地震予知連絡会の活動報告

第236回地震予知連絡会(2022年8月29日)議事概要

 令和4年8月29日(月)、国土地理院関東地方測量部において第236回地震予知連絡会がオンライン会議併用形式にて開催された。全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、その後、重点検討課題として「光ファイバーセンシング技術の地震・測地学への応用」に関する報告・議論が行われた。以下に、その概要について述べる。

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1.地殻活動モニタリングに関する検討

1.1 地殻活動の概況

(1)全国の地震活動

 日本とその周辺で2022年5月から7月までの3か月間に発生したM5.0以上の地震は46回であった。このうち、震度5弱以上を観測した地震は3回発生した(資料2頁・気象庁)。

(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動

 2022年5月から7月までの間に掲載基準を満たす超低周波地震活動は検出されなかった(資料3頁・防災科学技術研究所)。

(3)日本列島のひずみ変化

 GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方太平洋沖地震及び熊本地震の余効変動の影響が見られる。また、福島県沖の地震及び石川県能登地方の地震活動の影響が見られる(資料4頁・国土地理院)。

1.2 プレート境界の固着状態とその変化

(1)駿河トラフ・南海トラフ・南西諸島海溝周辺

・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
 短期的スロースリップイベントを伴う顕著な微動活動が、紀伊半島北部および南部において、5月19日から30日に発生した。これ以外の主な深部微動活動は、四国東部(5月1日から11日、7月26日から30日)、四国中部(6月15日から23日)、四国西部(6月13日から17日)及び四国西部から豊後水道(7月8日から16日)で観測された(資料5-6頁・防災科学技術研究所)。

・南海トラフ浅部の微動活動
 室戸沖(5月4日から6日頃)、紀伊水道沖(7月3日から4日頃)及び潮岬沖(7月13日から14日頃)に小規模な微動活動を観測した(資料7頁・防災科学技術研究所)。

・紀伊半島西部・四国東部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測によって、紀伊半島西部・四国東部で2020年夏頃から捉えられている非定常的な地殻変動は、2022年春頃からすべりが鈍化しているように見える(資料8頁・国土地理院)。

・四国中部の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測によって、四国中部で2019年春頃から開始した非定常的な地殻変動が引き続き捉えられた。プレート間のすべりを推定した結果、四国中部で最大25cmのすべりが推定された(資料9頁・国土地理院)。

・九州地域の非定常的な地殻変動
 GNSS連続観測によって、九州南部で2020年夏頃から捉えられている非定常的な地殻変動は、2021年秋頃から停滞していたが、2022年春頃からは停滞前の状態に戻りつつあるように見える(資料10頁・国土地理院)。

1.3 その他

(1)上川地方北部*の地震(8月11日 M5.2、M5.4)

 *気象庁が情報発表に用いた震央地名は〔宗谷地方北部〕である。
 2022年8月11日00時53分に上川地方北部の深さ5kmでM5.4の地震(最大震度5強)が発生した。また、この地震の発生前の同日00時35分にほぼ同じ場所の深さ2kmでM5.2の地震(最大震度5弱)が発生した。これらの地震は、ともに地殻内で発生した。発震機構は、00時53分に発生した地震が東西方向に圧力軸を持つ逆断層型、00時35分に発生した地震が西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である(資料11-12頁・気象庁)。この地震に伴い、上川地方北部とその周辺のGNSS連続観測点でごくわずかな水平変動が観測された(資料13頁・国土地理院)。

(2)石川県能登地方の地震活動(最大規模の地震:2022年6月19日 M5.4)(6月19日 M5.4、6月20日 M5.0)

 石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加傾向にあり、2020年12月から地震活動が活発になり、2021年7月頃からさらに活発になっている。最近もその傾向は継続している。活動の全期間を通じて最大規模の地震は、2022年6月19日15時08分に深さ13kmで発生したM5.4の地震(最大震度6弱)である。この地震の発震機構(CMT解)は北北西-南南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。また、6月20日10時31分に深さ14kmでM5.0の地震(最大震度5強)が発生した。この地震の発震機構(CMT解)は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。いずれの地震も地殻内で発生した。(資料14-15頁・気象庁)。この地震活動の開始以降、震源域に近い能登半島のGNSS連続観測点で南南西方向に最大1cmを超える水平変動や、最大4cmを超える隆起などの地殻変動が観測されている(資料16-20頁・国土地理院)。

(3)茨城県沖の地震(5月22日 M6.0)

 2022年5月22日12時24分に茨城県沖の深さ5kmでM6.0の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震は陸のプレートの地殻内で発生した。発震機構(CMT解)は、東西方向に張力軸を持つ横ずれ断層型である(資料21頁・気象庁)。

(4)熊本県熊本地方の地震(6月26日 M4.7)

 2022年6月26日21時44分に熊本県熊本地方の深さ9kmでM4.7の地震(最大震度5弱)が発生した。この地震は地殻内で発生した。この地震の発震機構は、北北西-南南東方向に張力軸を持つ横ずれ断層型である(資料22頁・気象庁)。

(5)沖縄本島北西沖の地震活動(最大規模の地震:3月17日・6月3日 M5.9)

 縄本島北西沖では、2022年1月30日から地震活動が活発になり、その後消長を繰り返しながら継続している。活動の全期間を通じて、最大規模の地震は3月17日及び6月3日のM5.9の地震(いずれも最大震度2)、最大震度を観測した地震は3月30日のM5.5の地震(最大震度3)であった。この地震活動は、沖縄トラフの活動で陸のプレート内で発生している(資料23頁・気象庁)。この地震活動の開始以降、震源域に近い久米島のGNSS連続観測点で南東方向に1cmを超える地殻変動が観測されている(資料24頁・国土地理院)。


2.重点検討課題「光ファイバーセンシング技術の地震・測地学への応用」の検討

 分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing; DAS)計測の火山分野、地震分野及び探査分野への応用ならびに海域における光ファイバーセンシングの技術開発に関する報告が行われ、光ファイバーセンシング技術は、どのような観測に有効か、従来の測地・地震学の手法・解釈をどこまで応用可能か、解決が必要な課題は何かについての議論が行われた(資料26頁・コンビーナ:東京大学地震研究所・篠原雅尚委員)。

◆光ファイバーケーブルとDASによる火山観測

 吾妻山および蔵王山でDAS観測を1か月程度実施した。その結果、地盤増幅特性から火山体の微細構造を評価できること、従来震源決定の難しかったP波、S波の立ち上がりが不明瞭な火山性地震の震源決定を行えることを示した(資料28頁・東北大学・西村太志 教授)。

◆陸域での光ファイバーを用いたSlow & Fast 地震の検出

 四国中央部において光ファイバーケーブルを用いて長期間の地震モニタリングを実施し、光ファイバーのカップリング状況の空間変化の把握、測線近傍で発生した地殻内の微小地震(M<1)による波動場の可視化と震源再決定、測線のほぼ直下で発生した深部低周波地震による波動場の可視化・震源再決定を行った。(資料29頁・東京大学地震研究所・加藤愛太郎教授)。

◆DASを利用した断裂系探査システムの開発と今後の展望

 地熱地域の坑井内にDASを設置し、開口断裂などで弾性波の通過に伴い発生する回折波を観測し、その発生源のイメージングを通して周辺域の断裂の発達状況を捕捉する探査システムが開発されている。断裂系モデルの精緻化への貢献や、定常震源と組み合わせて行う貯留層変動モニタリングシステムへの応用が期待される(資料30頁・(株)地球科学総合研究所・青木直史研究開発部長)。

◆海域での光ファイバーを用いた広帯域地震・地殻変動観測の現在と展望

 光ファイバー歪計、長基線光ファイバー計測、光ファイバーセンシング(DAS、TW-COTDR)等について、室戸沖などの海域で計測を実施している。光ファイバー歪計ではゆっくり地震・ゆっくり滑りが捉えられているほか、他の手法においても広帯域地震観測や海底地殻変動のリアルタイム観測を期待できる結果が得られている。今後の課題としては、海底の温度変化の影響の補正手法の開発、海底ケーブルと地殻の長期間かつ地震時の安定なカップリングの実現、沖合での観測実現のための観測技術の開発があげられる(資料31頁・海洋研究開発機構・荒木英一郎グループリーダー)。


3.次回(第237回)重点検討課題「内陸地震の長期予測」の趣旨説明

 我が国における内陸地震の長期予測は、1995年の阪神淡路大震災以降、地震調査研究推進本部による「主要活断層帯の長期評価」として実施されてきた。しかしながら、近年の内陸被害地震の発生により、活断層評価に基づく内陸地震の長期予測の有効性や課題が明らかになりつつある。一般的に地震の長期予測には、地震活動や活断層データが用いられることが多いが、最近では測地データを用いた予測モデルも提案され、米国カリフォルニア州では、これら3種のデータを組み合わせた長期予測が実施されている。我が国でも地震活動や測地データを用いた大地震の予測研究が試みられている。こうした状況を踏まえ、次回は活断層、背景地震活動度、測地データを用いた内陸地震の長期予測、クーロン応力変化と摩擦則を用いた地震発生予測について報告し、内陸地震の長期予測に関して、活断層評価に基づいた予測モデルの今後の展開、地震活動や測地データを用いた予測モデルの有効性と課題、複数の予測手法による評価方法、長期から中短期の予測に発展させるための課題等について議論を行う予定である(資料32頁・コンビーナ:京都大学防災研究所・西村卓也委員)。


4.運営検討部会報告

 令和5年度前期の重点検討課題名が選定され、第239回は「群発地震(仮)」、第240回は「関東地震(仮)」について、それぞれ議論を行う予定であることが報告された(資料33頁・事務局)。また、予測実験WGの活動状況報告およびWGからの提案(第233回の重点検討課題の検討において報告された4つの手法を軸に予測実験を実施し、本会議のモニタリング枠を使い、4手法のうち1つの結果を報告するとともに、最近3ヶ月間のイベント、地震活動に関するモデルの紹介を行うこと、また、重点検討課題にて予測関連の話題を年1回取り上げること)を部会として承認したことが報告された。WGからの提案について、本会議においても承認された(資料34頁・事務局)。


 

各機関からの提出議題

  地殻活動モニタリングに関する検討 提出議題一覧(PDF:200KB)