地震予知連絡会の活動報告

第217回地震予知連絡会(2017年11月22日)議事概要

 平成29年11月22日(水)、国土地理院関東地方測量部において第217回地震予知連絡会が開催された。会議冒頭の挨拶の中で平原会長より内閣府の南海トラフWGの報告に関し、「モニタリングの強化と予知予測に関する情報発信」という予知連の役割を示した将来検討WGの報告方針が改めて示された。続いて、全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、その後、重点検討課題として「予測実験の試行 04」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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「地殻活動のモニタリングに関する検討」資料説明映像  (757MB,約16分)
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 ※一部音声に乱れがあります。

1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動について

国内で2017年8月から2017年11月までの3か月間に発生したM5以上の地震は28回であった(気象庁資料3頁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 期間内に目立った浅部超低周波地震は検出されなかったが、8月中旬と10月上旬に日向灘で超低周波地震が検出された(防災科学技術研究所資料4頁)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震の余効変動、熊本地震の余効変動、鳥取県中部の地震、福島県沖の地震、茨城県北部の地震の影響が見られる(国土地理院資料5頁)。

1.2 東北地方太平洋沖地震関連

 東北地方太平洋沖地震以降、東北地方から関東甲信越にかけて東向きの変動が見られ、累積水平変動は岩手川崎A観測点で最大約139cmに達している。また、上下変動は、宮城県から千葉県にかけての太平洋沿岸では隆起が、岩手県沿岸と奥羽脊梁山脈付近では沈降が見られる(国土地理院資料6−7頁)。海底地殻変動観測によると、釜石沖、宮城沖で陸側へ、福島沖、銚子沖で海溝側への変動が見られる。2014年以降では福島沖、銚子沖の年平均地殻変動量が小さくなっている(海上保安庁資料8頁)。

1.3 プレート境界の固着状態とその変化

(1)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・南海トラフ沿いの海底地殻変動観測結果
 東海・紀伊半島・四国・九州の太平洋側ではフィリピン海プレートの沈み込みに伴う西北西方向の地殻変動が顕著に見られる。上下変動では、御前崎、潮岬、室戸岬のそれぞれの周辺で沈降が見られる。2006年から2009年までの変動速度を定常状態と仮定すると、最近1年間で顕著な変化は見られない(国土地理院資料9−10頁)。
 

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 主な微動活動として、四国東部(8月8日から14日)、四国中部(9月9日から16日)、豊後水道(10月14日から20日)で発生した(防災科学研究所資料11頁)。
 

1.4 その他

(1)秋田県内陸南部の地震

 2017年9月8日に秋田県内陸南部の深さ9kmでM5.2の地震が発生した。この地震は地殻内で発生し、発震機構は北西−南東方向に張力軸を持つ横ずれ断層型であった。この地震の発生以降、9月9日にはM3.4の地震が発生する等、最大震度1以上を観測する地震が10月31日までに54回発生した。この地域では、東北地方太平洋沖地震以降、地震活動が活発になっていた(気象庁資料12頁)。

(2)茨城県北部の地震活動

 2016年12月28日のM6.3の地震以降に地震活動が活発化した領域とその付近では、8月から11月の間にM4.5以上の地震が4回発生するなど、活発な状況が継続している(気象庁資料13頁)。

(3)鹿児島湾の地震

 鹿児島湾では、2016年12月頃から活発な地震活動がみられており、2017年7月11日にM5.3、8月24日にM4.4、11月1日にM3.8の地震が発生する等、活発な状況が継続している(気象庁資料14頁)。

(4)イラン・イラク国境付近の地震

 2017年11月12日にイラン・イラク国境付近で発生したMw7.3の地震について、だいち2号のデータを用いた干渉SAR解析を行った結果、最大約90cmの隆起及び最大約50cmの西向きの変動が捉えられた。推定された断層滑りはやや右横ずれ成分を含む逆断層運動で、震源よりも浅い側で最大約3mの滑りが推定された(国土地理院資料15−16頁)。

2.重点検討課題「予測実験の試行 04」の検討

 地震活動のデータにもとづく地震の予測において、新たに取り組まれつつある手法の紹介とこれまでの予測がどの程度適合していたのかの検討及び予測実験に移行するための課題が議論された(コンビーナ:海洋研究開発機構・堀高峰委員資料19頁)。

◆マグニチュードと時空間情報に基づく前震確率評価モデルの識別性能

 地震群が前震である確率を評価するモデルについて報告があった。地震群のマグニチュード差および時空間距離の情報に基づいて、1926年から1999年までの気象庁カタログから推定した前震確率の評価モデルを、2000年以降の同カタログに適用して前震確率を計算した結果が示された。前震確率の評価値と実際の適中率は概ね整合的であることが報告された(統計数理研究所・野村俊一助教・尾形良彦委員資料21頁)。

◆地震マグニチュードの予測モデル

 地震のマグニチュードの確率予測を行う試みについて報告があった。過去の震源データからマグニチュードの予測確率密度分布を逐次再計算する手法を適用することで、b値(地震の規模別発生頻度に関するパラメータ)を一定とした予測に比べて、予測の性能が向上することが示された。今後の課題として、地震発生履歴の特徴に関係するマグニチュード予測モデルの探求の必要性等が指摘された(統計数理研究所・尾形良彦委員資料22頁)。

◆本震前に現れるG-R則からの逸脱と、その特徴に基づいた地震予測モデルの提案

 地震の規模別発生頻度に関する法則(G-R則)からの逸脱率(η値)を基にした予測モデルに関して報告があった。1990年以降の地震に予測モデルを適用した結果、対象地震の規模に応じた余震域に対応する半径を用いることで確率利得や予知率が高まることが示された(気象研究所・弘瀬冬樹主任研究官資料23頁)。

◆b値にもとづく全地球規模の大地震発生予測のモデル

 地震の規模別発生頻度に関するパラメータであるb値に基づく予測モデルについて報告があった。1980年以降の国内外のM8以上の地震を対象に、b値の変化に基づく予測の試行実験の結果が示された。今後の課題として、b値の予測モデルの最適化やリアルタイムの事前予測システムの構築が指摘された(静岡県立大学・楠城一嘉特任准教授資料24頁)。

◆Mw8.0以上の地震に先行した地震活動長期静穏化

 1990年から2017年に発生した国内外のMw8.0以上の地震20個における地震前の静穏化の有無について報告があった。解析の結果、すべての地震において、発生前に10年間程度より長い静穏化が見られたことが示された。また、20個中12個の地震では、同程度の静穏化が震源域の周囲にただ1つだけ存在し、大地震と静穏化が一対一に対応していたことが報告された(北海道大学・勝俣啓准教授資料25頁)。

◆経験則から期待される大地震発生の確率:相場のレビュー

 経験則による大地震発生の確率予測について報告があった。M6以上の地震を対象に、過去に提案されてきた複数の予測手法から得られる予測範囲、時間、確率等のパラメータが比較・検討された。予測に関する幾つかのパラメータのうち、情報の受け手にとって適中率が重要であることが指摘された(東京大学地震研究所・中谷正生准教授資料26頁)。

3.次回(第218回)重点検討課題「熊本地震で見えてきた課題」の趣旨説明

    

 第218回地震予知連絡会の重点検討課題として、「熊本地震で見えてきた課題」を取り上げる。具体的には、各方面の専門家を招聘し、熊本地震の最新の知見を共有し、活断層と内陸地震発生機構への理解を深め、内陸地震予測への調査研究の方向性などについて議論する(コンビーナ:東北大学災害科学国際研究所・遠田晋次委員資料27頁)。

各機関からの提出議題

《地殻活動モニタリングに関する検討》

《地殻活動モニタリングに関する検討》
【1】気 象 庁
1. 地殻活動の概況
a.地震活動
O 全国M5.0 以上の地震と主な地震の発震機構
・2017 年08 月〜2017 年10 月の全国の地震活動概況を報告する.
S 東海地方の地震活動
2.東北地方太平洋沖地震関連
S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動
3.プレート境界の固着状態とその変化
a.日本海溝・千島海溝周辺
S 浦河沖の地震(9月10日 M5.6)
S 十勝沖の地震(11 月3 日 M5.0) ※期間外
S 福島県沖の地震(9 月20 日 M5.3)
S 岩手県沖の地震(9 月27 日 M6.1)
S 福島県沖の地震(10 月6 日 M5.9)
b.相模トラフ周辺・首都圏直下
S 茨城県南部の地震(8月2日 M4.6)
S 茨城県南部の地震(8月3日 M4.6)
S 千葉県北西部の地震(8月10日 M5.0)
S 東海・南関東地方の地殻変動
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
S 東海地域から豊後水道にかけての深部低周波地震活動
S 東海・南関東地方の地殻変動
S 和歌山県と三重県の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(7月25日〜8月16日)
S 紀伊半島の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(9月3日〜9月5日)
S 徳島県北部周辺の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(8月7日〜8月13日)
S 愛媛県東予付近の深部低周波地震活動と短期的ゆっくりすべり(9月9日〜9月13日)
d.その他
S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化
4.その他の地殻活動
S 福島県中通りの地震(8月26日 M4.7)
O 秋田県内陸南部の地震(9月8日 M5.2、9月9日 M3.4)
・2017年9月8日22時23分に秋田県内陸南部の深さ9kmでM5.2の地震が発生した。
この地震は地殻内で発生し、発震機構は北西−南東方向に張力軸を持つ横ずれ断層型であった。こ
の地震の発生以降、9月9日にはM3.4の地震が発生するなど、まとまった地震活動がみられた。
S 三陸沖の地震(9月21日 M6.3)
S 福島県沖の地震(10月6日 M6.3)
O 茨城県北部の地震(8月2日 M5.5、8月27日 M4.8、10月1日 M4.9、11月3日 M4.8)
・2016年12月28日以降に地震活動が活発化した領域とその付近では、今期間中にM4.5以上の地震が
3回発生し、期間外の11月3日にもM4.8の地震が発生するなど、活発な状況が継続している。
S 千葉県北西部の地震(8月14日 M4.5)
S 小笠原諸島西方沖の地震(9月8日 M6.1)
S 埼玉県南部の地震(9月14日 M4.5)
S 松代における地殻変動観測
S 内陸の地震空白域における地殻変動連続観測
S 平成28年(2016年)熊本地震
2
O 2016年12月頃からの鹿児島湾の地震活動
・鹿児島湾では、2016年12月頃から活発な地震活動がみられており、2017年7月11日のM5.3の地震発
生以降、地震活動はより活発となった。この活動は、前回報告時以降も、8月24日にM4.4の地震、11
月1日にM3.8の地震が発生するなど、活発な状況が継続している。
S 奄美大島北東沖の地震(10月19日 M5.6)
S 西表島付近の地震(8月4日 M5.3)
S 沖縄本島近海の地震(8月8日 M5.2)
S メキシコ、チアパス州沿岸の地震(9月8日 Mw8.1)
S メキシコ中部の地震(9月20日 Mw7.1)
S ローヤリティー諸島南東方の地震(10月31日 Mw6.7)
【2】国土地理院
1.地殻活動の概況
b.地殻変動
O GEONET による全国の地殻水平変動
O GEONET による2期間の地殻水平変動ベクトルの差
O GNSS 連続観測から推定した日本列島のひずみ変化
2.東北地方太平洋沖地震関連
O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル
O GNSS 連続観測時系列
S 成分変位と速度グラフ
O 余効変動の予測実験
O 東北地方水準測量 環閉合図
O 能代市〜酒田市間の上下変動
O 能代市〜滝沢市間の上下変動
O 秋田市〜北上市間の上下変動
O 酒田市〜仙台市間の上下変動
3.プレート境界の固着状態とその変化
a.日本海溝・千島海溝周辺
S 北海道太平洋岸 GNSS 連続観測時系列
b.相模トラフ周辺・首都圏直下
S 伊豆半島・伊豆諸島の地殻水平・上下変動図
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
S 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS 連続観測
S 高精度比高観測点の上下変動 水準測量とGNSS 連絡観測
S 高精度比高観測
S 菊川市付近の水準測量結果
S 御前崎周辺 GNSS 連続観測時系列
S 駿河湾周辺 GNSS 連続観測時系列
S 御前崎長距離水管傾斜計月平均
S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化
S 御前崎地中地殻活動観測施設
S 御前崎における絶対重力変化
S 東海地方の地殻変動
O 紀伊半島 電子基準点の上下変動
O 南海トラフ周辺 GNSS 連続観測時系列
O 南海トラフ沿いの地殻変動
S 十勝川村〜新宮市の上下変動
S 大紀町〜新宮市間の上下変動
O 紀伊半島東岸の非定常地殻変動
3
O 室戸岬周辺 電子基準点の上下変動
4.その他の地殻活動等
S 伊豆東部地区 GNSS 連続観測時系列
S 伊豆諸島地区 GNSS 連続観測時系列
O 平成28 年(2016 年)熊本地震の余効変動
O 2017 年11 月イラン・イラクの地震に関するSAR 干渉解析結果
【3】北海道大学
【4】東北大学理学研究科・災害科学国際研究所
【5】東京大学理学系研究科・地震研究所
【6】東京工業大学
【7】名古屋大学
3.プレート境界の固着状態とその変化
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
O MCMC 法およびブロックモデルを用い、海底と陸上の地殻変動データから推測した南海トラフ沿い
プレート境界の固着分布
【8】京都大学理学研究科・防災研究所
4.その他の地殻活動等
S 近畿地方北部の地殻活動
S 地殻活動総合観測線
【9】九州大学
【10】鹿児島大学
【11】統計数理研究所
【12】防災科学技術研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
a.日本海溝・千島海溝周辺
O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
O 日本周辺における浅部超低周波地震活動
O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
S 関東・東海地域における最近の傾斜変動
4.その他の地殻活動等
S 2017 年9 月8 日秋田県内陸南部の地震の震源分布
S 2017 年9 月8 日秋田県内陸南部の地震による高周波エネルギー輻射量
S 2017 年9 月8 日メキシコ沖で発生した地震(M8.1)による津波の観測記録
【13】産業技術総合研究所
3.プレート境界の固着状態とその変化
c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2017年8月?2017年10月)
S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2017年8月?2017年10月)
4
S 東海・紀伊半島・四国における短期的スロースリップイベント(2017年8月?2017年10月)
4.その他の地殻活動等
S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2017年8月?2017年10月)
-- 神奈川県温泉地学研究所・産総研
S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2017年8月?2017年10月)
S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2017年8月?2017年10月)
S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2017年5月?2017年10月)
-- 鳥取大学工学部・産総研
【14】海上保安庁
1.地殻活動の概況
b.地殻変動
S GPS による地殻変動監視観測
2.東北地方太平洋沖地震関連
O 東北地方太平洋沖地震後の海底地殻変動観測結果
・海上保安庁が日本海溝沿いで実施している海底地殻変動観測について、東北地方太平洋沖地震後
の観測結果を報告する。
【15】海洋研究開発機構
【16】その他の機関
記載分類は以下のとおりとなっています。
1.地殻活動の概況
 a.地震活動
 b.地殻変動
2.東北地方太平洋沖地震関連
3.プレート境界の固着状態とその変化
 a.日本海溝・千島海溝周辺
 b.相模トラフ周辺・首都圏直下
 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺
 d.その他
4.その他の地殻活動等

 ・口頭報告(O)
 ・資料提出のみ(S)