地震予知連絡会の活動報告
第203回地震予知連絡会(2014年5月19日)議事概要
平成26年5月19日(月)、国土地理院関東地方測量部において第203回地震予知連絡会が開催された。はじめに、全国の地震活動、地殻変動等のモニタリングについての報告が行われ、続いて重点検討課題として「日本列島の長期広域変動について」に関する報告・議論が行われた。最後に次回の重点検討課題「地震・地殻変動予測能力の現状評価(仮)」に関する趣旨説明等が行われた。以下に、その概要について述べる。
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「地殻活動のモニタリングに関する検討」資料説明映像 (15MB,約10分)
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1.地殻活動モニタリングに関する検討
1.1 地殻活動の概況
(1)全国の地震活動について
国内で2014年2月から2014年4月までの3か月間に発生した地震のうち、主なものとしては、2014年3月14日の伊予灘の地震(M6.2)、3月3日の沖縄本島の北西の深さ116kmの地震(M6.4)が挙げられる。それ以外では目立った活動はなかった(気象庁資料)。
(2)日本周辺における浅部超低周波地震活動
2014年2月から2014年4月までの3か月間で本州・四国・九州において目立った浅部超低周波地震活動は検出されなかった。2014年3月下旬に日向灘において浅部超低周波地震活動が検出された(防災科学技術研究所資料)。
(3)日本列島のひずみ変化
GNSS連続観測によると、最近1年間の日本列島のひずみには、東北地方を中心として、東北地方太平洋沖地震の余効変動の影響が見られる(国土地理院資料)。
1.2 東北地方太平洋沖地震関連
東北地方太平洋沖地震後の累積変動は、岩手川崎観測点で最大109cmの東方向への変位が観測されている。また、上下変動については、M牡鹿観測点で最大約33cmの隆起が観測されている(国土地理院資料)。
東北地方太平洋沖地震後の海底地殻変動の観測によると、宮城沖1の観測点に西向きの変動が見られ、宮城沖2の観測点では南への変動が見られる(海上保安庁資料)。
1.3 伊予灘の地震
2014年3月14日伊予灘の深さ78kmでM6.2の地震(最大震度5強)が発生した。この地震は、発震機構が東北東—西南西方向に張力軸を持つ型で、フィリピン海プレート内部で発生した。この領域でM6.0以上の地震は、1923年以降初めてである。余震活動は低調である(気象庁資料)。
1.4 プレート境界の固着状態とその変化
(1)南海トラフ・南西諸島海溝周辺
・西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況
短期的スロースリップを伴う顕著な深部低周波微動活動が、四国東部から中部で4月13日−18日にかけて発生した。それ以外の微動活動としては東海で2月2日−7日、紀伊半島南部で2月15日−19日に、四国中部で2月1日−5日、豊後水道で2月21日−25日にかけて観測されている(防災科学技術研究所資料)。
1.5 チリ北部沿岸の地震
2014年4月2日にM8.1の地震がチリ北部沿岸で発生した。この地震に先行してM5−M6級の地震活動が2回発生し、本震発生後には活発な余震活動が発生した。これらの先行地震は、本震の震源に近づくように発生していた(気象庁資料)。
2.重点検討課題「日本列島の長期広域変動について」の検討
日本列島の長期広域変動の観点から、東北地方を中心とした内陸の地震発生過程について理解を深めることを目的として、1)日本列島とその周辺のプレート運動、2)日本列島の生い立ちと長期地殻応力・歪の起源、3)日本列島の温度構造と地殻流体の分布、4)日本列島内陸の現在の応力・歪と強度、について最新の知見を整理し、議論が行われた。
◆日本列島とその周辺のプレート運動
日本列島周辺での地殻活動を考える上で重要な、日本周辺のプレート運動に関する研究が紹介された。GPSによる観測結果から、東アジアの変位速度場が詳細に明らかになってきている。しかし、アムールプレートもオホーツクプレートも変位速度が極めて遅いために、これらのプレートを同定するためには、長期の観測が必要であることが指摘された。また、2011年東北地方太平洋沖地震は東アジアの広範囲にわたって大きな影響を与えた。有意な余効変動も広域で観測されており、粘弾性の影響を見極めるためにも、長期・広域の観測が必要であることが挙げられた。(東京大学地震研究所・加藤照之教授資料)。
◆日本列島の生い立ちと長期地殻応力・歪の起源
日本列島の構造発達に関する現時点での理解が紹介された。日本列島の地殻の変形は、地殻活動予測の上でも重要であるが、地質学的な情報を用いることによって、日本列島の塑性変形についての理解が可能となる。日本列島周辺の地殻の変形は、背弧拡大、島弧−島弧衝突、その間に形成された断層の再活動によって特徴付けられること、火山フロントの近傍に形成されるリフト帯は、強度が弱くひずみ集中の原因となっていること等が紹介された。(東京大学地震研究所・佐藤比呂志教授資料)。
◆日本列島の温度構造と地殻流体の分布
日本列島の温度構造と地殻流体に関する研究が紹介された。沈み込むスラブに含まれる水の量、蛇紋岩の粘性率、背弧温度構造をパラメータとしてシミュレーションを行った結果、東北日本弧において火山分布や地殻熱流量、地震波トモグラフィーの特徴をよく説明する結果が得られ、温度構造、マントルの対流場、流体の分布を整合的に説明できることが紹介された(海洋研究開発機構・岩森光上席研究員資料)。
◆東北日本地殻内の応力場の詳細な空間分布と絶対応力・断層強度の推定
稠密基盤観測網データに臨時観測データを加え、応力テンソル・インバージョンにより東北日本地殻内の応力場を詳細に推定した結果について紹介があった。
2011年東北地方太平洋沖地震の前の応力場は、従来言われていた単純な西北西−東南東逆断層場ではなく、地域によって異なっており、地形の影響を受けていること、東北地方太平洋沖地震前後での主応力軸方向の変化が、地震による静的応力変化とよく一致すること、東北地方での内陸大地震の震源域で主応力軸方向が空間的に不均質であることが示された。これらから、東北日本の偏差応力が20MPa以下と非常に小さいことが指摘された(東北大学大学院地震・噴火予知研究観測センター・吉田圭佑研究員資料)。
3.次回(第204 回)重点検討課題「地震・地殻変動予測能力の現状評価(仮)」の趣旨説明
地震・地殻変動やプレート境界沿いの諸現象を予測能力という視点で見直す。次の各項目の予測能力の現状を整理し、それに基づいて議論を行う予定である。1)余効変動の予測能力評価、2)スロースリップ,SSEの予測能力評価、3)繰り返し小地震に対する予測能力評価、4)「地震空白域」による予測能力評価、5)前兆としての地震活動静穏化現象による予測能力評価、6)余震・誘発地震の予測能力評価(趣旨説明資料)。
各機関からの提出議題
《地殻活動モニタリングに関する検討》
《地殻活動モニタリングに関する検討》 【1】気 象 庁 1. 地殻活動の概況 a.地震活動 O 全国M5.0以上の地震と主な地震の発震機構 S 東海地域の地震活動 2.東北地方太平洋沖地震関連 S 東北地方太平洋沖地震余震域の地震活動 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 福島県沖の地震(2月8日 M5.0) S 福島県沖の地震(2月8日 M4.8) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 茨城県南部の地震(4月18日 M4.7) S 東海・南関東地方の地殻変動 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海地域から豊後水道にかけての深部低周波地震活動 S 東海・南関東地方の地殻変動 S 愛知県の深部低周波地震活動とひずみ変化(2月3日〜6日) S 長野県南部の深部低周波地震活動と ひずみ変化(3月20日〜22日) S 愛知県の深部低周波地震活動とひずみ変化(4月9日〜16日) S 奄美大島近海の地震(2月2日 M4.5) d.その他 S 海溝と直交する方向の全国の基線長変化 O チリ北部沿岸の地震(3月17日、4月2日、3日 最大Mw8.1) S メキシコ、ゲレロ州の地震(4月18日 Mw7.5) 4.その他の地殻活動等 S 宮城県沖の地震(2月6日 M5.3) S 福島県沖の地震(3月17日 M5.1) S 岩手県沿岸南部の地震(4月3日 M5.5) S 岩手県沖の地震(4月5日 M5.3) S 福島県沖の地震(4月13日 M4.9) S 福島県沖の地震(4月17日 M5.1) S 房総半島南方沖の地震(2月11日 M5.3) S 新潟県中越地方の地震(4月8日 M4.4) S 岐阜県飛騨地方から長野県中部にかけての地震活動(5月3日〜 最大M3.9)※期間外 S 硫黄島近海の地震(5月3日 M6.0)※期間外 S 伊豆大島近海の地震(5月5日 M6.0)※期間外 S 松代における地殻変動連続観測 O 伊予灘の地震(3月14日 M6.2) S 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 S 薩南諸島東方沖の地震(3月26日 M5.3) S 宮古島近海の地震(2月6日 M5.0) S 沖縄本島北西沖の地震(3月3日 M6.4) S 沖縄本島近海の地震(3月3日 M5.0) S 台湾付近の地震(3月19日 M6.0) S ソロモン諸島の地震(4月11日、19日 最大Mw7.5) S ソロモン諸島の地震(4月13日 最大Mw7.6) 【2】国土地理院 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 O GEONETによる全国の地殻水平変動 O GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差 O GNSS連続観測から推定した日本列島のひずみ変化 O 加藤&津村(1979)の解析方法による,各験潮場の上下変動 2.東北地方太平洋沖地震関連 O 東北地方太平洋沖地震後の地殻変動ベクトル O 対数関数近似 O GNSS連続観測時系列 O 観測値と近似曲線の差 S 成分変位と速度グラフ O 東北地方太平洋沖地震後のプレート境界面上の滑り分布 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 S 北海道太平洋岸 GNSS連続観測時系列 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 三浦半島東側の上下変動 S 1923年を基準とした三浦半島の水準点の経年変化 S 伊豆半島・伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 S 水準点2595(御前崎市)の経年変化 S 水準点(140-1・2595)の経年変化 S 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 S 電子基準点の上下変動 水準測量とGNSS観測 S 高精度比高連続観測 S 菊川市付近の水準測量結果 S 御前崎周辺 GNSS連続観測時系列 S 駿河湾周辺 GNSS連続観測時系列 S 御前崎長距離水管傾斜計月平均 S 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化 S 御前崎地中地殻活動観測施設 S 東海地方の地殻変動 4.その他の地殻活動等 S 伊豆東部地区 GNSS連続観測時系列 S 伊豆諸島地区 GNSS連続観測時系列 S 測地VLBI観測 【3】北海道大学 【4】東北大学 【5】東京大学地震研究所 【6】東京工業大学 【7】名古屋大学 【8】京都大学防災研究所 4.その他の地殻活動等 S 近畿地方北部の地殻活動 S 地殻活動総合観測線の観測結果 S 飛騨山脈南部の2014年5月の地震活動について 【9】九州大学 【10】鹿児島大学 【11】統計数理研究所 【12】防災科学技術研究所 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 O 日本周辺における浅部超低周波地震活動(2014年2月〜4月) b.相模トラフ周辺・首都圏直下 S 関東地方のGEONET観測網による地殻変動観測 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 O 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2014年2月〜4月) S 関東・東海地域における最近の傾斜変動 S 伊豆地域・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研のGNSS観測網による地殻変動観測 【13】産業技術総合研究所 3.プレート境界の固着状態とその変化 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 S 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2014年2月〜2014年4月) S 紀伊半島〜四国の地下水・歪観測結果(2014年2月〜2014年4月) S 東海・紀伊半島・四国における短期的スロースリップイベント(2014年2月〜2014年4月) S プレート境界の固着状態とその変化(南海トラフ・南西諸島海溝周辺) 4.その他の地殻活動等 S 神奈川県西部地域の地下水位観測(2014年2月〜2014年4月) -- 神奈川県温泉地学研究所・産総研 S 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2014年2月〜2014年4月) S 近畿地域の地下水・歪観測結果(2014年2月〜2014年4月) S 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2013年11月〜2014年4月) --鳥取大学工学部・産総研 【14】海上保安庁 1.地殻活動の概況 b.地殻変動 S GPSによる地殻変動監視観測 2.東北地方太平洋沖地震関連 O 東北地方太平洋沖地震後の海底地殻変動観測結果 3.プレート境界の固着状態とその変化 c. 南海トラフ・南西諸島海溝周辺 O 東北地方太平洋沖地震後の南海トラフ沿いの海底地殻変動観測結果(速報) 【15】海洋研究開発機構
記載分類は以下のとおりとなっています。 1.地殻活動の概況 a.地震活動 b.地殻変動 2.東北地方太平洋沖地震関連 3.プレート境界の固着状態とその変化 a.日本海溝・千島海溝周辺 b.相模トラフ周辺・首都圏直下 c.南海トラフ・南西諸島海溝周辺 d.その他 4.その他の地殻活動等 ・口頭報告(O) ・資料提出のみ(S)