地震予知連絡会の活動報告
第161回地震予知連絡会(2004年11月15日) 議事概要
平成16年11月15日、国土地理院関東地方測量部において第161回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとしては、9月28日に米国パークフィールドで発生した地震について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間では、9月5日に紀伊半島南東沖でM7.4の地震が発生した。また、10月23日に新潟県中越地方でM6.8の地震が発生し、M6以上の余震を数多く伴った。この他、台湾付近でM6.6の地震が発生した(気象庁資料)。
2.紀伊半島南東沖の地震活動について
9月5日に紀伊半島の南東沖でM7.4の地震が発生した。この地震の5時間前には、本震の西南西約30kmでM6.9の前震が発生している。地震活動は前震−本震−余震型で推移し、9月8日に余震域の東端でM6.5の最大余震が発生した(気象庁資料)。
この地震は海域で発生したため、震源決定の精度が低くなっている。海底地震計のデータを用いて決定された震源分布では、深さ10km程度で発生している地震とそれよりも深いところで発生している地震の2つのグループに分けられる(地震研究所資料)。
震源域に近い海域に設置された海底基準点での観測から、地震によると考えられる変動が検出された。しかし、まだ観測データ数が少ないことから、さらに観測を実施するなど検討が必要である(海洋情報部資料)。
なお、海底地震計により決定された余震分布から、震源域付近の断層面は非常に複雑であることが判明しつつある。したがって、まず多くの海底地震計のデータを用いて余震分布を詳細に明らかにする必要があり、断層面を明らかにした上で地殻変動や地震波形を説明する断層モデルを構築するというステップを踏む必要があるとの認識が示された。
3.新潟県中越地震について
10月23日に新潟県中越地方でM6.8の地震が発生した。その後約1時間でM6以上の余震が3回発生するなど余震活動が非常に活発であった。余震の発生回数について過去に内陸で発生した地震と比較すると、1943年の鳥取地震や1945年の三河地震と同程度に活発である(気象庁資料)。
稠密に配置した地震計による観測の結果、本震の断層面を境界として東側と西側で地震波速度が大きく異なり、東側で高速、西側で低速となっていることが明らかとなった。また、27日に東側で発生した余震の震源付近では周囲に比べてやや地震波速度が低速になっているなど、地殻構造と地震との間に関係が見られる(地震研究所資料)。震源分布から推定される断層面は一つではなく複数推定され、震源域付近で複雑に破壊が進んだと考えられる(京都大学防災研究所・九州大学地震火山観測研究センター資料)。
新潟県中越地震の震源域周辺では、1990年以降、1990年にM5.4、1998年にM5.2とやや規模の大きな地震が発生している。1990年の地震の余震活動は活発であったが、今回の余震域の西端で発生した1998年の地震の余震活動は低調であった。しかし、この付近で発生する地震には活動が長く続いた例もあり、今後とも注意する必要があるとの指摘があった(気象庁資料)。
4.東海地域の地殻活動について
東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では前回の観測結果と比較すると御前崎側で沈降が見られた(国土地理院資料)。掛川市の水準点140-1に対する御前崎市の水準点2595の動きは、最近の2〜3年間は年周変化が小さくなっているが、変動の基本的な傾向は今までと変わらない(国土地理院資料)。
東海地域の非定常地殻変動(スロースリップ)は依然として継続している(国土地理院資料)。
5.十勝沖地震の余効変動について
2003年10月に発生した十勝沖地震の余効変動は減衰しながら現在も継続している(国土地理院資料)。2004年7月以降、余効変動のパターンが変化し、根室半島の深部ですべりが生じている可能性がある(国土地理院資料)。
6.2004年パークフィールド地震について
今回のトピックスでは、2004年9月28日に米国パークフィールドで発生した地震について報告があり、議論を行った。(世話人:岡田副会長)。
パークフィールドでは、サンアンドレアス断層においてM6の地震が約22年間隔で繰り返し発生している。特に1934年と1966年に発生した地震ではほぼ同じ経過をたどり、この地域のM6の地震は同じ性格の地震が周期的に発生すると考えられていた。1966年の地震の後、次回に発生する地震の発生時期は1988±7年と予想された。この地震をターゲットとして地震計や地殻変動観測機器などが周辺に整備され、稠密な観測網が構築されている。その結果、サンアンドレアス断層上でのクリープ領域とカップリング領域の地震発生間におけるすべり分布、周辺の構造などが詳細に明らかにされている。また、最近では地震発生領域をターゲットとしてサンアンドレアス断層を掘削する計画なども実施されている。
しかし、地震の発生は当初の予測から遅れ、2004年9月28日にMw6.0の地震が発生した。発生が遅れた原因については、周辺で発生した地震(1983年コアリンガ地震など)の影響などによる説明が試みられている。
今回の地震では、北西から南東に破壊が広がった1922年、1934年、1966年の地震とは異なり、南東から破壊が開始し北西へ伝播するなど、前回とは異なる経過をたどった。また、1922年、1966年の地震では、M5クラスの前震を伴ったが、今回は前震が観測されず、M3.2以上のプレスリップは発生しなかったと考えられている(防災科学技術研究所資料、東北大学資料)。
このことについて、昔のデータを調べると、M6の地震が周期的に発生するという考えが研究者にあったために、周辺の別の断層で発生した地震を入れてしまったり、逆にこの場所で発生した地震を除外している可能性もあるとの指摘がなされているとの報告があった。
日本の内陸で発生する地震の予知について、不可能であると考えるのではなく、将来発生が予測されるような場所において長町−利府線で行われたような集中的な観測を行うなど、地震の発生場についてきちんと理解を深める必要があるとの意見が出された。また、地震予知連絡会で選定している特定観測地域でM6.5以上の地震が発生している事実があるが、長期的予測が的中した背景を再確認する事が重要であるとの意見が出された。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁 1.全国M5以上の地震と主な地震の発震機構() 2.北海道地方とその周辺の地震活動 C 千島列島(9月13日M5.8)の地震活動 C 十勝沖の地震(8月17日M5.1)の地震活動 3.東北地方とその周辺の地震活動 C 岩手県沖(8月10日M5.8)の地震活動 C 福島県沖(9月1日M5.6)の地震活動 4.関東・中部地方とその周辺の地震活動 C 茨城県沖(10月17日M5.5とM5.7)の地震活動 C 茨城県南部(10月6日M5.7)の地震活動 C 千葉県東方沖(8月21日M5.4)の地震活動 C 東京湾(8月25日M4.4)の地震活動 C 新潟県中越地方(9月7日M4.3)の地震活動 2004年新潟県中越地震(10月23日M6.8)の地震活動 C 福井県嶺北地方(10月5日M4.8)の地震活動 C 長野県北部の地震活動と松代における地殻変動連続観測 C 東海地域の地震活動 C 駿河湾(8月11日M3.9、8月26日M3.3)の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 紀伊半島南東沖(9月5日M7.4)の地震活動 5.近畿・中国・四国地方とその周辺の地震活動 C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 C 紀伊水道(10月27日M4.4)の地震活動 C 島根県東部(8月14日M2.6)の地震活動 6.九州地方とその周辺の地震活動 C 奄美大島近海(9月1日M5.2)の地震活動 C 奄美大島近海(10月3日M5.3と10月6日M5.3)の地震活動 7.沖縄地方とその周辺の地震活動 C 沖縄本島近海(9月23日M5.5)の地震活動 C 与那国島近海(10月15日M6.6)の地震活動 期間外の活動 C 宮城県沖(11月2日M5.4)の地震活動 C 国後島付近(11月4日M5.8)の地震活動 C オホーツク海南部(11月7日M6.0)の地震活動 C 東海道沖(11月9日M5.7)の地震活動 C 台湾付近(11月9日M6.4)の地震活動 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動 A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化 2.東海地方の地殻変動 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点(140−1、2595)の経年変化 A2 水準点2595(御前崎市)の経年変化 C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 平均的地殻変動からのずれ上下成分 A2 水準点2602−1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の 経年変化 A2 水準点2602−1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化 A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値) C 水準点の比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 地中地殻活動観測装置観測結果 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 東海地方の非定常地殻変動 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(1) C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2) A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺 C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化 C GPS連続観測および水準測量による比高変化に対する近似曲線の係数変化 C GPS連続観測結果 静岡県西部 C 御前崎地区高精度比高連続観測 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計日平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計時間平均 3.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区(ベクトル図) C GPS連続観測結果 伊豆半島東部地区 C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区 4.関東地方の地殻変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 C GPS連続観測結果 富士山周辺地区 C GPS連続観測結果 富士山周辺(ベクトル図) 5.北海道地方の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 十勝沖周辺 A2 GPS連続観測結果 飛島〜えりも2間の年周期補正グラフ A2 十勝沖地震に伴う地殻変動 A2 十勝沖地震後のモデル計算 A2 水平変動ベクトル図 C 各験潮場間の月平均潮位差 C 加藤&津村(1979)の解析方法による各験潮場の上下変動 C 水準測量による上下変動 C 浦河地区GPS機動観測 6.北陸地方の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 中越周辺 A2 新潟県中越地震に伴う地殻変動より推定した断層モデル図 C 有峰湖地区変動地形調査機動観測 7.近畿地方の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 紀伊半島南東沖周辺 A2 紀伊半島南東沖地震に伴う変動ベクトル、モデル図 8.四国・九州地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の地震活動 C 2003年十勝沖地震後の地殻変動 C 根室半島沖の地震活動の静穏化と活発化 その2 【4】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【5】東京大学地震研究所 A4 紀伊半島東方沖地震の余震分布 A4 新潟県中越地震の余震分布 A4 新潟県中越地震に伴うGPS観測について B 2004年紀伊半島南東沖地震の震源過程(改訂版)および新潟県中越地震の 震源過程 C 日光・足尾付近の地震活動(2004年8月〜2004年10月) C 豊橋における絶対重力変化 C 御前崎における絶対重力変化 C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2004年8月〜2004年10月) 【6】名古屋大学 C 2004年9月5日紀伊半島南東沖地震に伴う地殻変動 C 2004年9月5日紀伊半島南東沖地震による南海トラフのクーロン応力変化 C 2004年新潟県中越地震の余効変動 【7】京都大学防災研究所 C 近畿地方の最近の地震活動 C 近畿地方の地殻変動連続観測結果 C 紀伊半島南東沖の地震に関連した地殻変動 C 紀伊半島南東沖の地震GPS観測結果 C 小平尾断層における断層トラップ波の観測 A4 中越地震稠密余震観測により得られた余震分布 (京都大学防災研究所、九州大学・地震火山観測研究センター) 【8】九州大学理学研究院 C 九州の地震活動(2004年8月〜10月) 【9】鹿児島大学理学部 C 九州南部の地震活動(2004年8月〜10月) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2004年8月〜10月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2004年8月〜10月) C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動観測 (2003年1月〜2004年10月) B 前兆的静穏化の調査(2000年以降、M6.8以上:暫定結果) 【11】産業技術総合研究所 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2004年8月〜2004年11月) C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2004年8月〜2004年11月) C 有馬−高槻−六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2004年8月〜2004年11月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2004年8月〜2004年11月) C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2004年5 月〜2004年11月) (鳥取大学工学部・京大防災研・産総研) 【12】海洋情報部 A4 潮岬沖東海底基準点における海底地殻変動観測結果 C GPSによる地殻変動監視観測 【13】統計数理研究所 B 余震活動解析について
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出