地震予知連絡会の活動報告

第243回地震予知連絡会(2024年5月22日)議事概要

 令和6年5月22日(水)、国土地理院関東地方測量部において第243回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングの報告が行われ、その後、重点検討課題として「火山と地震」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動

 日本とその周辺で2024年2月から4月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は73回であった。このうち、日本国内で震度5弱以上を観測した地震は5回発生した(気象庁・資料2頁)。

(2)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島には、能登半島を中心に令和6年能登半島地震に伴う地殻変動によるひずみが見られる。そのほか、北海道南部から東北地方にかけて、東北地方太平洋沖地震後の余効変動の影響によるひずみ、房総半島では2024年2月26日頃から始まったプレート間のゆっくりすべり現象に伴うひずみ、九州地方では熊本地震の余効変動の影響によるひずみが見られる(国土地理院・資料3-4頁)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)日本海溝・千島海溝周辺

・福島県沖の地震(3月15日 M5.8、13日 M4.7)
 2024年3月15日00時14分に福島県沖の深さ50kmでM5.8の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震の発震機構は西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。また、この地震の震源近傍では、13日20時24分にもM4.7(深さ51㎞,最大震度4)の地震が発生した(気象庁・資料5頁)。

・福島県沖の地震(4月4日 M6.3)
 2024年4月4日12時16分に福島県沖の深さ44kmでM6.3の地震(最大震度4)が発生した。この地震の発震機構は東西方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した(気象庁・資料6頁)。

(2)相模トラフ周辺・首都圏直下

・千葉県東方沖の地震活動(2月29日~ 最大M5.3)
 2024年2月26日23時頃から千葉県東方沖を中心に地震活動が活発となり、4月30日までに震度4以上を観測する地震が4回発生するなど、震度1以上を観測した地震が51回発生した。これらの地震は主にフィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した。今回の地震活動は、プレート境界で発生したゆっくりすべり(国土地理院及び防災科学技術研究所による)に伴うものである(気象庁・資料7-8頁)。

・房総半島沖ゆっくりすべり
 GNSS連続観測により、房総半島沖で2024年2月末頃から3月上旬にかけて、南東向きの非定常的な地殻変動が見られた。解析の結果、房総半島沖で陸側のプレートとフィリピン海プレートの境界でほぼ南東方向のすべりが発生したと推定された。すべりの最大値は最大17㎝、モーメントマグニチュードは6.6と求まった(国土地理院・資料9-10頁)。

・茨城県南部の地震(3月21日 M5.3)
 2024年3月21日09時08分に茨城県南部の深さ46kmでM5.3の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震は、発震機構が北西―南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生した(気象庁・資料11頁)。

(3)南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2024年2月~2024年4月)
 期間中、短期的スロースリップイベントを伴う顕著な深部微動活動は、4月10日~26日に四国西部から豊後水道において発生した。これ以外の主な微動活動としては、1月26日~2月5日に四国東部から中部、3月22日~4月3日に四国中部の活動があった(防災科学技術研究所・資料12-14頁)。

・東海の非定常的な地殻変動(長期SSE)
 GNSS連続観測により、東海地方で2022年初頭から南東向きの非定常的な地殻変動が見られている。2022年1月1日~2024年4月11日の期間では、すべりの最大値は6cm、モーメントマグニチュードは6.4と求まった(国土地理院・資料15頁)。

・四国中部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測により、四国中部で2019年春頃から観測されている非定常的な地殻変動は、2023年秋頃から一時的に鈍化していたが、最近は継続しているように見える2019年1月1日~2024年4月2日の期間では、すべりの最大値は50cm、モーメントマグニチュードは6.6と求まった(国土地理院・資料16頁)。

1.3 その他

(1)小笠原諸島西方沖の地震(4月27日 M6.7)

 2024 年4月27日17時35分に小笠原諸島西方沖の深さ515kmでM6.7の地震(最大震度3)が発生した。この地震は太平洋プレート内部で発生した。発震機構は太平洋プレートが沈み込む方向に圧力軸を持つ型である(気象庁・資料17頁)。

(2)豊後水道の地震(4月17日 M6.6)

 2024年4月17日23時14分に豊後水道の深さ39kmでM6.6の地震(最大震度6弱)が発生した。この地震は、フィリピン海プレート内部で発生した。発震機構は東西方向に張力軸を持つ正断層型である(気象庁・資料18-21頁)。この地震に伴いごくわずかな地殻変動が観測された(国土地理院・資料22頁)。

(3)大隅半島東方沖の地震(4月8日 M5.1)

 2024年4月8日10時25分に大隅半島東方沖の深さ39kmでM5.1の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震は、フィリピン海プレート内部で発生した。発震機構(CMT解)は、フィリピン海プレートが沈み込む方向に張力軸を持つ型である(気象庁・資料23頁)。

(4)台湾付近の地震 (4月3日 M7.7)

 2024年4月3日08時58分に台湾付近の深さ23kmでM7.7の地震(国内で観測された最大の揺れは震度4)が発生した。この地震の発震機構は、西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。この地震により、与那国島久部良27cm、宮古島平良で25cm、石垣島石垣港で17cmの津波を観測した(気象庁・資料24-28頁)。日本の地球観測衛星「だいち2号」(ALOS-2)のデータを使用したSAR干渉解析を行った結果、2.5次元解析では震央周辺で最大50cm程度の隆起が検出された(国土地理院・資料29-30頁)。

(5)海底地震計を用いた令和6年能登半島地震の海域緊急余震観測(第2報)

 2月下旬に回収された自由落下自己浮上式海底地震計(OBS)25台と能登半島東部の陸上観測点4点のデータを用いて震源決定を行った結果、令和6年能登半島地震の余震は、能登半島沿岸では深さ10km程度まで、沖合では深さ16km程度まで発生していることがわかった。地震前に推定されていた断層モデルNT2-NT6との一致はよく、特に断層モデルNT2の深部で最も深い余震が発生している。また、発震機構解の解析からは、逆断層型の余震が発生していると共に、横ずれ型の地震も数多く発生していることが確認された(東京大学地震研究所・資料31-33頁)。

(6)2024年M7.6能登半島地震の余震活動解析

 2024年2月から4月末までの余震活動はETASモデルで予測通りに推移している。大森宇津式でデトレンドした余震の時空間密度は時間経過と共に変化しない。余震域では本震を含む中央部に比べて南西端と北東端の余震域で密度が高いが、余震域境界の拡大(拡散)は見られない。他方、2023年5月5日の能登半島北部M6.5地震、2007年M6.9能登半島地震、1993年能登半島沖地震は余震活動の拡大・拡散が見られる(統計数理研究所・資料34-36頁)。

1.4 地殻活動の予測

(1)地殻活動の予測実験(2)― 内陸地震の短期確率予測と評価(2019 – 2024.01.08)

 令和6年能登半島地震の余震を含む最近5年のM≥4の内陸部地震の出現に対して、3つの時空間モデル、A) Space-time ETASモデル B) HIST-ETAS-µKモデル C) HIST-ETAS5paモデルの予測精度を比べた。予測結果は D)内陸部一様ポアソン過程を基準として対数尤度比スコアで時間的・空間的に比較した。A)-C)のモデルはD)より9割方優れている。2019-2023年を通してC)が最も優れているが、令和6年能登半島地震の余震ではA)-B)は同等でC)は劣っている。これは地域の特徴をC)が取り込めていないためではないかと考えられる (統計数理研究所・資料39-40頁)。

(2)気象庁震度データベースを用いた地震予測(2023年の予測結果の評価と発生確率値の更新)

 気象庁震度データベースを用いた地震予測において、2023年の予測結果の評価を行った。その結果2023年の1年間予測では的中率50-70%(2015-2023年の平均:80-85%)、予知率60-70%(2015-2023年の平均:60%)、3ヶ月間予測では的中率が50-60%(2015-2023年の平均:60-70%)、予知率は20-50%(2015-2023年の平均:10-40%)であった(滋賀県立大学・資料41頁)。


2.重点検討課題「火山と地震」についての検討

 火山と地震との関連は、1)火山活動が比較的規模の大きな地震を引き起こすケース、2)大規模な地震が火山噴火の引き金を引くケース、3)火山直下で火山活動を反映した地震や微動が発生するケースがある。本課題では、①地震によるマグマ溜まりへの影響評価、②火山構造性地震の解析に基づく火山活動過程の分析、③火山特有の地震・微動とそのメカニズム、④地震と火山噴火の発生データベースの比較に基づく両者の相互作用の分析、について報告がなされ、大地震が火山噴火の引き金を引く条件は何か、火山周辺で発生する地震活動はどのような火山活動と関連しているのか、火山直下で発生する地震・微動の特徴やその原因にはどのようなものがあるのか等についての議論が行われた(コンビーナ:名古屋大学・山岡耕春 会長・資料43-44頁)。

◆地震によるマグマ溜まりへの影響評価

 数値シミュレーション(有限要素法)により地震に伴う応力変化が火山システムの応力場に与える影響を試算した。平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震とその4日後に発生した静岡県東部の地震は、富士山のマグマ溜りにそれぞれ0.01~0.1MPaと0.1~1.0MPaの静的応力変化(差応力)を与えたことが分かった。また、平成28年(2016年)熊本地震は、阿蘇山のマグマ溜りに最大3.5MPaの静的応力変化(差応力)を与えた。火山噴火のトリガーとして地震が噴火ポテンシャルに及ぼす影響を評価するためには、本手法のような外的な応力変化の定量的な評価に加えて、物質科学的観点からの評価とを統合して検討することが必要であることが報告された(防災科学技術研究所・藤田英輔 上席研究員・資料45頁)。

◆火山構造性地震で知る火山活動過程

 火山性地震は火山内部状態を把握するうえで極めて有用な道具となる。静岡県伊東市沖の群発地震の例では、震源の移動と地殻変動の解析から、マグマが深部から上昇して浮力を失い深さ5~7kmにとどまる様子が明瞭に見られた。また、伊豆大島のように活動的な火山では、静穏期であっても間欠的なマグマ蓄積による応力変化に対応した地震活動の明瞭な時間変化が見られる。地震活動はマグマ蓄積による応力変化から速度状態依存則を用いた推定値とよく一致していることが報告された(東京大学・森田裕一 名誉教授・資料46頁)。

◆火山で発生する「地震でない地震」について

 火山活動に起因する振動現象(火山性地震・微動)には火山性流体の移動や体積変化によるものがあり、理解されにくいポイントを中心に解説が行われた。波長が数十km、力源から観測点までの距離が1 km程度であるので近地項が卓越し、P波やS波等の波群に分離しないような波形は力源の直接観察に近い状況と捉えると理解しやすいこと、近地項では変位がモーメントに、速度がモーメントレートに比例するので力源で元に戻らない変形があれば片揺れの速度波形になることが説明された。低周波地震等は全てのイベントを断層運動と波動伝播の効果のみで説明するのは難しい。断層の強度低下等の議論で想定される間隙流体と異なり、流体力学で取扱可能な空間スケールの流体領域が想定されるが、地震学の範疇では流体の詳細に言及できず、流体側のモデルが別途必要になる点が報告された(名古屋大学大学院環境学研究科・前田裕太 講師・資料47頁)。

◆データベースからみえる地震と火山の相互作用

 信頼性の高いデータベースをもとに、地震と火山の相互作用の有無を検証した。全世界のデータからは、大地震の発生によって0.5micro以上の膨張場となる火山において、噴火発生率は2~3倍増加することが分かった。また、大地震によって噴火(VEI(火山爆発指数)>=2)を誘発する可能性が高まる火山は、全世界で年間2~3座であり、そのうち15~25%で実際に噴火を引き起こしている。一方、火山噴火の約13%において、火山からの距離が50 km以内で、3~4か月間に中規模地震が発生していることが分かった。日本の例では、東北地方太平洋沖地震により、周辺の地震活動が活発化あるいは不活発化となる火山が増えたことが報告された(東北大学・西村太志 教授・資料48頁)。


3.次回(第244回)重点検討課題「トルコ・シリア地震」についての趣旨説明

 2023年2月6日にトルコ共和国南東部の東アナトリア断層(EAF)周辺において、Mw7.8(USGS)の地震が発生した。その9時間後には、最初の地震の震央から約90km北でMw7.5の地震が続発し、周辺地域に甚大な人的及び構造物被害がもたらされた。最初の地震の主破壊は、プレート境界でもあるEAFで発生した。この断層帯では、過去に各々のセグメントでM6-7程度の地震が発生したと考えられており、次の地震の発生が危惧されていた地域である。今回の地震は分岐断層から破壊が開始し、EAFの複数のセグメントを連鎖破壊し、結果的に長大かつ複雑な震源断層を形成した。さらにその9時間後にはEAFの北西側に位置するチャルダック断層を震源とする地震を誘発した。現地での調査や地震観測、地殻変動観測データ解析に基づき、この複雑な断層運動やそれがもたらす地震動に関する理解を深めるとともに、事前あるいは逐次的に得られるデータから、将来発生する地震及び地震動の予測可能性について検討する必要がある。このような状況を踏まえ、次回は、震源域の地質構造・活断層の特徴と活動履歴、本震及び最大余震の複雑な震源過程及び断層運動の解明、観測された強震動及び発生した地震災害の特徴、地震活動の特徴と今後の活動推移可能性の検討、について報告し、内陸活断層の調査観測をどのように地震想定や長期評価に活かすか、長大な断層が連鎖して動いた原因に関して得られた知見があるか、内陸直下型の大地震がもたらす強震動の評価で考慮すべき点は何か、地震時の断層運動や地震活動推移から今後どのような活動推移が考えられるか、等について議論を行う予定である(コンビーナ:防災科学技術研究所・汐見勝彦 委員・資料49頁)。


各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:368KB)