地震予知連絡会の活動報告
第155回地震予知連絡会(2003年11月17日) 議事概要
平成15年11月17日、国土地理院関東地方測量部において第155回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。トピックスとしては、地震や地殻変動に関する観測の精度について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間では、十勝沖でM8.0の地震が発生した。また、宮城県沖でM6.8の地震、奄美大島近海でM6.0の地震、ウラジオストク付近でM6.2の深発地震が発生した。
日本とその周辺の地震活動(2003年8月から10月、M≧5.0)(気象庁資料)
2.東海地域の地殻活動について
東海地域の水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間では御前崎側で沈降が見られるが、浜岡から御前崎にかけてはほぼ平坦である。
森〜掛川〜御前崎間の上下変動(国土地理院資料)
掛川市の水準点140-1に対する浜岡町の水準点2595の動きは、最近の2〜3年間は年周変化が小さくなっているが、変動の傾向は今までと変わらない。
水準点2595(浜岡町)の経年変化(国土地理院資料)
東海地域の異常地殻変動は依然として継続している.2003年に入ってから、平均的な変動からのずれの水平成分の変化が大きくなり、2001年のレベルに近くなっているが、季節変動的な変化も見られることから、今後とも注意深く推移を見守る必要がある。
平均的な地殻変動からのずれ(精密歴)(国土地理院資料)
東海地方の地殻変動(国土地理院資料)
3.伊豆半島東部における地殻変動について
伊豆半島東部における水準測量により、伊東験潮場付近の隆起が検出された。1998年以降はほとんど変化がなかったが、2002年以降再び隆起に転じている。
伊東市付近の地盤上下変動の推移(国土地理院資料)
4.十勝沖地震について
9月26日に発生した十勝沖地震の余震活動は順調に減衰している。余震分布は、釧路海底谷の東側へは広がっていない。
十勝沖地震の余震活動(気象庁資料)
地震後の余効変動が観測されており、そのパターンが変化してきているように見える。地殻変動から推定された地震時及び地震後のすべり分布から、余効変動のすべりの範囲は地震時よりも東西に広がっていることが推定される。
地震後の水平変動(国土地理院資料)
2003年十勝沖地震時及び後の推定プレート間滑り(国土地理院資料)
5.福島県沖の地震活動について
10月31日に福島県沖でM6.8の地震が発生した。発震機構は西北西—東南東方向に圧力軸のある逆断層型であり、太平洋プレートと陸のプレートとの境界で発生した地震と考えられる。
福島県沖の地震活動(気象庁資料)
地震波形を用いた震源インバージョンにより、この地震のすべり分布が推定されている。余震の震央分布とすべり量の大きい領域は重ならないように見える。また、推定されたすべり分布は、この付近で過去に発生した地震のすべり量が大きい領域と重ならないように見える。
1936,1978,1981,2003年地震のすべり量分布(東京大学地震研究所資料)
この地震に伴い、わずかな地殻変動が観測されている。地殻変動から推定されたすべり分布は、地震波形から推定される領域よりも若干南側へずれているように見えるが、ずれが有意であるかどうかは現時点ではわからない。
福島県沖地震時後のプレート間滑りモデル(暫定)(国土地理院資料)
6.豊後水道の低周波地震活動について
2003年8月末から、豊後水道で低周波地震の活動があった。2ヶ月にわたる活動は2001年以降では初めてのことである。
豊後水道の低周波地震活動(気象庁資料)
この活動に伴い、定常的な地殻変動からのずれが観測されており、断層モデルが推定されている。
水平変動図 トレンドからの差(年周&半年周除去(国土地理院資料)
豊後水道における地殻変動の断層モデル(暫定)(国土地理院資料)
この地殻変動は防災科学技術研究所の傾斜計によっても検出されている。
豊後水道付近のスロースリップイベントと深部低周波微動(防災科学技術研究所資料)
この地域では、1996年から1997年にかけてスロースリップが発生していたことが地殻変動からとらえられており、今回の活動は前回の活動とほぼ同じ領域で発生している。
豊後水道周辺の地殻変動 1996−1997年(国土地理院資料)
このスロースリップという現象は、房総半島や豊後水道、東海地方などさまざまな場所で発生しているが、いずれもフィリピン海プレートに関係しており、太平洋プレートでは発生していないこと、また、房総半島や豊後水道における6〜7年という発生間隔の意味、東海地方でのスロースリップとの時定数の違いについて議論が行われた。
7.観測の精度について
今回のトピックスでは、地震や地殻変動に関する観測の精度について説明があり、それらについて議論を行った。(世話人:岡田委員)。
地震観測については、気象庁などの関係各機関により整備された地震計の一元化処理により、検出精度が非常に高くなったこと等が報告された。 震源分布図の例(気象庁資料)
GPS連続観測網の精度については、解析結果に含まれる誤差要因や解析戦略の改良等による解析結果の精度向上についての報告があった。その他、人工衛星からの地殻変動観測、海底地殻変動観測、地下水観測の観測精度についての報告があり、議論が行われた。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁(A1) 1.全国M5以上の地震と主な地震の発震機構解(C) 2.北海道地方とその周辺の地震活動 C 北海道東方沖(10月29日M6.0)の地震活動 A1 十勝沖地震(9月26日M8.0)の余震活動 C 十勝支庁北部(10月18日M4.5)の地震活動 A1 十勝沖地震前後の内陸の浅い地震活動 C 浦河沖(8月30日M5.4)の地震活動 C ウラジオストク付近(9月1日M6.2)の地震活動 3.東北地方とその周辺の地震活動 C 宮城県沖(5月26日M7.1)の地震活動(余震活動) C 宮城県沖の地震が浅い地震に与えた影響 C 宮城県北部(7月26日M6.2)の地震活動(余震活動) A1 福島県沖(10月31日M6.8)の地震活動 4.関東・中部地方の地震活動 C 千葉県北西部(10月15日M5.1)の地震活動 C 千葉県南部(9月20日M5.8)の地震活動 C 東海・南関東地方の地震活動 C 東海地方のフィリピン海スラブ内の最近の静穏化とb値変化 C 伊豆半島東方沖〜伊豆大島近海(10月28日M4.4)の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 C 長野県北部の地震活動と松代における地殻変動連続観測 C 岐阜県飛騨地方(10月5日M4.5)の地震活動 C 三重県中部(10月18日M4.1)の地震活動 5.近畿・中国・四国地方の地震活動 C 兵庫県南東部(10月8日M4.2)の地震活動 A1 豊後水道の低周波地震活動 C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 6.九州地方とその周辺の地震活動 C 奄美大島近海(8月19日M5.2、9月28日M6.0)の地震活動 【2】国土地理院(A2) 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動 A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化 2.東海地方の地殻変動 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点(140-1、2595)の経年変化 A2 水準点2595(浜岡町)の経年変化 C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 御前崎地方の上下変動 C 森町〜静岡市間の各水準点の経年変化 C 渥美半島の上下変動 A2 水準点2602-1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の経年変化 A2 水準点2602-1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化 A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値) C 水準点の比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 C 水準測量・験潮による駿河湾周辺の上下変動 A2 東海地方の地殻変動 C GPS連続観測から推定した東海地方の歪変化 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2) A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺 C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化 C GPS連続観測結果 静岡県西部 A2 御前崎地区高精度比高連続観測 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均(E−W) C 御前崎・切山長距離水管傾斜計日平均 C 地中地殻活動観測装置観測結果 3.伊豆地方の地殻変動 A2 三宅島の上下変動 A2 中伊豆〜伊東間の上下変動 A2 修善寺〜河津間の上下変動 A2 熱海〜伊東〜河津間の上下変動 A2 内浦〜中伊豆〜伊東間の上下変動 A2 内浦〜沼津間の上下変動 A2 伊豆半島の上下変動 A2 伊東市付近の地盤上下変動の推移 A2 水準点9335〜9338の経年変化 C 清水市〜熱海市〜藤沢間の上下変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊東東部連続観測(辺長)日平均結果 C GPS連続観測結果 伊豆東部周辺 C GPS連続観測結果 伊豆東部周辺2 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺(ベクトル図) 4.関東・中部地方の地殻変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 C GPS連続観測結果 富士山・箱根周辺 C 富士山における絶対重力変化 C 火山変動測量結果草津白根山地区のGPS観測結果 C 火山変動測量草津白根山周辺の上下変動図 5.北海道地方の地殻変動 A2 北海道・東北地方の平均的地殻変動 A2 十勝沖地震に伴う水平変動 A2 十勝沖地震後の水平変動 A2 GPS連続観測結果(地震前)十勝周辺 A2 GPS連続観測結果(地震後)十勝周辺 A2 十勝沖地震時の推定滑り A2 十勝沖地震後の推定滑り C GPS連続観測から推定した十勝沖地震後の歪変化 C GPS機動観測結果 浦河地区 C 松前町〜函館市間の上下変動 C 函館市〜八雲町間の上下変動 C 火山変動測量駒ヶ岳周辺の上下変動 C 火山変動測量駒ヶ岳地区のGPS観測結果 6.東北地方の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 宮城県沖周辺 C GPS機動観測結果 牡鹿地区 C 石巻市〜釜石市間の上下変動 C 釜石市〜八戸市間の上下変動 C むつ市〜八戸市間の上下変動 C 野辺地町〜むつ市間の上下変動 C 野辺地町〜八戸市間の上下変動 C 仙台市〜北上市間の上下変動 C 北上市〜釜石市間の上下変動 C 北上市〜滝沢村間の上下変動 C 大館市〜滝沢村間の上下変動 C 能代市〜大館市間の上下変動 C 能代市〜五所川原市間の上下変動 C 滝沢村〜五戸町間の上下変動 C 今別町〜青森市間の上下変動 C 五所川原町〜野辺地町間の上下変動 C 今別町〜五所川原市間の上下変動 C 今別町〜三厩村間の上下変動 7.中国・四国・九州地方の地殻変動 A2 豊後水道周辺の平均的地殻変動 A2 豊後水道周辺の地殻変動 A2 豊後水道周辺のトレンド・年周・半年周補正後の地殻変動 A2 GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺 A2 GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺(補正後) A2 豊後水道における地殻変動の断層モデル 8.その他 C GPS連続観測結果 硫黄島 C 硫黄島火山性地殻変動観測結果 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の地震活動 C 2003年十勝沖地震の余震活動 【4】東北大学 A4 2003年10月31日の宮城・福島県沖の地震活動について 【5】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【6】東京大学地震研究所 A4 福島県沖地震の震源過程 B 宮城県北部の地震前のb値低下 C 伊豆半島および伊豆諸島周辺の地震活動(2003年8月〜2003年10月) C 日光・足尾付近の地震活動(2003年8月〜2003年10月) C 相良観測点における歪・傾斜観測(2003年8月〜2003年10月) C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2003年8月〜2003年10月) C 鳥取県西部地震震源域周辺の地震活動(2003年8月〜2003年10月) C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2003年8月〜2003年10月) 【7】名古屋大学 C 10月8日御嶽山下で発生した低周波地震 B 関東地方地殻下におけるフィリピン海スラブの運動 (東濃地震科学研究所) 【8】京都大学 C 2003年10月白山付近の地震 C 総合観測線地殻変動連続観測データ C 宿毛観測室での地殻変動に関して B 十勝沖地震に伴う余効変動GPS観測の暫定解析結果 【9】九州大学 C 九州の地震活動(2003年8月-10月) C 九州南部の地震活動(2003年8月-10月) (鹿児島大) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2003年8月〜10月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2003年8月〜10月) C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測網による 地殻変動観測 (2002年10月〜2003年10月) A4 豊後水道付近のスロースリップイベントと深部低周波微動 【11】産業技術総合研究所 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2003年8月〜2003年10月) C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2003年8月〜2003年10月) C 有馬-高槻-六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2003年8月〜2003年10月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2003年8月〜2003年10月) B 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2003年5月〜10月) 【12】海洋情報部 C GPSによる地殻変動監視観測 A5 海底地殻変動観測の到達点 〜宮城県沖データによる再現性評価〜
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出