から2009年1月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は30個であった(気象庁資料)。また、千島海溝・日本海溝周辺で相対的に地震発生数が多いことについて話題となった。
3.日本列島の歪み変化について
GPS連続観測データから推定した最近1年間の日本列島の歪み変化図からは、北海道において2003年9月26日に発生した平成15年十勝沖地震の余効変動、2008年9月11日に発生した十勝沖の地震の変動の影響が見られ、伊豆諸島北部では北東—南西の伸びが依然として顕著である。また、2008年5月8日に発生した茨城県沖の地震、2008年6月14日に発生した平成20年岩手・宮城内陸地震、2008年7月19日に発生した福島県沖の地震の影響が見られる(国土地理院資料)。
4.福島県沖(いわき市沖)の地震活動について
2009年1月3日16時13分に福島県沖(いわき市沖)のプレート境界でM4.8(最大震度4)の地震が発生した。この地震は、1998年3月17日(M4.5)、2000年5月30日(M4.3)、2002年10月26日(M4.6)、2005年9月11日(M4.5)の地震と同じ領域(0.5km以内)で発生しており、これら5つの地震は発生間隔が同程度で、波形の相似性が高いことから、プレート境界上に存在する同じアスペリティの破壊が繰り返し地震を引き起こしている可能性が高い。近傍では、ひと回り大きい地震(固有地震)が1997年5月12日(M5.7)、2005年10月22日(M5.6)に発生しているほか、ひと回り小さい2つのグループの相似地震(M4.2及びM3.8程度)も発生しているにもかかわらず、今回の地震(M4.8)は発生間隔を大きく乱されることなく発生しているように見える(気象庁資料)。
5.関東東方沖の地震について
2008 年12 月20 日19 時29 分に関東東方沖でM6.6(最大震度3)の地震が発生した。この地震は太平洋プレートと陸のプレートの境界付近で発生した地震であり、発震機構は東西方向に圧力軸を持つ逆断層型であった。また、この地震の1日後には福島県沖でM6.2の正断層型の地震が発生している。今回の地震(M6.6)が発生した場所の周辺では、2007年の中頃から微小地震活動が活発化していた。また、微小地震があまり発生していなかった場所で、今回の地震活動が発生している(気象庁資料)。
6.宮城・福島・茨城県太平洋岸の地殻変動について
茨城県沖の地震(2008年5月8日、M7.0)、平成20年岩手・宮城内陸地震(2008年6月14日、M7.2)、福島県沖の地震(2008年7月19日、M6.9)に伴う地殻変動とその余効変動がみられる(国土地理院資料)。
7.東海地域の地殻変動について
東海地域の水準測量結果(年周補正後)において、掛川市の水準点140−1に対して御前崎市の水準点2595は、前回と比較してわずかに隆起となっているが、去年の冬と比較するとわずかな沈降であり、今回の観測結果は2005年夏以降の最近の沈降トレンド上にある(国土地理院資料)。GPS連続観測データから得られた東海地方の地殻変動は、スロースリップ開始以前の状況に戻っているように見える(国土地理院資料)。
8.西南日本の深部低周波微動と短期的スロースリップについて
2008年11月10日頃から11月18日にかけて三重県中部で、2009年2月5日頃から愛知県中部で短期的スロースリップイベントを伴う顕著な深部低周波微動活動が観測された。三重県中部の微動活動は、北東及び南西方向に移動した。これら以外に、奈良県南部、四国中部、四国東部、四国西部において微動活動があった(防災科学技術研究所資料)。
9.沖縄本島近海(国頭村東方沖)の固有地震について
沖縄本島近海(国頭村東方沖)の深さ約31kmで、1994年10月以降、M4.1程度のプレート境界型と考えられる地震が平均2.5年の間隔で6回発生している。この地震群から0.5〜1km離れたごく近傍で、ひと回り小さい2グループの地震群(M3.0及びM2.8程度)がそれぞれ別のクラスターを成して、ほぼ周期的に繰り返し発生している。この3グループともそれぞれ同じ場所で同規模の地震がほぼ周期的に発生していることから、プレート境界上に存在する3つの近接したアスペリティがそれぞれ繰り返し破壊されて、このような固有地震活動を引き起こしている可能性が高い。実際、M4程度の地震のすべり量(8〜25cm程度)は、この付近のフィリピン海プレートの沈み込みの速度(年間約6〜7cm)に発生間隔(2.5年)を乗じた値と同程度である(気象庁(沖縄気象台))。
各機関からの提出議題
【1】気象庁 1.日本とその周辺 A1 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 根室半島南東沖の地震(11月22日M5.2) C 十勝支庁中部の地震(1月11日M4.7) A1 十勝沖の地震(2008年9月11日M7.1)の南東で発生する余震について 3.東北地方とその周辺 C 三陸沖の地震活動(12月4日M6.1など) C 宮城県中部の地震(12月7日M4.3) C 三陸沖の地震(12月15日M5.2) A1 福島県沖の地震(1月3日M4.8)および周辺で発生する相似地震について 4.関東・中部地方とその周辺 C 岐阜県美濃東部の地震(11月24日M3.9) A1 関東東方沖(福島県沖)の地震活動(12月20日M6.6など) C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 5.近畿・中国・四国地方とその周辺 C 丹波地方の地震活動 6.沖縄地方とその周辺 C 宮古島近海の地震(1月24日M5.1) 7.期間外・海外 C 茨城県沖の地震(2月1日M5.8) A1 沖縄本島近海の地震活動(2月5日M2.8ほか) C スラウェシ島(インドネシア)の地震(11月17日Ms7.0) C オホーツク海の地震(11月24日Mw7.3) C ニューギニア付近(インドネシア)の地震(1月4日Mw7.6) C 千島列島東方の地震(1月16日M7.4) 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる全国の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 A2 GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 2.北海道地方の地殻変動 C 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列 C 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 3.東北地方の地殻変動 C 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列 C 2008年岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動 A2 宮城・福島・茨城県太平洋沿岸 GPS連続観測時系列 4.関東甲信地方の地殻変動 C 関東地方の上下変動 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測 5.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 A2 伊豆東部の上下変動 A2 伊豆大島の上下変動 C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 C 伊豆東部地区 GPS連続観測時系列 C 伊豆半島東部測距連続観測 C 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列 C 精密辺長測量 川奈地区 6.東海地方の地殻変動 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 菊川市付近の水準測量結果 C 御前崎周辺 GPS連続観測時系列 C 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均,時間平均) C 御前崎地中地殻活動観測装置観測 A2 東海地方の非定常地殻変動 7.北陸・中部・近畿地方の地殻変動 A2 北陸・中部・近畿地方の上下変動 8.中国・四国地方の地殻変動 C 中国地方の上下変動 C 室戸西地区の上下変動 C 四国中西部の上下変動 9.その他 C 測地VLBI観測 B GPS連続観測システム(GEONET)の新しい解析手法について 【3】北海道大学 C 2009年1月4日インドネシアパプア地震による津波(暫定) 【4】東京大学地震研究所 C 日光・足尾付近の地震活動(2008年11月〜2009年1月) C 富士川・駿河湾地方における地殻変動観測(その33) 【5】名古屋大学 C 新宮ボーアホールひずみ計で捉えた短周期スロースリップイベント C 1891年濃尾地震の余効変動から推定した中部日本地域のレオロジー構造 【6】京都大学防災研究所 C 近畿地方北部の地殻活動 【7】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2008年11月〜2009年1月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2008年11月〜2009年1月) C 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動の観測 (2007年4月〜2009年1月) C 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測(2006年1月〜2009年1月) B 宮城県沖地震活動のパタン変化(その6) B 静岡県西部の地震活動活性化とスロースリップ分布 B 2009年2月1日茨城県東方沖の地震 B 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 (2008年11月〜2009年1月) B アレイ解析によって検出された日本周辺の超低周波地震活動 (2008年11月〜2009年 1月) 【8】産業技術総合研究所 1.関東・甲信越地域 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2008年11月〜2009年1月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2008年11月〜2009年1月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 -- 2.北陸・中部地域 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2008年11月〜2009年1月) 3.近畿地域 C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2008年11月〜2009年1月) 4.中国・四国地域 C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2008年11月〜2009年1月) --鳥取大学工学部・京大防災研・産総研 【9】海上保安庁 C GPSによる地殻変動監視観測 C 1月4日のニューギニア付近の地震による津波(全海保観測点記録)
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)各地域についての詳細検討 (B) 話題提供 (C) 資料提出
地震予知連絡会講演会を開催(2009年2月16日)
地震予知連絡会は平成21年2月16日に千代田区内の九段第二合同庁舎14階共用会議室において「地震予知連絡会 講演会」を開催しました。
講演会は、地震予知連絡会が昭和44年4月に第1回地震予知連絡会を開催して以来、本年で40周年を迎えることから、これを機にこれまでの我が国の地震予知への歩みを改めて振り返り、今後の地震予知研究の発展を期することを目的に開催したものです。
講師には元朝日新聞社編集委員の泊次郎氏をお招きし、「地震予知研究の歴史に学ぶ」と題して講演をいただき、160名が参加しました。