地震予知連絡会の活動報告
第148回地震予知連絡会(2002年8月19日) 議事概要
平成14年8月19日、国土地理院関東地方測量部において第148回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ議論がなされた。トピックスとしては、地殻活動予測シミュレーションモデルの開発と実用化へ向けての問題点について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間では、ウラジオストク付近、福島沖、台湾付近などでM5を越える地震が発生した。
M5以上の全国の地震 (2002.5.01−2002.7.31)(気象庁資料)
2.東海地域の地殻活動について
東海地域の推定固着域周辺では、地殻内で静穏化が見られる一方、フィリピン海スラブ内では昨年から続いていた静穏化が解消したように見える。
固着域周辺の地震活動 (地殻内)(気象庁資料)
固着域周辺の地震活動 (フィリピン海スラブ内1997年以降)(気象庁資料)
水準測量結果によると掛川市の水準点140-1に対する浜岡町の水準点2595は従来の傾向の範囲内で変動している。
水準点2595(浜岡町)の経年変化(国土地理院資料)
上下変動の様子を面的に見ると、駿河湾沿岸の沈降、浜名湖周辺の隆起というこれまでの傾向が続いているが、浜松周辺の隆起は昨年に比べると小さくなっている。
東海地方の上下変動(国土地理院資料)
東海地域の異常地殻変動は依然として継続している。異常地殻変動が開始してからの期間を4つに分けると、東海地域の西側で開始した変動が東側へ広がり、最近になって南向きの変動が顕著になってくるといった各期間の特徴が確認された。また、これらのデータからプレート境界面における断層すべりの時空間発展の様子を推定した結果によれば、イベント開始以来のモーメント開放量はMw6.8の地震に相当し、東海地域を東西方向に3分割した領域のうち主として中央部で起きていたすべりが次第に東側へ拡大しているように見える。
平均的な地殻変動からのずれ(精密歴)(国土地理院資料)
東海地方の地殻変動(国土地理院資料)
特徴的な時間帯で見た東海異常地殻変動(国土地理院資料)
断層領域を3分割して西から図示(国土地理院資料)
3.八丈島付近の地震活動について
八丈島付近では8月13日から群発的な地震活動が発生し、15日に島北部の直下へ活動の中心が移動した後、次第に地震数が減少している。また18日には西方に離れた海域においてM4.0の地震が発生したが、群発地震との関係は不明である。
八丈島付近の地震活動経過(平成14年8月13日16時〜9日14時)(気象庁資料)
この地震活動に伴って、八丈島のGPS観測点では、15日前後に東向き5cm程度の変位が観測された。
八丈島地区 GPS連続観測基線図(国土地理院資料)
基線長変化グラフ(国土地理院資料)
同様な地殻変動が海洋情報部の観測でも検出されている。
4.福島沖プレート境界の最近の活動について
福島沖では1938年にM7.5の地震が起きた後、1987年に3つのM6級地震が発生し、アスペリティが存在すると考えられている。海岸から約40kmの沖合に設置された天然ガス掘削井のGPSデータから、2001年2月25日に発生したM5.8の地震後に、震源の南側で非地震性すべりが生じたことが明らかとなった。この非地震性すべりは2001年末頃まで継続したと考えられ、長さ70km、幅45km程度の領域が17cm程度のすべりを起こしたと推定される。この非地震性すべりが生じた領域は1987年の地震のアスペリティとは重なっていない。
2002年7月24日に発生した福島県沖の地震(M5.7)について(東北大学資料)
2002年7月24日に発生した福島県沖の地震(M5.7)について(東北大学資料)
こうした結果はプレート境界の挙動を推定するために海域における地殻変動観測が有効であることを示す好例である。
5.地殻活動予測シミュレーションについて
今回のトピックスでは、「地殻活動予測シミュレーションモデルの開発と実用化へ向けての問題点」と題して、地震予知研究体制の新たなパラダイムと期待される地殻活動予測シミュレーションの現状における到達点や今後の検討課題などに関して議論を行った(世話人:平田直委員)。
地殻活動予測シミュレーションは地殻活動のモニタリングと物理法則に基づく数値モデルを組み合わせることにより、将来の地殻活動を定量的に予測するものである。こうした取り組みは、1990年代における地震発生物理学の発展、すなわち地震破壊過程を支配する物理法則の解明、プレート運動に起因するテクトニック応力蓄積過程のモデル化、曲面における地震破壊伝播過程の計算手法開発などによって初めて可能となった。また、日本列島全域にGPS観測網が整備されたことも地殻活動予測シミュレーションを実現可能にした大きな要因である。 1997年から開始された超並列スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の開発の一環として固体地球シミュレーションソフトウェアの開発が行われてきており、現在、プロトタイプのモデルが構築されつつある。このシミュレーションモデルでは、日本列島周辺域のプレート境界において、テクトニック応力の蓄積過程、地震破壊の準静的な核形成過程、動的な断層破壊過程、断層の強度回復および地殻内応力の再配分過程が繰り返される大地震の発生サイクルを、観測データを取り込みつつ、物理法則に基づいた数値計算により定量的に再現・予測する。さらに、地震発生過程のモデルを仮定すれば強震動の予測が可能であり、基盤構造の解明や計算機の能力向上によって予測精度の改善が期待できる。
地殻活動予測シミュレーションモデルのさらなる発展のためには、地殻活動を支配している断層面の形状や摩擦構成則パラメータの分布などの構造を解明するとともに、より多くの観測データをモデルに取り込めるようにすることが必要である。こうした研究を地震予知研究計画の中でしっかりと位置付けるとともに、多くの研究者が積極的に取り組むことが求められる。
地殻活動予測シミュレーション・モデル(1)(東京大学資料)
地殻活動予測シミュレーション・モデル(2)(東京大学資料)
地殻活動予測シミュレーション・モデル(3)(東京大学資料)
地殻活動予測シミュレーション・モデル(4)(東京大学資料)
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁(A1) 1.2002年5月から2002年7月の全国M5以上の地震と主な地震の発震機構解(C) 2.2002年5月から2002年7月の北海道地方とその周辺の地震活動 A1 国後島付近のやや深発の地震活動 C 北海道東方沖の地震活動 C 十勝支庁南部の地震活動 C 釧路沖の地震活動 C ウラジオストック付近の深発地震 3.2002年5月から2002年7月の東北地方とその周辺の地震活動 C 青森県東方沖の地震活動 C 岩手県内陸南部の地震活動 C 宮城県沖の地震活動 C 福島県沖の地震活動 4.2002年5月から2002年7月の関東・中部地方の地震活動 C 千葉県北東部(九十九里浜付近)の地震活動 C 茨城県南西部の地震活動 C 伊豆大島近海の地震活動 C 三宅島付近から新島・神津島付近にかけての地震活動 C 鳥島近海の地震活動 A1 長野県北部の地震活動 A1 東海・南関東地方の地震活動・地殻変動 C 長野県北部の地震活動と松代における地殻変動連続観測 5.2002年5月から2002年7月の近畿・中国・四国地方の地震活動 C 京都府南部の地震活動 C 和歌山・奈良県境付近の地震活動 6.2002年5月から2002年7月の九州地方とその周辺の地震活動 C 豊後水道の地震活動 C 熊本県熊本地方の地震活動 C 奄美大島近海の地震活動 7.2002年5月から2002年7月の沖縄地方とその周辺の地震活動 C 台湾付近の地震活動 C 宮古島近海の地震活動 A1 沖縄トラフ西端海域の地震活動 C 久米島の北約120kmの地震活動 8.内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測(C) (気象研究所) 【2】国土地理院(A2) 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動 A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化 2.東海地方の地殻変動 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点(140-1、2595)の経年変化 A2 水準点2595(浜岡町)の経年変化 C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 掛川〜静岡間の上下変動 A2 相良〜藤枝間の上下変動 A2 三ヶ日〜掛川間の上下変動 A2 舞阪〜浜岡間の上下変動 A2 舞阪〜浜岡〜清水間の上下変動 A2 舞阪〜掛川〜清水間の上下変動 C 御前崎〜掛川〜清水間の上下変動 C 東海地方の各水準点の経年変化 C 焼津〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 東海地方の上下変動 A2 水準点2602-1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の経年変化 A2 水準点2602-1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化 A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値) C 比高変化に対する近似曲線の計数変化 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 C 水準測量・験潮による駿河湾周辺の上下変動 A2 東海地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2) A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺 C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の計数変化 C GPS連続観測結果 静岡県西部 A2 御前崎地区高精度比高連続観測 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均(E−W) C 地中地殻活動観測装置観測結果 3.伊豆地方の地殻変動 C 清水〜熱海〜藤沢間の上下変動 C 中伊豆〜伊東間の上下変動 C 熱海〜伊東〜河津間の上下変動 C 修善寺〜河津間の上下変動 C 内浦〜中伊豆〜伊東間の上下変動 C 内浦〜沼津間の上下変動 A2 伊豆半島の上下変動 A2 伊東市付近の地盤上下変動の推移 A2 水準点9335〜9338の経年変化 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 川奈地区精密辺長観測 C 伊東東部連続観測(辺長)日平均結果 C GPS連続観測結果 伊豆東部周辺 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺(ベクトル図) 4.関東・中部地方の地殻変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 C GPS連続観測結果 茨城県南部周辺 C GPS連続観測結果 浅間山周辺 C GPS連続観測結果 富士山・箱根周辺 C 富士山周辺絶対重力測量結果 5.東北地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 岩手山周辺 C GPS連続観測結果 磐梯山周辺 6.近畿地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 和歌山・奈良県境 7.中国・四国地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺 8.沖縄地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 与那国島周辺 9.その他 C GPS連続観測結果 硫黄島 C 国内VLBI観測(国内超長基線測量)観測結果 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の最近の地震活動(2002年5月〜8月) C 十勝沖(釧路沖)の地震活動 【4】東北大学 A4 2002年7月24日に発生した福島沖の地震(M5.7)について C 東北地方およびその周辺の微小地震活動(2002年5月〜7月) 【5】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【6】東京大学地震研究所 B 茨城県沖の地震活動 B 長野県北部の地震活動 C 日光・足尾付近の地震活動(2002年5月〜2002年7月) C 伊豆半島および伊豆諸島周辺の地震活動(2002年5月〜2002年7月) C 釜石観測点の精密弾性波計測 C 相良観測点における歪・傾斜観測(2002年5月〜2002年7月) C 東海−中部地方地殻構造探査 C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2002年5月〜2002年7月) C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2002年5月〜2002年7月) C 徳島県池田町におけるGPS地殻変動観測(2002年5月〜2002年7月) 【7】名古屋大学 A4 地理院GPS観測網から観測された東海地域の地殻変動(1996年4月〜2002年3月) C 東海地方の地震活動(2002年1月〜2002年6月) 【8】京都大学 C 山崎断層の最近の地震・地殻変動 C 龍神温泉での泉温・水位観測 【9】九州大学 C 九州の地震活動(2002年5月〜2002年7月) C 九州南部の地震活動(2002年5月〜2002年7月) (鹿児島大) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2002年5月〜2002年7月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2002年5月〜2002年7月) A4 東海地域のTectonic Stress Balance A4 防災科研による最近2年間の東海地域GEONET観測点の解析結果 B 坂田式三成分ひずみ計により、しばしば見出される八郷付近の不思議な土地膨張 【11】産業技術総合研究所 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2002年5月〜2002年7月) C ボアホール歪計とGPSから求められた豊橋近傍の歪の比較 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2002年5月〜2002年7月) C 有馬-高槻-六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2002年5月〜2002年7月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2002年5月〜2002年7月) B 山崎断層安富観測点における異常な地殻歪変化について 【12】海洋情報部 C 日本海溝(福島沖)の地磁気・重力異常 C GPSによる地殻変動観測 【13】群発地震研究会(データベース担当:尾池和夫) C 日本の群発地震データベース
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出