地震予知連絡会の活動報告

第1回地震予知連絡会東日本部会(2008年7月2日) 議事概要

 平成20年7月2日、国土地理院関東地方測量部において平成20年度第1回地震予知連絡会東日本部会が開催された。平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震に関して、どのような地震であったか、どのような場であったか、先行現象などはあったのかという観点で観測・研究成果の報告が行われ、議論された。以下に、その概要について述べる。

1.平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震について

地震活動

 2008年6月14日に岩手県内陸南部でマグニチュード(M)7.2の地震が発生した。1997年10月以降の活動を見ると、今回の震源域周辺ではM5を超える地震は発生していなかった(気象庁資料)。余震活動は活発である。6月16日には当初発生していなかった北方に拡大した。6月26日から28日にかけては南部の鳴子付近での地震活動が活発となったが、その後低調になった(気象庁資料)。震源分布を詳細に見ると、北部と南部では特徴が異なり、北部での震源の深さの下限は南部と比べやや深い。主に西傾斜の面が見られるが、南部では東傾斜の面も見られ、複雑な構造を示す。DD法などの結果によれば、震源分布は一元化震源よりも浅く求まる傾向がある(気象庁・気象研究所資料防災科学技術研究所資料緊急観測グループ・東北大学資料)。本震の発震機構は西北西−東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型であり、多くの余震が同じ発震機構を示すが、栗駒山よりも南では圧力軸の向きはほぼ東西方向を示す(気象庁資料)。

地殻変動

 この地震に伴う地殻変動がGPS連続観測、合成開口レーダー観測で捉えられている(国土地理院資料)。なお、GPS連続観測により、地震後の余効変動が震源域の北部を中心とする領域で観測されている。また、GPSの1秒データを用いた変位と地震計による変位波形がおおむね一致すること、強震計データから推定された永久変位がGPS連続観測で得られた変位とおおむね調和的であることが示された。

震源断層モデル

 地震観測結果から断層面上でのすべり分布が推定されている(気象庁資料防災科学技術研究所資料産業技術総合研究所資料)。いずれの結果でも本震震源よりも南側の浅い領域に大きなすべりが推定されている。地殻変動からも同様に本震震源の南側で大きくすべる領域が推定された(国土地理院資料防災科学技術研究所資料)。ただし、地殻変動から推定される断層面の深さは、余震の震源分布よりも有意に浅い。

発生地域の特徴

 GPS観測から東北脊梁山地に沿って短縮ひずみが顕著に見られる。地震波トモグラフィによると深さ40kmで地震波速度が周辺に比べて遅い領域が火山に沿って分布している(緊急観測グループ・東北大学資料)。今回の地震の周辺域でこれまで発生した比較的規模の大きな地震活動は、震源域の深部に低速度域が分布している地域に見られ、それらの地震の発生は地下深部から供給された流体と関係している可能性が高い(緊急観測グループ・東北大学資料)。今回の地震の余震分布と出店断層の深部延長とは比較的近い位置関係にある(東京大学地震研究所資料)。

先行現象

 今回の地震の震源付近で、本震発生の直前に前震活動がみられた(気象庁資料)。また、今回の震源域では1999年と2000年にM4クラスの地震が発生している。これらの余震分布は今回の余震分布の浅部延長にあることから、同一面上での活動であると考えられる。これらの地震の震源域では今回の地震の余震活動は低調である(緊急観測グループ・東北大学資料)。傾斜計の観測結果には地震直前には変化が見られず、Mw4.0よりも大きなプレスリップはなかったと考えられる(防災科学技術研究所資料)。

 これまで、活火山の近傍では大きな地震はあまり発生しないと考えられてきた中で、今回の地震は栗駒山の近傍で発生した。比較的地温が高いと考えられる火山地域で大きなひずみが蓄積されていたという一見矛盾すると思われる現象について議論が行われた。地震観測からは、地震波には短周期が卓越するという特徴がみられること、地震波形解析、地殻変動データから推定される最大すべり量が非常に大きく、大きなひずみが狭い領域に蓄積されていたことは確からしいという結論になった。地質学的な見地からは、この地域よりも南側は火山地域であるが、北側では活断層が分布することから火山地域とは必ずしもいえないとのコメントがあった。先行現象の有無については、震源域直上のGPS連続観測点が2004年から2007年頃にかけて変動していたことが報告されたが、そのメカニズムについては不明であるとのコメントがあった。

(事務局:国土地理院)