地震予知連絡会の活動報告

第218回地震予知連絡会(2018年2月23日)議事概要

 平成30年2月23日(金)、国土地理院関東地方測量部において第218回地震予知連絡会が開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、その後、重点検討課題として「熊本地震で見えてきた課題」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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「地殻活動のモニタリングに関する検討」資料説明映像  (465MB,約13分)
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 ※一部音声に乱れがあります。

1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

国内で2017年11月から2018年1月までの3か月間に発生したM5以上の地震は30回であった(気象庁資料3頁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 2017年12月中旬から下旬に日向灘及びその周辺域において超低周波地震が検出された。1月上旬にもほぼ同様の領域で活動があった(防災科学技術研究所資料4頁)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震及び熊本地震の余効変動の影響が見られる(国土地理院資料5頁)。

1.2 東北地方太平洋沖地震関連

 東北地方太平洋沖地震以降、東北地方から関東甲信越にかけて東向きの変動が見られ、累積水平変動は岩手川崎A観測点で最大約141cmに達している。また、上下変動は、宮城県から千葉県にかけての太平洋沿岸では隆起が、岩手県沿岸と奥羽脊梁山脈付近では沈降が見られる(国土地理院資料6−7頁)。海底地殻変動観測によると、最近の3年間では、福島沖、銚子沖の南東方向への年平均速度が、2011年から2014年の平均速度に比べて小さくなっている(海上保安庁資料8頁)。

1.3 プレート境界の固着状態とその変化

(1)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップを伴う顕著な微動活動が紀伊半島中部から東海地方にかけて11月15日から12月5日に発生した。それ以外の主な微動活動は、四国東部(11月22日から30日)、紀伊半島西部(1月2日から6日)で発生した(防災科学研究所資料9−10頁)。11月15日から12月5日に発生したスロースリップでは、GNSS連続観測でも変動が捉えられており、プレート間の滑りを推定した結果、三重県北部から愛知県西部にかけて最大約10㎜の滑りが推定された(国土地理院資料11頁)。
 

1.4 その他

(1)青森県東方沖の地震

 2018年1月24日に青森県東方沖の深さ34kmでM6.3の地震が発生した。この地震の発震機構は東西方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。ほぼ同じ場所で2001年8月にM6.4の地震が発生しており、これらが相似地震の可能性があることが指摘された(気象庁資料12頁)。

(2)台湾付近の地震

 2018年2月4日に台湾付近の深さ10kmでM6.5の地震が発生し、2月7日には深さ10kmでM6.7の地震が発生した。これらの地震を含め、2月19日までにM6.0以上の地震が4回発生した(気象庁資料13頁)。また「だいち2号」のSARデータ解析から、台湾・花蓮市の米崙断層(Milun Fault)から嶺頂断層(Lingding Fault)北部にかけて、約15㎞にわたって断層沿いに顕著な地殻変動が生じたことが明らかとなった(国土地理院資料14頁)。

2.重点検討課題「熊本地震で見えてきた課題」の検討

 熊本地震の最新の研究成果が報告され、内陸地震予測への調査研究の方向性などについて議論された(コンビーナ:東北大学災害科学国際研究所・遠田晋次委員資料17−18頁)。

◆2016年熊本地震と日奈久断層帯の古地震履歴

 布田川断層帯及び日奈久断層帯の未破壊区間の古地震調査について報告があった。調査の結果、日奈久断層帯では、海陸のいずれにおいても、既存の活動評価より高い頻度(平均2000年から3000年程度)で地震を起こしてきたことがわかった。時間分解能の良い地層が堆積する場所を選定し、トレンチ壁面で観察された断層の位置づけを検討することの重要性等が指摘された(産業技術総合研究所・宮下由香里活断層評価研究グループ長資料19頁)。

◆ALOS-2 のSAR で見つかった平成28 年熊本地震による地表断層群

 「だいち2号」のレーダー観測による熊本地震の地殻変動について報告があった。地震を引き起こした主要な断層運動による地殻変動だけではなく、地震に誘発され受動的に動いたと考えられる230程の地表断層群が阿蘇外輪山北西等で発見された。これらの断層群は、今までの活断層のイメージを変える多様性を持っており、活断層とは何かについて理学面・防災面から再検討すべきであることが指摘された(国土地理院・藤原智地理地殻活動総括研究官資料20頁)。

◆2016年熊本地震 −地震観測から得られた地震像−

 稠密な地震観測により得られた震源について報告があった。解析の結果、日奈久断層帯や布田川断層帯に関連した複数の断層面が捉えられ、これらの断層面群により複雑な地震活動が起きたことがわかった。また、断層周辺の応力分布を調べたところ、熊本地震の複雑な断層の滑りは、地震前の断層にかかる応力場が一様でないために引き起こされたことが示された(九州大学・松本聡委員資料21頁)。

◆2016年熊本地震の本震前に見られた前震域の拡大

 地震活動の時空間発展について報告があった。解析の結果、4月14日の前震発生以降、ゆっくり滑りの伝播によると考えられる地震発生域の拡大が捉えられ、本震の破壊開始点へ向かう動きが見られた。前震やゆっくり滑りによる断層面の固着の剥がれによって、本震の断層面に応力が加わり、本震の発生が促された可能性があることが指摘された(東京大学地震研究所・加藤愛太郎准教授資料22頁)。

◆点過程モデルによる熊本地震前後の地震活動の解析

 熊本地震発生前後の地震活動について報告があった。解析の結果、地震前には布田川断層帯北側のごく狭い領域のみで群発地震や東北地方太平洋沖地震による誘発地震が見られた。また、本震前に発生したM6.4の地震直後からは有意な地震活動の静穏化が認められた。本震後の余震活動からは、断層強度が徐々に回復していることや阿蘇地域での地震の大部分が本震の応力変化の誘発により起きていること等がわかった(統計数理研究所・熊澤貴雄特任助教資料23頁)。

◆熊本地震の余効変動

 「だいち2号」のレーダー観測による熊本地震後に進行する地殻変動(余効変動)について報告があった。解析の結果、布田川断層帯周辺の地盤が広域に隆起及び西向きに動いていること等がわかった。日奈久断層帯の余効滑りに加えて、下部地殻・上部マントルがゆっくりと変形する粘弾性緩和により余効変動が引き起こされていることが示され、内陸地震における粘弾性緩和の重要性が指摘された(国土地理院・小林知勝主任研究官資料24頁)。

3.次回(第219回)重点検討課題「地震と水」の趣旨説明

    

 第219回地震予知連絡会の重点検討課題として、「地震と水」を取り上げる。最新の研究成果を共有し、地殻流体が地震発生過程に果たす役割の理解を深め、今後の地震研究の方向性等について議論する予定である(コンビーナ:産業技術総合研究所・今西和俊委員資料25頁)。

4.平成29年度第2回重点検討課題運営部会報告

 平成30年度後期の重点検討課題名が選定され、第221回は「予測実験の試行05」について、第222回は「九州南西諸島弧」について議論を行う予定であることが報告された(事務局資料26頁)。

5.平成30年度地震予知連絡会の開催について

平成30年度の地震予知連絡会の開催日程について報告があった(事務局資料27頁)。

各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリングに関する検討》

【1】気 象 庁
1.地殻活動の概況
a.地震活動
O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構
・2017年11月〜2018年01月の全国の地震活動概況を報告する.
2.東北地方太平洋沖地震関連
S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動
3.プレート境界の固着状態とその変化
a.日本海溝・千島海溝周辺
S 福島県沖の地震(11月17日 M4.8)
O 青森県東方沖の地震(1月24日 M6.3) 
・2018年1月24日19時51分に青森県東方沖の深さ34kmでM6.3の地震が発生した。
この地震は発震機構(CMT解)が東西方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した。
b.相模トラフ周辺・首都圏直下
S  茨城県南部の地震(12月2日 M4.4)
S  東京湾の地震(12月27日 M4.5、1月6日 M4.7)
S  東海・南関東地方の地殻変動
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
S 南海トラフ沿いの地震活動
S 東海地域から豊後水道にかけての深部低周波地震活動
S 南海トラフ長期的スロースリップの客観検知
S 東海・南関東地方の地殻変動
S 紀伊半島から愛知・長野県境付近にかけての深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり
(11月15日〜12月5日)
S 和歌山県の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(1月3日〜1月5日)
d.その他
S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化
S 中規模繰り返し相似地震の発生状況と発生確率(2018)
4.その他の地殻活動
S 十勝沖の地震(11月3日 M5.0)
S 浦河沖の地震(1月14日 M4.7)
S 宮城県沖の地震(11月11日 M4.7)
S 三陸沖の地震(11月13日 M6.0)
S 岩手県沖の地震(12月16日 M5.5)
S 茨城県北部の地震(11月3日 M4.8、12月6日 M4.5) 
S 八丈島東方沖の地震(11月16日 M6.0)
S 長野県中部の地震(12月6日 M5.3)
S 鳥島近海の地震(12月21日 M6.0)
S 伊豆半島東方沖の地震(1月6日 M4.5)
S 平成28年(2016年)熊本地震
S 2016年12月頃からの鹿児島湾の地震活動
O 2018年2月4日からの台湾付近の地震活動  ※期間外 
・2018年2月4日頃から台湾付近で地震活動が活発になり、4日22時56分に台湾付近の深さ10kmでM6.5の地震が発生したほか、
約2日後の7日00時50分には深さ10kmでM6.7の地震が発生した。これらの地震を含め、19日までにM6.0以上の地震が4回発生
している。
S イラン/イラク国境の地震(11月13日 Mw7.3)
S ローヤリティー諸島の地震(11月20日 Mw7.0)
S ホンジュラス北方の地震(1月10日 Mw7.5)
S アラスカ湾の地震(1月23日 Mw7.9)

【2】国土地理院
1.地殻活動の概況
b.地殻変動
O GEONETによる全国の地殻水平変動
O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差
O GNSS連続観測から推定した日本列島のひずみ変化
2.東北地方太平洋沖地震関連
O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル
O GNSS連続観測時系列
S 成分変位と速度グラフ
S 東北地方の上下変動
3.プレート境界の固着状態とその変化
a.日本海溝・千島海溝周辺	
S 北海道太平洋岸 GNSS連続観測時系列
b.相模トラフ周辺・首都圏直下  
S 伊豆半島・伊豆諸島の地殻水平・上下変動図
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
S 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS連続観測
S 高精度比高観測点の上下変動 水準測量とGNSS連絡観測
S 高精度比高観測
O 森〜掛川〜御前崎間の上下変動
O 水準点2595(御前崎市)の経年変化
O 水準点(140-1・2595)の経年変化
S 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化
S 御前崎地方の上下変動
S 菊川市付近の水準測量結果
S 御前崎周辺 GNSS連続観測時系列
S 駿河湾周辺 GNSS連続観測時系列
S 御前崎長距離水管傾斜計月平均
S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化
S 御前崎地中地殻活動観測施設
S 東海地方の地殻変動 
S 東海地方の非定常地殻変動
S 紀伊半島 電子基準点の上下変動
S 南海トラフ周辺 GNSS連続観測時系列
S 南海トラフ沿いの地殻変動
O 紀伊半島東岸の非定常地殻変動
S 室戸岬周辺 電子基準点の上下変動
S 香南市〜室戸市間の上下変動
S 室戸市〜海陽町間の上下変動
S 1896年を基準とした室戸地方の各水準点の経年変化
4.その他の地殻活動等
S 伊豆東部地区 GNSS連続観測時系列
S 伊豆諸島地区 GNSS連続観測時系列
S 伊豆諸島の上下変動
O 平成28年(2016年)熊本地震の余効変動
O 2018年2月台湾・花蓮の地震に関するSAR解析結果

【3】北海道大学

【4】東北大学理学研究科・災害科学国際研究所

【5】東京大学理学系研究科・地震研究所
1.地殻活動の概況
b.地殻変動
S 鋸山観測坑における地殻変動観測 (1997年〜2017年)
S 富士川・駿河湾地方における地殻変動観測(1970-2017)
S 弥彦地殻変動観測所における傾斜観測(1967-2017)
S 油壷観測坑における地殻変動観測(1997年〜2017年)
4.その他の地殻活動等
O スロー地震データベースの構築
・スロー地震に関する研究をより推進するため、新学術領域研究「スロー地震学」において、各種スロー地震カタログを統一的
に表示、及びダウンロードを可能とするデータベースを構築したので、その概要について紹介する。

【6】東京工業大学

【7】名古屋大学

【8】京都大学理学研究科・防災研究所
4.その他の地殻活動等
S 近畿地方北部の地殻活動
S  気象庁震度データベースを用いた地震予測(滋賀県立大学環境科学部)

【9】九州大学

【10】鹿児島大学

【11】統計数理研究所
4.その他の地殻活動等
O BPTモデルの共通のばらつきパラメータの推定とベイズ型予測
・本報告では,BPT分布更新過程におけるばらつきパラメータαの推定手法および長期地震確率の予測手法の精度を数値実験に
より比較検証する.さらに,地震本部が長期評価にて公表している内陸活断層の古地震カタログに基づいたばらつきパラメータ
αの推定値を与える.

【12】防災科学技術研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
a.日本海溝・千島海溝周辺
O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
S  関東・東海地域における最近の傾斜変動

【13】産業技術総合研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2017年11月〜2018年1月)
S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2017年11月〜2018年1月)
S 東海・紀伊半島・四国における短期的スロースリップイベント(2017年11月〜2018年1月)
4.その他の地殻活動等
S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2017年11月〜2018年1月)
-- 神奈川県温泉地学研究所・産総研
S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2017年11月〜2018年1月)
S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2017年11月〜2018年1月)
S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2017年7月〜2018年1月)
-- 鳥取大学工学部・産総研

【14】海上保安庁
1.地殻活動の概況
b.地殻変動
S GPSによる地殻変動監視観測
2.東北地方太平洋沖地震関連
O 日本海溝沿いの海底の水平地殻変動
・海上保安庁が日本海溝沿いで実施している海底地殻変動観測について、東北地方太平洋沖地震後
の観測結果を報告する。
3.プレート境界の固着状態とその変化
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
O 南海トラフ沿いの海底の水平地殻変動
・海上保安庁が南海トラフ沿いで実施している海底地殻変動観測についての観測結果を報告する。

【15】海洋研究開発機構

【16】その他の機関
記載分類は以下のとおりとなっています。
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
 b.地殻変動
2.東北地方太平洋沖地震関連
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
 d.その他
4.その他の地殻活動等

 ・口頭報告(O)
 ・資料提出のみ(S)