地震予知連絡会の活動報告

第246回地震予知連絡会(2025年2月27日)議事概要

 令和7年2月27日(木)、国土地理院関東地方測量部において第246回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングの報告が行われ、その後、重点検討課題として「スラブ内地震」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

 日本とその周辺で2024年11月から2025年1月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は61回であった。このうち、日本国内で震度5弱以上を観測した地震は3回発生した(気象庁・資料2頁)。

(2)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島には、能登半島を中心に令和6年能登半島地震に伴う地殻変動によるひずみが見られる。そのほか、北海道南部から東北地方にかけて、東北地方太平洋沖地震後の余効変動の影響によるひずみ、房総半島では2024年2月26日頃から始まったプレート間のゆっくりすべり現象に伴うひずみ、九州では2024年8月8日の日向灘の地震の影響によるひずみが見られる(国土地理院・資料3-4頁)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・日本周辺における浅部超低周波地震活動(2025年1月~1月)
 防災科研F-net記録等の波形相関を用いた解析により、1月10日以降、日向灘及びその周辺域で超低周波地震活動を検知した。1月中旬から東及び南方向に活動域を拡大させたが、下旬には活動は終息した(防災科学技術研究所・資料5頁)。

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2024年11月~2025年1月)
 短期的スロースリップイベントを伴う顕著な深部微動活動は、12月16日~28日に四国中部から西部で、1月24日~31日に東海地方から紀伊半島北部において発生した。これ以外の主な微動活動として、10月31日~11月4日に四国西部、12月10日~17日に紀伊半島北部から中部、1月5日~10日に四国東部から中部での活動が検知された(防災科学技術研究所・資料6-8頁)。

・東海の非定常的な地殻変動(長期SSE)
 GNSS連続観測により、東海地方で2022年初頭から南東向きの非定常的な地殻変動が見られており、渥美半島付近にすべりが推定された。2022年1月1日~2024年11月1日の期間では、すべりの最大値は11cm、モーメントマグニチュードは6.5と求まった(国土地理院・資料9頁)。

・紀伊半島南部の非定常な地殻変動(長期的SSE)
 GNSS連続観測により、紀伊半島南部で2020年初頭から非定常的な地殻変動が見られている。同時期に発生している紀伊水道の長期的ゆっくりすべりとあわせ、紀伊半島南部にすべりが推定された。推定されたすべりの最大値は9cm、モーメントマグニチュードは6.3と求まった(国土地理院・資料10頁)。

・四国西部の非定常的な地殻変動(短期的SSE)
 GNSS連続観測により、四国中部~西部の低周波地震の発生領域ですべりが推定されている。2024年12月中旬の後半からモーメントが増大し、12月下旬で増加が収まったように見える。すべり量の最大は約15mmと推定され、モーメントマグニチュードは6.2と求まった(国土地理院・資料11頁)。

・四国中部の非定常的な地殻変動(長期的SSE)
 GNSS連続観測により、四国中部で2019年春頃から南東向きの変動が見られるが、2024年秋頃から鈍化しているように見える。2019年1月1日~2025年1月18日の期間では、すべりの最大値は60cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった(国土地理院・資料12頁)。

・日向灘の地震(1月13日 M6.6)
 2025年1月13日21時19分に日向灘の深さ36kmでM6.6の地震(最大震度5弱、長周期地震動階級2)が発生した。この地震により、宮崎県の宮崎港(国土交通省港湾局)で23㎝の津波を観測するなど高知県から鹿児島県にかけて津波を観測した。気象庁はこの地震に対して、最初の地震波の検知から6.1秒後の21時19分44.4秒に緊急地震速報(警報)を発表した。また、13日21時29分に高知県及び宮崎県に津波注意報を発表した(13日23時50分に津波注意報を全て解除)。気象庁では、13日21時55分にこの地震が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連するかどうか調査を開始したことをお知らせする南海トラフ地震臨時情報(調査中)を発表し、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会を臨時に開催し、この地震と南海トラフ地震との関連性について検討を行った。その結果、今回の地震は南海トラフ地震防災対策推進基本計画で示されたいずれの条件にも該当せず、南海トラフ地震の発生可能性が平常時と比べて相対的に高まったと考えられる現象ではなかったことから、13日23時45分に南海トラフ地震臨時情報(調査終了)を発表した。この地震は、発震機構(CMT解)が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した。この地震の震源付近では、2024年8月8日16時42分にM7.1の地震(深さ31㎞、最大震度6弱)が発生しており、この領域では2024年8月8日から2025年1月31日までに震度1以上を観測した地震が55回発生した(気象庁・資料13-19頁)。
 この地震に伴い、佐土原観測点で南東に約5cm等、宮崎県南部を中心に水平地殻変動が観測された。また、佐土原観測点で約2cmの沈降等、宮崎県南部の沿岸部周辺で上下地殻変動が観測された。また、地震時の変動のほか、地震後にわずかな余効変動が見られる。震源断層モデルでは、北東-南西走向で北西に傾き下がる断層面上における逆断層運動として推定された。モーメントマグニチュードは6.8(剛性率40GPaを仮定)であり、地震波から求められた値(6.7~6.8)とほぼ整合する。推定された断層の走向、傾斜、深さは、いずれもこの地震がフィリピン海プレートと陸側プレートの境界で発生したプレート間地震であることと調和的である。すべり分布モデルでは、震源位置からその東側にかけてすべりが推定された。モーメントマグニチュードは6.9(剛性率40GPaを仮定)であった。推定されたすべり域は、図中コンターで示した1996年10月19日及び12月2日に発生した地震のすべり域に隣接している。また、2024年8月8日に発生した日向灘の地震の震源断層とは重なっていないように見える(国土地理院・資料20-24頁)。
 日向灘沖南部では2024年8月8日M7.1の地震の発生以降、余震活動が西方(深部)に広がりその先に1月13日M6.6の地震の震源が位置しているが、1996年10月19日M6.9の地震とその最大余震である1996年12月3日M6.7の地震との間で余震活動が広がったのと状況が類似している。日向灘沖南部では多かれ少なかれゆっくりすべりや流体貫入などの非地震事象の関与が疑われる。過去には、日向灘沖の大地震の前後に九州内陸部で地震が相関的に発生していることが指摘されている(統計数理研究所・資料25-26頁)。

1.3 その他

(1)福島県会津の地震(1月23日 M5.2、M4.7)

 2025年1月23日02時49分に福島県会津の深さ4kmでM5.2の地震(最大震度5弱)が、同日の08時09分にはほぼ同じ場所の深さ3kmでM4.7の地震(最大震度4)が発生した。これらの地震は地殻内で発生した。発震機構は、いずれも北西-南東方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型である。これらの地震の震央付近では、1月21日から地震活動が活発化し、31日までに震度1以上を観測した地震が85回発生した(気象庁・資料27-28頁)。

(2)「令和6年能登半島地震」の地震活動(期間中の最大規模の地震:11月26日 M6.6)

 能登半島では2020年12月から地震活動が活発になっており、2023年5月5日にはM6.5の地震(最大震度6強)が発生していた。2023年12月までの活動域は、能登半島北東部の概ね30km四方の範囲であった。2024年1月1日16時10分に石川県能登地方の深さ16kmでM7.6の地震(最大震度7)が発生した後、地震活動はさらに活発になり、活動域は、能登半島及びその北東側の海域を中心とする北東-南西に延びる150km程度の範囲に広がっている。地震の発生数は増減を繰り返しながら大局的に緩やかに減少してきているが、M7.6の地震後の地震活動域の西端の石川県西方沖で、2024年11月26日にM6.6の地震(最大震度5弱)が発生し、震度1以上を観測した地震が11月は136回、12月は37回、1月は12回(このうち、石川県西方沖のM6.6の地震活動域で、11月26日から30日は123回、12月は29回、1月は5回)発生するなど活発な状態が続いている(気象庁・資料29-30頁)。

(3)鳥島近海の地震(12月27日 M6.2)

 2024年12月27日06時02分に鳥島近海の深さ10km(CMT解による)でM6.2の地震(震度1以上を観測した地点はなし)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、東西方向に圧力軸を持つ逆断層型である(気象庁・資料31頁)。

(4)硫黄島近海の地震(11月7日 M6.3)

 2024年11月7日07時54分に硫黄島近海の深さ10km(CMT解による)でM6.3の地震(最大震度2)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は東西方向に圧力軸を持つ逆断層型である(気象庁・資料32頁)。

(5)マリアナ諸島の地震(11月11日 M6.0)

 2024年11月11日19時16分(日本時間)にマリアナ諸島の深さ10km(CMT解による)でM6.0の地震(日本国内で震度1以上を観測した地点はなし)が発生した。この地震はフィリピン海プレート内で発生した。発震機構(CMT解)は北東-南西方向に圧力軸を持つ型である(気象庁・資料33頁)。

(6)千島列島の地震(12月8日 M6.1、27日 M6.8)

 2024年12月8日19時25分(日本時間)に千島列島の深さ207km(USGSによる)でM6.1の地震(日本国内で観測した最大の揺れは震度1)が発生した。この地震の発震機構(気象庁によるCMT解)は東北東-西南西方向に圧力軸を持つ型である。また、同月27日21時47分には千島列島の深さ146km(USGSによる)でM6.8の地震(日本国内で観測した最大の揺れは震度2)が発生した。この地震の発震機構(気象庁によるCMT解)は、北西-南東方向に圧力軸を持つ型である。これらの地震は太平洋プレート内部で発生した(気象庁・資料34頁)。

(7)台湾付近の地震(1月21日 M6.1)

 2025年1月21日01時17分に台湾付近でM6.1の地震(日本国内で観測された最大の揺れは震度1)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、西北西-東南東方向に圧力軸を持つ型である(気象庁・資料35頁)。

(8)チベット自治区(中国)の地震(1月7日 Mw7.1)

 2025年1月7日10時05分(日本時間)にチベット自治区(中国)の深さ10kmでMw7.1の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。この地震の発震機構(気象庁によるCMT解)は東西方向に張力軸を持つ正断層型である。気象庁は、この地震に対して、同日10時27分に遠地地震に関する情報(津波の心配なし)を発表した。この地震により、少なくとも死者126人、負傷者188人などの被害が生じた(気象庁・資料36-37頁)。
 また、「だいち2号」のSAR⼲渉解析により、地震に伴う地殻変動が観測された(国土地理院・資料38-40頁)。


2.重点検討課題「スラブ内地震」についての検討

 スラブ内地震はプレート表面からの距離で分類すると特徴把握が容易で、上面の海洋性地殻内で発生する圧縮型の地震と下面の海洋性マントル内で発生する伸張型の地震に分けられることが報告された。スラブ内地震と海溝型巨大地震およびスロー地震との相互作用は、東北地方太平洋沖地震の例では、東日本のスラブ内地震の地震活動、応力場、応力降下で影響が見られること、紀伊半島で発生するスロー地震の例では、スラブ内地震との相互作用の時間変化が見られることが報告された(コンビーナ:東北大学・岡田知己 委員・資料42-43頁)。

◆東日本下のスラブ内地震の発生様式とその特徴

 スラブ内地震はプレート表面からの距離で分類すると特徴把握が容易で、上面の海洋性地殻内で発生する圧縮型の地震と下面の海洋性マントル内で発生する伸張型の地震に分けられることが報告された。スラブ内地震と海溝型巨大地震およびスロー地震との相互作用は、東北地方太平洋沖地震の例では、東日本のスラブ内地震の地震活動、応力場、応力降下で影響が見られること、紀伊半島で発生するスロー地震の例では、スラブ内地震との相互作用の時間変化が見られることが報告された(建築研究所・北 佐枝子 主任研究員・資料45頁)。

◆海溝軸周辺および海溝海側の海洋プレート構造と地震活動

 沈み込むプレート浅部で発生する地震の発震機構解について調査し、海溝軸周辺及び海溝海側ではプレートの折れ曲がりにより深さ40-50kmまでは正断層型の地震が卓越することを明らかにした。一方、より深部では逆断層型の地震が卓越することも明らかにした。日本海溝周辺の地震波速度変化を調査し、海溝に近づくにつれて太平洋プレートの海洋性地殻や最上部マントルの地震波速度が低下していることを明らかにした。これは地震によって破砕された領域に水が流入した可能性を示唆している(海洋研究開発機構・尾鼻 浩一郎 センター長代理・資料46頁)。

◆岩石の高温高圧変形実験から探るスラブ内地震発生メカニズム

 東北日本に代表されるような冷たい沈み込み帯では、100km以深についても海洋地殻において部分的な脆性破壊が生じていることを明らかにした。海洋地殻に含まれる含水鉱物の脱水がゆっくりすべりを引き起こす可能性を示唆している。レーザードップラー干渉計を用いて較正したAcoustic Emissionセンサーを用いて、実験室で再現したスラブ内地震の地震波も地震に伴う応力降下量のスケーリング側に従うことを明らかにした(東北大学・澤 燦道 助教・資料47頁)。

◆スラブ内深発地震による特異な波動伝播と異常震域の形成

 太平洋プレートのスラブ内深発地震において、震源から遠く離れた北海道~関東地方の太平洋岸で震度が大きくなる「異常震域」が発生する。この異常震域では、高周波数(>1Hz以上)に富む長時間の揺れにより体感が大きいが、木造家屋を倒壊させる周期成分(0.5-2Hz)は弱いこと、プレート内の不均質構造(ラミナ構造)における地震波の散乱・導波効果により長い波群が生成され、冷えた固いプレートを伝わり遠地まで到達することが報告された。そして、スラブ内深発地震の揺れの即時予測には、不均質なプレート・マントル構造を考慮した地震波伝搬の評価が必要であることが指摘された(東京大学地震研究所・古村 孝志 教授・資料48頁)。


3.次回(第247回)重点検討課題「日向灘で起きる地震」についての趣旨説明

 日向灘地域は、M7クラスの大地震が頻繁に発生する地域である。地震計で計測された最大地震である1968年日向灘地震(Mw 7.5)は日向灘北部で発生している。日向灘南部では、M7クラスの地震が10年から30年という短い時間間隔で発生している。津波堆積物調査と津波シミュレーションによって、日向灘南部で発生した1662年外所地震がM7.9の巨大地震であったことが指摘されている。また、日向灘地域は、大地震の震源域周辺でスロー地震が観測されている。日向灘南部では、M7クラスの大地震が、10年から30年の間隔で発生しているが、これらのM7クラスの大地震の震源域がどのような関係になっているのかは、よくわかっていない。仮に、1662年外所地震がこの地域で頻発するM7クラスのアスペリティの上位のアスペリティを破壊したと解釈すると、現時点でも日向灘南部でM8クラスの巨大地震が発生する可能性がある。日向灘北部では、1968年日向灘地震の震源域では地殻変動観測から歪みが蓄積していることが確認されているが、このM7.5クラスのアスペリティが過去の地震でどのように破壊されたのかについてはよくわかっていない。このような状況を踏まえて、次回は、日向灘地域で発生する地震活動の概要、津波堆積物からみた1662年日向灘地震、2024年日向灘地震の地震時すべりと地震後すべり、日向灘北部で発生する地震と南海地震との関係、について報告し、日向灘南部の今後の地震活動とM8クラスの地震が発生する可能性、1968年日向灘地震(Mw7.5)と南海地震との関係について、南海トラフの巨大地震の想定震源断層域に日向灘南部を含めるのは妥当なのか?等について議論を行う予定である(コンビーナ:筑波大学・八木勇治 委員・資料49頁)。



4.運営検討部会報告

 令和7年度後期の重点検討課題名が選定され、第249回は「能登半島地震から2年-理解の現状と残された課題-(仮)」、第250回は「熊本地震から10年(仮)」について、それぞれ議論を行う予定であることが報告された(資料50頁・運営検討部会)。


各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:230KB)