地震予知連絡会の活動報告
第149回地震予知連絡会(2002年11月18日) 議事概要
平成14年11月18日、国土地理院関東地方測量部において第149回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ議論がなされた.トピックスとしては、2000年鳥取県西部地震後に行われたさまざまな観測・研究の成果、およびそこから得られた新しい知見に関する報告および議論が行われた.以下に、その概要について述べる.
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間では、北海道東方沖、青森県東方沖、福島沖、鳥取県中西部、石垣島近海などでM5を越える地震が発生した。
全国のM5以上の地震 (2002.8.01−2002.10.31)(気象庁資料)
2.東海地域の地殻活動について
東海地域の推定固着域周辺の地震活動は平常レベルに戻っている。
固着域周辺の地震活動 (フィリピン海スラブ内1997年以降)(気象庁資料)
水準測量結果によると掛川市の水準点140-1に対する浜岡町の水準点2595は従来の傾向の範囲内で変動しているが、浜岡〜御前崎間では若干南東上りの上下変動が検出された。この上下変動データをGPSデータと合わせて解析すると、わずかではあるが御前崎沖のプレート境界面で断層すべりが生じたと推定される。
水準点2595(浜岡町)の経年変化(国土地理院資料)
推定滑り(国土地理院資料)
東海地域の異常地殻変動は依然として継続している。地殻変動の非定常成分は、最近になって南向き成分が減少するなど若干の変化が見られるが、GPSデータから推定された断層すべりのモーメント解放量はMw6.8の地震に相当する値を超えてなお増加傾向にある。
平均的な地殻変動からのずれ(精密歴)(国土地理院資料)
推定モーメントの時間変化(国土地理院資料)
3.房総半島の地殻活動について
10月4日頃から14日頃にかけて、房総半島東部で南東向きの地殻変動が検出された。変位量は最大2cm程度で、変位の向きや大きさ、継続時間などが1996年5月に同地域で発生したイベントと類似している。この地殻変動がプレート境界面上のすべりに起因すると仮定してGPSデータを解析した結果によると、すべり領域は房総半島沿岸から南東沖で、最大すべり量は約10cm、Mw6.6の地震に相当するモーメントが解放されたと考えられる。すべりの規模は1996年とほぼ同じであるが、すべり領域の中心はやや南寄りに推定された。
大潟固定地殻変動(国土地理院資料)
推定滑り(国土地理院資料)
この地殻変動と同時に群発的な地震活動が観測された。この地震活動はプレート境界面で発生したと考えられ、時間とともに3つの領域を移動していったことが分かる。
2002年10月房総半島東方沖の群発地震活動(防災科学技術研究所資料)
勝浦の傾斜計はこの地殻変動に伴う傾斜変化を捉えたが、傾斜変化が生じたのは群発地震活動が勝浦付近に移動してきた10月7日頃からであった。
(防災科学技術研究所資料)
4.八丈島付近の地震活動について
八丈島付近では8月13日から群発的な地震活動が発生し、10月はじめにほぼ収まった後、10月23日から再び活発化した。最初の活動は八丈島北西部周辺で生じたが、活動域はその後西方30km程度の海域へと移動した。
八丈島近海の地震活動(気象庁資料)
この地震活動の中で長周期成分の卓越した地震が観測されており、広帯域地震計のデータからパーティクルモーションを解析した結果によれば、震源位置が八丈富士北西の深さ約5kmに推定される。
2002年9月4日19時24分の長周期地震波のパーティクルモーションと震源位置(防災科学技術研究所資料)
5.宮城県沖プレート境界の最近の活動について
宮城県沖のプレート境界では11月3日にM6.1の地震が発生した。この地震は1978年宮城県沖地震の震源域より北に位置する小規模のアスペリティが破壊したものと考えられ、地震時にすべりが大きかった部分と余震の発生域との間に相補的な関係があることも分かった。この地域で発生した過去の地震の震源を再決定した結果、M6級の地震を起こすアスペリティが3つ同定され、それぞれにおける地震の繰り返し発生の様子も明らかになったが、地震サイズや繰り返し間隔にはばらつきがあるように見える。
宮城県沖および青森県東方沖・福島県沖プレート境界の最近の活動(東北大学資料)
(東北大学資料)
6.2000年鳥取県西部地震のその後について
今回のトピックスでは、「2000年鳥取県西部地震とその後」と題して、2000年鳥取県西部地震後に行われた様々な観測・研究の成果に関する報告が行われ、この地震から得られた新たな知見について議論が行われた(世話人:梅田康弘委員)。
2000年鳥取県西部地震は1989年頃から群発地震が発生していた場所で発生した。1989年以降、2000年までの震源を精密に再決定すると、群発地震が2000年鳥取県西部地震の震源を取り巻くように場所を変えながら起こっていたことが明らかになった。
期間別の震央分布図(京都大学防災研究所資料)
期間別の深さ分布(京都大学防災研究所資料)
本震時のすべり分布を群発地震の震源分布およびP波速度構造と比較すると、群発地震がP波速度の速い領域で囲まれた中で発生していたこと、本震時のすべり量は群発地震震源域の外側で大きかったことなどが分かった。
先行した群発地震、本震時のすべり分布、P波速度分布の関係(京都大学防災研究所資料)
一方、2000年鳥取県西部地震の震源域付近では深さ30km付近で低周波地震が発生しており、その活動は本震後に活発化した。こうした活動は周辺地域では見られないものであり、地震発生との関連が注目されるが、妥当な解釈はまだ得られていない。
気象庁震源リストによる鳥取県西部地域の深部低周波地震の分布(京都大学防災研究所資料)
また、2000年鳥取県西部地震の震源域付近では構造調査も行われており、反射法探査により地殻−マントル境界さらにそれより深いところからの反射波も検出されている。この深部からの反射波は沈み込んだフィリピン海スラブ上面のものとすると浅すぎるので、今後の解析が待たれる。
震源断層下の地下構造(鳥取大学資料)
また、MT観測により震源域周辺の比抵抗構造を推定した結果によれば、震源域の直下に低比抵抗領域が見られ、群発地震は高比抵抗領域で発生していたという対応が見られる。
鳥取県西部地震震源域周辺の比抵抗構造(京都大学防災研究所資料)
2000年鳥取県西部地震の特徴として、地震発生前に活断層が知られていなかったことが挙げられる。地震発生後に行われた調査によって、震源域周辺で地震に伴うと思われる地変が多数見つかった。断層トレンチ調査の結果によれば、2000年鳥取県西部地震の震源断層は未発達で、変形が一ヶ所に集中するのではなく、幅を持った破砕帯中に分散しているようである。
調査結果の概要(産業技術総合研究所資料)
このように、2000年鳥取県西部地震は変位速度の小さい未発達な断層で発生したと考えられるが、このことは、測地測量による歪み速度が小さかったことと整合的である。しかし、こうした事実は、群発地震域で大地震が発生したことと合わせて、内陸地域における大地震の発生ポテンシャルの評価に関して重大な問題を提起しており、今後さらに研究を続ける必要がある。
鳥取県西部地震の前兆現象としてはいくつかの報告例があるが、そのうちの一つとして、GPS観測で震源域周辺を含む西日本の広域で2000年夏頃に東向きの変動が観測されたことが挙げられる。変動そのものは確かであると考えられるが、この現象と地震発生との関係はいまだ未解明である。
配点図(国土地理院資料)
鳥取西部地震(200年10月)前の周囲の点の挙動?(国土地理院資料)
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁(A1) 1.2002年8月から2002年10月の全国M5以上の地震と主な地震の発震機構解(C) 2.2002年8月から2002年10月の北海道地方とその周辺の地震活動 C 根室半島南東沖の地震活動 C 択捉島付近の地震活動 C ウラジオストク付近の地震活動 3.2002年8月から2002年10月の東北地方とその周辺の地震活動 C 青森県東方沖の地震活動 C 宮城県北部の地震活動 A1 宮城県沖の地震活動 C 福島県沖の地震活動 4.2002年8月から2002年10月の関東・中部地方の地震活動 C 茨城県沖の地震活動 A1 千葉県東方沖の地震活動 C 長野県北部〜中部の地震活動 C 三宅島付近から新島・神津島付近にかけての地震活動 A1 八丈島近海の地震活動 C 鳥島近海の地震活動 C 東海・南関東地方の地震活動・地殻変動 C 長野県北部の地震活動と松代における地殻変動連続観測 5.2002年8月から2002年10月の近畿・中国・四国地方の地震活動 C 和歌山・奈良県境付近の地震活動 A1 鳥取県中西部、島根県東部の地震活動 6.2002年8月から2002年10月の九州地方とその周辺の地震活動 A1 日向灘の地震活動 C 豊後水道の地震活動 7.2002年8月から2002年10月の沖縄地方とその周辺の地震活動 A1 石垣島近海の地震活動 【2】国土地理院(A2) 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動 A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化 2.東海地方の地殻変動 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点(140-1、2595)の経年変化 A2 水準点2595(浜岡町)の経年変化 A2 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 C No5268(森町)を基準とした東海地方各水準点の経年変化 A2 水準点2602-1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の経年変化 A2 水準点2602-1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化 A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値) C 水準点の比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 C 加藤&津村(1979)の解析手法による験潮場の上下変動と直近の電子基準点の 比高グラフ A2 東海地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2) A2 GPS連続観測結果 御前崎周辺 C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化 C GPS連続観測結果 静岡県西部 A2 御前崎地区高精度比高連続観測 C 東海地方海岸線沿いの比高変化 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均(E−W) C 御前崎・切山長距離水管傾斜計日平均 C 切山基線精密辺長測量結果 C 地中地殻活動観測装置観測結果 C 御前崎における絶対重力変化 3.伊豆地方の地殻変動 C 三宅島の上下変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊東東部連続観測(辺長)日平均結果 C GPS連続観測結果 伊豆東部周辺 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺 C GPS連続観測結果 八丈島 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺(ベクトル図) 4.関東・中部地方の地殻変動 C 我孫子市〜土浦市間の上下変動 C つくば市〜土浦市間の上下変動 C 土浦市〜銚子市〜八日市場市間の上下変動 C 宇都宮市〜水戸市〜土浦市間の上下変動 C 高崎市〜宇都宮市間の上下変動 C 今市市〜会津若松市間の上下変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 A2 GPS連続観測結果 房総半島周辺 A2 房総半島のゆっくり地震に伴う地殻変動 C GPS連続観測結果 浅間山周辺 C GPS連続観測結果 富士山・箱根周辺 C GPS連続観測結果 松本周辺 5.東北地方の地殻変動 C 水戸市〜相馬市間の上下変動 C 相馬市〜利府町間の上下変動 C 会津若松市〜郡山市〜いわき市間の上下変動 C 柏崎市〜新潟市〜新発田市間の上下変動 C 新発田市〜安田町〜会津若松市間の上下変動 C 新発田市〜温海町間の上下変動 C 温海町〜酒田市間の上下変動 C 酒田市〜東根市間の上下変動 C 会津若松市〜東根市間の上下変動 C GPS連続観測結果 宮城県北部 6.近畿地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 和歌山・奈良県境 7.中国・四国・九州地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 鳥取中西部 C GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺 8.沖縄地方 C GPS連続観測結果 与那国島周辺 9.その他 C GPS連続観測結果 硫黄島 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の最近の地震活動(2002年9月−11月15日) C 北海道東方沖の最近の地震活動 C 雌阿寒岳(徹別岳)付近の地震活動 【4】東北大学 A4 宮城県沖および青森県東方沖・福島県沖プレート境界の最近の活動 C 東北地方およびその周辺の微小地震活動(2002年8月〜10月) 【5】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【6】東京大学地震研究所 C 日光・足尾付近の地震活動(2002年8月〜2002年10月) C 鋸山地殻変動観測所において観測された歪・傾斜変化(2000年1月〜2002年10月) C 油壺観測壕における高精度弾性波連続観測結果(2002年10月まで) C 伊豆半島および伊豆諸島周辺の地震活動(2002年8月〜2002年10月) C 相良観測点における歪・傾斜観測(2002年8月〜2002年10月) C 長野県中部の地震活動 C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2002年8月〜2002年10月) C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2002年8月〜2002年10月) C 徳島県池田町におけるGPS地殻変動観測(2002年7月〜2002年10月) 【7】名古屋大学 C 東海地方の地震活動(2002年7月〜2002年9月) B 王滝群発地震活動の推移(1978.1-2002.6) 【8】京都大学 C 2002年9月16日鳥取県中西部の地震(M5.3)について C 地殻活動総合観測線観測結果 A5 2000年鳥取県西部地震における断層面近傍の不均質構造と震源過程の関係について A5 2000年鳥取県西部地震の震源過程と震源域強震動 A5 本震の初期破壊について A5 余震域のb値とp値の不均質分布 A5 自然地震による反射面の検出 A5 鳥取県西部の低周波地震の現状 A5 山陰及び鳥取県西部の比抵抗構造 【9】九州大学 C 九州の地震活動(2002年8月〜2002年10月) C 九州南部の地震活動(2002年8月〜2002年10月) (鹿児島大) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2002年8月〜10月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2002年8月〜10月) C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGPS観測 (2002年9月〜2000年10月) A4 東海地域推定固着域における地震活動の変化(発震機構解の変化) A4 最近の推定固着域付近のスロースリップに関する考察 A4 潮位観測結果に見られる東海地域の異常地殻変動 A4 2002年9月4日八丈島直下の地震による長周期地震波 A4 2002年10月房総半島東方沖の群発地震活動と傾斜変動 C 坂田式三成分ひずみ計により検出された、台風21号による土地膨張 【11】産業技術総合研究所 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2002年8月〜2002年10月) B 想定東海地震直前のすべりに対する産総研地下水位観測網の検知能力 C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2002年8月〜2002年10月) C 有馬−高槻−六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2002年8月〜2002年10月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2002年8月〜2002年10月) C 山崎断層安富観測点における異常な地殻歪変化について A5 2000年鳥取県西部地震断層とトレンチ調査結果 【12】海洋情報部 C GPSによる地殻変動監視観測 C 宮城沖地磁気・重力異常図 【13】鳥取大学 A5 鳥取県西部地域の地下構造探査
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出