地震予知連絡会の活動報告
第167回地震予知連絡会(2006年2月20日) 議事概要
平成18年2月20日、国土地理院関東地方測量部において第167回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとしては、「東南海・南海地震のアスペリティー」について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間、M6以上では、11月15日のM7.1の三陸沖の地震、12月2日に宮城県沖のM6.6の地震がある。この地震は8月16日の宮城県沖のM7.2の地震の最大余震と考えられる。11月22日にはM6.0の種子島近海の地震が、12月4日にはM6.1の奄美大島の地震が発生している。(気象庁資料)
2.日本列島の歪変化について
GPS連続観測データから推定した日本列島の歪変化は北海道地方で2003年十勝沖地震、2004年釧路沖地震に関連する余効的な地殻変動の影響による歪変化がみられる。宮城県地域では、2005年8月16日の宮城県沖の地震(M7.2)による歪みが、また中越地震の余効的な地殻変動による歪み変化の可能性が中越地方で見られる。また伊豆諸島周辺の地殻活動に伴う、北東—南西方向の伸びが依然として顕著である。また2005年3月20日の福岡県西方沖の地震による歪みが見られる。(国土地理院資料)
3.東海地域の地殻活動について
東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では前回の観測結果と比較して森町に対して御前崎半島先端の地域で若干の沈降が見られる。(国土地理院資料)掛川市の水準点140-1に対する御前崎市の水準点2595の動きは、長期的な沈下の傾向が続いている。(国土地理院資料)
東海地域の非定常地殻変動(スロースリップ)は2006年1月までで、最大で水平、上下共6cm程の変動が観測されている。(国土地理院資料)トレンドを除いた、時系列データを見ると、2005年くらいから遷移変動が小さくなっているように見えるが、まだ小さいながらも継続しているように思われる。(国土地理院資料)低周波地震の活発化とともに気象庁の歪計の変化が検知され、2006年1月に短期的なスロースリップが発生した事が報告された。(気象庁資料)低周波地震の領域は、気象庁によって区分されたA領域(気象庁資料)で主に発生し、終わり頃に東のB領域でも発生した。(気象庁資料)防災科学技術研究所の傾斜計データも2006年1月に低周波地震の発生と共に、変化が検知され、傾斜計データから推定されたプレート間滑りの領域は、低周波地震の移動に伴って、紀伊半島から静岡県三ヶ日付近まで時間と共に移動していった事が推定されている。(防災科学技術研究所資料)
4.伊豆半島東方沖の地震活動、地殻変動について
伊豆半島東方沖の群発地震活動は、1999年以降M3以上の地震を伴う活動はほとんどなくなっている。また5kmよりも浅い活動もほとんど見られなくなっている。(気象庁資料)水準測量の結果も、1999年以降変動が収まっており、地震活動の減衰と調和的な結果が得られている。(国土地理院資料)
5.北海道地域の地殻変動
GPSの観測データは、依然として2003年の十勝沖地震、2004年釧路沖地震以降の余効変動が北海道で起きている事を示している。(国土地理院資料)特に上下変動は北海道帯広付近まで隆起が観測されている。GPSの観測結果に基づいて推定されたプレート間滑りは、上下変動を説明するために、帯広付近まで達する結果が得られている。(国土地理院資料)累積モーメントはM7.5程度と推定される。
6.宮城県沖の地震活動
宮城県沖では、2005年12月2日にM6.6の地震が発生し、8月16日のM7.2の地震の最大余震と考えられている。(気象庁資料)12月5日にはM5.5、12月17日にM6.1、2006年1月18日に福島県沖でM5.7の地震が発生している。地震活動は、8月16日の本震の余震活動の南側で活発となっている。また12月2日のM6.6の地震波形インバージョン結果によれば、8月16日の地震の東端付近にプレート間滑りが推定される。(気象庁資料)
7.宮城県地方の地殻変動
8月16日の宮城県沖の地震(M7.2)後の余効変動は、牡鹿半島で最大2cm程に達し、GPS観測結果によれば、8月16日の宮城県沖の地震の震源を含む領域で最大10cm程のプレート間滑りが推定される。(国土地理院資料)
8.話題提供 最新の地殻構造調査結果に基づく南海トラフのプレート間カップリングの推定
プレート境界の形状に関する新しいデータに基づくプレート間カップリングの推定を行った結果が報告された。結果は、海側に大きな滑り欠損が見られる。一方陸域下では、小さくなっている。紀伊半島先端部直下において、まわりに比べて滑り欠損が明らかに小さく推定されていることが注目される。(京都大学防災研究所資料)
9.トピックス「東南海・南海地震のアスペリティー」
地震波形や地殻変動などの各種データに基づき、東南海・南海地震のアスペリテイー領域の推定結果が報告された。地震波形インバージョンの結果は、従来の結果に比べてアスペリテイーの領域が北東に寄る結果が示された。(地震研究所資料)この結果のアスペリテイー領域の南西端に、気象庁による余震分布の固まりが位置する。また紀伊半島沖には大きなアスペリテイーがないように見える。最新のGPSデータから求められた固着域は波形インバージョンによって推定された東南海地震のアスペリテイーにほぼ一致している。ただし、津波波形に基づく推定結果と、この波形データのインバージョン結果はかなり異なり、今後検討が必要と考えられる。
測地データのインバージョンによる、南海トラフ沿いのカップリングの時空間変化は、地震直後、地震時の滑り領域の深部でも滑りが続いており、地震後30年間で1m程度の滑り量に相当する。(名古屋大学資料)また、地震直後(4年以内)のカップリングの回復も確認されている。地震間では、5—6cm/年の速度で約30kmよりも浅い部分でカップリングしている結果が示された。地震後約90年後には蓄積滑り欠損量は、四国沖で6m、紀伊半島沖では3m程度に達する結果が得られている。
震度データに基づくインバージョン結果により、短周期地震発生領域が推定された。推定された短周期地震発生領域はアスペリテイー領域の端で発生しているように見えるという報告がされた。(鹿島建設小堀研究室資料)
これらの報告に基づき、東南海・南海地震のアスペリテイー領域について、これまでの想定よりも東に広がった分布となった解析結果を巡る議論がなされた。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁 (2005年11月〜2006年1月) 1.日本とその周辺 C 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 根室支庁中部(1月11日M4.4)の地震活動 C 北海道西方沖(12月13日M5.5)の地震活動 3.東北地方とその周辺 C 岩手県沿岸北部(11月13日M4.3など)の地震活動 C 岩手県内陸南部(11月1日M4.6)の地震活動 A1 宮城県沖(12月2日M6.6など)の地震活動 C 三陸沖(11月15日M7.1)の地震活動 4.関東・中部地方とその周辺 C 茨城県南部(12月28日M4.8)の地震活動 C 八丈島東方沖(11月16日M5.5)の地震活動 C 鳥島近海(1月1日M5.9)の地震活動 A1 伊豆半島東方沖の地震活動 C 新潟県沖(11月4日M4.8)の地震活動 C 愛知県西部(12月24日M4.8)の地震活動 C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 A1 愛知県東部の短期的スロースリップによる歪変化 5.近畿・中国・四国地方とその周辺 C 紀伊水道(11月1日M4.3)の地震活動 C 和歌山県北部(11月23日M4.0)の地震活動 C 東南海・南海地震前後の地震活動 6.九州地方とその周辺 C 種子島近海(11月22日M6.0)の地震活動 C 奄美大島近海(12月4日M6.1) 7.期間外・海外 C 茨城県沖(2月3日M5.9)の地震 C 千葉県北西部(2月1日M5.1)の地震 C 伊予灘(2月1日M4.3)の地震 C 天草灘(2月4日M5.1)の地震 C 山形県庄内地方(2月13日M4.8)の地震 C 岐阜県美濃中西部(2月16日M4.4)の地震 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間および3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間および3ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化 2.東海地方の地殻変動 A2 東海地方(森〜御前崎間)の水準測量 A2 東海地方(菊川市付近)の水準測量 C 水準点の比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 東海地方の非定常地殻変動 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 A2 GPS連続観測結果 御前崎周辺 C GPS連続観測および水準測量による比高変化に対する近似曲線の係数変化 C GPS連続観測結果 愛知・静岡周辺 C GPS連続観測結果 愛知東部周辺 C 御前崎地区高精度比高連続観測 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計観測結果 C 地中地殻活動観測装置観測結果 C 切山基線精密辺長測量結果 3.伊豆地方の地殻変動 A2 伊豆地方の水準測量 A2 藤沢市〜静岡市間の水準測量 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆半島東部測距連続観測 C GPS連続観測結果 伊豆半島東部・伊豆諸島地区 C 川奈地区精密水準測量 4.関東地方の地殻変動 C 藤沢〜水準原点〜さいたま〜野田〜船橋〜千葉間の上下変動 A2 三浦半島の上下変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 5.北海道地方の地殻変動 A2 北海道の地殻水平変動図(最近2年間、3ヶ月、1ヶ月) A2 GPS連続観測結果 北海道太平洋岸 A2 2003年十勝沖・2004年釧路沖地震に関連した地殻変動 6.東北地方の地殻変動 A2 2005年宮城県沖の地震・2005年三陸沖の地震に伴う地殻水平・上下変動 A2 GPS連続観測結果 東北太平洋岸周辺 A2 2005年宮城県沖の地震に伴う推定すべり分布 A2 高度地域基準点測量による東北地方の水平歪 7.北陸・中部地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 中越地方 C GPS連続観測結果 長野周辺 C 中京地区の上下変動 8.近畿地方の地殻変動 A2 紀伊半島南部の水準測量 C 紀伊半島の各験潮場間の月平均潮位差と各験潮場の上下変動 9.九州地方の地殻変動 C 鹿島市〜口之津町間の上下変動 C 西表島の上下変動 10.その他 C 測地VLBI観測(国際・国内観測) B 糸魚川-静岡構造線断層帯周辺における稠密GPS観測(2002-2005年) 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の地震活動 C 2003年十勝沖地震(M8.0)後の地殻変動 C 1940年積丹半島沖地震(M7.5)震源域周辺でのクラスター地震 【4】東北大・地震噴火予知研究観測センター A4 宮城県沖プレート境界における非地震性すべり 【5】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【6】東京大学地震研究所 C 最近の伊豆半島東方沖の群発地震 C 日光・足尾付近の地震活動(2005年11月〜2006年1月) C 富士川・駿河湾地方における地殻変動観測(その30) C 御前崎における絶対重力変化 C 豊橋における絶対重力変化 C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2005年11月〜2006年1月) C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2005年11月〜2006年1月) 【7】名古屋大学 C 御嶽山近傍における地震活動の推移 C 三河地方の地震活動 C 2006年1月深部低周波微動発生時の地殻変動連続観測結果 B 熊野海盆における海底地殻変動観測結果 【8】京都大学防災研究所 C 山崎断層の地震活動,2005年における活発化 C 近畿北部の地殻活動 B 新しい地殻構造調査結果に基づく南海トラフのプレート間カップリングの推定 【9】九州大学理学研究院 C 九州の地震活動(2005年11月-2006年1月) C 九州南部の地震活動(2005年11月-2006年1月) 鹿児島大理学部 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2005年11月〜2006年1月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2005年11月〜2006年1月) C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動観測 (2004年5月〜2006年2月) A4 東海地域における最近の長期的スロースリップの傾向変化 (三ケ日における傾斜観測結果) A4 東海地域における深部低周波微動と短期的スロースリップの連続的な移動 (2006年1月) A4 傾斜の連続観測で捉えた2006年1月の伊東市周辺における地震・火山活動 A4 宮城県沖における地球潮汐の地震トリガー作用 【11】産業技術総合研究所 (東海・伊豆地域) C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2005年11月〜2006年1月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2005年11月〜2006年1月) −神奈川県温泉地学研究所・産総研− B 2006年1月に発生した伊豆東方沖群発地震活動に伴う地下水変化について (中部・東海地域) C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2005年11月〜2006年1月) B 2006年1月に発生した愛知県での低周波地震と産総研豊橋・豊橋東観測点での 地下水・地殻歪変化 (近畿地域) C 有馬〜高槻〜六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2005年11月〜2006年1月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2005年11月〜2006年1月) (中国・四国地域) C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2005年11月〜2006年1月) −鳥取大学工学部・京大防災研・産総研− 【12】海洋情報部 C GPSによる地殻変動監視観測 ・伊豆諸島海域におけるGPSを利用した地殻変動監視観測 ・DGPS局を利用した地殻変動監視観測 ・沖ノ鳥島における地殻変動監視観測 C 遠州灘(渥美半島沖)の海底変動地形について
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出