地震予知連絡会の活動報告
第182回地震予知連絡会(2009年5月15日) 議事概要
平成21年5月15日、国土地理院関東地方測量部において第182回地震予知連絡会が開催された。始めに第21期地震予知連絡会副会長、各部会長及び部会委員の紹介が行われた。続いて、地殻活動モニタリングに関する報告が行われ、議論された。また、重点検討課題として、「プレート境界深部すべりに係わる諸現象」について検討及び議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.第21期の地震予知連絡会の構成について
島崎会長から、新たに副会長に指名された平原委員、松澤委員が紹介された。また、新たに東日本部会長に指名された松澤副会長、中日本部会長に指名された小原委員、西日本部会長に指名された平原副会長、重点検討課題運営部会長に指名された山岡委員が紹介され、各部会長からそれぞれの部会の委員が紹介された(事務局資料)
2.地殻活動モニタリング結果に関する検討
(1)全国の地震活動について
国内で2009年2月から4月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は24個であった(気象庁資料)。
(2)日本列島の歪み変化
GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み変化図からは、2008年9月11日に発生した十勝沖の地震の変動の影響が見られ、伊豆諸島北部では、北東南西の伸びが依然として顕著である。また、2008年5月8日に発生した茨城県沖の地震、2008年6月14日に発生した平成20年岩手・宮城内陸地震、2008年7月19日に発生した福島県沖の地震の影響が見られる(国土地理院資料)。
(3)岩手県沖(種市沖)の固有地震的地震活動
平成6年(1994年)三陸はるか沖地震の最大余震(1995年1月7日、M7.2)の近傍で2つのグループの固有地震的活動が報告された。これらの地震は、プレート境界上に存在する同じアスペリティの破壊により準周期的に繰り返し発生していると考えられる。間隔約16年でM6程度の地震グループでは、最後の地震が1993年12月に発生した(気象庁資料)。
(4)宮城・福島・茨城県太平洋岸の地殻変動
2008年5月8日に発生した茨城県沖の地震(M6.8)、2008年7月19日に発生した福島県沖の地震(M7.0)の余効変動と考えられる地殻変動が報告された。東向きの変化のほか2009年に入ってから、楢葉観測点以南の点で南向きの変動が見られることが示された。この変動の原因は、今のところはっきりしていない(国土地理院資料)。
(5)東海地域の地殻変動
東海地域の水準測量結果(年周補正後)において、掛川市の水準点140-1に対して、御前崎市の水準点2595は前回と比較してわずかに沈降しており、2005年夏以降の最近の沈降トレンド上にある(国土地理院資料)。GPS連続観測データから得られた東海地方の地殻変動は、スロースリップ開始以前の状況に戻っているように見える(国土地理院資料)。
(6)西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
三重・奈良県境中部で5月3日から深部低周波微動活動が開始し、5月6日から北東方向に移動を開始したことが報告された。この活動に同期して周辺の観測点では、傾斜変動が観測されている。2006年1月には今回の活動とほぼ同じ場所から微動活動が始まり、北東方向に移動し、最終的には愛知県側にまで微動・スロースリップイベントが連動した。今回のイベントは現在も継続中で、その動向を見ている(防災科学技術研究所資料)。
3.重点検討課題(プレート境界深部すべりに係わる諸現象)の検討
この課題の目的は、プレート境界深部でのプレート間滑りの様々な現象(深部低周波微動、深部低周波地震、深部超低周波地震、短期的スロースリップ)のモニタリングの現状、検知能力の向上、相互関係、トリガリングに関する検討を行い、プレート境界地震の予測精度の向上に貢献しようというものである(防災科学技術研究所資料)。深部低周波微動・深部超低周波地震・短期的スロースリップイベントの空間分布が報告され、深部低周波微動はまんべんなく広がり発生しているが、深部超低周波地震、短期的スロースリップイベントは局在化していることが示された(防災科学技術研究所資料)。深部低周波微動活動は、時間とともに空間的に移動することが多く、その方向にある傾向が見られるとの報告があった。また、微動活動から換算した四国・紀伊半島付近の6点におけるプレート間すべり量の積算変化が報告され、ほぼプレートの相対運動に等しいことが示された(防災科学技術研究所資料)。
全国の深部低周波地震の震央分布は、深部低周波微動に比べて空間的なギャップがあり、いくつかのクラスターを形成していることが報告された(気象庁資料)。
気象庁により観測された歪み変化から1997年後半以降のスロースリップイベントの検出事例が報告された(気象庁資料)。また、歪み変化から東海短期的スロースリップのモーメント開放履歴が推定され、長期的スロースリップと短期的スロースリップのモーメント解放には何らかの関連があることが指摘された(気象庁資料)。
産業技術総合研究所による地下水等総合観測の成果が報告され、2009年2月の愛知県での地殻歪み変化と短期的スロースリップのモデル推定が行われ、総合観測の重要性が示された(産業技術総合研究所資料)。
新宮のボアホール観測点で12個の歪み変化イベントが検出され、短期的スロースリップの断層モデルが提示された。微動活動を伴わずに発生したイベントも報告された(名古屋大学大学院環境学研究科・東濃地震科学研究所資料)。
地球潮汐が深部低周波微動の発生サイクルに影響を及ぼしていることがΔCFFの計算及び摩擦構成則に基づくシミュレーションをとおして示された(海洋研究開発機構中田資料)。また、遠地地震により四国西部の低周波微動がトリガーされた結果が報告された(東京大学地震研究所宮澤准教授資料)。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリング結果》
【1】気象庁 1.日本とその周辺 A1 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 2.北海道地方とその周辺 C 日高支庁西部の地震(2月28日M5.3) C 十勝沖の地震(3月7日M5.4) C 釧路沖の地震(3月20日M5.0) C 日高支庁東部の地震(4月5日M4.8) A1 千島列島の地震活動(4月7日M6.7等) A1 釧路沖の地震(4月28日M5.4) 3.東北地方とその周辺 A1 岩手県沖の地震(2月15日M5.9) C 福島県沖の地震(2月17日M4.9) C 福島県沖の地震(4月21日M5.2) C 岩手県沖の地震(4月25日M5.0) 4.関東・中部地方とその周辺 C 茨城県沖の地震(2月1日M5.8) C 三重県の深部低周波地震活動(2月12日最大M0.6) C 山梨県中・西部の地震活動(2月16日M3.8等) C 千葉県南部の地震(2月17日M4.6) C 岐阜県美濃中西部[福井県嶺北]の地震(2月18日M5.2) C 新潟県中越地方の地震(2月24日M3.4) C 茨城県沖の地震(4月28日M5.0) C 松代における地殻変動連続観測 C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 C 天竜船明(ふなぎら)観測点におけるレーザー式変位計による地殻変動観測 5.近畿・中国・四国地方とその周辺 C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 6.九州地方とその周辺 A1 日向灘の地震(4月5日M5.6) 7.期間外・海外 A1 新潟県の地震(5月12日M4.8) C インドネシア、タラウド諸島の地震(2月12日Mw7.1) C ケルマデック諸島(ニュージーランド)の地震(2月19日Mw6.9) C トンガ諸島の地震(3月20日Mw7.6) C イタリア中部の地震(4月6日M6.3) 【2】国土地理院 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる全国の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 A2 GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 C 加藤&津村(1979)解析手法による各験潮場の上下変動 2.北海道地方の地殻変動 C 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列 C 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 3.東北地方の地殻変動 C 横手市〜北上市間の上下変動 C 北上市〜大崎市間の上下変動 C 大崎市の上下変動 C 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列 C 2008年岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動 A2 宮城・福島・茨城県太平洋岸 GPS連続観測時系列 4.関東甲信地方の地殻変動 C 三浦半島東側の上下変動 C 三浦半島西側の上下変動 C 水準原点を基準とした三浦半島の上下変動 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測 C 三鷹地区精密辺長観測 5.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 C 伊豆東部地区 GPS連続観測時系列 C 伊豆半島東部測距連続観測 C 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列 6.東海地方の地殻変動 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 菊川市付近の水準測量結果 C 御前崎周辺 GPS連続観測時系列 C 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均,時間平均) C 御前崎地中地殻活動観測装置観測 A2 東海地方の非定常地殻変動 7.北陸・中部地方の地殻変動 A2 富山湾周辺の歪み変化 8.中国・四国地方の地殻変動 C 池田地区精密辺長観測 9.九州・沖縄地方の地殻変動 A2 南西諸島の地殻変動 10.その他 C 硫黄島 GPS連続観測結果 C GPS繰り返し観測 C 「だいち」PALSARによる硫黄島の解析結果について 【3】東京大学地震研究所 C 日光・足尾付近の地震活動(2009年2月〜2009年4月) 【4】京都大学防災研究所 C 近畿地方北部の地殻活動 C 地殻活動総合観測線の観測結果 【5】統計数理研究所 A3 2008年岩手・宮城内陸地震前の東北地方の地震活動について A3 東北地方東方沖の地震の深さの統計的補正法について 【6】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2009年2月〜2009年4月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2009年2月〜2009年4月) C 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動の観測 (2007年8月〜2009年5月) C 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測(2006年5月〜2009年5月) A3 茨城県沖地震の予知手法 A3 2009年2月17日 房総半島南東部の地震 A3 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 (2009年2月〜2009年4月) A3 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2009年2月〜2009年4月) 【7】産業技術総合研究所 1.関東・甲信越地域 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2009年2月〜2009年4月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2009年2月〜2009年4月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 2.北陸・中部地域 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2009年2月〜2009年4月) 3.近畿地域 C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2009年2月〜2009年4月) 4.中国・四国地域 C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2009年2月〜2009年4月) -- 鳥取大学工学部・産総研 【8】海上保安庁 A3 2005年8月16日の宮城県沖の地震(M7.2)後の海底地殻変動観測結果 C GPSによる地殻変動監視観測
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)地殻活動モニタリング結果に関する検討(気象庁) (A2)地殻活動モニタリング結果に関する検討(国土地理院) (A3)地殻活動モニタリング結果に関する検討(その他の機関) (C) 資料提出
重点検討課題「プレート境界深部すべりに係る諸現象」プログラム
○冒頭説明(趣旨説明者 小原委員)
フィリピン海プレートの沈み込み境界深部で発生するすべり現象(短期的スロースリップイベント)とそれに伴う現象(深部低周波微動・地震、深部超低周波地震)の発生状況、モニタリングの現状、発生メカニズムに関する研究の現状について理解を深めるとともに、今後のモニタリングの高度化、発生メカニズム研究、プレート沈み込み過程、巨大地震発生との関連等について議論を行ない、プレート間すべりのモニタリングとしての可能性を探る。
○各現象の特徴と検出・解析手法 ○現象の全体像 ○時系列的特徴 ○特徴的な活動事例 ○諸現象の関係 ○短周期スロースリップ・深部低周波微動 防災科学技術研究所 ○深部低周波地震の検測 ○空間分布 ○時空間分布(移動性・周期性) ○長期的スロースリップ発生前の深部低周波地震活動変化 ○深部低周波地震のクラスターと歪変化の関係 ○歪変化から推定される東海短期的スロースリップのモーメント解放履歴 気象庁 ○産総研地下水等総合観測による最近の成果 産業技術総合研究所 ○GEONETで見る短期的SSE 国土地理院 ○新宮ボアホールひずみ計で捉えた短期的スロースリップイベント 名古屋大学 ○発生メカニズムに関する研究の現状の紹介 ・地球潮汐トリガリング (独)海洋研究開発機構 地震津波・防災研究プロジェクト 中田 令子 ・深部低周波微動の遠地地震トリガリング 東京大学地震研究所 宮澤 理稔