地震予知連絡会の活動報告
第157回地震予知連絡会(2004年5月17日) 議事概要
平成16年5月17日、国土地理院関東地方測量部において第157回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとしては、活断層の深部構造と地殻活動(その2)として、糸魚川—静岡構造線研究の最近の成果について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間では、特に目立った活動はなかった(気象庁資料)。
2.東海地域の地殻活動について
東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では御前崎側で沈降が見られる(国土地理院資料)。掛川市の水準点140-1に対する御前崎市(旧浜岡町)の水準点2595の動きは、最近の観測では御前崎市側が沈降傾向を示しているが、GPS観測による水平変動には変化が見られないことから、浜岡側が局所的に沈降したためであると考えられる(国土地理院資料)。御前崎の傾斜変動は西下がりの傾向が続いていたが、4月初めから4月下旬にかけてその動きが鈍化した。その後は再び西下がりの動きに回復している(気象庁資料)
東海地域の非定常地殻変動(スロースリップ)は依然として継続している。2003年に入ってから、平均的な変動からのずれの水平成分の変化が大きくなり、2001年のレベルに近くなっている。2003年以降、上下変動に季節変動的な変化が見られるが、2003年以降はそれ以前と季節変動のパターンが変化していることから、季節変動の補正が過剰になっているためと考えられる。このことはすべり量の見積もりには大きな影響は与えていない(国土地理院資料)。
2000年以降、スロースリップが発生している領域の東隣では全体的に地震活動は低調であるが、場所によっては活発化している。プレートの上盤側とプレート内部では、活発化した領域は上盤側がやや内陸側にずれており、プレート間カップリングの強い領域があることで説明できる(防災科学技術研究所資料)。
3.十勝沖地震について
2003年9月26日に発生した十勝沖地震の余震活動は、震源域東側で最近やや活発化している(気象庁資料)。地殻変動から推定された地震時及び地震後のすべり分布から、地震時に大きく滑った領域では余効変動のすべりはほとんど見られず、その周辺ですべりが生じていると考えられる。余効変動のすべりは最近も続いている(国土地理院資料)。十勝沖地震発生後、北海道内陸で地震活動が活発化した。直後は近傍で活発化し、その後、北部および東部に拡散した(気象庁資料)。
2004年4月26日から北海道東部の斜里岳直下で群発的な地震活動が発生した。発生した領域は十勝沖地震の発生前までは地震活動が非常に低調であった。発生している地震のメカニズムは火山フロントや活断層の走向と調和的である(防災科学技術研究所資料)。
4.東北地方のスラブ内の地震活動について
1997年から2002年にかけて東北地方のスラブ内の地震活動は低調であったが、2003年後半からやや活発化している。特定の場所で活発化しているわけではなく、全体的に活動度が上昇していると考えられる(気象庁資料)。
5.伊豆半島沖の地震活動について
2004年4月24日から伊豆半島東方沖で小規模な地震活動が始まった。この地震活動に伴う地殻変動が、歪計、傾斜計、地下水位観測などによりとらえられている(気象庁資料)。この地殻変動は地下にダイクが貫入したことで説明できる(国土地理院資料)。
6.丹波山地の微小地震活動について
近畿北部における微小地震活動の低下について話題提供があった。丹波山地では2003年1月以降、活動度が低下しているが、周辺領域では活動度の低下は見られない。これまでに数回このようなことが見られたが、最近では兵庫県南部地震前にも同様の傾向が見られている。最近は、西日本が活動期に入っていることもあり、今後注意すべきであると考えられる(京大防災研究所資料)。
7.糸魚川—静岡構造線研究の最近の成果について
今回のトピックスでは、活断層の深部構造と地殻活動(その2)として、糸魚川—静岡構造線研究の最近の成果について議論を行った。(世話人:桑原委員)。
糸魚川—静岡構造線については、様々な調査観測が行われており、調査観測の結果とその解釈についての報告が行われた。
地殻浅部の地震が多く発生するこの地域では、現在の地震観測点密度ではまだ不十分であり、臨時観測点の設置、人工地震探査で得られた地殻内の速度構造を用いる等により、震源決定精度が向上した。糸魚川—静岡構造線周辺で発生する地震は、線状に配列し、全体としては構造線と関係しているように見えるが、直上に断層線があるわけではなく、構造探査から明らかになっている東側に傾斜する反射面の下に地震が発生していること、線状に並んでいる震源はほぼ鉛直に分布していること等が報告された(東大地震研究所資料)。
糸魚川—静岡構造線北部において人工地震による地殻構造探査が行われ、中央隆起帯の地下深部に低速度領域が存在し、糸静線北部では東傾斜の断層であること、構造探査からは微小地震活動が下盤側の活動と考えられるとの説明があった(東大地震研究所資料)。
この地域では電磁気探査も行われており、飛騨山地の地下に低比抵抗領域が存在すること、中央隆起帯と呼ばれる地域の地下では高比抵抗の領域が存在すること、活褶曲直下に低比抵抗領域が見られること等が明らかになっている(東京工業大学資料)。
糸静線付近の地殻変動の観測から、下部地殻の低比抵抗領域と地殻歪み速度の大きい領域が対応すること等が明らかにされている。また、地殻変動のシミュレーションから、観測されている地殻変動を説明するためには、低角の断層の深部でのすべりでは説明できないとの報告があった(名古屋大学資料)。
これらの報告を受けて、観測は可能な限り同一の場所で行うなど、対象を様々な手法を用いて総合的に観測し、理解することが重要である等の議論があった。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁(A1) 1.全国M5以上の地震と主な地震の発震機構(A1) 2.北海道地方とその周辺の地震活動 C 十勝沖地震(2003年9月26日M8.0)の余震活動 C 根室半島南東沖(2月17日M5.6)の地震活動 C 十勝沖地震前後の内陸の浅い地震活動 C 網走・根室支庁境界付近[網走支庁網走地方](4月27日〜)の地震活動 3.東北地方とその周辺の地震活動 C 青森県東方沖(4月23日M4.9)の地震活動 4.関東・中部地方の地震活動 C 茨城県沖(3月11日M5.3、4月4日M5.8)の地震活動 C 箱根山付近(2月4日最大M3.0)の地震活動 C 伊豆半島東方沖(4月24日~5月2日)の地震活動と地殻変動 C 伊豆大島(2月26日と3月2日)の地震活動 C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 C 長野県北部の地震活動と松代における地殻変動連続観測 5.近畿・中国・四国地方の地震活動 C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 C 徳島県南部(4月6日M4.0)の地震活動 C 伊予灘(4月20日M4.6)の地震活動 C 四国地域周辺及び紀伊半島〜愛知県東部の低周波地震活動 6.九州地方とその周辺の地震活動 C 日向灘(4月21日M5.0)の地震活動 C 鹿児島県(3月1日M4.6)の稍深発地震活動 7.沖縄地方とその周辺の地震活動(C) 【2】国土地理院(A2) 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動 A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化 C 加藤&津村(1979)の解析方法による、各験潮場の上下変動 2.東海地方の地殻変動 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点(140−1、2595)の経年変化 A2 水準点2595(浜岡町)の経年変化 C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 水準点2602−1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の 経年変化 A2 水準点2602−1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化 A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値) C 比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 東海地方の非定常地殻変動 C PS連続観測結果 駿河湾周辺 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2) A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺 C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化 C GPS連続観測結果 静岡県西部 A2 GPS連続観測結果 浜松周辺地区 A2 御前崎地区高精度比高連続観測 C 東海地方海岸沿いの上下変動 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均(E−W) C 御前崎・切山長距離水管傾斜計日平均 C 地中地殻活動観測装置観測結果 3.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊東東部連続観測(辺長)日平均結果 A2 GPS連続観測結果 伊豆東部地区 A2 GPS連続観測結果 伊豆東部地区(地殻変動ベクトル図) C GPS連続観測結果 伊豆諸島地区 C 伊豆大島−伊豆半島間の歪図 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺(ベクトル図) 4.関東・中部地方の地殻変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 三浦半島東側の上下変動 C 水準原点を基準とした三浦半島の上下変動 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 C GPS連続観測結果 富士山周辺 C GPS連続観測結果 富士山周辺(ベクトル図) 5.北海道地方東北地方の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 十勝沖周辺 C 十勝沖地震 東西成分変化グラフ C カルマンフィルターで推定した余効滑り(暫定) C 十勝沖地震 観測地と計算値の比較 A2 余効変動の時系列モデル A2 帯広における絶対重力測定結果 6.東北地方の地殻変動 C 東北地方の上下変動 C GPS連続観測による東西伸張率 7.中部・近畿・中国・四国・九州地方の地殻変動 A2 紀伊半島における各水準点の経年変化 C 室戸地方における各水準点の経年変化 C 阿波池田地方 精密辺長測量結果 C GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺 C 豊後水道ゆっくり地震の推定滑り(暫定) 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の地震活動 C 斜里岳の地震活動 【4】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【5】東京大学地震研究所 A4 御前崎における絶対重力変化(地震研・国土地理院) C 伊豆半島東方群発地震(2004年4月〜5月)活動中の絶対重力変化 C 伊豆半島東部の地震活動(2004年2月〜4月) C 相良観測点における歪・傾斜観測(2004年2月〜2004年4月) B 2003年十勝沖地震の余効変動とプレート境界の摩擦特性 C 日光・足尾付近の地震活動(2004年2月〜2004年4月) C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2004年2月〜4月) C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2004年2月〜4月) C 微小応力変化測定を目的とした高精度弾性波測定 A4 海底地震観測による2003年十勝沖地震の余震分布 【6】東京工業大学 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【7】名古屋大学 名古屋大学環境学研究科 C 御岳群発地震域における上下変動(1999-2004年、速報) C 神津島における上下変動(2000-2004年) C 東海地方における地殻変動連続観測 東濃地震科学研究所 C 深いボアホール(深度 1000m)での地殻活動総合観測 C 複数の深部ボアホールにおける歪計により観測された十勝沖地震波形 【8】京都大学 B 近畿北部における最近の地殻活動 丹波山地の最近の地震活動 近畿北部の地震活動の時空間変化 地殻変動連続観測に見られる最近1年間の歪レートと水位変化 C 西日本各地の地殻変動連続観測結果(1999年1月-2004年3月) −近畿・日向灘総合観測線、山崎断層— C 淡路島800m孔における歪と地下水圧の変化 【9】九州大学 C 九州の地震活動(2004年2月〜4月) C 九州南部の地震活動(2004年2月〜4月) (鹿児島大) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2004年2月〜4月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2004年2月〜4月) C 関東地域における三成分ひずみ計及びIBOSによる最近の観測結果 (2003年5月 〜 2004年4月) C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動観測 (2003年4月〜2004年4月) A4 東海地域推定固着域における地震活動の変化(b値変化) A4 2004年4月の伊東市周辺における地震・火山活動に伴う傾斜変化 A4 北海道東部の内陸地震活動について A4 茨城県東方沖における最近の地震活動 A4 糸魚川・静岡構造線・跡津川断層周辺の地震活動について A4 深部低周波微動とスロースリップイベント B 日本海溝東側の地震活動について 【11】産業技術総合研究所 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2004年2月〜2004年4月) B 2004年4月に発生した伊豆東方沖群発地震活動に伴う地下水変化について C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2004年2月〜2004年4月) C 有馬−高槻−六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2004年2月〜2004年4月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2004年2月〜2004年4月) C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2003 年11月〜 2004年4月) 【12】海洋情報部 C GPSによる地殻変動監視観測
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出