地震予知連絡会の活動報告
第194回地震予知連絡会(2012年2月17日) 議事概要
平成24年2月17日(金)、国土地理院関東地方測量部において第194回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動などに関するモニタリングについての報告が行われ、続いて重点検討課題として「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その2)千島海溝」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その3)相模トラフ周辺・首都圏直下」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。
「地殻活動のモニタリングに関する検討」資料説明映像(映像:28MB,約15分)
「重点検討課題に関する検討」資料説明映像(映像:76MB,約35分)
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説明資料(PDF:5MB)
1.地殻活動モニタリングに関する検討
1.1 地殻活動の概況
(1)全国の地震活動について
国内で2011年11月から2012年1月までの3ヶ月間に発生したM5以上の地震は34個であった。うち、M7以上は2個であった(気象庁資料)。
(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動
十勝沖で11月下旬から12月上旬に浅部超低周波地震活動があった。活発な活動としては2010年7月以来約1年半ぶりである。日向灘で1月中旬に小規模な浅部超低周波地震活動があった(防災科学技術研究所資料)。
(3)日本列島の歪み変化
GPS連続観測データによる最近1年間の日本列島の歪み図に、東北地方太平洋沖地震の震源域に向かって伸びる歪みが見られる(国土地理院資料)。東日本の最近3ヶ月間の歪み変化では,一部に地震時とは異なる歪みの分布が見られる。房総半島では2011年10月26日から11月8日までにかけて発生したスロースリップの影響が見られる(国土地理院資料)。
1.2 プレート境界の固着状態とその変化
(1)日本海溝・千島海溝周辺
・海底地殻変動観測
重心推定法を用いて再解析された、東北地方太平洋沖地震発生前の日本海溝から南海トラフにかけての海底地殻変動速度が報告された(海上保安庁資料)。
・東北地方太平洋沖地震の余効変動
青森から北海道南西部にかけて隆起が観測されている(国土地理院資料)。地震後の余効変動は減衰しながらも継続しており、その時間変化は対数関数でよく近似できる(国土地理院資料)。GPSデータを用いた東北地方太平洋沖地震後のプレート境界面上の滑りの推定から、1月12日までに、Mw8.5の地震に相当するエネルギーが放出されたことが示された(国土地理院資料)。海底地殻変動観測によると、宮城県沖の海底で23cmの西北西向きの変動が検出された(海上保安庁資料)。
(2)相模トラフ周辺・首都圏直下
・1月28日山梨県東部・富士五湖の地震
2012年1月28日に山梨県東部・富士五湖の深さ18kmでM5.4の地震が発生した(気象庁資料)。震源分布は南東方向に傾斜する曽根丘陵断層帯の深部延長上に並んでいるように見え、この地域で推定されている速度境界面とも整合的である(東京大学地震研究所資料)。
(3)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・南海トラフ沿いの地殻変動
紀伊半島の先端部及び室戸岬の先端部が長期間沈降していることが水準測量の結果で示された(国土地理院資料)。
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
短期的なスロースリップを伴う顕著な微動活動が、紀伊半島北部で12月16〜22日に、四国中部〜西部で12月22〜28日及び12月31日から1月10日までに発生した(防災科学技術研究所資料)。四国西部で発生したスロースリップの規模はMw6.2であり、時間とともに発生場所が移動していることが示された(防災科学技術研究所資料)。
2.重点検討課題「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その2)千島海溝」の検討
本課題の目的は、千島海溝沿いのプレート境界で発生する巨大地震発生を予測するための枠組みの検討を行うことにある。これらに関して、2部に分けて検討が行われた。
◆第1部 千島海溝沿いのプレート境界のモニタリング状況
GPSで観測された北海道周辺の地殻変動データを用いた計算から、十勝〜釧路沖の海溝寄りと根室半島〜色丹島沖の陸寄りに強い固着が推定されることが報告された(国土地理院資料)北海道東方沖および宮城県沖の海溝近傍では、地震活動が低調でかつ相似地震が発生していない領域が存在することが示された。相似地震の解析から、その領域の周辺は比較的強い固着が広域に推定され、一部はプレート境界地震の発生域下限まで強く固着していることなどがわかった(東北大学資料・内田直希助教資料)。十勝沖で発生する超低周波地震は、2003年十勝沖地震の余効滑り域内で発生し、通常の地震の発生域と棲み分けていることが示された。また、時間とともに発生場所が移動していく特徴などが報告された(防災科学技術研究所資料・浅野陽一主任研究員資料)。2010年までの45年間の地震活動の解析から、宮城県沖、福島県沖、房総半島沖で静穏化の傾向が見られ、特に宮城県沖、福島県沖では、東北地方太平洋沖地震時の滑り域の周辺で静穏化していたことが示された。1968年十勝沖地震および1973年根室半島沖地震の発生域周辺で、それぞれ2004年、2006年以降に静穏化の傾向が見られることが報告された(北海道大学資料・勝俣啓准教授資料)。
◆第2部 千島海溝沿いの巨大地震
津波堆積物調査研究の現状と課題について報告がなされた。津波堆積物の粒径や構成物の特徴を利用して堆積物を対比することにより古津波の規模の推定を目指す研究などが紹介された(北海道大学・西村裕一助教資料)。これまでの北海道太平洋沖における地震波構造探査についてのレビューが行われ、稠密な海底地震観測により、高精度な震源分布や詳細なプレート形状の推定が可能になったことなどが報告された(北海道大学・東龍介非常勤研究員資料)。十勝〜根室沖における地震発生サイクルの数値計算結果が紹介された。応力状態次第で余効滑り域でも別のサイクル時に地震性滑りが発生する場合があり、余効滑り域と地震性滑り域は長期的には共存する可能性があることが示された(海洋研究開発機構資料・堀高峰研究員資料)
3.次回(第195回)重点検討課題「プレート境界に関するわれわれのイメージは正しいか?(その2)相模トラフ周辺・首都圏直下」の趣旨説明
関東地方の今後の短中期的な大地震発生の可能性、首都直下大地震の切迫性や相模トラフ沿いの巨大地震の規模と繰り返しについて検討を行う。議論は、1)東北地方太平洋沖地震後の関東の地震活動と地殻変動、2)地震テクトニクス・古地震学的研究レビュー、の2部に分けて行われる予定である(趣旨説明資料)。
4.平成24年度地震予知連絡会の開催について
平成24年度の地震予知連絡会の開催日程(案)及び議事の流れ、今後の重点検討課題名について説明があった(事務局資料)。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリングに関する検討》
【1】気 象 庁 1. 地殻活動の概況 a.地震活動 O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構 S 東海地域の地震活動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 浦河沖の地震(11月24日 M6.2) S 福島県沖の地震(11月24日 M6.1) S 岩手県沖の地震(12月20日 M5.0) S 岩手県沖の地震(1月9日 M5.1) S 宮城県沖の地震(1月12日 M5.5) S 福島県沖の地震(1月23日 M5.1) S 岩手県沖の地震(1月28日 M5.7) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 九十九里浜付近の地震活動 S 茨城県南部の地震(11月3日 M4.9) S 千葉県南部の地震活動 S 茨城県南部の地震(1月17日 M4.7) S 東海・南関東地方の地殻変動(2cを含む) O 山梨県東部・富士五湖の地震(1月28日 M5.4) d.その他 S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化 3.その他の地殻活動等 S オホーツク海南部の地震(12月10日 M5.7) O 「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」の余震域及びその周辺の2011年3月以降の地震活動状況(2a,2bを含む) S 秋田県内陸南部の地震(11月10日 M4.1) S 宮城県沖の地震(12月10日 M4.7) S 宮城県沖の地震(1月26日 M5.2) S 群馬県北部の地震(11月7日 M4.5) S 福井県嶺北の地震(11月18日 M4.8) S 長野県北部の地震(12月1日 M4.6) S 岐阜県美濃東部の地震(12月14日 M5.1) S 石川県能登地方の地震(12月17日 M4.3) S 長野県・新潟県県境付近の地震(1月1日 M4.2) S 鳥島近海の地震(1月1日 M7.0) S 千葉県東方沖の地震(1月27日 M5.0) S 佐渡付近の地震(2月8日 M5.7、期間外) S 広島県北部の地震(11月21日 M5.4) S 和歌山県北部の地震(1月9日 M4.7) S 奄美大島近海の地震(12月11日 M5.5) S 日向灘の地震(1月30日 M4.9) S 沖縄本島北西沖の地震(11月8日 M7.0) S パプアニューギニア、ニューギニア東部の地震(12月14日 Mw7.1) S インドネシア、スマトラ北部西方沖の地震(1月11日 Mw7.2) S フィリピン諸島の地震(2月6日 Mw6.7、期間外) 【2】国土地理院 1. 地殻活動の概況 b.地殻変動 O GEONETによる全国の地殻水平変動 O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 O GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 O 北海道太平洋岸 GPS連続観測時系列 S 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ(十勝沖、釧路沖地震) O 北海道の地殻変動(猿払固定) O 東北地方の上下変動 O 東北地方太平洋岸 GPS連続観測時系列 O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動 対数関数近似(Q3) O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル O 基線ベクトルの成分変位と速度グラフ O 東北地方太平洋沖地震のプレート境界面上の滑り分布モデル S 牡鹿地区 GPS繰り返し観測 O 関東甲信地方の上下変動(2bを含む) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 鹿野山精密辺長連続観測 S 房総半島での非定常な地殻変動 S 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 O 伊豆地方の上下変動 S 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 S 精密辺長測量 川奈地区 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 O 菊川市付近の水準測量結果 O 1979年を基準とした東海地方各水準点の経年変化(J60固定) S 御前崎周辺 GPS連続観測時系列 S 駿河湾周辺 GPS連続観測時系列 S 御前崎長距離水管傾斜計月平均 S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化 S 御前崎地中地殻活動観測装置観測 S 東海地方の最近の地殻変動 S 御前崎における絶対重力 O 紀伊地方の上下変動 O 室戸・足摺地方の上下変動 3.その他の地殻活動等 S 伊豆半島東部地区 GPS連続観測時系列 S 伊豆諸島地区 GPS連続観測時系列 S 北陸・中部地方の上下変動 S 宮古島の上下変動 【3】北海道大学 提出議題無し 【4】東北大学 提出議題無し 【5】東京大学地震研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 O 山梨県東部の地震(2012年1月28・29日) 3.その他の地殻活動等 S 富士川・駿河湾地方における地殻変動観測(その36) S 弥彦地殻変動観測所における傾斜観測(1967-2011) 【6】東京工業大学 提出議題無し 【7】名古屋大学 提出議題無し 【8】京都大学防災研究所 3.その他の地殻活動等 S 近畿地方北部の地殻活動 S 福井県嶺北の地震(2011年11月18日、M4.8)について 【9】九州大学 提出議題無し 【10】鹿児島大学 提出議題無し 【11】統計数理研究所 3.その他の地殻活動等 O 東北地方太平洋沖地震によって誘発された地域の地震活動の長期確率予測 【12】防災科学技術研究所 2. プレート境界の固着状態とその変化 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 関東・東海地域における最近の傾斜変動 S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による地殻変動観測 O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2011年11月〜2012年1月)(2aを含む) O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況 3.その他の地殻活動等 S 2012年1月28日山梨県東部の地震 S 2012年2月8日佐渡島近海の地震 【13】産業技術総合研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2011年11月〜2012年1月) S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2011年11月〜2012年1月) 3.その他の地殻活動等 S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2011年11月〜2012年1月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2011年11月〜2012年1月) S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2011年11月?2012年1月) S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2011年11月〜2012年1月) --鳥取大学工学部・産総研 【14】海上保安庁 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 S GPSによる地殻変動監視観測 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 O 東北地方太平洋沖地震後の海底地殻変動観測結果 O 東北地方太平洋沖地震発生前までの海底地殻変動観測結果(再解析)(2cを含む) 【15】−1温泉地学研究所 2.プレート境界の固着状態とその変化 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 山梨県東部の地震 【15】−2 大竹政和名誉委員 3.その他の地殻活動等 S 地震の規模別頻度分布に関する一注意
記載分類は以下のとおりとなっています。 1.地殻活動の概況 a.地震活動 b.地殻変動 2.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 d.その他 3.その他の地殻活動等 ・口頭報告(O) ・資料提出のみ(S)