地震予知連絡会の活動報告
第152回地震予知連絡会(2003年5月19日) 議事概要
平成15年5月19日、国土地理院関東地方測量部において第152回地震予知連絡会が開催され、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ議論がなされた。トピックスとしては、低周波微動・低周波地震について報告および議論が行われた。以下に、その概要について述べる。
1.全国の地震活動について
最近3ヶ月間では、留萌支庁南部でM6を越える地震が発生した。
全国のM5以上の地震 (2003.02.01−2003.04.30)(気象庁資料)
留萌支庁南部のやや深発地震活動(気象庁資料)
2.東海地域の地殻活動について
東海地域の推定固着域周辺における地震活動は、地殻内、フィリピン海スラブ内とも平常レベルである。
固着域周辺の地震活動(地殻内)(気象庁資料)
固着域周辺の地震活動(フィリピン海プレート内 1997年以降)(気象庁資料)
水準測量結果によると、森町〜掛川〜御前崎間ではほぼ変化が見られない。
森〜掛川〜御前崎間の上下変動(国土地理院資料)
掛川市の水準点140-1に対する浜岡町の水準点2595の動きに特に変化は見られない。
水準点2595(浜岡町)の経年変化(国土地理院資料)
遠州灘に面した海岸線に平行な路線では、スロースリップの中心の移動に伴って浜松周辺の隆起の中心が移動している様子が示されている。
舞阪〜浜岡間の上下変動(国土地理院資料)
浜松〜掛川間の上下変動(国土地理院資料)
東海地域の異常地殻変動は依然として継続している。最近では、平均的な変動からのずれの水平成分が以前より小さくなっているように見えるが、年周成分が十分に取り切れていない部分もあり、今後とも注意深く推移を見守る必要がある。
平均的な地殻変動からのずれ(精密歴)(国土地理院資料)
1年間で見た東海非定常地殻変動(大潟固定)(国土地理院資料)
東海地方の地殻変動(国土地理院資料)
推定モーメントの時間変化(国土地理院資料)
3.三ヶ日の歪変化について
2003年4月8日18時頃から気象庁の三ケ日の体積歪計に現れた伸びの変化について、他の歪計には変化が現れておらず、プレスリップによるものではないと考えられる。モデル計算の結果、三ヶ日予備での歪み変化については、降雨の影響で説明されることがわかった(気象庁資料13−14頁)。
三ヶ日で観測された体積歪変化(気象庁資料)
体積歪降水補正結果(気象庁資料)
また、防災科学技術研究所の傾斜計には変化が現れていない。(防災科学技術研究所資料)
4.東南海地震当日の水準測量から推定されたプレスリップについて
東南海地震の当日に掛川付近で行われていた水準測量の観測資料及び手記に基づき、傾斜変動量が推定された。推定された変動量は、東海地域におけるプレスリップによって説明できる。推定されたプレスリップの位置は、現在東海地域で発生しているスロースリップの位置とほぼ同一域である。(名古屋大学資料)
5.中国地方の地震活動について
島根県から広島県にかけての地域で、2003年3月28日から5月3日にかけてM4クラスの地震が3個北北西—南南東に並ぶように発生した。鳥取県西部地震の震源域においても、本震の発生前から群発的な地震活動が震源断層に沿って発生していたことから、今後の見通しについて注目すべきであると考えられる。しかし、この地域は1923年頃から地震活動が見られる地域であり、短期的ではなくさらに長期的にみて判断すべきであるという意見があった。
中国地方の地震活動(気象庁資料)
6.低周波微動・低周波地震について
今回のトピックスでは、低周波微動・低周波地震について、その特徴とその成因についての現在の研究成果の説明があり、それらについて議論を行った。(世話人:長谷川委員)
近年の地震観測網の整備により、これまで火山直下でのみ見られていた低周波微動・低周波地震が、プレートの沈み込み帯や活断層の直下など火山から離れた地域でも検出されるようになった。
Nonvolcanic Deep Tremor Associated with Subduction in Southwest Japan(防災科学技術研究所資料)
一元化震源カタログに基づく深部低周波地震・微動の震央分布(1999/09/01-2003/02/20)(気象庁資料)
プレート沈み込み帯で発生している低周波微動は水の関与が深いと考えられ、水の発生源としてはスラブからの脱水反応の可能性が非常に高いと考えられている。(気象庁資料)
鳥取県西部地震の震源域など西南日本内陸の活断層の直下においても深部低周波地震が発生していることがわかってきた。鳥取県西部地震の震源域直下では、本震の発生以前に深部低周波地震が発生しており、本震発生後活動が活発化した。(京都大学防災研究所資料)
東北地方の地殻深部で発生する深部低周波地震は、Vp/Vs比が大きな領域とその周辺で発生している。鉛直方向にはVp/Vs比の大きな領域の上端付近に分布している。これらの低周波地震の発生領域は、第四紀火山の分布とほぼ対応する。(東北大学資料) (東北大学資料)
これらのように内陸部で発生する深部低周波地震とプレート沈み込み帯で発生する低周波微動とは、性質が異なる可能性がある。
プレート境界で起こっている低周波地震は、プレート間で発生する地震とかなり近い領域で発生していることから、密接に関連していると考えられ、プレート境界で発生する地震を考える上で重要な発見であると考えられる。GPS等の地殻変動観測との対応がつけばプレート境界をモニターする新しい技術となる可能性があるとの指摘がなされた。
(事務局:国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁(A1) 1.2003年2月から4月の全国M5以上の地震と主な地震の発震機構解(C) 2.2003年2月から4月の北海道地方とその周辺の地震活動 C 北海道東方沖(4月29日M5.9)の地震活動 C 留萌支庁南部(2月19日M6.1)のやや深発地震活動 C 釧路支庁北部(摩周湖付近、2月13日M3.8)の地震活動 3.2003年2月から4月の東北地方とその周辺の地震活動 C 青森県東方沖(4月17日M5.4)の地震活動 C 福島県沖(2月16日M5.0、3月3日M5.8)の地震活動 4.2003年2月から4月の関東・中部地方の地震活動 C 茨城県沖(4月8日M5.8、4月21日M4.6)の地震活動 C 茨城県南西部(3月13日M4.8、4月8日M4.6)の地震活動 A1 東海・南関東地方の地震活動・地殻変動 C 新島・神津島近海(4月13〜19日)の群発地震活動 C 三宅島近海(2月12日M4.7)の地震活動 C 長野・岐阜県境付近(4月1日M4.1)の地震活動 C 愛知県の地震活動と低周波地震 C 長野県北部の地震活動と松代における地殻変動連続観測 5.2003年2月から4月の近畿・中国・四国地方の地震活動 C 島根・鳥取県境付近の低周波地震 C 島根県西部(3月27日M4.2)及び東部(4月2日M4.2)の地震活動 C 豊後水道(3月26日M4.5)の地震活動 C 内陸部の地震空白域における地殻変動連続観測 6.2003年2月から4月の九州地方とその周辺の地震活動 A1 鹿児島県北西部(4月12日M4.8)の地震活動と低周波地震 7.2003年2月から4月の沖縄地方とその周辺の地震活動(C) 【2】国土地理院(A2) 1.日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間の地殻水平変動 A2 GEONETによる最近3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(3ヶ月) A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪変化 C 加藤&津村(1979)の解析方法による、各験潮場の上下変動 2.東海地方の地殻変動 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点(140-1、2595)の経年変化 A2 水準点2595(浜岡町)の経年変化 C 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 舞阪〜浜岡間の上下変動 A2 浜松〜掛川間の上下変動 A2 東海地方西部の上下変動 A2 水準点2602-1(菊川町)と10333(大東町)及び2601(小笠町)の経年変化 A2 水準点2602-1(菊川町)と2601(小笠町)の経年変化 A2 水準測量(10333及び2601)による傾斜ベクトル(月平均値) C 比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 東海地方の非定常地殻変動 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺(2) A2 GPS連続観測結果 掛川・御前崎周辺 C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化 C GPS連続観測結果 静岡県西部 C GPS連続観測結果 三ヶ日周辺 A2 御前崎地区高精度比高連続観測 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均(E−W) C 御前崎・切山長距離水管傾斜計日平均 C 地中地殻活動観測装置観測結果 3.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊東東部連続観測(辺長)日平均結果 C 川奈地区 精密辺長測量 C GPS連続観測結果 伊豆半島東部周辺 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺 C GPS連続観測結果 伊豆諸島北部周辺(ベクトル図) 4.関東・中部地方の地殻変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 C GPS連続観測結果 富士山・箱根周辺 5.東北地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 宮城県沖地震後の地殻変動 6.中国・四国・九州地方の地殻変動 C 熊本・宮崎地方の上下変動 C GPS連続観測結果 島根県東部 C GPS連続観測結果 日向灘・南海周辺 C GPS連続観測結果 薩摩地方 7.その他 C GPS連続観測結果 硫黄島 C GPS測量による硫黄島の地殻変動 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の地震活動 ・2003年2月〜4月(最近3ヶ月と1ヶ月)の活動 C 最近の北海道東方沖の地震活動 C 摩周岳の地震活動 【4】東北大学 C 東北地方およびその周辺の微小地震活動(2003年2月〜4月) C GPS連続観測による東北地方の地殻変動(2003年4月まで) A5 東北地方地殻深部に発生する低周波微小地震と地殻変形過程 【5】東京大学大学院理学系研究科 C 東海地域における地球化学的観測について C 伊豆半島における地球化学的観測について C 福島県東部における地球化学的観測について 【6】東京大学地震研究所 C 伊豆半島および伊豆諸島周辺の地震活動(2003年2月〜2003年4月) C 日光・足尾付近の地震活動(2003年2月〜2003年4月) C 相良観測点における歪・傾斜観測(2002年11月〜2003年4月) C 瀬戸内海西部とその周辺の地震活動(2003年2月〜2003年4月) C 鳥取県西部地震震源域周辺の地震活動(2003年2月〜2003年4月) C 紀伊半島およびその周辺域の地震活動(2003年2月〜2003年4月) 【7】名古屋大学 B 1944年東南海地震当日の水準測量から推定するプレスリップ C 神津島における上下変動(2001-2003年) C 御岳群発地震域における上下変動(1999-2003年) 【8】京都大学 B 南海地震の前に井水の減少した井戸の現地調査 B 南海地震の前に井水が減少するメカニズム B 安政南海地震の前の井水の減少 C 地殻活動総合観測線(山陰−近畿−北陸)における地殻変動連続観測結果 (2002年5月−2003年4月) C 地殻活動総合観測線(日向灘)における地殻変動連続観測結果 (2002年5月−2003年4月) 【9】九州大学 C 九州の地震活動(2003年2月〜2003年4月) C 九州南部の地震活動(2003年2月〜2003年4月) (鹿児島大) A4 2003年4月12日に鹿児島県北西部で発生した地震(M4.9)について (鹿児島大) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2003年2月〜4月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2003年2月〜4月) C 関東地域における三成分ひずみ計及びIBOSによる最近の観測結果 (2002年5月〜2003年4月) 【11】産業技術総合研究所 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2003年2月〜2003年4月) C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2003年2月〜2003年4月) C 有馬−高槻−六甲断層帯近傍における地殻活動観測結果(2003年2月〜2003年4月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2003年2月〜2003年4月) 【12】海洋情報部 C 御前崎沖の海底変動地形 C GPSによる地殻変動監視観測 ・三宅島および神津島におけるGPSを利用した地殻変動監視観測 ・DGPS局を利用した地殻変動監視観測
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)地震活動,地殻変動以外の観測結果の報告と質疑 (A4)各地域についての詳細検討 (A5)トピックス (B) 話題提供 (C) 資料提出