地震予知連絡会の活動報告

第244回地震予知連絡会(2024年8月29日)議事概要

 令和6年8月29日(木)、国土地理院関東地方測量部において第244回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングの報告が行われ、その後、重点検討課題として「トルコ・シリア地震」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動

 日本とその周辺で2024年5月から7月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は28回であった。このうち、日本国内で震度5弱以上を観測した地震は1回発生した(気象庁・資料2頁)。

(2)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島には、能登半島を中心に令和6年能登半島地震に伴う地殻変動によるひずみが見られる。そのほか、北海道南部から東北地方にかけて、東北地方太平洋沖地震後の余効変動の影響によるひずみ、房総半島では2024年2月26日頃から始まったプレート間のゆっくりすべり現象に伴うひずみ、九州地方では平成28年(2016年)熊本地震の余効変動の影響によるひずみが見られる(国土地理院・資料3-4頁)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)日本海溝・千島海溝周辺

・北海道・東北沖の地震のサイズ分布(b値)の時空間変化:その後
 北海道・東北沖の地震の規模別頻度分布(b値)の時空間変化について、第241回(2023年11月30日)の重点検討課題で報告した内容の続報。2003年十勝沖震源域の東側の、1952年十勝沖地震で滑りの大きかった場所付近のb値が、前回報告時よりもさらに低下している(0.5程度)。また、1968年十勝沖地震ならびに1994年三陸はるか沖地震の震源域のb値も比較的低い値(0.6程度)で推移している(海洋研究開発機構・資料5頁)。

(2)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・日本周辺における浅部超低周波地震活動(2024年5月~7月)
 防災科研F-net記録の波形相関を用いた解析により、8月8日の日向灘の地震以降、日向灘及びその周辺域で超低周波地震活動を検知した(防災科学技術研究所・資料6頁)。

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2024年5月~7月)
 期間中、短期的スロースリップイベントを伴う顕著な深部微動活動は、6月20日~29日に四国中部において発生した。これ以外の主な微動活動として、5月30日~6月2日に紀伊半島南部から西部、6月1日~3日に四国東部、6月13日~16日に四国中部、7月2日~9日に四国東部から中部での活動が検出された(防災科学技術研究所・資料7-8頁)。

・東海の非定常的な地殻変動(長期SSE)
 GNSS連続観測により、東海地方で2022年初頭から南東向きの非定常的な地殻変動が見られており、渥美半島付近にすべりが推定された。2022年1月1日~2024年7月11日の期間では、すべりの最大値は8cm、モーメントマグニチュードは6.4と求まった(国土地理院・資料9頁)。

・四国中部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測により、四国中部で2019年春頃から観測されている非定常的な地殻変動は、2023年秋頃から一時的に鈍化していたが、最近は継続しているように見える2019年1月1日~2024年7月6日の期間では、すべりの最大値は53cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった(国土地理院・資料10頁)。

・南海トラフ孔内(間隙水圧)観測による浅部ゆっくりすべりモニタリング
 熊野灘の長期孔内観測システムの間隙水圧変化が7月17日頃から8月15日頃まで観測され、駆動源が観測システムよりも深部側から観測システムの下まで移動した可能性がある。なお、8月8日の日向灘地震を挟んで変化が生じたが、地震動以外の直接的な影響は特にみられなかった(海洋研究開発機構・資料11頁)。

・日向灘の地震(8月8日 M7.1)
 2024年8月8日16時42分に日向灘の深さ31kmでM7.1の地震(最大震度6弱)が発生し、宮崎県日南市で震度6弱を観測したほか、東海地方から奄美群島にかけて震度5強~1を観測した。また、宮崎県南部山沿いで長周期地震動階級3を観測したほか、鳥取県西部及び九州・奄美地方で長周期地震動階級2~1を観測した。気象庁はこの地震に対して、最初の地震波の検知から5.7秒後の16時43分09.4秒に緊急地震速報(警報)を発表した。また、気象庁は、この地震に伴い、16時44分に高知県及び宮崎県に津波注意報を発表した。その後、16時52分に愛媛県宇和海沿岸、大分県豊後水道沿岸、鹿児島県東部及び種子島・屋久島地方にも津波注意報を発表した同日22時00分に解除)。この地震により、宮崎港(国土交通省港湾局の観測施設)で0.5m(速報値)の津波を観測するなど、和歌山県から種子島にかけて津波を観測した。この地震の発生に伴って、南海トラフ地震の想定震源域では、大規模地震の発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっていると考えられたことから、8日19時15分に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表した。この地震は、発震機構が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した(気象庁・資料12頁)。  この地震に伴い、宮崎観測点で東南東に約14cm等、宮崎県南部を中心に広い範囲で水平地殻変動が観測された。また、宮崎観測点で約8cmの沈降等、宮崎県南部の沿岸部周辺で上下地殻変動が観測された。GNSS連続観測結果による地震前後の地殻変動時系列では、いずれの観測点においても地震前は特段の変動は見られない。た、地震時の変動のほか、地震後にわずかな余効変動が見られる。日本の地球観測衛星「だいち2号」(ALOS-2)のデータを使用したSAR干渉解析を行った結果、震源に近い宮崎県沿岸部で地殻変動が検出された。電子基準点で得られた地殻変動に基づく震源断層モデルを計算した結果、北東-南西走向で北西に傾き下がる断層面における逆断層運動として推定された。断層面の水平位置は,余震分布と整合しており、断層面の上端は深さ約14kmであった。モーメントマグニチュードは7.1(剛性率40GPaを仮定)であり、地震波から求められた値(7.0~7.1)とほぼ整合する。推定された断層の走向、傾斜、深さは、いずれもこの地震がフィリピン海プレートと陸側プレートの境界で発生したプレート間地震であることと調和的である。プレート境界面を5km×5kmの小断層に分割して推定したすべり分布モデルでは、震源位置からその南側にかけてすべりが推定された。モーメントマグニチュードは7.1(剛性率40GPaを仮定)であった(国 土地理院・資料13-20頁)。

・2024/08/08 日向灘の地震の発生場と今後
 8月8日の日向灘地震滑り域は、過去に繰り返しSSEが発生した領域と棲み分けており、相似地震が発生していなかった領域と対応している。隣接する1996年の地震時滑り域は今回滑っていないと思われる。今後想定される、より大きな規模の地震発生のシナリオとしては、1996年滑り域から浅部スロー地震発生域の一部を含む1662年日向灘地震の再来が挙げられる(海洋研究開発機構・資料21頁)。

1.3 その他

(1)「令和6年能登半島地震」の地震活動(期間中の最大規模の地震:6月3日 M6.0)

 能登半島では2020年12月から地震活動が活発になっており、2023年5月5日にはM6.5 の地震(最大震度6強)が発生していた。2024年1月1日16時10分に石川県能登地方の深さ16km でM7.6(最大震度7)の地震が発生した後、地震活動はさらに活発になり、活動域は、能登半島及びその北東側の海域を中心とする北東-南西に延びる150km 程度の範囲に広がっている。2024年6月3日に石川県能登地方の深さ14kmでM6.0の地震(最大震度5強)が発生した。地震の発生数は増減を繰り返しながら大局的には緩やかに減少してきているが、震度1以上を観測した地震が5月は28回、6月は35回、7月は20回発生するなど活発な状態が続いている(気象庁・資料22-23頁)。

(2)小笠原諸島西方沖の地震(7月8日 M6.4)

 2024年7月8日05時01分に小笠原諸島西方沖の深さ598kmでM6.4の地震(最大震度3)が発生した。この地震は太平洋プレート内部で発生した。発震機構は東北東-西南西方向に圧力軸を持つ型である(気象庁・資料24頁)。

(3)台湾付近の地震(5月10日 M6.5)

 2024年5月10日16時45分に台湾付近の深さ13kmでM6.5の地震(日本国内で震度1以上を観測した地点はなし)が発生した。この地震の発震機構は、北東-南西方向に圧力軸を持つ型である。この地震の震央付近では、4月3日08時58分にM7.7の地震(日本国内で観測された最大の揺れは震度4)が、4月23日にM6.7の地震(日本国内で震度1以上を観測した地点なし)が発生するなど、地震活動が活発化している(気象庁・資料25頁)。


2.重点検討課題「トルコ・シリア地震」についての検討

 2023年2月6日にトルコ共和国南東部の東アナトリア断層(EAF)周辺において、Mw7.8(USGS)の地震が発生した。その9時間後には、最初の地震の震央から約90km北でMw7.5の地震が続発し、周辺地域に甚大な人的及び構造物被害がもたらされた。本課題では、長大活断層の連動確率評価と検証、震源過程、地殻変動からみる断層運動、被災地域の地震動特性と地盤増幅、M7地震とM8地震のトリガリング効率・ストレスシャドウの違いについて報告し、断層のセグメントを把握することの重要性や国外の事例を踏まえた日本の長期評価への教訓等について議論を行った(コンビーナ:防災科学技術研究所・汐見勝彦 委員・資料27-28頁)。

◆2023年トルコ・シリア地震と東アナトリア断層系:長大活断層の連動確率評価と検証

 2014年にGSJ(産業技術総合研究所)とMTA(トルコ地質調査所)の国際共同研究により調査したトレンチが、2023年トルコ・シリア地震によって変位したこと、2023年10月に同トレンチの再掘削調査を実施し、2023年トルコ・シリア地震に伴う地層のずれと断層の進展を確認したことが報告された。今回の調査結果と歴史地震による平均再来間隔および経過時間から、地震発生前の30年発生確率を算出した結果、35%と高かったことが分かった(産業技術総合研究所・近藤久雄 主任研究員・資料30頁)。

◆2023年トルコ・シリア地震の震源過程

 断層すべりと断層形状の時空間分布を同時に推定する波形インバージョン(ポテンシー密度テンソルインバージョン)を遠地実体波P波に適用し、2023年トルコ・シリア地震の震源過程を解析した。推定された震源過程は、主要断層から枝分かれした小断層における断層破壊をきっかけとして、主要断層における逆伝搬を伴う階層的な破壊進展や高速破壊を生じうることを示唆した。破壊の終端部では非ダブルカップル成分を含むメカニズム解が求まり、断層の走向の変化が破壊の停止に寄与したことを示唆している(筑波大学・奥脇亮 助教・資料31頁)。

◆SARが捉えた地殻変動からみる断層運動

 2023年トルコ・シリア地震を対象として衛星SAR(だいち2号)のデータを解析し、2回の地震に伴う地殻変動の描像、主要な断層から離れた位置における小規模な断層における変位の不連続の分布を明らかにした。1回目および2回目の地震の断層長はそれぞれ約350km、約150kmで、深さ10km以浅に断層すべりが集中し、最大すべり量は10mに及んでいること、2回目の地震は1回目の地震に伴う応力場の変化により促進された可能性があることが分かった。これまでに蓄積されたモーメントと今回の地震で解放されたモーメントの収支に不整合があること、より精度の高いエネルギー収支に関する分析には、歴史地震の正確な発生位置、年代、規模の推定が不可欠であることが指摘された(国土地理院・小林知勝 宇宙測地研究室長・資料32頁)。

◆2023年トルコ南東部地震の被災地域の地震動特性と地盤増幅について

 この地震によってトルコ建国以来最悪の地震被害が生じたこと、東アナトリア断層での1回目の地震は事前に想定されていたことが報告された。被災地域の主要な都市では、断層破壊がもたらす長周期パルスと平野部の地盤増幅効果によって大きな地震動が観測されたこと、周期1秒程度の地盤増幅が大きく、被害の拡大に寄与した可能性があることが分かった。また、深部地盤も地震動特性に影響を及ぼすことが分かり、トルコで不足している深部の地盤構造の調査の必要性が指摘された(東京工業大学・山中浩明 教授・資料33-34頁)。

◆M7地震とM8地震のトリガリング効率・ストレスシャドウの違いートルコ・シリア地震の余震活動

 2023年トルコ・シリア地震による周辺横ずれ断層へのクーロン応力変化を求めた結果、パザルジュック地震(M7.8)の9時間後に発生したエルビスタン地震(M7.7)は、法線応力の増加で誘発された可能性が高いこと、破壊域広域でストレスシャドウ(応力降下に伴う地震活動の低下)がみられ、余震減衰が早く継続時間も短いことが分かった。このような広域ストレスシャドウは、長大な断層系巨大地震にみられる特徴であることが報告された(東北大学災害科学国際研究所・遠田晋次 委員・資料35-36頁)。


3.次回(第245回)重点検討課題「阪神・淡路大震災から30年、能登半島地震から1年 ―内陸地震予測の進展と課題―」についての趣旨説明

 兵庫県南部地震(1995年、M7.3)は、日本の戦後近代都市を襲った初めての内陸大地震であり、その被害の甚大さから地震防災施策・地震研究の大きな転機となった。 「30年確率」に代表されるように、30年は同地震から始まった地震評価を振り返る重要な節目でもある。兵庫県南部地震以降、活断層調査・長期評価の重要性が強調されたが、その後の被害地震の多くは、主要活断層以外の活断層、伏在断層、海域活断層で発生している。同時に、干渉SAR、LiDARなど地表計測技術の進展にともなって、震源断層以外にも地震動をともなわない断層変位が多数検出され、活断層像の見直しも迫られている。一方で、能登半島地震(2024年、M7.6)では、半島北岸海域の活断層群が約150kmにわたって連動した。先行した3年間の地殻変動・群発地震活動との関連性も指摘され、陸に近い海域活断層の重要性とともに、中短期の地殻活動との総合的な評価のありかたを考える重要な地震となった。これまで重点検討課題として続けてきた「予測実験の試行」では、数ヵ月~数年程度の地殻活動・地震活動の予測と観測結果の比較検証が行われてきた。ETASを筆頭に一定の予測性能が確かめられたが、検証はM5~6程度までに限られる。内陸大地震の発生頻度を考慮すると、多様な調査観測手法と幅広い時間軸から、内陸地震予測の現状を振り返る必要がある。このような状況を踏まえて、次回は、長期評価の視点からみた活断層・古地震研究の進展と課題、中短期の視点からみた測地・地殻変動研究の進展と課題、観測地震の地震活動評価による内陸地震の予測、内陸地震予測研究の総括、について報告し、固有地震やひとまわり小さい地震、連動性など主要活断層から発生する地震の理解はどこまで進んだか、伏在断層、海域活断層の解明はどこまで進み抽出・評価技術の進展は見込めるか、リモセン技術と地震観測の精度向上によって地表活断層(地震断層)と震源断層の関係、活断層の運動・変形像はどこまでわかったのか、数ヵ月〜数年の中短期の地震活動解析からどの程度内陸大地震の予測が可能か、活断層の長期評価と地殻変動・地震活動をどのように有効に組み合わせて評価できるか、等についての議論を行う予定である(コンビーナ:予測実験WG(堀 高峰、西村卓也、尾形良彦、高橋浩晃、遠田晋次・資料37-38頁)。


4.運営検討部会報告

 令和7年度前期の重点検討課題名が選定され、第247回は「日向灘で起きる地震(仮)」、第248回は「地震の情報の社会への伝え方(仮)」について、それぞれ議論を行う予定であることが報告された(資料39頁・運営検討部会)。


各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:373KB)