地震予知連絡会の活動報告

第238回地震予知連絡会(2023年2月28日)議事概要

 令和5年2月28日(火)、国土地理院関東地方測量部において第238回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリング、地殻活動の予測についての報告が行われ、その後、重点検討課題として「人工知能による地震研究の深化」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動

 日本とその周辺で2022年11月から2023年1月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は35回であった。このうち、日本国内で震度5弱以上を観測した地震はなかった。一方、M5.0未満で震度5弱以上を観測した地震は1回発生した(資料2頁・気象庁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 十勝沖で11月中旬から下旬に超低周波地震活動を検出した。その他、資料掲載基準に達していないが、種子島沖以南で11月下旬及び1月下旬以降に超低周波地震活動があったことを確認した(資料3頁・防災科学技術研究所)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震及び熊本地震の余効変動の影響が見られる。また、福島県沖の地震及び石川県能登地方の地震活動の影響が見られる(資料4頁・国土地理院)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)相模トラフ周辺・首都圏直下

・茨城県南部の地震(11月9日 M4.9)
 2022年11月9日17時40分に茨城県南部の深さ51kmでM4.9の地震(最大震度5強)が発生した。この地震は、発震機構が北北西-南南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した(資料5頁・気象庁)。

(2)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップイベントを伴う顕著な微動活動が、豊後水道から四国西部において、11月17日から28日に発生した。これ以外の主な深部微動活動は、紀伊半島中部(12月16日から21日)、紀伊半島南部(11月8日から11日)、四国中部(12月21日から26日)で観測された(資料6-7頁・防災科学技術研究所)。

・四国中部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測によって、四国中部で2019年春頃から開始した非定常的な地殻変動が引き続き捉えられた。プレート間のすべりを推定した結果、四国中部で最大34cmのすべりが推定された(資料8頁・国土地理院)。

1.3 その他

(1)石川県能登地方の地震活動(最大規模の地震:2022年6月19日 M5.4)

 石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加傾向にあり、2020年12月から地震活動が活発になっている。2023年1月末時点でも活発な状態が継続している。活動の全期間を通じて最大規模の地震は、2022年6月19日に発生したM5.4の地震(最大震度6弱)である(資料9頁・気象庁)。この地震活動の開始以降、震源域に近い能登半島のGNSS連続観測点で南南西方向に最大1cmを超える水平変動や、4cm程度の隆起などの地殻変動が観測されている(資料10-14頁・国土地理院)。

(2)三重県南東沖の地震(11月14日 M6.4)

 2022年11月14日17時08分に三重県南東沖の深さ362kmでM6.4の地震(最大震度4)が発生した。この地震は太平洋プレート内部で発生した。発震機構(CMT解)は、太平洋プレートの沈み込む方向に圧力軸を持つ型である。この地震では、震央から離れた東北地方及び関東地方で強い揺れを観測しており、この現象は「異常震域」と呼ばれている(資料15頁・気象庁)。

(3)奄美大島近海の地震(12月13日 M6.0)

 2022年12月13日23時25分に奄美大島近海の深さ18km(CMT解による)でM6.0の地震(最大震度4)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は、東西方向に圧力軸を持つ型である(資料16頁・気象庁)。

(4)沖縄本島北西沖の地震活動(最大規模の地震:久米島の北西約50kmの領域 3月17日・6月3日 M5.9、久米島の西約80kmの領域 9月18日 M6.0)

 沖縄本島北西沖では、2022年1月下旬の地震活動の活発化以降、震源域に近い久米島のGNSS連続観測点で南東方向に約2cmの地殻変動が観測されている。2022年11月頃からは停滞している(資料17頁・国土地理院)。

1.4 2023年トルコの地震(2月6日 Mw7.8、Mw7.6、気象庁によるモーメントマグニチュード)

 2023年2月6日10時17分(日本時間、以下同じ)に、トルコの深さ18kmでMw7.8の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。発震機構(気象庁によるCMT解)は南北方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型である。また、同日19時24分には、トルコの深さ10kmでMw7.6の地震(Mwは気象庁によるモーメントマグニチュード)が発生した。発震機構(気象庁によるCMT解)は北東-南西方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型である。これらの地震により、少なくとも死者7,200人などの被害が生じた(2023年2月8日時点)(資料18頁・気象庁)。
 SAR干渉解析、ピクセルオフセット法による解析を行い、地震に伴う地殻変動を検出した。東アナトリア断層(East Anatolian Fault)およびチャルダック断層(Çaldak Fault)に沿って地殻変動が見られた。地殻変動は地震のメカニズム(左横ずれ)と整合的である。また、上記断層の近傍で非干渉領域が見られた。地震に伴って地表面が変化した可能性がある。さらに、変動域では東アナトリア断層を挟んで最大で5mを超える変動、チャルダック断層を挟んで最大で4m程度の変動が見られた(資料19-23頁・国土地理院)。
 2月16日までの余震活動をUSGSカタログのMc4.5余震データで最大余震M7.5の地震時を起点とした場合のETASモデルの最良の当てはまりを与えた。次に、2月6日の本震M7.8から最大余震M7.5までの期間のデータに、ETASモデルのパラメタに制限をかけ適合度を比較した。全区間を通して同一モデルの場合の最良モデルは大森関数(p=1.0)である。対して、本震時から1.1時間(0.046日)の経過時で活動の変化があったとして適合度を調べたところ、この場合が、AICを有意に改善しているが、余震数は十分でなく、さらに本震直後の検出率変化を考慮して研究する必要がある。相対的静穏化であると仮定して、本震と最大余震のモーメントテンソルに基づいて2月16日中のストレス変化を調べた(資料24-25頁・統計数理研究所)。

1.5 地殻活動の予測

(1)地殻活動の予測実験(1) - 内陸地震の短期確率予測と評価について

 オンラインの震源データから、最近3年間の各地の時空間地震活動について各種の時空間ETASモデルによる短期予測とそれらの実行結果の評価について報告した(資料27頁・統計数理研究所)。


2.重点検討課題「人工知能による地震研究の深化」の検討

 人工知能による複数観測点を用いた地震・測地イベント検知手法開発、機械学習を併用した自動震源決定による微小地震の検出、地震動予測への機械学習技術の適用、深層学習に基づく地震計古記録からの低周波微動の検出、弾性重力信号の早期警報への応用に関する報告が行われ、人工知能をどこにどのように導入すべきか、人工知能を現業へ導入する際の課題等についての議論が行われた(資料29頁・コンビーナ:東京大学名誉教授・平田直 委員、共同コンビーナ:東京大学地震研究所・長尾大道 准教授)。

◆人工知能による複数観測点を用いた地震・測地イベント検知手法開発

 「地震現象は複数地震観測点で観測される」ことに着目した深層学習手法を開発し首都圏稠密地震観測網に適用し有効性が示された(資料31頁・統計数理研究所・矢野恵佑 准教授)。

◆機械学習を併用した自動震源決定による微小地震の検出

 自動震源決定処理の一部において機械学習を使用することにより、誤決定を低減できるようになった。深層学習を用いて、地震波形からノイズを識別して除去した上で自動震源決定を行う。さらにアンサンブル学習(LightGBM)により誤決定震源を除去する。この決定手法を東北地震後の観測データに適用し、一元化震源に掲載されていない約61万個の微小地震を新たに検出した。このカタログは、微細な断層構造や微小な前震活動の把握に貢献すると考えられる(資料32頁・気象研究所・溜渕功史 主任研究官)。

◆地震動予測への機械学習技術の適用

 地震動予測では、揺れの強さの分布の推定や時系列予測など、幅広い分野で機械学習技術を適用した成果が得られている。他方で、地震動の観測データは根本的に不均衡であり、これが予測モデルに与える影響が懸念されている。シミュレーションなどを用いたデータ拡張や物理モデルとのハイブリッドなどの対応が考えられる(資料33頁・防災科学技術研究所・久保久彦 主任研究員)。

◆深層学習に基づく地震計古記録からの低周波微動の検出

 約50年前に稼働していた東京大学地震研究所和歌山観測所熊野観測点の紙記録から微動を検出する深層学習器を開発し、微動を検出することに成功した。今後、強力なGPU計算機を用い、より大規模な学習を行うことにより、信頼性の高い微動検出が可能な深層学習器を開発していく予定である(資料34頁・東京大学地震研究所・長尾大道 准教授)。

◆Earthquake Early Warning using Elasto-gravity signals

 光速で伝わる即時弾性重力信号 (PEGS) を検出するための深層学習AI に基づく新しい手法が開発され、地震のモーメントマグニチュードをリアルタイムで追跡する深層学習モデルの能力が実証された。これにより、地震と津波の早期警報システムの改善が期待される(資料35頁・京都大学防災研究所・ベルトラン ルエレドゥ 助教)。


3.次回(第239回)重点検討課題「群発地震」の趣旨説明

 群発地震とは、本震・余震の区別がはっきりせず、ある地域に集中して地震が頻発する地震活動のことをさす。国内においてよく知られている群発地震は、松代群発地震、伊豆半島東方沖、三宅島噴火に伴う活動などがある。最近では、能登半島北東部で活発な群発地震活動が2年以上継続しており、今後の活動推移は社会的な関心となっている。群発地震は火山や地熱地帯で多く報告されており、その発生にはマグマや地下水、構造的不均質などが関与していると考えられてきた。しかしながら、能登半島北東部の群発地震のように、火山地帯から離れた場所でも発生する例もあり、その発生要因は必ずしも明らかになっているとは言えない。また、群発地震は一般的に地下浅部で起こることが多く、マグニチュード5程度でも大きな被害に繋がる可能性があり、加えて周辺に活断層がある場合には、大地震へ繋がる可能性もある。こうした状況を踏まえ、次回は能登半島北東部で起きている群発地震のレビューと最新知見、他の群発地震の事例からの知見と物理メカニズム、ゆっくりすべりに起因する群発地震、流体を注入する岩石実験から示唆される群発地震のメカニズムについて報告し、群発地震の駆動メカニズム、規模や継続時間には何が寄与しているのか、理解を深化させるために必要な観測項目、活動の予測をする上での今後の課題等について議論を行う予定である(資料36頁・コンビーナ:産業技術総合研究所・今西和俊 委員)。


4.運営検討部会報告

 令和5年度後期の重点検討課題名が選定され、第241回は「地震予測研究の進展(仮)」、第242回は「火山と地震(仮)」について、それぞれ議論を行う予定であることが報告された(資料37頁・事務局)。


5.令和5年度地震予知連絡会の開催について

 令和5年度の地震予知連絡会の開催日程について報告があった(資料38頁・事務局)。

各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:351KB)