地震予知連絡会の活動報告
第210回地震予知連絡会(2016年02月22日)議事概要
平成28年02月22日(月)、国土地理院関東地方測量部において第210回地震予知連絡会が開催された。はじめに全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、続いて、重点検討課題として「予測実験の試行02」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「余効変動と粘弾性 −日本列島広域地殻活動予測に向けて−」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。
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1.地殻活動モニタリングに関する検討
1.1 地殻活動の概況
(1)全国の地震活動について
国内で2015年11月から2016年1月までの3か月間に発生したM5以上の地震は27回であった。目立った活動としては、2015年11月14日の薩摩半島西方沖の地震(M7.1)、2016年1月14日の浦河沖の地震(M6.7)が挙げられる(気象庁資料3頁)。
(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動
2016年1月14日の浦河沖の地震(M6.7)の発生後、20日頃まで十勝沖で活発な超低周波地震活動があった(防災科学技術研究所資料4頁)。
(3)日本列島のひずみ変化
GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震の余効変動の影響が見られる(国土地理院資料5頁)。
1.2 東北地方太平洋沖地震関連
東北地方太平洋沖地震以降、東北地方から関東甲信越にかけて東向きの変動が見られ、累積水平変動は岩手川崎A観測点で最大約128cmに達している。また、上下変動は、宮城県から千葉県にかけての太平洋沿岸と関東甲信越地方及び青森県から北海道の襟裳岬付近にかけた地域に隆起が、岩手県沿岸及び奥羽脊梁山脈付近に沈降が見られ、M牡鹿観測点で最大約43cmの隆起が観測されている(国土地理院資料6−7頁)。海底地殻変動のデータには、釜石沖1、釜石沖2、宮城沖1で陸側へ、福島沖、銚子沖では海溝側への変動が見られる(海上保安庁資料8頁)。
1.3 プレート境界の固着状態とその変化
(1)千島・日本海溝周辺
・浦河沖の地震
2016 年1月14 日に浦河沖の深さ52km でM6.7 の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震は発震機構が西北西−東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した(気象庁資料9頁)。この地震に伴い、えりも岬周辺のGNSS観測点で最大約1cmの東向きの変動と隆起が観測された(国土地理院資料10頁)。
(2)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・駿河トラフ及び南海トラフ沿いの海底地殻変動観測結果
東北地方太平洋沖地震の影響を除去した海底地殻変動のデータには、アムールプレートに対する年間最大5.1cmの速度の北西向きの変動が見られる(海上保安庁資料11頁)。
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動が、紀伊半島北部から東海地方(12月28日から1月14日)、四国中部から西部(10月29日から11月8日)で発生した。それ以外の主な微動活動は、紀伊半島南部(11月25日から28日、1月8日から13日)、四国東部から中部(12月26日から1月5日)、四国中部(1月8日から12日)、豊後水道(11月8日から12日)で発生した(防災科学技術研究所資料12頁)。傾斜データを用いたモデル計算から、伊勢湾周辺でスロースリップが発生したことが推定された(防災科学技術研究所資料13頁)。
2.重点検討課題「予測実験の試行について02」の検討
第208回に引き続き、「予測実験の試行」に関する検討が行われた。今回は、第208回と同じ手法によって,前回発表時以降の地震発生や地殻変動について、実際の発生状況あるいは変動の進行がどの程度適合しているかが紹介され、議論が行われた(コンビーナ:国土地理院・今給黎哲郎委員資料17頁 山岡部会長が代理で進行)。
◆CSEP参加グループによる予測手法:予測と実際の活動の比較検証
将来の地震の数を予測する地震活動予測モデルを、地震カタログを基に比較・検証するCSEPの事例が紹介された。空間分布の予測のためのRelative Intensityモデルに地震数を予測する大森宇津則を組み込んだモデルを用いることにより、関東地方における将来3か月の予測が実際の地震発生を良く説明することが報告された(東京大学地震研究所・鶴岡弘准教授資料19頁)。
◆沖縄地方の繰り返し地震の確率論的発生予測手法:予測と実際の発生状況の比較検証
宮古島で発生する4つの繰り返し地震のグループに対して、BPT分布モデルを用いた地震発生予測を過去に遡って実施した結果が報告された。このうち、M4程度の繰り返し地震が2−3年おきに発生するグループにおいては、7つの予測について4事例が適中した(気象庁・橋本徹夫委員資料20頁)。
◆群発的地震活動を前震活動と仮定して行う本震の発生予測手法:最近の活動事例による検証
前震活動を伴いやすい領域(日本海溝沿い、伊豆半島沖、長野県北中部)における発生予測の結果が示された。2015年8月以降、前震候補も対象地震も発生しなかったことから、予知率及び適中率に変化はなかった。また、長野県北中部地域に対して得られている最適パラメータを日本の内陸地震に適用したところ、福島県東部、銚子付近、鹿児島県西方沖で前震活動が見られることが紹介された(気象研究所・前田憲二委員・弘瀬冬樹研究官資料21頁)。
◆東北地方太平洋沖地震の余効変動の予測実験
東北地方太平洋沖地震の余効変動の関数近似による予測実験が紹介された。対数関数と指数関数を組み合わせた混合モデルによって、余効変動時系列の短期予測が向上したことが報告された。この結果を受けて、東海地方の長期的スロースリップ等の地殻活動監視に活用されていることが紹介された。また、中長期予測は、定常速度及び長期の時定数に強く依存し、これらの安定した推定が今後の課題であることも示された(国土地理院・飛田幹男委員資料22頁)。
◆確率予測と二値予報の採点法 〜採点の適正さと利用者の効用の観点から導出する採点式とその適用例〜
予測を適正な方法で採点することの重要性と、確率予測の新しい採点手法である拡張ブライアスコアが紹介された。基準予測との比較が組み込まれたこのスコアで、予測手法の性質を把握できることが、相似地震への適用を通じて示された(気象研究所・林豊主任研究官資料23頁)。
3.次回(第211回)重点検討課題「余効変動と粘弾性 −日本列島広域地殻活動予測に向けて−」の趣旨説明
地震後に生じるゆっくりとした地殻変動である余効変動とその主要因である粘弾性緩和について、観測とモデル研究の現状を整理し、今後の日本列島の広域地殻活動予測に向けてどういった取組が必要か議論する予定である
(コンビーナ:京都大学・平原和朗会長資料24頁)。
4.平成28年度地震予知連絡会の開催について
平成28年度の今後の重点検討課題名及び地震予知連絡会の開催日程について説明があった(事務局資料25-27頁)。
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリングに関する検討》
《地殻活動モニタリングに関する検討》 【1】気 象 庁 1. 地殻活動の概況 a.地震活動 O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構 ・2015年11月〜2016年01月の全国の地震活動概況を報告する. S 東海地域の地震活動 2.東北地方太平洋沖地震関連 S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 青森県東方沖の地震(11月1日 M5.2) S 福島県沖の地震(11月19日 M4.9) S 茨城県沖の地震(11月22日 M4.8) O 浦河沖の地震(1月14日 M6.7) ・2016年1月14日12時25分に,浦河沖の深さ52kmでM6.7の地震が発生した.この地震は,発震機構が 西北西−東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で,太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した 地震である.余震活動は低調であり,周辺で発生した同程度の規模の地震についても同じ傾向が 見られた. b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 東海・南関東地方の地殻変動 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海地域から豊後水道にかけての深部低周波地震活動 S 東海・南関東地方の地殻変動 S 東海地域の長期的ゆっくりすべり(平成25年はじめ頃〜) S 奈良県から和歌山県にかけての深部低周波地震活動とひずみ変化(11月25日〜11月27日) S 三重県から長野県南部にかけての深部低周波地震活動とひずみ変化(12月29日〜1月11日) S 奈良県の深部低周波地震活動とひずみ変化(1月8日〜1月13日) S 愛媛県の深部低周波地震活動とひずみ変化(1月9日〜1月15日) d.その他 S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化 S 中規模繰り返し相似地震の発生状況と発生確率(2016) 4.その他の地殻活動等 S 茨城県南部の地震(11月7日 M4.9) S 与那国島近海の地震(11月12日 M5.0) O 薩摩半島西方沖の地震(11月14日 M7.1,11月15日 M5.9) ・2015年11月14日に発生した薩摩半島西方沖のM7.1の地震について,前回報告時以降の活動の状況に ついて紹介する. S 父島近海の地震(11月20日 M6.3) S 熊本県熊本地方の地震活動(11月中旬〜 最大M3.2) S 根室半島南東沖の地震(11月28日 M5.6) S 鳥取県中部の地震活動(12月14日 M4.2) S 硫黄島近海の地震(1月6日 M6.0) S 奄美大島近海の地震(1月9日 M5.4) O 青森県三八上北地方の地震(1月11日 M4.6) ・2016年1月11日15時26分に,青森県三八上北地方の深さ10kmでM4.6の地震が発生した.この地震は, 地殻内で発生した.発震機構は,東北東−西南西方向に圧力軸を持つ逆断層型である. S 北海道北西沖の地震(1月12日 M6.2) S 根室半島南東沖の地震(1月21日 M5.1) S 福島県沖の地震(1月25日 M4.2) S 岩手県沖の地震(2月2日 M5.6) ※期間外 S トカラ列島近海の地震活動(2月3日〜 最大M2.7)※期間外 S 神奈川県東部の地震(2月5日 M4.6) ※期間外 S ソロモン諸島の地震(11月19日 Mw6.8) S ペルー・ブラジル国境の地震(11月25日 Mw7.5) S 南東インド洋海嶺の地震(12月5日 Mw7.1) S タジキスタンの地震(12月7日 Mw7.2) S 米国,アラスカ州南部の地震(1月24日 Mw7.1) S ロシア,カムチャツカ半島の地震(1月30日 Mw7.2) O 台湾付近の地震(2月6日 M6.4) ※期間外 ・2016年2月6日04時57分に,台湾付近でM6.4の地震が発生した.発震機構は,東北東−西南西方向に 圧力軸を持つ型である.今回の地震の震央周辺は,地震活動が活発な地域でM5.0以上の地震が時々 発生している. 【2】国土地理院 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 O GEONETによる全国の地殻水平変動 O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 O GNSS連続観測から推定した日本列島のひずみ変化 2.東北地方太平洋沖地震関連 S 新発田市〜酒田市間の上下変動 O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル O GNSS連続観測時系列 S 成分変位と速度グラフ O 余効変動の予測実験 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 北海道太平洋岸 GNSS連続観測時系列 O 2016年1月14日浦河沖の地震 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 中央区〜君津市間の上下変動 S 水準原点〜さいたま市間の上下変動 S 藤沢市〜水準原点(甲)間の上下変動 S 三浦半島東側の上下変動 S 1923年を基準とした三浦半島の経年変化 S 水準網平均による伊豆半島東部の上下変動 S 中伊豆〜伊東間の上下変動 S 伊豆市修善寺〜河津町間の上下変動 S 熱海市〜伊東市〜河津町間の上下変動 S 内浦〜伊豆市中伊豆〜伊東市間の上下変動 S 内浦〜沼津市(交60)間の上下変動 S 1981年を基準とした伊豆半島東部の各水準点の経年変化 S 1904年を基準とした水準点9335〜9338の経年変化 S 静岡市〜熱海市〜藤沢市間の上下変動 S 1972年を基準とした藤沢市〜熱海市〜静岡市の各水準点の経年変化 S 伊豆半島・伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 S 精密辺長測量 川奈地区 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 S 水準点2595の経年変化 S 水準点140-1・2595の経年変化 S 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 S 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測 S 高精度比高観測点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測 S 高精度比高観測 S 御前崎地方の上下変動 S 菊川市付近の水準測量結果 S 御前崎周辺 GNSS連続観測時系列 S 駿河湾周辺 GNSS連続観測時系列 S 御前崎長距離水管傾斜計月平均 S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化 S 御前崎地中地殻活動観測施設 S 東海地方の地殻変動 S 東海地方の非定常的な地殻変動 S 西宮市〜柏原市間の上下変動 S 泉南市〜茨木市間の上下変動 O 紀伊水道周辺の非定常的な地殻変動 S 香南市〜室戸市間の上下変動 S 宿毛市〜土佐清水市間の上下変動 S 1896年を基準とした室戸地方の各水準点の経年変化 4.その他の地殻活動等 S 伊豆東部地区 GNSS連続観測時系列 S 伊豆諸島地区 GNSS連続観測時系列 S 中京地方の上下変動 O 薩摩半島西方沖の地震(11月14日,M7.1) O 2015年12月7日タジキスタン共和国の地震に関する合成開口レーダー解析結果 O 2016年2月6日台湾の地震に関する合成開口レーダー解析結果 【3】北海道大学 【4】東北大学災害科学国際研究所 【5】東京大学地震研究所 4.その他の地殻活動等 S 鋸山観測坑における地殻変動連続観測(1997年7月〜2015年12月) S 富士川・駿河湾地方における地殻変動観測(その39) S 弥彦地殻変動観測所における傾斜観測(1967-2015) 【6】東京工業大学 【7】名古屋大学 【8】京都大学防災研究所 4.その他の地殻活動等 S 近畿地方北部の地殻活動 【9】九州大学 【10】鹿児島大学 【11】統計数理研究所 【12】防災科学技術研究所 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 O 日本周辺における浅部超低周波地震活動 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 O 日本周辺における浅部超低周波地震活動 O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 S 関東・東海地域における最近の傾斜変動 4.その他の地殻活動等 S 平成27年11月14日の薩摩半島西方沖の地震の余震活動 S 2016年1月11日青森県三八上北地方の地震 S 2016年1月11日青森県三八上北地方の地震の余震活動 S 2016年1月14日浦河沖の地震の震源過程 S 2016年1月11日浦河沖の地震の余震活動 【13】産業技術総合研究所 3.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2015年11月〜2016年1月) S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2015年11月〜2016年1月) S 東海・紀伊半島・四国における短期的スロースリップイベント(2015年11月〜2016年1月) 4.その他の地殻活動等 S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2015年11月〜2016年1月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2015年11月〜2016年1月) S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2015年11月〜2016年1月) S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2015年8月〜2016年1月) -- 鳥取大学工学部・産総研 【14】海上保安庁 1.地殻活動の概況 b. 地殻変動 S GPSによる地殻変動監視観測 2.東北地方太平洋沖地震関連 O 東北地方太平洋沖地震後の海底地殻変動観測結果 ・海上保安庁が日本海溝沿いで実施している海底地殻変動観測について,東北地方太平洋沖地震後の観測結果を 報告する. 3.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 O 南海トラフ沿いの海底地殻変動観測結果 ・海上保安庁が南海トラフ沿いで実施している海底地殻変動観測についての観測結果を報告する. 【15】海洋研究開発機構
記載分類は以下のとおりとなっています。 1.地殻活動の概況 a.地震活動 b.地殻変動 2.東北地方太平洋沖地震関連 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 d.その他 4.その他の地殻活動等 ・口頭報告(O) ・資料提出のみ(S)