地震予知連絡会の活動報告
第174回地震予知連絡会(2007年8月20日) 議事概要
平成19年8月20日、国土地理院関東地方測量部において第174回地震予知連絡会が開催された。第1回トピックス部会及び第1回今後の活動展開の検討ワーキンググループの報告後、平成19年(2007年)新潟県中越沖地震、全国の地震活動、全国の地殻変動などに関する観測・研究成果の報告が行われ、議論がなされた。以下に、その概要について述べる。
1.平成19年(2007年)新潟県中越沖地震について
2007年7月16日10時13分に上中越沖の深さ17kmでM6.8(最大震度6強)の地震が発生した。発震機構は北西−南東方向に圧力軸を持つ逆断層型であった。これまでの最大の余震は、16日15時37分に発生したM5.8(最大震度6弱)の地震である。(気象庁資料)。
2004年新潟県中越地震、2007年能登半島地震、2007年新潟県中越沖地震の震源域を含む領域の三次元地震波速度構造を推定したところ、いずれの震源域においても本震の震源直下の下部地殻または最上部マントル(モホ面直下)に地震波低速度域が見いだされ、それらはマントルウェッジ内の上昇流から分岐しているようにみえる(東北大学資料)。
一次元速度構造ならびに観測点補正値を用いて震源を再決定し、それを初期震源としてDD法により再度震源を決定したところ、余震分布は全体的に約10km浅くなり、全体的に南東方向に傾斜していた。また、本震震源近傍には、北西方向に傾斜する余震の分布もみられる(防災科学技術研究所資料)。
DD法で求めた震源の時間変化からは、発震後30分までは北西傾斜の震源分布がみられ、6時間後以降においては、南東傾斜の震源分布もみられる。このことから、本震の震源断層面は北西傾斜と考えられる(東京大学地震研究所資料)。
余震分布と地質断面の解釈図から、本震の位置から北西傾斜で震源断層面を延長すると、出雲崎から宮川に北北東に延びる高重力ブーゲー異常帯の付け根に当たる。鳥越断層の下部延長には低角度の衝上断層の存在が推定されており、その下部延長は、余震分布から推定される。この震源断層を浅部に延長すると、鳥越断層の深部延長に推定されるデコルマン(特定の地層から上の一連の地層が下位の基盤から分離し、下盤とはほとんど無関係に変位・変形している構造。)に合流する可能性があるとの見解が示された(東京大学地震研究所資料)。
遠地実体波の解析から、南東傾斜および北西傾斜の断層面上の滑り分布を推定した結果、どちらの傾斜においても観測値を説明することができた(気象庁資料)。
近地強震動記録の解析から、南東傾斜および北西傾斜の断層面上の滑り分布を推定した結果、すべりは主に破壊開始点の南西(柏崎市)側に分布し、最大すべりは破壊開始点から十数キロ南西に推定された。南東傾斜か北西傾斜かを決定することはできなかった(防災科学技術研究所資料)。また、近地解析から求められた北西傾斜の断層面上の滑り分布が報告された(名古屋大学地震火山・防災研究センター資料)。
地殻変動のデータに関するフィッティング、震源分布との整合性の観点から北西傾斜の2枚の矩形断層を仮定した震源断層モデルを推定した。このモデルは、GPS連続観測値、SAR干渉画像、水準測量の結果をよく再現しているが、観測された地殻変動データそのものから断層面が北西傾斜なのか,南東傾斜なのかを決定することは難しい(国土地理院資料)。
時間依存インヴァージョン解析により推定された余効すべり分布からは、本震より深い領域で余効すべりが推定された(東北大学資料)。
2004年新潟県中越地震の発生後、新潟県中越地震の震源域を北東−南西に跨ぐ基線で伸びが観測されている。これは、今回の地震の深部延長上でのすべりによって説明できる可能性があることから、新潟県中越地震によって新潟県中越沖の深部すべりが引き起こされた可能性もあることが報告された(統計数理学研究所資料)。
今回の地震は、新潟−神戸歪み集中帯で発生したが、この地域の過去の地震活動をみると、1800年〜1899年に非常に活発であったことが報告された(大竹地震予知連絡会会長資料)。
その他、今回の地震に関連して、産業技術総合研究所、国土地理院、京都大学防災研究所、名古屋大学、筑波大学より、それぞれの見地から報告がなされた。
2.全国の地震活動について
最近3ヶ月間に発生したM6以上の地震は、7月9日千島列島東方沖(遠地)(M6.2)、7月16日新潟県中越沖(M6.8)、7月16日京都府沖(M6.7)であった(気象庁資料)。
3.日本列島の歪み変化について
GPS連続観測データから推定した日本列島の歪み変化図からは、北海道では2003年9月26日の十勝沖地震以降の余効的な変動を示すと考えられるわずかな歪みが十勝・日高周辺地域に見られる。伊豆諸島北部では北東−南西方向の伸びが見られる。能登半島では、2007年3月25日に発生した能登半島地震による影響が明瞭である。2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震による影響が見られる(国土地理院資料)。
4.東海地域の地殻変動について
東海地域の水準測量結果によると、森町の水準点5268に対して掛川市の水準点140-1では、わずかに隆起で、掛川市の水準点140-1に対して菊川市の水準点2600や御前崎市の水準点2595がごくわずかに隆起の傾向を示す結果となった(国土地理院資料)。掛川市の水準点140-1に対する御前崎市の水準点2595の動きは、長期的な沈下の傾向が続いていており、2007年7月の観測結果もその延長上にばらつきの範囲内でのっていると見ることができる(国土地理院資料)。
東海地域の非定常地殻変動(スロースリップ)は、2005年以降停止しているように見える。伊勢湾周辺の志摩観測点・渥美観測点では、2004年春以降、わずかな隆起が見られ、現在でも南向きの変動が継続しているように見える(国土地理院資料)。
2007年6月15日頃から17日頃にかけて、長野県南部において、低周波地震活動と同期して歪計の変化が検出された(気象庁資料)。また、傾斜変化からも同様の場所での短期的スロースリップの発生が報告された(防災科学技術研究所資料)。
5.千葉県東方沖の地震・地殻活動について
千葉県東方沖〜房総半島にかけてのフィリピン海プレートと陸のプレートの境界付近で8月13日以降地震活動が活発化した。この領域では、たびたび、M4〜5程度の地震が頻発する活動を繰り返してきており、1996年および2002年の活動では、これに伴うスロースリップが観測されている(気象庁資料)。今回も傾斜計とGPS連続観測から明瞭な傾斜変動と地殻変動が観測され、スロースリップの発生が示唆された(防災科学技術研究所資料、国土地理院資料)。GPS連続観測結果に基づいてスロースリップのプレート境界面におけるすべり分布が推定され、1996年および2002年のスロースリップと規模と場所が類似していることが明らかになった(国土地理院資料)。また、傾斜計のデータからスロースリップの領域を矩形断層モデルのインヴァージョンで推定したところ、GPS連続観測結果から推定されたモデルと同様な結果が報告された(防災科学技術研究所資料)。
(事務局 国土地理院)
各機関からの提出議題
【1】気象庁(2007年5月〜2007年7月) 1.平成19年(2007年)新潟県中越沖地震 A4 平成19年(2007年)新潟県中越沖地震 2.日本とその周辺 C 全国M5以上の地震と主な地震の発震機構 3.北海道地方とその周辺 C 日高支庁西部(6月23日M4.9)の地震活動 C 根室支庁北部(7月1日M5.8)の地震活動 4.東北地方とその周辺 C 青森県東方沖(5月19日M5.3)の地震活動 5.関東・中部地方とその周辺 C 静岡県中部(6月1日M4.3)の地震活動 C 5月・6月茨城県南部・埼玉県北部(5月8日M4.5、6月1日M4.5、6月2日M4.6) の地震活動 C 能登半島沖(6月11日M5.0)の地震活動 C 千葉県東方沖(6月20日M5.0)の地震活動 C 石川県西方沖(6月22日M4.6)の地震活動 C 新潟・長野・富山県境付近(6月27日M3.5)の地震活動 C 茨城・千葉県境付近(7月3日M4.5)の地震活動 C 神奈川県西部(7月12日M4.2、7月24日M4.4)の地震活動 C 伊豆大島近海(7月20日M4.4)の地震活動および最近の地殻変動 C 東海地域の低周波地震活動と短期的スロースリップ(2007年6月) C 東海地域の地震活動 C 東海・南関東地方の地殻変動 6.近畿・中国・四国地方とその周辺 C 島根・広島県境付近(5月13日M4.6)の地震活動 C 奈良県(7月16日M4.7)の地震活動 C 京都府沖(7月16日M6.7)の地震活動 C 最近の深発地震の活動について 7.九州地方とその周辺 C 屋久島付近(5月7日M5.1)の地震活動 C 大分県中部(6月6日M4.9、6月7日M4.7)の地震活動 8.期間外・海外 C 沖縄本島北西沖(8月1日M6.1、8月7日 M6.3)の地震活動 C サハリン近海(8月2日 M6.4)の地震活動 C 沖縄本島近海(8月9日 M5.2)の地震活動 A1 千葉県東方沖(8月16日 M5.3)の地震活動 C ペルー沿岸(8月16日 M7.9)の地震活動 【2】国土地理院 1. 日本全国の地殻変動 A2 GEONETによる最近1年間および3ヶ月の地殻水平変動 A2 GEONETによる2期間の地殻水平変動ベクトルの差(1年間、3ヶ月) C GPS連続観測から推定した日本列島の歪み変化 2.東海地方の地殻変動 A2 森〜掛川〜御前崎間の上下変動 A2 水準点2595(御前崎市)の経年変化 A2 水準点(140−1、2595)の経年変化 A2 東海地方の各水準点間の上下変動 A2 掛川〜御前崎間の各水準点の経年変化 A2 東海地方の各水準点の経年変化 A2 1901,1979年を基準とした静岡〜浜松間の水準点の経年変化 A2 水準測量による東海地方の上下変動および非定常地殻変動 A2 袋井〜静岡間の水準測量による標高取付観測と電子基準点の比高変化 A2 菊川市付近の水準測量結果 C 水準点の比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 東海地方各験潮場間の月平均潮位差 A2 東海地方の非定常地殻変動 C GPS連続観測結果 駿河湾周辺 C GPS連続観測結果 御前崎周辺 C GPS連続観測による基線長・比高変化に対する近似曲線の係数変化 C GPS連続観測および水準測量による比高変化に対する近似曲線の係数変化 C 森〜掛川〜御前崎間の水準測量による標高取付観測と電子基準点の比高変化 C 御前崎地区高精度比高連続観測結果 C 水準測量による取付観測と高精度比高観測点の比高変化 C 御前崎長距離水管傾斜計月平均 C 御前崎・切山長距離水管傾斜計による傾斜変化(日平均、時間平均) C 御前崎地中地殻活動観測装置観測結果 C 静岡県西部で発生した地震(2007.6.1)に伴う地殻変動 3.伊豆地方の地殻変動 C 伊東・油壷・初島・真鶴各験潮場間の月平均潮位差 C 伊豆半島および伊豆諸島の地殻水平・上下変動図 C GPS連続観測結果 伊豆半島東部地区 C 伊豆半島東部測距連続観測結果 A2 GPS連続観測結果 伊豆諸島地区 A2 伊豆大島の地殻水平・上下変動図(火山統合解析) A2 三原山のAPS連続観測結果 4.関東・甲信地方の地殻変動 C 布良・勝浦・油壷各験潮場間の月平均潮位差 C 館山地殻活動観測場 C 鹿野山精密辺長連続観測結果 A2 房総半島のスロースリップ 5.北海道地方の地殻変動 C 北海道の地殻水平変動図(最近3ヶ月、1ヶ月) C GPS連続観測結果 北海道太平洋岸 C 基線ベクトル成分の変位量と変化率 C 2004年釧路沖の地震以降の累積推定すべり分布 6.東北地方の地殻変動 C GPS連続観測結果 東北地方太平洋岸 7.北陸・中部地方の地殻変動 能登半島地震(2007.3.25)に伴う地殻変動 A2 輪島市〜羽昨市の上下変動 A2 輪島市〜七尾市、志賀町間の上下変動 A2 GPS連続観測結果 能登半島地区 A2 震源断層モデル A2 水準測量と震源断層モデル計算値の比較 A2 水準測量・SAR・震源断層モデル計算値の比較 新潟中越沖地震(2007.7.16 M6.7)に伴う地殻変動 A4 地殻変動ベクトル図(水平・上下) A4 地殻変動ベクトル図と平均変位速度図 A4 3成分グラフ:短期 A4 3成分グラフ:長期 A4 GPS1秒サンプリングデータ解析 A4 本震前後の潮位データ A4 潮位差(日平均値) A4 柏崎市〜出雲崎町の上下変動 A4 合成開口レーダー干渉解析 A4 震源断層モデルと各種観測との比較 A4 媒質の構造を変えた場合の地殻変動計算値比較 A4 媒質を変えた場合の視線方向変動量の計算値比較 C 空中写真撮影範囲 C 災害現況図 C 災害対応図 C 海成段丘にみる長期的地殻変動 C 新潟県中越地震(2004.10.23)に伴う余効変動 8.九州・沖縄地方の地殻変動 C 大分県中部で発生した地震(2007.6.7〜7)に伴う地殻変動 C 宮古島北西沖で発生した地震(2007.4.20)に伴う地殻変動 9.その他 C 硫黄島の地殻変動 【3】北海道大学 C 北海道とその周辺の地震活動 C サハリン南部で発生した地震を北海道内の地震観測網で決めた場合について B 2007年8月2日サハリン地震の津波解析 【4】東北大学 A4 2007年新潟県中越沖地震・能登半島地震・2004年新潟県中越地震震源域直下の 地震波低速度域 A4 新潟県中越沖地震後の余効変動 −東北大学・九州大学・北海道大学・地震研究所・名古屋大学・富山大学− 【5】東京大学大学院理学系研究科 C 御前崎(静岡県)と鹿島(福島県)における地球化学観測について 【6】東京大学地震研究所 A3 平成19年(2007年)能登半島地震の余震観測 A4 平成19年(2007年)新潟県中越沖地震の本震・余震分布と震源域周辺の地質学的特長 A4 弥彦観測所における中越沖地震前の歪・傾斜変化 −地震研究所・鹿児島大学理学部− C 日光・足尾付近の地震活動(2007年5月〜2007年7月) 【7】名古屋大学環境学研究科 A4 2007年7月16日新潟県中越沖地震の震源過程 【8】京都大学防災研究所 B InSARを用いた2007年4月21日アイセン地震(チリ)発生前後における地殻変動解析 C 近畿北部の地殻活動 【9】鹿児島大学 C 九州南部の地震活動(2007年5月-7月) 【10】防災科学技術研究所 C 関東・東海地域における最近の地震活動(2007年5月〜2007年7月) C 関東・東海地域における最近の地殻傾斜変動(2007年5月〜2007年7月) C 伊豆半島・駿河湾西岸域の国土地理院と防災科研の GPS観測網による地殻変動観測(2005年11月〜2007年8月) B 宮城県沖の地震活動パタン変化 B 東海地震のアスペリティ推定 B 2007年6,7月 房総半島東方沖の群発地震活動 B 2007年5,6月 東京都西部の地震 B 2007年静岡県南西部の地震 B 西南日本の深部低周波微動・短期的スロースリップ活動状況(2007年5〜7月) B 2007年6月大分県中部の地震 B 2007年8月九十九里浜沖の群発地震活動 A4 2007年新潟県中越沖地震の本震・余震のモーメントテンソル解析 A4 2007年新潟県中越沖地震の震源周辺における3次元速度構造により決定した震源分布 A4 2007年新潟県中越沖地震-DD法による震源決定結果- A4 近地強震動記録による2007年新潟県中越沖地震の震源インバージョン(暫定版) A4 PALSAR/InSARによる2007年新潟県中越沖地震に伴う地殻変動および断層モデル A4 2007年新潟県中越沖地震前の傾斜記録 A4 関東東海地域における3成分歪観測で捉えた2007年新潟県中越沖地震に伴う歪ステップ 【11】海洋研究開発機構 A4 海洋研究開発機構の海域構造調査計画 (平成19年新潟県中越沖地震に関する緊急調査研究) 【12】産業技術総合研究所 C 東海・伊豆地域における地下水等観測結果(2007年5月?2007年7月) C 神奈川県西部地域の地下水位観測(2007年5月?2007年7月) −神奈川県温泉地学研究所・産総研− C 岐阜県東部の活断層周辺における地殻活動観測結果(2007年5月?2007年7月) C 近畿地域の地下水・歪観測結果(2007年5月?2007年7月) C 鳥取県・岡山県・島根県における温泉水・地下水変化(2007年5月?2007年7月) −鳥取大学工学部・京大防災研・産総研− A3 能登半島地震の震源域での音波探査結果 A4 新潟県中越沖地震の震源域周辺の海底及び陸上の地質構造 A4 新潟県中越沖地震の震源域周辺の重力図 A4 微小地震活動と地質構造,新潟県中越沖地震震源域との関係 A4 米山?小木隆起帯(佐渡島-柏崎間)沿いの中規模地震活動の活発化 A4 2007年新潟県中越沖地震に伴う海岸部の地殻上下変動 A4 2007年中越沖地震のPALSARによる観測と断層モデル A4 いくつかの断層モデルから計算される地殻変動と津波 A4 2004中越地震と2007中越沖地震による静的クーロン応力変化 A4 2007年新潟県中越沖地震の余震分布について A4 2007年新潟県中越沖地震の余震のメカニズム解の特徴 C 2007年新潟県中越沖地震に伴う地下水・地殻歪変化 C 科学技術振興調整費「新潟県中越沖地震に関する緊急調査研究」概要 −産総研・海洋研究開発機構・東大地震研・防災科研・北海道大学− 【13】海上保安庁 A4 新潟県中越沖地震震源域の海底調査(速報) B 「東海沖1」海底基準点における海底地殻変動観測結果 C GPSによる地殻変動監視観測 【14】統計数理研究所 A4 2007年中越沖地震の余震活動および周辺部の地震活動と地殻変動について 【15】大竹政和会長 A4 歪み集中帯の地震活動
A1〜Cの分類は以下のとおりとなっています。 (A1)この間における全国の地震活動の報告と質疑 (A2)この間における全国の地殻変動の報告と質疑 (A3)各地域についての詳細検討(新潟県中越沖地震を除く) (A4)平成19年(2007年)新潟県中越沖地震の詳細検討 (B) 話題提供 (C) 資料提出